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第6章 ゼミという小さな世界の中で
午後のゼミ室。
人数は少なく、教授を含めて十人足らず。
大学の広いキャンパスの中で、このゼミは小さな世界だった。
美咲は、いつもの席に座った。
隣では女子たちが楽しそうに話していて、柔らかな空気が流れている。
ふと前を見ると、悠馬がいた。
ゼミ仲間であり、最近、大学のベンチで何度か言葉を交わすようになった男子。
あの日以来、なんとなく、美咲に気をかけてくれているらしい。
目が合った。
マスク越しでも伝わってくる、やわらかな気配。
美咲は小さく会釈して、すぐに視線をそらした。
心のどこかが、ほんの少しだけ、あたたかくなるのを感じながら。
ゼミの議論は淡々と進んでいく。
美咲は、悠馬の視線に気づきながらも、何事もなかったふりでノートに目を落とし続けた。