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第5章 昼休みのベンチ
違う日の昼休み。
講義を終えた美咲は、自然と大学の裏手にある静かなベンチへと足を向けた。
そこには、やはり、あの人がいた。
大きめの白いマスクに、赤いコート、黒髪のロングヘア――。
いつもの、あの人。
美咲は軽く手を振る。
彼女も小さくうなずいて、応えてくれた。
最近は、こうして静かに同じ時間を過ごすのが、ちょっとした日課になっていた。
ベンチに腰を下ろし、手にしていたストローの刺さったドリンクに口をつける。
マスクを大きくずらさなくても飲めるこの形は、今の美咲にとって欠かせない。
ふと、隣を見ると、彼女も同じように飲み物を手にしていた。
マスクの下にストローを差し込んで、静かに一口。
たまに目が合えば、目だけで笑い合う。
それだけで、美咲の胸には、ぽっと小さな温かさが広がった。
会話はなくても、そこに流れる空気は心地よかった。
そんな昼休みが、今日もまた、静かに過ぎていった。