第4.章 静かな昼休み
講義が終わり、昼休み。
美咲はキャンパスの外れにある、木陰のベンチに座っていた。
人気のない場所を選んだのは、ただ静かに過ごしたかったから。
もちろん、人目を避けたい気持ちも、少なからずあった。
ストローの刺さったアイスコーヒーを手に、マスクの下からそっと吸う。
こんな何気ない仕草にも、周りの目を気にしてしまう自分が、少し情けなかった。
「……あれ、美咲ちゃん?」
声をかけられて顔を上げると、そこに立っていたのは――同じゼミの男子だった。
美咲は一瞬戸惑ったが、すぐに見覚えのある顔だと気づく。
「こんにちは」
小さく会釈すると、彼も気さくに笑った。
長めの前髪が風に揺れ、どこか柔らかい雰囲気を纏っている。
「この辺、静かでいいよね」
彼はそう言いながら、少し離れた場所に腰を下ろした。
無遠慮に距離を詰めることもない。
その自然な態度に、美咲はほっとした。
「うん……落ち着くから」
控えめに答えると、彼はにこっと笑った。
それきり、特に会話は続かなかった。
互いにコーヒーを手に、木漏れ日の下でただ静かな時間を過ごす。
ふと、美咲は横目で彼を見た。
彼もまた、白いマスクをしていた。
――今どき、マスクをしている人は減ってきたけど。
だからこそ、どこか、同じ空気をまとっているような気がした。
ほんの少しだけ、心の壁が緩んだ気がした。
そんな小さな出来事だった。