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最終章 夕暮れの約束

夕方。

大学のベンチに、美咲は悠馬と並んで座っていた。


オレンジ色の光が、二人の間に静かに落ちている。

しばらく、何も言葉はなかった。


「この間さ……」

ぽつりと、悠馬が口を開く。


「君のこと、もっと知りたいって言っただろ?」

声は穏やかだったけど、どこか探るような響きもあった。


「うん。」

美咲は小さく頷く。


「急にそんなこと言って、びっくりさせたかなって。……ちょっと反省してた。」


静かな風が吹き抜ける。

美咲は、目を伏せたまま、ふっと笑った。


「ううん。びっくりしたけど……嬉しかった。」


それはたぶん、今まで誰にも言われたことがない言葉だったから。

でも、すぐに「うれしい」と言うには、少しだけ勇気が必要だった。


悠馬は、安心したように小さく息をつく。


「そっか。」

それだけ言うと、また少し、沈黙が落ちた。


だけど、重たくはなかった。

静かで、心地いい沈黙だった。


「ねえ、悠馬。」

美咲は、少しだけ顔を上げた。


夕暮れの光が、マスク越しでもその表情をふんわりと包み込む。


「私も……悠馬のこと、もっと知りたいって思ってる。だから……うん。」


言葉を区切る。

その先は、口にしなくてもわかる気がした。


悠馬は、そっと笑った。


二人の間に、また風が吹いた。

それでも、もう言葉はいらなかった。


美咲がどうしたのか。

悠馬がどう受け止めたのか。

その先は――


二人だけの小さな世界に、そっとしまわれた。


空には、ゆっくりと夜の色が広がっていった。

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