第12章 はじめての恋愛相談
オレンジ色に染まった空の下、美咲はベンチに座っていた。
隣には、赤いコートを羽織った綾乃が静かに腰かけている。
しばらく二人で黙っていた。
秋風が木の葉を揺らし、さらさらと小さな音を立てる。
その心地よい静寂を、美咲がそっと破った。
「あの……」
声は思ったよりも小さかった。
けれど、綾乃はちゃんと聞いていたらしく、ちらりと美咲に視線を向ける。
「……最近、ちょっと、仲良くしてくれてる人がいて」
それだけ話すと、美咲はマスクの下で口を引き結んだ。
言葉にするのは、想像以上に恥ずかしかった。
「ふーん?」
綾乃は興味があるのかないのか、曖昧な相槌を打った。
それがかえって、美咲には話しやすかった。
「優しくて、話してると、なんか安心できるっていうか……。
なんか、普通に……楽しくて」
ぽつぽつと、言葉がこぼれていく。
「……もしかして、好きになっちゃったかも、しれないです」
最後の一言を絞り出すと、美咲はそっと下を向いた。
顔を上げるのが恥ずかしくて、足元の落ち葉を見つめる。
綾乃は、特に驚いた様子もなく、ただ「ふうん」と頷いた。
それ以上、何かを聞くことも、詮索することもない。
「……よかったじゃない」
その一言が、ぽつりと、まるで葉っぱが落ちるみたいに静かに降ってきた。
「あ、あんまりうまく話せなくて、ごめんなさい……」
焦る美咲に、綾乃は小さく笑った。
「別に、いいじゃない」とでも言うように、ほんの少しだけ目元を和らげる。
「楽しいなら、それでいいのよ」
そう言う綾乃の声は、どこか遠い記憶をなぞるような、優しい響きだった。
それ以上、綾乃は何も言わなかった。
ただ、美咲が隣にいることを、当たり前のように受け止めてくれていた。
美咲も、それ以上は言葉を続けなかった。
それでも、心が少し軽くなった気がした。
(……綾乃さんに、話せてよかった)
赤く染まる空の下で、二人の影が静かに並んで伸びていた。




