第9章 縮まる距離
最近、美咲は、大学に行くのが少しだけ楽しみになっていた。
以前は、ただ課題をこなすだけだった日々に、小さな楽しみができたのだ。
その理由は、言うまでもなく、悠馬だった。
特別に何か大きなことがあったわけじゃない。
それでも、教室で偶然目が合うたび、廊下ですれ違うたび、軽く交わす挨拶や、たわいない雑談。
そんなひとつひとつが、少しずつ、美咲の心にあたたかいものを灯していた。
──こんなふうに誰かと関わるのって、悪くないな。
そう思えるようになった自分に、美咲自身も少し驚いていた。
ある日の昼休み、カフェのテラス席。
テーブルには二人分のコーヒー。美咲のカップには、ストローが刺さっている。
「美咲ちゃん、最近、顔つきが柔らかくなった気がする。」
悠馬が、コーヒーをひとくち飲みながら言った。
美咲は一瞬、何のことか分からず、きょとんとする。
「前は、もっとこう……話しかけづらいオーラあったけど。」
「……そんなに?」
思わず苦笑してしまう。
「うん。でも今は、すごく話しやすい。……俺だけ、だったりして?」
悠馬が冗談めかして言い、美咲はストロー越しに小さく笑った。
「そんなこと、ないと思うよ。」
けれど、本当は。
悠馬といるときだけ、自分が少し自然体になれている気がする──そんな予感もあった。
風が少し強く吹いて、テラスに置かれた紙ナプキンがふわりと飛んだ。
美咲は慌てて手を伸ばして、それを押さえる。
マスクの端がふわりと揺れたが、特に気にすることなく、ふたりはまた自然に笑い合った。
何でもない時間。
でも、美咲にとっては、とても大切な時間だった。




