第一章 楓の秘密
生徒会室に差し込む午後の日差しの中、楓は生徒会の議事録をせっせと書き上げていた。彼の隣では、澪が書類に目を通しながら、時折短い指示を出している。
「楓、その文言は少し硬いな。もう少し砕けた言い方にしたらどうだ?」
“はーい、澪ちゃん!」
楓は明るい声で返事をしながら、筆を走らせる。その仕草がやけに可愛らしいことに気づいた澪は、少しばかり目を細めた。
「…それにしても、お前、本当に女みたいだな。」
「ええっ!? そ、そんなことないよ!」
突然の指摘に、楓は顔を真っ赤にして慌てふためく。澪はそれを見て、小さく笑った。
その様子を、会長の碧が静かに見守っていた。
「澪、楓をからかうのもほどほどにしておけ。」
碧の冷静な声に、澪は肩をすくめた。
「別にからかってるわけじゃない。ただ、本当に感心してるだけだ。」
「感心しなくていいよ!」
楓の叫び声が生徒会室に響き、碧は微笑みながら話をまとめにかかった。
「さて、議題に戻ろう。次の学校行事について、具体的な案を考えないと。」
生徒会の会話はいつものように賑やかで、少しだけ奇妙だった。
その日の放課後、楓は一人で生徒会室に残り、机の上に頬杖をついてぼんやりしていた。そこへ澪が戻ってくる。
「まだいたのか。鍵は俺が閉めるから、もう帰れよ。」
「うん…澪ちゃん。」
「ん?」
楓が澪を見上げたその瞳には、どこか切なげな光が宿っていた。
「澪ちゃんって、優しいよね。」
「何を急に…そんなことない。」
澪が少し頬を赤らめながら視線を逸らす。それを見て、楓は微笑んだ。
「でも…澪ちゃんのそういうところ、好きだよ。」
一瞬、澪の動きが止まった。楓の言葉が頭の中で何度も反響し、心臓の鼓動が速くなる。
「…俺は、どう答えればいいんだ?」
不器用な二人の距離は、その日少しだけ縮まった。