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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

AI少女世紀末事変

作者:

銃を持ち、愛用のヘッドホンを耳につける。

取り出した棒付飴の包装を剥がし、口の中に放り込む。

ヘッドホンから大音量で流れる音を聞きながら靴紐を結び直す。

これで準備完了。手に持った銃の重みを確認しつつ扉を開いた。


外に広がるのは廃れた街。

大音量で流している音の間を潜り抜けて耳に届く汚い人間の声。

建物の裏側からは銃声が響き、少し離れた場所には殴り合う汚い人間の姿も確認できる。

この街にはもう救いはない。

住人のほとんどは恐怖から家に引きこもり、外に出ている奴らといえばスリルを求める者、暴れてストレスを発散する者、後は自殺志願者くらいだ。

この街も元はどこにでもよくある平和な街だったのだろうが、今ではイカれた奴らの溜まり場になり、まともな生活どころか、暗器などが普通に流通するような街になっている。

この街を出て行くチャンスを逃し、家でビクビクと怯えている者は結構居る。

どうしようもないこの町から自分を救い出してくれる救世主を待つだけの生活。

そんな生活はさぞかし居心地が悪く、苦しいだろう。

そして私はそんな人たちを救う救世主となる為この街を訪れた英雄____

なんて事はなく、私自身もこの街の住人であり、チャンスを逃した愚か者である。

だが、他の奴らと違う点を挙げるとするならば、私は彼奴等とは違い救世主なんてものは信じず、ビクビクと怯えるどころか己の力を行使してこの町で生きていると言う事だ。

外で暴れるイカれた奴らとは絶対に同じにするなよ。私はあんな奴等とは違って感情で動いてなどいない。

私も昔は彼奴等と同じように感情任せに暴れていたが、今となっては感情任せどころか、感情など捨て去り極限まで圧縮された膨大な量の思考を元に行動している。

ここまで私が変わった理由があるとするならば、とある一つの事件がきっかけだ。


今から何年か前、この街が一部の地域を除きまだ今より幾分か落ち着いており、この街全体がここまで落魄れた発端になった事件がある。

その名も「北側区域世紀末事変」

この事件を簡単に説明すると、まずこの街は3つの区域に分かれている。

北側区域、南側区域、中央区域。

この中のうち、当時最も荒れていたのが北側区域だった。

残りの南側、中央区域も平和だったかと聞かれればそうでも無かったのだが、北側区域だけは、他二つの区域とは比べ物にならないほど荒れていた。

今のこの街と同じ、時によってはそれ以上に荒れていた。

北側区域に住んでいるものは暴れていた奴等くらいしか居らず、それ以外の人は数え切れるほどしかいなかったと思う。

私も北側区域に住んでいた内の無関係者数名に区分けされていた人間だ。

まぁ私の情報は後で出てくるから置いておいて、ここまでがこの街の基本情報だ。

今から事件について詳しく話していこう。

事件は名前にもある通り、北側区域を中心とした抗争のようなものだ。

北側区域は先ほども言った通り、今の街の状態と同じくらい悲惨な状態だった。

つまり、北側区域には暗器などの流通も少なくは無かったと言う事だ。

暗器や、それ以外にも様々な武器を手にした北側の狂った人間どもはまるで戦争かのように暴れ始めた。

北側の建物のほとんどは倒壊し、狂人達の殺し合いは収まるどころか民間人への被害も多くあり、北側に居た民間人のほとんどは惨殺され、その被害は中央区域や南側の方にも広がりつつあった。

それに乗じて暗器などの売り子達は徐々に街全体へと侵食していき、今の街へと変貌していった。

この時の北側の様子がまるで世紀末のようなことから「北側区域世紀末事変」と呼ばれるようになった。

これが「北側区域世紀末事変」の全貌だ。

そして、今から話すのはこの事件で私が変わった話についてだ。


私はこの事件が起こるよりも前、私が生まれた時から北側に住んでいた。

両親は私を産んだ後、壊れ始めていた北側に恐怖し、私を捨てて中央や南の方に逃げたらしい。

捨てられた私は治安の悪い北側では死んでいてもおかしくは無かった。

しかし、私は運良く施設を運営していた院長に拾われ命拾いをした。

院長の運営していた施設は施設と言えるほどのものではなく、それほど大きい建物で無ければ孤児の数もそれほど多くなく、私を含めて5,6人ほどしか居なかった。

しかも、そのうちの1人は院長の娘である為、本当に施設を名乗っていいのか怪しいのだが、と言うか一度院長に聞いたこともあるのだが細かい事は気にしないでいいんだと言われ部屋に戻された為真相はいまだにわからない。

施設内の孤児同士仲も良く、私は中でも院長の娘である「藤歌」と親友と言っていいほどに仲が良かった。

どこで何をするにも一緒で、藤歌自身も人見知りだったらしいが声をかけるとすぐに打ち解けて誕生日には藤歌にプレゼントでネックレスをもらったほどだ。

藤歌のくれたロケットペンダントは今でもずっと首に下げている程お気に入りだ。やはり施設での生活は悪くないもので、藤歌以外の孤児達もとても優しく、院長もおおらかな方だった為、ここが北側である事を忘れてしまいそうなほど楽しんでいた。

そう、「忘れてしまいそうなほど」に。

北側区域世紀末事変が始まり、私達の施設の周辺の人たちも片っ端から殺されてしまい、ついにその被害はうちの施設にもきた。

狂った輩共は施設に火を放ち、入り口の前には武装した輩共が構えている。

四面楚歌、絶体絶命、この言葉が当てはまるような最悪な状況。

煙や炎が私たちの元にくるまでに既に3人程は意識を失い、残ったのは私と藤歌と院長だけだった。

まだ幼く、思考も発達していない私はどうすればと混乱していたが、院長が覚悟を決めたようにこちらを振り返り、自分が入り口で足止めをするから2人で逃げろと言い、私達を背中に隠した。

入口に到着し、院長に背中を押され藤歌の手を繋ぎ走り出すと、向こうでは銃声が響き、後ろを振り向くと院長が撃たれている様子が見えた。

涙がこぼれそうになるのをグッと我慢し、同じように後ろを振り向こうとする藤歌を止め、只ひたすらに安全な場所を探して走った。

しかし、ここは北側。

安全な場所などあるわけもなく、ただ体力の限界が来るまで走り続けた。

走っている間もあちこちから銃声や罵声が聞こえ、繋いでいた手を藤歌の耳に当て、必死に周囲を見渡し瓦礫の影を見つけ2人で隠れた。

息を整え、震えて顔を真っ青にしている藤歌を大丈夫だと言って諭す。

暫くそこで隠れていると人の足音が聞こえ、息を殺して隙間から様子を伺うと、何人かが集まってくるのが見えた為、藤歌の手を握り目を瞑って人達が何処かへ行くのを待つ。

暫くすると、人達がどこかへ行くのが確認できた為、藤歌にこの場から離れようと言い、急いで瓦礫の影から抜け出しまた走る。

別の建物の影についたところで体力が限界になり、2人でまた息を整えていると、人の気配が徐々にこちらに近づいてくるのにも気付かず、やっと気付いた時にはもう囲まれつつある時だった。

ある人は銃を、ある人は手榴弾のようなものを、ある人は金属バットを。

死を覚悟したものの、藤歌だけは守らなくてはと思い直し、藤歌をこちらに引き寄せた。

すると、隠れていた建物の倒壊した部分が運悪く頭上に落ちてきてしまった。

私たちを囲んでいた輩共はいち早くそれに気がつき逃げ出したものの、私たちは気がつくのに遅れ、ギリギリまで逃げたところで小さなパイプのようなものが私の右目に刺さり、痛みや視界の範囲が狭まったことで、このまま下敷きになると理解し今度こそ死を覚悟すると、背中に小さな衝撃が走り、瓦礫が地面に落ちる音がした。

小さな衝撃と目に刺さったパイプ以外に痛みを感じず、先ほどまで隣にいたはずの藤歌の姿が見えないことによりくるくると回る思考で一つの結果が生み出された。

「藤歌が私の背中を押し、代わりに自分が下敷きになることで私を助けた。」

理解が追いつかず、小さな声で藤歌の名前を呼ぶも返事は一向に返ってこず、数十秒たった頃やっと理解し、悲しみや怒りが押し寄せてくる。

藤歌のくれたロケットペンダントを握りしめ、感情を落ち着ける。

それからは意外にも冷静だった。

藤歌と私のいた場所は北側の中でも中央に限りなく近い場所だった為、中央に向かって走り、中央の中でもまだ機能している病院を見つけると、看護師や医師は私を見るなり急いで治療の準備を始め、結果として私の目は失明してしまっていたが、医師の紹介で科学者のような人の力を借りて、失明した右目にはAIの瞳を埋めることになり、そこまで終わる頃には街全体が今のようになっていった頃だったが、正直もうこの街が廃れようとどうでもいいと感じるようになっていった。

そして過去を思い出さぬよう、北側には近づかないようにし、徐々にAIに同化していく感情と思考を流れに任せ、

同化を完全なものにした。


これで私の話も終わりだ。

救世主になる気も、彼奴等と同じように狂う気もないってのはこう言う意味だ。

じゃあこれから外に出て何をするのかって?

AIと同化した脳によって濃縮された思考の元、一つの行動を起こすことに結論がついた。

 


  この街自体をぶっ壊す



                      「AI少女世紀末事変  〜完〜」

狼です。

読者様へ、御観覧ありがとうございました。

「AI少女世紀末事変」は如何だったでしょうか?ぜひ感想・誤字脱字の御指摘をお願いします。

この作品は「戦争」「AI」「親愛」の3つを題材として執筆いたしました。

廃れた街での出会い、別れ、そして復讐。ベタな内容ですが、お楽しみ頂けたら幸いです。

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