6.首都
朝の日差しに照らされ、揺れる馬車の中で男は目を覚ます。
はっきりしない意識の中、爬虫類のような目が視界に入る。
「アンダーク様、男が目を覚ましました」
巨大な足音が徐々に男の元に近づく。その音の主が荷台を覗き込んだ時、男の意識ははっきりする。
男は立ちあがろうとするが体にうまく力が入らず、無理に動こうとすると、全身に激痛が走る。
「安心しろ、俺たちは貴様を殺すつもりはない。聖槍の男の生け取りそれが魔王の命令だ。それよりお前と話がしたい。外に出られるか」
動けないと首を横に振るとアンダークはガイウスを担ぎ、森をに向かう。
薄暗い森を進むと草は黄緑に輝き、花は生い茂りまくる明るい場所に着くとガイウスを下ろし、花を踏み荒らし座り込む。
「ここならヤツも盗み聞きできまい。お前も適当に腰掛けろ」
ガイウスが近くの岩に腰掛けると話し始める。
「痛みに耐え俺の攻撃を凌ぐガイウスお前の腕は見事だった」
「いや、痛みに気づかなかっただけだ。痛み止め打ってたからな」
「そうかでは―」
アンダークはいくつか質問をすると最後の質問をする。
「ではお前の言うそれがあれば、お前は、俺に勝てるか」
「勝てる」
ガイウスは迷う事なく答えた。
「ふっははははは。そうか面白い」
その答えを聞き大きく笑うとガイウスを担ぎ元の場所に戻り、部下達にガイウスを任せると突然、轟音の雄叫びを上げる。
音で森は揺れ、鳥は飛び立つ。
しばらくすると空から赤い物体が近づいてくる。徐々に距離は近づき姿がはっきり見える。かつて世界最強の魔物と言われていた赤竜であった。
その姿に皆息を呑む。絶滅したと言われた赤竜が目の前にいる。その場にいた誰も目を疑った。
赤竜はアンダークの元に降り、頭と体を低く下げる。その背中にアンダークが乗ると赤竜は飛び立つ。
赤竜が見えなくなるとガイウスを乗せた馬車は黒の国を目指し進む。
首都に着いたアレク達は早速黒の国に向かう準備を進めていた。
「オレはでデカンとモーガンのとこに行ってくる。クースとゲーロ達は経路と黒の国とその付近の情報共有頼む。あと、お前ら3人は絶対に部屋か出るなよ」
3人の魔族に念を押すとアレクは居場所の目星がつく、デカンの元へ向かう。
酒場に着くと昼間っから浴びるように酒を飲んでいる巨漢の男がいた。
ベロベロに酔った今なら勝てると常連の屈強な客が巨漢の男に腕相撲を持ちかける。二人は腕を掴み合い他の客が勝負開始の合図をする。互いに力をこめると勝負は一瞬で着いた。巨漢の男は机ごと相手の腕を捻じ伏せていた。
「あー。やっちまった…」
脚の折れた机と腕を押さえ、うずくまる男を見て、酔いが完全に覚めた巨漢の男が呟く。
「お前何やってんだ」
店主がそう言い駆け寄ってくる。
「机が…何でこんなことになってるんだ」
「腕相撲で…」
「いくらアンタでも腕相撲でこんなんになるわけないだろ。さっさと金払って帰んな」
店主は怒りを抑え話す。
巨漢の男は申し訳なさそうにポケットを探る。
「ない…」
「ん?」
「財布が無い。どっかで取られたのか。すまないが―」
財布がないその言葉に店主は堪忍袋の尾が切れた。
「ふざけんなよ。テメェあんだけ酒飲んで、机も壊して、金が払えないだと。奴隷市で売っぱらってやる」
顔を真っ赤にした店主が男を引っ張る。それに抵抗することなく男は引っ張られる。
「まあまあ落ち着いて」
アレクが店主と男の間に入る。
「お騒がせしてすいません。お金はこれで足りますよね」
そう言い男を店から連れ出す。
「デカンお前な、酔ったら力加減できなくなるんだから腕相撲なんか受けんじゃねえよ」
「すまん」
「まあいいけどよ。これから黒の国に向かうお前も来てくれるよな」
「おいおい。突然何言ってるんだ」
アレクが詳しく説明を終えるとデカンの細い目はキリッとする。
「なるほど。もちろんオレも行く」
「だよな。とこでモーガンの奴はどこにいる」
「モーガンは王都に行った」
扉を叩くとクースが扉を開け薄暗い部屋に早く入るように催促する。
部屋に入りロウソクの火をつけると早速アレクが話し始める。
「コイツがデカンだ。言ってたもう一人のモーガンは合流できそうに無い。この場にいる6人で明日の朝に出発する。それとクース明日の朝、王にもその事についての手紙を出しておいてくれ」
ルートの確認、黒の国の状況を共有し皆、明日の出発に備える。
アレクが部屋を出て、足早に廊下を歩いているとクースがそれを呼び止める。
「アレクお前どうするつもりなんだ」
その言葉に振り返ることなく答える。
「アイツらと協力してガイウスを助け出す。そんで悪魔も倒すそれだけだ」
「違う。お前の魔力量では黒の国の魔力濃度に耐え切れないことを言ってるん」
「違う。あの場では誰も言わなかったが、お前の魔力量では黒の国の魔力濃度に耐え切れない。どうするつもりなんだ」
苦虫を噛んだような顔で答える。
「わかってる。明日までに何とかする」
アレクは当てもなく夜の首都を歩く。方法が無いことはわかっているが、何か他に方法はあると信じ、町中をフラフラする。
同じ道を何度も回り、ひたすら考えなしに歩く。街の看板、景色至る所に目を配りどこかにヒントは無いかと、あるはずの無い物を探し彷徨う。
どれぐらい歩いただろうか、歩き疲れた道の途中、今日で何度も見た景色をぼーっと眺めていた。
「お困りですか」
突然後ろから声が聞こえる。振り返るとツノの生えた、人か魔族わからない奇妙な男が立っていた。
アレクは藁にもすがる思いでその男に話してみる。男はその話を丁重に聞き終え、それならと話し始める。
「なるほど、でしたらこちらを使ってみてはどうでしょう」
男はどこから出したのか、両腕で黒い鎧を抱えていた。
「これは心中の鎧と呼ばれているものでして、危険も伴いますが必ず貴方の力になってくれるでしょう」
危険と言う言葉に引っかかるアレクに男は詳しく説明をする。
「資格の無い者がこの鎧を使うとこの鎧に取り込まれてしまうのです。そしてこの鎧に選ばれた者も最終的には皆、鎧に取り込まれてしまったと言う話しです」
アレクは一瞬悩んだがすぐに答えが出た。アイツを助けられなかったら、どうせ死ぬんだ。ならコイツを使って死んでも一緒だと。男から鎧を受け取るとすぐに試してみる。自分にその資格があるのかどうか。
鎧をつけると、全身に刺されるような激痛が走るのと同時に脈が速くなり、アレクの血が鎧にも通う。鎧には赤い血が走り脈を打つ。徐々に身体に密着し、鎧が全身に広がり、アレクの頭を覆う。しばらくその状態で硬直していたが、鎧とアレクの結合が解け、皮膚との間から大量の血を溢し辺りに飛び散る。そして自らの血に濡れた顔が顕になる。
鎧を外し朦朧とする意識の中で男が話し始める。
「どうやら彼女に選ばれる資格はあったようですね」
男は満足げな顔で夜の闇の中に消えていった。
「おいアレク」
クースの声で目を覚ますと朝日が上り始めており、辺りに飛び散った血は跡形もなく消えていて、夢かと思ったが、そばにはあの鎧があった。
「クース何とかなったぜ。これで俺も行ける」
清々しい顔でアレクはそう言った。
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