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4.黒王軍と魔王軍

魔力を辿り始め丸一日が経ちクースと騎士達の疲労と不満が溜まって来たころ、ようやく山を抜け、街に着いた。


空には湯気が上がり、煉瓦造りの家に、商店も多く並ぶ活気のある街だった。


「よし、ここで1日休むぞ」


この街で宿を取り、休息を取ることにした。


アレクはまだ体力のある騎士を連れ、馬を預けに行く。


「やっと休めるー」


1日中歩き続けた騎士達はすでに宿に向かっていた。


ずっと黙っていたクースは相変わらず黙っていたが、街に着いた時からどこか罪悪感を抱えた顔をしていた。


(やばい…どうしよう。悪魔の魔力はどんどん薄くなって来てるけど、それ伝えたらアレクは絶対すぐに出発するって言うだろうしな。言いたく無いけど言わなきゃ)


クースの心の中の天使と悪魔が囁く。


「どうせ黙っててもバレやしないよ、黙っときな」


「そうです。休みたいのなら休みなさい」


今のクースの心に天使はいなかった。答えが出た、黙っていようと。


そうと決まれば、朝風呂だと罪悪感を隠す様な笑顔を貼り付けて名物の温泉街を目指す。


「クースお前何んか変だぞ、なんか隠してるのか?」


一連の様子を見ていたガイウスが呼び止める。


ビック!と肩を上げると、そっと振り向き正直に言うか適当に誤魔化すか少し考える。


ガイウスなら分かってくれると覚悟を決め正直に話すことにした。


「実は…」


話し終えるとガイウスは唖然としたが、クースの肩をそっと叩き頷いた。


分かってくれたのと同時に共犯者を得られたことにクースは謎の安心感を得られた。


そういう事なら迷う事は無いとガイウスを連れ温泉へと行く。


他かに客のいない貸切状態の温泉にテンションが上がったクースが勢いよく飛び込む。


「ああああぁ。ぎもぢーいぃー」


クースの疲れた体に温かいお湯が沁みる。


「っ!」


ガイウスの体の傷口に熱い湯が沁みる。


木に囲まれた白い湯煙の中しばらくの静寂が続く。


少しのぼせてきた、ガイウスが風呂からそろそろ上がろうかと思っていると、扉から見慣れた筋肉が入って来た。


「お前達も来てたんだな、まったく幸運な奴らだ。この俺の肉体をタダで見られるなんてな」


2人はめんどくさい奴が入って来たと思った。


お湯を軽く浴びると、体に滴る水は朝日に照らされる朝露の様な輝きを見せた。


「これが水も滴るいい筋肉だ」


この時2人考えは一致していた。


(よし。上がるか)


「どうだ俺美しい筋肉」


などと話しかけてくるアレクを無視し、温泉を後にし宿でしっかり休息をとり、明日に備える。


日が登り始めると消えかかる魔力を辿り暗い森の中を進む。


「魔力の方はどうだ?」


ガイウスがクースの耳元で囁く。


「ああほとんど消えてるが大丈夫だ。この方向と道順なら、行き先は黒の国だと思う。悪魔の痕跡が無くなったら、すぐに引き返して帰れる」


そう言いクースはニヤニヤしている。


「さっきから魔物は遠目に見てるだけで、襲って来ませんね」


若い騎士がクースに質問する。


「そうだな」と言いながら、クースがガイウスの方をチラッとか見ると相変わらず、禍々しい魔力が渦巻いていた。


「コイツに付き纏う禍々しい魔力見たらビビって近づかないよ」


ガイウスの禍々しい魔力は魔眼を持つクース以外の人間には見えない。


魔眼に興味を持った騎士が質問する。


「クース様の右目は魔眼だから、魔族や魔物と同じように、魔力が見れるんですよね。どんな風に見えてるんですか?」


聞き飽きた質問だが、いつも通りの説明を丁寧にする。


「別に普通だよ。体の周りに人によって違う色のオーラ的なのが薄っすら見えたり、魔力の流れとか残滓が見えるだけだ」


「すごい便利ですね」


「便利だけど目が赤いから、結構気持ち悪がられるぞ」


クースはどこか遠くを見つめ答える。


「そんな事無いですよ。俺は結構クースさんの目好きですよ。それに魔眼があると魔術を使いやすいって本当何ですか?」


騎士は噂の真意は本当なのか確かめようと、さらに質問をした。


「使いやすさは変わらないが、理解はしやすい、魔力の流れが見えないと、感覚的に教わるしか無い魔術を視覚で理解できるから、直ぐに自分の感覚に落とし込める」


そんなことを話しながら歩き、森を抜けるとそこには、草と花が生い茂り、綺麗な川の流れる楽園のような草原が開ける。


一同は幻想的な景色に息を呑む。


皆その光景に見惚れていると、クースがある事に気づく。


「お!アレク、魔力の痕跡がここで消えてる。これ以上の追跡は無理だな。あと悪魔の行き先は多分、黒の国だから大丈夫だ」


「お前なんか嬉しそうだな。もう少し辺りを見て痕跡が無ければ引き返すか。とりあえずここで一旦休憩しよう」


騎士達を休ませている間にアレクとクースの2人は草原の周りに痕跡が残されていないか、調べたが、やはり完全に消えていた。


「よし、引き返すか」


引き返す準備を進めているとクースがアレクに耳打ちをする。


「後ろ茂みに魔族が5人隠れている」


「そうか一応気にしておく」


アレクは少し離れた茂みを見たが、とても誰か隠れている様子では無かったが、クースが言うので、間違えないと確信していた。


(さっきから、うるさいな)


戦の時と同じ音がすると、地面に耳を付けその音を聴くと、何かが近づいている事にガイウスは気づいた。


クースも少し遅れて、それに気づく。


「アレク、魔族の群が近づいて来てる。魔力量的に30、いや40以上いる」


騎士を集めクースの周りを守らせると、すぐにトカゲの魔物が引く馬車が向かってきた。その馬車が近くに止まると、多種多様な魔族達の軍勢が出てくる。ガイウスに纏わり付く、禍々しい魔力を確認すると、一斉にガイウスに襲いかかるが、ガイウスに攻撃しようと近づいた者は、間合いに入った瞬間首を刎ねられ、魔術による攻撃は、禍々しい魔力によって全て阻まれる。


「化け物だ…」


「こんなの…無理だ…」


魔術は効かず、瞬く間に5人を殺したガイウスに恐怖の視線が向けれる。


「奴を捉えるのは我々では不可能です」


その言葉を聞いた1人の魔族が、後ろの馬車から、めんどくさそうに出てくる。


「魔王の奴面倒くさい呪いを掛けやがって。コイツが聖槍に選ばれた男か?ただの人間だな」


大岩のような屈強な肉体を持つ闘牛の頭をした魔族が、地面を踏み鳴らし近づく。


あまりの巨体に種としての差を見せつけられ、1人を除き一瞬足が澄んだが、真っ先に切り替えたアレクが皆を鼓舞し立て直す。


さあ戦だと皆が前を向くと、すでに戦いは始まっていた。


闘牛の男はガイウスとの距離を詰め、右手に持つ斧を振るう。


それを剣で受け流し、距離を詰め間合いに潜り込み剣を突き刺そうとしたが、左手に持つ太い剣で、弾かれた。


攻撃を防がれると同時に、再び斧が振りかぶられる。


(しまった)


突然の疲労感が全身を襲い、ふらつく、防ぎきれないと思ったその時、突然黒い靄により、闘牛の男の視界が奪われ、咄嗟にさがり、それをはらうと、クースの方を確認する。


「魔術か鬱陶しいな。お前ら、あそこにいる魔術師を殺しておけ」


魔族達は命令に従いクース達の周りを囲み攻撃をするが、クースの周りを騎士達が守り、魔術での攻撃は全てクースが対応しつつ魔弾で戦力を削る。アレクは煌びやかな剣を捨て、もう1本の無骨な方の剣を抜くと縦横無尽に駆け回り、敵陣を乱す。


どこか嬉しいそうな闘牛の男は、武器を構え直す。


「俺の攻撃をいなし、それだけで無く一瞬の隙を狙ってくる。こんな人間がいたとは。貴様、名は何と言う」


「ガイウス…」


「そうか。俺はアンダーク。こい、ガイウス」


痺れる手で、剣を強く握り締め、再び激しい攻防を繰り広げるが、防戦一方であった。互いに無傷だったが、このままいけばアンダークの勝利は明白だった。


それにガイウスも気づいており、この状態を長引かせる訳にはいかなかった。


状況を打開すべく、一直線に走り出す。


あまりに単調な動き、何か考えているのか、それとも無鉄砲か、そんな事はどうでもいいと斧を振り下ろすが、躱され地面にめり込む。


切先は心臓目掛け迫る。


咄嗟に剣を盾にするが、ガイウスは剣の軌道を変えのアンダークの手首を切り上げる。


「ぐおおおおおー」


腱を斬られ、手から剣が落ちるが、もう一方の手で攻撃をする。


振るわれた斧をガイウスは剣で防ぎ、吹き飛ばされた。


(なんて馬鹿力。全身がピリついてやがる。だがこれでやっと五分…いやこっちに一発分の理がある)


血を流すアンダークは、違和感を抱いていた。

コイツは強いそれは間違え無い。だが、動きがぎこちない。俺の攻撃で何故こんなにふらついている。それにあの剣、何故あんな物を使っている。そんな事はどうでもいいアイツを捕らえるのが、俺の仕事だと切り替える。


「本調子で無いのが、残念だが仕方あるまい。本気でいくぞガイウス」


アンダークは距離を瞬く間に詰め、斧を振るうが、それよりも速くガイウスの剣が首をとらえた。


それに対し、避けるか、このまま斧を振り切るかの2択に迫られる、アンダークだったが斧の動きを止め、避ける事もせず攻撃を受け止める。


丸太のような首に剣が当たった瞬間、剣の亀裂が広がり、折れてしまう。


アンダークは口角を上げ、ニヤリと笑う。


ここが最大のチャンスだと、ガイウスは剣を投げ捨て、腰に隠し持った銃を出し、頭を撃ち抜く。


銃弾は正確にアンダークの頭を貫き、弾は頭の中で炸裂し、その破片は脳にめり込む。


「ぬぐおおおおお」


叫びを上げ、湯気の上がる頭を押さえ悶絶するアンダークだったが、痛みに耐え充血した目で、銃を見る。


ガイウスが次の弾を込めようとした時、茂みに潜んでいた、5人の魔族が一斉に襲いかかる。


アレクが咄嗟に進路を塞ぎ足止めするが2人行かせてしまう。


ガイウスは咄嗟に銃で1人を撃ち殺し、銃を捨て、もう片方の魔族を迎え討とうとしたとき、間にアンダークが割り込み、魔族を殴り飛ばすと、銃を拾い隅々まで観察する。


「こんな小さなもので俺の頭を貫くとは、人間はこれで戦をしているのか?」


「まだ主流じゃないが、これから、それの時代がくる」


その言葉を聞きアンダークは豪快に笑う。これから面白い時代が来ると、弱い人間でも魔族を簡単に殺せる新しい時代が来ると。


「面白いこれが黒王の言っていた人の力か」


黒王と言う名にアレクが反応する。


(黒王やはりコイツら、黒王軍の魔族か)


その名に反応したのはアレクだけでは無かった。先ほどアレクに足止めされたカエルの魔族が声を荒げ叫ぶ。


「ふざけるなよアンダーク。黒王様を裏切ったお前があの方の名を語るな。」


緑の肌は真っ赤になり息を切らしながら続ける。


「お前は誰よりも古くから、黒王様に仕えていたお前がなぜ黒王様を裏切る。あれ程まで我々の未来を魔族の未来を考えていた、あの方を何故…お前は強い者に、ただ巻かれたいだけなのか…」


最初の力強い声は徐々に弱々しく悲しみを孕んだ声になる。


「勘違いするなよ。俺は面白いと思ったから奴に従っていただけだ。血も肉も魂でさえ切り捨て、奴の夢を叶えるための骸と化した、つまらん物に何故従わねばならない」


「では悪魔などと、つまらない化け物に仕えている」


その言葉に少し不機嫌な様子で答える。


「仕えたつもりは無い。奴が黒王より面白いことをするなら、俺は奴の側に着く。自分で魔王などと名乗る男だ、何がするのかそれを知りたい」


「王…あんな殺し破壊することしか脳に無い、化け物が王だと、そんな奴に王が務まるはずない。いくぞ黒王様最後の命令を遂行する」


仲間に合図を出すと4人の魔族はガイウスを殺すため動き出す。


アレクは間に入り動きを止めようとするが、カエルの魔族が魔術により地面に抑えつけられる。動こうとしても、体が大岩に挟まれたように重く動かせない。今にも折れそうな首をなんとか、ガイウスの方へ向けると信じられない光景が目に入る。


アンダークが魔族たちを蹴散らし、ガイウスを助けていた。


アレク達の理解が追いつかないまま、アンダークは左腕の傷口を合わせると湯気が上がり、傷口が徐々に塞がっていく。あっという間に傷を直し切ると、魔族達に追い討ちをかける。


1人また1人と攻撃を受け意識を失っていく。最終的に黒王軍の魔族達は1人が死にそれ以外は意識を失なった。


「邪魔が入ったが仕切り直しだ。さあどうする。剣は折れ、武器も無いどうやって俺と戦う」


腕の傷も頭の穴も消えたアンダークが疲労困憊のガイウスに話しかける。


辺りを見回すとガイウスはアンダークと逆方向に走り出す。逃げるのかと思われたが違った。イッカクの様な長いツノを持つ魔族の首をつかみ、抵抗する頭を抑え、ツノを頭から引き抜き、それを構える。


「武器はあるぜ、さっさと続き始めるぞ…」


そう言い一歩踏み出した時、視界は暗くなり、全身から力が抜け、意識を失い倒れてしまう。


アンダークが駆け寄ると妙に体が萎んでいた。それにこの鉄臭さまさかと思い、鎧を引きちぎると大量の血で溢れていた。胸の傷が開き今にも出血多量で死んでもおかしくない状態だった。


(コイツ痛みに耐えながら戦っていたのか?いやそんな事より)


医療の知識を持つ魔族を呼び止血をし、運んでいると、1人の男が近づいてくる。


「待て、ガイウスを置いていけ」


今にも死にそうな顔のアレクが、アンダークに向かってそう叫ぶ。


その言葉を無視し、馬車につもうとするがその男は剣を構え向かってくる。はっきり言って無謀、自ら命を捨てる愚か者は殺してやろうと思ったが、男の目を知っている、運命に抗おうとする目。かつての黒王と同じ目をした男だった。だが弱い軽く振った拳すら避けきれず、簡単に吹き飛ばされる。だがそれでいい、その決して折れることのない目、コイツはいずれ強くなる。どんな事をしてでも強くなるだろう。そして再び俺の元に現れた時は殺してやる。

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