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3.アレクとクース

悪魔の魔力の痕跡を詳しく調べると二つの事が分かった。一つ目は北に向かっていること、二つ目は痕跡を辿り山を登ると、無人になった、人狼族の隠れ里にハイエナの群れと魔猪が死体に群がっており、それより先に進む事ができないことだった。


アレクとクースは集落の跡地に狩に行くために荷物をまとめていた。留守番だなとガイウスは考えていたが、それをアレクは許さなかった。


「お前も行くんだぞ」


「今武器ないし、丸腰で行けってのか?」


「鎧はあるんだろ?それにほら」


そう言い、一本の剣を渡した。


「少し短いが、なかなか良い剣だな」


「それだけじゃないぞ、とっておきの物があるんだ。明日見せてやるから楽しみにしていろ」


とっておきとは、何だろうと思ったが、それよりも行く雰囲気になっていたので何とかしようと、傷が痛むと適当な言い訳したが、その言葉を聞くとニヤリと笑う。


「ガイウス腕を出せ」


断るのも、めんどくさそうなので素直に腕を出すと注射を刺された。


「痛ぇ!いきなり何すんだよ」


「まあまあ、少し待ちたまえ。あっと驚く効果を得られるだろう」


薬が回ると少しの高揚感と共に痛みが消えた。


傷口がどうなったのか気になり包帯を解いて確認したが、傷には変化が無かった。


「なんだよその十字の傷跡」


胸の傷跡を見て驚いたアレクの質問に対して、興奮気味に答える。


「これ?傷跡。そんなことより、あの薬は何だぁ?」


答えになってない返答だったが、薬のついて聞いてくれたので、意気揚々に説明を始める。


「これは最近開発された痛み止めでこれを使うとなんか理由はまだ分かって無いけど痛みが一時的に吹き飛ぶんだ。でも使用量を守れば安全性は保証されてるし効果は確かなんだ。ちなみに原材料は東の国で取れる…」


口を休める間もなく説明していた。その話を聞きいているのか、いないのかどこか上の空な様子で「ふはははー、スゴイぞーカッコいいぞー!!」とよくわからない返答をしていた。


反応がいいので気が良くなり話は止まらなくなっていた。


会話が噛み合っていないのに大笑いする2人を横目にクースは引き攣った表情で荷物をまとめていた。


ひと通り話し終えると肩を上下しながら「行くよな」と確認した。


それに異様に高いテンションで「行くー」と子供みたいな返事をした。


荷物をまとめ終えたクースはこんな気持ち悪い空間から、さっさと出ようとしたが、いつも通りの気持ち悪い奴Aに捕まったが、適当に筋肉を褒めると服を脱ぎ始めた。その隙に部屋から出ようとしたが、次は気持ち悪い奴Gに止められた。


コイツがこんなテンションなのを初めて見たが違和感がすごくてキモい。めちゃくちゃキモい早くこの空間から解放されたい。そう思い、おそらく人生で一番俊敏な動きでそれを抜き去り部屋を出る。


追いかけてきたが部屋を魔力の壁で囲いしばらく閉じ込め。落ちつた頃に部屋に行き、さっきのことをイジってやろうと話をしたがガイウスは覚えていなかった。イジってやろうという目論見は外れた。


なぜか準備に丸1日かかったが、なんとか終えられとクースはひとまず胸を撫で下ろしたが明日の事を考えると先が思いやられた。




日が登り始めた頃、霧がかかる息苦しい山を登り3人は集落の跡地に向かっていた。


「アレクのくれたあの薬すげえな、今朝感じてた痛みが消えちまった。ところで後ろの連中は何だ?」


「彼らは俺の美しい剣術が見たいとついてきた騎士達だよ」


「ちげーよ。俺の護衛に連れてきたんだよ。魔力の残滓が消える前にさっさと行くぞ」


いつも通りの適当な発言をクースが訂正する。


「あーそうだった、そうだった。皆の衆すまないね。忙しのにうちのクースのために来てもらって」


アレクは少しつまらなさそうに言った。


「いえ、軍神アレク様の剣術が見られるとなれば、任務に関係なくついて行きますよ。それにクース様の魔術も近くで見られるなんて、ガイウス様が本調子で無いことが少し残念ですが」


その言葉を聞きアレクは自分の美しい戦いを見学していけと言いながら、気持ちよさそうに歩く。クースはいかにも魔法使いという感じの先が折れた、とんがり帽子を深く被り直す。


そんな2人を後ろから見ていたガイウスだったが、どこから視線を感じ辺りを見渡すと、一つ目の頭に足が生えた1頭身の魔物がこちらを見つめていた。


「頭ニンゲン…?」


「なんか言ったか?」


「いや、変な魔物がいただけだ」


「魔物なら俺の魔眼が見逃すはず無いぞ、それにこんな濃い魔力の残滓が残ってるんだ並の魔物はビビって近づかないよ。見間違えじゃないのか」


魔物のいた場所をもう一度見たが、そこに魔物はいなかった。


「おかしいな確かにいたんだが見間違えか?」


クースの魔眼に反応しないなら新種の動物なのかなと考えながら歩いていると、だんだんアレクがソワソワしだし、我慢できなくなったのか突然話し始める。


「昨日言っていたとっておき、気になるよな。」


そう言うとガイウスの返事を待たず、とっておきを渡す。


「なんだ銃か…玉込めるのに時間かかるし、あんまり当たらないんだよな」


とっておきと言うのでどんな物か期待していたので少し残念そうに文句を言ったが、その反応も想定内と言わんばかりに話を続ける。


「これは今までの銃とは違うぞ。これは手元で装填ができるんだ。尚且つどんぐり型の玉を採用することでー」


いつもの早口で、言っている事はよく分からないが、すごいという事は伝わったので、とりあえず近くに居た鳩を狙って引き金を引く。


銃声と共に飛び出した弾丸は正確に、鳩に命中し体中で炸裂した。


今までは考えられない精度にガイウスは驚嘆する。


「すごいだろ。剣やクロスボウと違って長い時間を掛けて訓練させる必要もない。これを量産できれば農民も簡単に兵士に出来る時代がいずれ来る。新しい戦場で、もう一度お前と一緒に戦いたい。俺についてきてくれないか?」


真っ直ぐな目で、力強く言った。


突然の言葉に一瞬固まったが考えること無く答えは決まっていた。


「悪いが俺はもう戦場で戦うつもりは無い。他の奴に当たってくれ」


「やはりそうか!まあいい俺は待っているから、また俺と一緒に戦う気になったらいつでも言ってくれ」


誘いは断られてしまったが、銃を見せれて満足した様でまた軽い足取りで歩き出す。


山の深くまで、進むと霧が濃くなり急な斜面の場所に着いた。


「馬はここまでだな」


数人の騎士に馬を預け迂回させ歩き始める。


甲冑を着たままではかなりしんどい斜面に皆疲弊していったがアレクだけは軽々と登り、その後ろをクースとガイウスが歩く。


「いいだろうこれ、俺用に特注した軽くて脱ぎやすい鎧だ」


急所だけを守り機動力と可動域に特化させた薄い鎧だった。


「あれマジで鎧だったのか」


「いいなー、軽そうで」


(ローブだけのお前が言うのかクース)


「これ分厚くて結構重いんだぞ」


「…!?クースもしかしてお前エス…」


心を読んだ様な言動にエスパーなのか聞こうとし、目を向けるとクースは斜面を転がり落ちていた。


落ちたクースに騎士達が巻き込まれ、下では悲惨な光景が広がっていた。


そんなこんなで斜面を登りきると、霧と木々によって隠された盆地が見えてくる。


家屋は倒壊し、辺りに焦げた匂いと死臭が漂っており、ハイエナの群れと魔猪が互いに牽制し両者一歩も引かず、引けない雰囲気だった。


「ここが例の場所だ。ここで魔力の残滓が爆発的に濃くなっている」


「こんなとこに隠れ里が合ったとはな。普通に登れば、到底辿り着けないな。なぜこの道を通ったんだ?普通なら、少し外れた林道を使うのが楽なんだが」


疑問は絶えないが考えていても仕方ないと、一行は斜面を下ると、アレクが1人飛び出した。


「クース手ェ出すんじゃあねぇぞ。行くぞ、ガイウス!特等席で、俺の技を見せてやる」


クースはため息をつき少し離れた場所で杖を構え、その周りを護衛の騎士が囲む。


アレクは、ハイエナと魔猪の間に割って入る。


「失礼お邪魔させてもらうよ」


突然の乱入者に両者一瞬身をすくめたが、その乱入が戦いの合図となる。


両者同時に駆け出し、間に挟まれるアレクを巻き込み、互いに襲いかかる。


最初に一匹のハイエナが先行し、首を目掛けて飛んできたが、のけぞりながら鼻に軽く口付けをしながら躱わし、背中側から突進して来た魔猪が脚に触れた瞬間地面を蹴り上げバク宙で躱わす。


魔猪はそのまま走り、ハイエナの群れに突撃した。反応が遅れた2匹はその突進に巻き込まれ、無事だった者たちの大半は、少し距離を置き様子を見る。それ以外の血気盛んな者達の半分はアレクの方へ、もう半分は魔猪に噛み付く。


アレクの首、腕、脚をそれぞれ狙ったが、全て体に触れること無く、体を逸らされ攻撃は当たらない。


「しっかり手薄なところを狙ってるね。かなり戦い慣れてる獣だ。次はこっちから行かせてもらうよ。ガイウス俺の戦いその目に焼き付ける準備をしておけ」


そう言い腰に付けた2本剣の片方を抜く。煌びやかな装飾をふんだにあしい、重心がどこにあるのか分からない、剣と言うより美術品のような剣だった。


最初に飛びかっかたハイエナも合流し、今度は少しテンポを変え再びアレクに襲いかかる。


2匹は足元に、もう1匹は素早く回り込み背中側から攻め、最初の1匹は、周りを時計回りに動き隙を伺っていた。


「いい動きだ。だがそれじゃ俺は止められない」


足を狙ったハイエナが口を開いた瞬間、その口に蹴りをねじ込み、少し遅れた、もう一匹の方に蹴り飛ばし、振り返り、後ろから来たハイエナを輝く剣で撫でる様に切り裂く。


遅れた1匹の頭を切った瞬間、アレクの周りを回っていたハイエナが高く吠える。それに合わせて、少し離れたところで様子を見ていた約20匹のハイエナが一気に動き出す。


それを最初は難なく対応していたが、四方八方から来るハイエナを捌ききれず、取りこぼした1匹が首元に飛び掛かろうとした瞬間、銃弾と火炎弾が飛んでくる。


突然の銃声と炎に群れは混乱状態に陥る。その隙にアレクは、ハイエナを切る。


「いいタイミングだガイウス、クース」


数匹切り群れの混乱が収まり始めたころ、突然背後に気配を感じ身を逸らそうとしたが遅れ、アレクは宙に吹き飛ばされた。


あまりの速さにその場の誰も反応出来なかった。アレクは自分を飛ばして、走り抜けていったヤツの方に目を向けた。


それは魔猪であった。先ほどの魔猪よりひと回り大きいそれの勢いは止むこと無く、血まみれの魔猪に噛み付くハイエナ目掛けて一直線に猛進する。


もう一頭の魔猪が現れるとハイエナの群れは散り散りになり逃げる。


弱った魔猪に群がるハイエナを一掃し瀕死の仲間を確認すると、再びこちらに向き直し怒りのままに走り出す。


「こっちに来ますよクース様!」


「コイツはヤバい撤退するぞ」


ガイウスはその言葉を聞き、撤退しようとアレクの方を見たが引かず剣を構え攻撃のタイミングを伺っていた。


突っ込んできたところにカウンターを喰らわせてやろうと思ったが、下手に攻撃をしようとすると相手の突進に巻き込まれるので、避けるだけで決定打をだせずにいた。


突進が来ると癖で高く飛び上がり躱わすが魔猪もそれに合わせ減速し、アレクが着地する寸前を狙い再び加速する。


咄嗟に腕で剣を振うが分厚い皮膚を切り裂く事はできず、正面からもろに受けてしまう。


幸い鎧が衝撃を受けてくれたおかげで軽傷で済んだが鎧の一部は砕けてしまった。


「だせぇな…アイツにあんなこと言っときながら鎧も体も傷だらけ。美しさの対極だな…」


鎧を捨て服を破ると黄金の肉体が顕になり、その場にいた魔猪を含めた誰もが目を奪われ、息を呑む。


「たく…ここまで美しさを見せるつもりはなかったんだがな」


アレクのボルテージが上がり、剣を斜め下に構え直す。


我に返った魔猪が一直線に疾走しだす。


距離は一気につまり、間合いに入った瞬間、魔猪の瞳に剣を突き立てる。


切先が視界に入った時には、もう間に合わず勢いのまま剣が突き刺さるが、脚を止めること無く突っ走る。


突き飛ばされそうになるがアレクは剣を離さず、魔猪の背中に回り込み、しがみつく。突き刺さった剣を捻り頭の中を抉る。目から血を吹き出し足跡には血の水溜りができていた。


血の舞うその光景は美しい肉体と合わさり、絵画の様になていった。


負けじと痛みに耐え目線の先にいるクース達の方へ猛進する。


クース達は左右にずれ体当たりを回避したが、腰が抜け、逃げ遅れた若い騎士が1人いた。


クースが魔術を使おうとするが間に合わない。もうダメだと思われたが、魔猪の足元をガイウスが横切り左足を切断する。


足を失った魔猪は姿勢が崩れ地面に頭を擦り付け騎士の直前で止まった。


まだ立ち上がろうとしたが、アレクにとどめを刺され動かなくなった。


アレクは剣をしまうとガイウスの元へ駆け寄り、鎧を脱がせ包帯を取ると、傷が開いてしまっていた。


「重傷の怪我人があんな激しく動くから」


「ちょっと張り切りすぎた」


「昨日も聞いたんだがその傷なんだ?」


胸の深い十字の傷跡にについて再度質問する。


「これは髑髏の男につけられた傷跡だ」


「髑髏の男?なんだよそれ」


「何も分からないが、とにかく剣の腕も魔術も次元が違った」


止血しながらそんな話しをしていると先ほどの若い騎士が礼を言いに来る。


「助けていただきありがとうございます。ぜひ今度お礼をさせてください」


「そんな気にすんな。アンタみたいな貴族の騎士に死なれると、こっちも面倒だから、助けただけだ」


一通り片付きクースがほっとしていると、もう一匹の魔猪が地面を這い、匂いを頼りにゆっくりと死んだ魔猪のそばに来た。


「待て、もう時期死ぬんだそっとしてけ」


とどめを指そうとした騎士をクースが制止させる。


死んだ魔猪の側に倒れると、どこか幸せそうな悲しい顔をして眠りについた。




「ここで一体何があったんだ?」


クースは民家に残された人狼族の死体を確認すると不可解な点がいくつかあった。


悪魔に殺されたと思っていたが死体に魔力は残されておらず、人狼の歯形がついた死体もあり、人狼同士で殺し合った様な形跡がいくつも残されていた。


調べ終えると、動物や魔物が集まらないように死骸をまとめて燃やし、迂回させた騎士達と合流すると、薄くなり始めた魔力を辿り再び歩き進める。

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