1.英雄と呪い
「おのれ、その槍さえ無ければ、貴様如き只の人間のくせに。我が負ける事などありはしなかった」
「ああ…そうだ。終わりだ。お前をこの聖槍で殺す」
男は蒼銀の槍を天に掲げ、歪んだ空間に捻じ込む。悪魔の頭上に歪みが生じる。そこから大樹のような大きさの槍が現れ、悪魔を一息に潰す。
膝をつき男が安堵したのも束の間あたりに飛び散る肉片からか、それとも空からか何処となく声が聞こえてくる。
「貴様…ただで、この俺を殺せると思うなよ。貴様には我が呪いをくれてやる。そしていずれ、必ず貴様を殺しに戻ってくるぞ…」
気づくと男は、森の中にいた。
そこには、蝿がたかる少女の死体があった。
「はっ!あぁ…」
男は勢いよく起き上がる。またあの夢かと、また朝が来たと落胆する。
服を着替え、早朝いつも通りランニングしようと家を出るとポストの中に手紙が入っていた。差出人は、かつて共に戦った友からだ。
「あの戦いの功績が認められ将軍になり、王都でいい暮らしをしている。お前も一度こっちに来ないか、お前ほどの男が田舎の町で質素な暮らしをする必要は無い。返事を待っているよ」と概ねこんな内容が書かれていた。
それを読み終えるといつもより遅い時間にランニングに向かう。
町を走っていると店を開く準備をしている人や、井戸に集まっている人がいた。しまったと思っていると、やはり人々の視線が、男に集まる。ガイウス様だと声をかけ挨拶する者もいれば、英雄に対しての憧れや尊敬の眼差しが向ける者もいた。ガイウスは軽く頭を下げ視線を足元に落とし、足早に走り去って行く。気がつくと町を出ており山の麓に着いていた。川の水を飲みトレーニングを行い。いつも通り町を迂回し帰路に着く。
「あれが、あの悪魔を殺した英雄です。あなた方に、彼と戦って欲しいのです。報酬は言い値付けます」
ツノの生えた男が2人の魔族に問いかける。
「なんだよアイツ。あの魔力量どうなってやがんだぁ!?」
とギョロ目の見窄らしい狼男が言う。
それに糸目の白い魔人が反応する。
「違う、ヤツの魔力だけじゃ無い。もう一つ禍々しい魔力がある。あれは何だ1人の人間に2つの魔力が混在しているのか!?」
「ダンナ、流石にアレを倒すのは無理ですぜ」
「いえ、倒す必要はありません。倒せる事に、越した事はありませんが。彼に魔術を使用させるだけで構いません」
殺しの依頼でない事に困惑しつつも同時に疑問も浮かぶ。するとツノの生えた男が繰り返す。
「何故そんな依頼をするのか。その疑問は、ごもっともです。私の見立てでは、今の彼は魔術を使えないと考えています。何度か魔獣達を彼の元に向かわせましたが、どんな状況であっても魔術を使わなかった。ですので、使えるかどうか、その確認がしたいのです。」
「要はアイツは魔術使えないってコトか?ならオレの敵じゃないな」
「銀狼…まあ良い、あとで説明するよ」
自分のビジネスパートナーが想像以上にアホな事を再認識し、依頼人の方に向き直す。
「その依頼喜んで、受けさせていただきます」
「良い返答を頂けて幸いです。では今一度、契約条件の確認を…」
夕方いつも通り牧場での仕事を終え、草原を歩いていたガイウスだったが、家の前に2人の人影が見えた。少しずつ距離が縮まると、それが人間で無いことがわかった。
「魔族が俺に何の様だ?」
武器を取ろうと視線を家の方に向けた。
「無駄だ、武器はオレ達が隠したからな」
「初めましてガイウス様。早速で申し訳ないですが、あなたに魔術を使っていただきたい。そうすれば、こちらも荒事をせずに済みますので」
「嫌だね」
「そうですか…残念です。死んでもらうしか、ありませんね。銀狼頼んだよ」
銀狼が飛びかかるが、それを男は容易くあしらい、銀狼を殴り飛ばす。
「イッテェなあ!このヤロウ、ぶっ殺してやる!!」
「…」
ガイウスは違和感を覚えた。直感で感じた、狼男の実力と実際の実力に差がありすぎた。
「うおおおおぉー」
その違和感の正体を考える間も無く、銀狼の追撃がくるが、直線的で単純な動きだったので、真っ直ぐ顔面を殴ると、銀狼は吹っ飛んだ。
「うわぁああああー痛い痛いー」
「ずいぶん頑丈なヤツだな」
最初の違和感は何だったのかガイウスは考えたが、それを辞め早く終わらせることにした。フッと息を吐き、スーと息を深く吸い直すと、一瞬の事だった。一気に距離を詰め銀狼の首を180度捻じる。その勢いのまま魔人を蹴り飛ばす。
「ぐほ…」
間一髪で、魔術による衝撃緩和をした魔人は、何とか一命を取り留めた。
ガイウスは、胸に刺さったナイフを抜く。
「狼野郎は、これを狙ってやがったのか技術は確かだが、もったいない。油断させた所を狙うなんて、めんどくせぇことせず、最初から頑丈さを活かして戦えばいいのに」
そう言いながら魔人の元に、ゆっくりと近づいていく。
「ひいぃぃー来るな来るな来るなー」
腰が抜けた魔人は取り乱し、魔術を雑に放つが、すべて禍々しい魔力に阻まれる。
「…ん?」
ピタリと立ち止まり、振り返ると、脇腹にナイフが突き刺さった。間髪入れず二回目がくる。咄嗟に蹴りを繰り出すが、それを躱わされ、顔を斬り付けられた。
「遅いよ銀狼、途中から本当に死ぬかと思ったよ」
「悪ぃな、首がなかなか戻らなくてな。にしてもコイツ最初から、オレの実力見抜いてやがったのか?それに、今のに反応したヤツは初めてだ。本気でいく爆煙頼むぜ。」
「ああ。任せろ」
魔人は指先にに魔力を込め、それを解放すると、小さな爆発が起き草原は煙幕に包まれた。銀狼は煙の中を縦横無尽にかけ回り、匂いで位置をとらえ体を斬り付け煙の中に消える。
「どうだこの中だと何もできねえだろ」
その通りだった。掠める様に斬りつけ、一瞬で消えてしまうので、ガイウスは反撃できなかった。急所を守り、繰り返される攻撃を耐え忍ぶ。すでに体には多く切り傷ができていた。少し考えた後、必ずここに来ると信じ一点に集中する。十数回の攻撃を耐え、煙が薄くなり始めた頃、銀狼の姿が見えた瞬間ナイフが腹に刺さる。
「!」
「捕まえたぜ…狼野郎…」
ガイウスは刺さったナイフとそれを持つ手を掴み離さない。そのまま顔面を滅多打ちにする。煙の中から銀狼の叫び声だけが聞こえる。煙幕が開けると血まみれの銀狼とそれを殴り続けるガイウスが見えてくる。マズイと思った魔人はナイフを拾い投げつける。ガイウスがそれを腕で防いだ隙をつき、銀狼は手を解き距離を取る。
「ぜぇーハー…」
「オマエ人間のクセに…なかなかタフだな…」
男も銀狼も限界だが、このまま続ければ銀狼が先に倒れる。それを感じ取った魔人は、ガイウスを煽る。
「打撃では銀狼を倒せない。それは、もう分かったでしょう。しかし銀狼には、魔力耐性が無い。どうです魔術使っていただけませんか?」
何を考えているんだと思ったが、いろいろとめんどくさくなったガイウスは全部終わらせることにした。
「やってやるよ…後悔すんなよ」
爆煙の構えをし指先に魔力を込めるが、そこに大量の禍々しい魔力が強引に流れ込み、魔力は暴発し巨大な爆発が起きた。ガイウスは吹き飛び、撤退の準備をしていた2人の魔族もそれに巻き込まれる。町は大量の煙に包み込まれた。しばらくして、煙が消えるとそこには、巨大な窪みができていた。
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