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L寸の女

作者: 境 環

 私は、洋服のチェーン店で働いている

今は11月。落ち葉の季節である。お客様は天候に左右されやすい。天気の良い今日は目が回る程の混雑だが、外が雨の場合は、店内はがらんどうとしていて、混雑時期の錯覚が招くのか、しばしマネキンが動いて見える時が多々ある。レジカウンター専門のアルバイトとレジ、品出しをするパートタイマーがいる。

 私は前者のアルバイトだ。


「いらっしゃいませ~」

 中年の女性がパンツを一本買いに来た。

「ありがとうございます。1500円になります」

ピッタリ1500を支払った。

「ありがとうございました」

 今日は昨日のチラシからのお客様が少し少ない。


 あれから30分程だろうか、数名のお客様をさばいたあと、中年の女性が申し訳無さそうに、

「これ、Mなんだけど、Lに変えて下さいます?」

「分かりました」

「あのね~試着したんだけど、Mサイズ入ったのよ~でも、家に帰ったらお腹回りが苦しくて…」

「あ、そうでしたか~」

と、私は微笑んだ。

 お取替えはよくある話だから、何も気にとめなかった。

 私も持病の薬のせいだと思うが、(そう思いたい自分がいる)MサイズからLサイズに身体が降格し、美容体重ではなくなった。まだ標準体重だが、ぽっちゃりに値していた。この女性も私と同じ位の体格なのに、試着時点でMサイズが入ったのだろうかと首を傾げる。


 あれから一週間経った頃だろうか、Lサイズに交換した中年女性がMサイズのパンツを差し出して来た。

「いらっしゃいませ~1500円になります」

「先日は、ごめんなさいね~アハハ。ちゃんと試着したから大丈夫!でも、このお店安くてホント助かるわ!」

「ありがとうございます」と微笑む。

後ろ姿を見ながら、「本当に大丈夫か?」と危惧した。

 うちの店は、毎週水曜日に売り出す服のチラシが出る。たまに出ない時もあるが。あの人はきっとチラシを見て買いに来るのだろうと根拠もなく思う。

 今日は少し忙しい。「いらっしゃいませ」のお辞儀とレジを繰り返していたら、目眩がして非常に疲れる。

 レジをしてふと並んでいる人が二人程いたので、品出しのパートさんを店内アナウンスで呼んだ。

 店のモットーの一つで「なるべくお客様を待たせない」があるのだ。

 あの中年女性がレジに並んでいた。

「やっぱり〜」と心の中で苦笑いする。

「試着室ではピッタリで『イケるわ!』って思ったんだけど…家に帰ったら、窮屈だな~と思って…Lサイズに変えていただける?」

「分かりました」と笑顔をつくるが、毎回お取替えは勘弁してほしい。

 もう私の中ではブラックリストだ。サイズの差し替えは、そう頻繁にないのだから…

 もうクリスマスが近づいて来た。あのおばさん最近来ないな〜と思い、ふと入口を見たら、誰か入って来る。よく見ると見覚えのある女性…『はい!L寸やってきました~』と呟き、苦笑する。

 何も持たずレジに近づいて来る。

「毎回、お手数かけてごめんなさいね~でも、ホントに試着室ではMが入るの…でもね…家に帰ったら、急に窮屈になって…今日は、Lを買って帰るわ。うふふ」

 この人、頭のネジが一部故障してるのかしら。なんで毎回Mが入るのかが分からない。もしかして、うちの試着室は異空間でウエストが縮まるとでもいうのか…

 私も、勤務時間外に試着してみようかな?と買う宛のないものを穿くなんてオカシイ話だ。とニヤける自分がいる。妄想から脱却して、入って来るお客に声をかけた。

 彼女がレジへとやって来る。ゆっくりと、笑いながら。

「ちゃんとLにしましたわ。もう、取り替えないから大丈夫。うふふ」と笑う。

私も微笑む。

「2000円になります」

財布から2000差し出す。

「2000円ちょうどですね。ありがとうございました」

 丁寧にお辞儀をした。L寸の女は満足そうに帰っていく。もう取り替えはないだろう。何か、少し清々しい気持ちになった。あなたも私もL寸で生きていくのよ~と心の中で呟いた。


30分後、彼女がうちの袋を持って入ってきた。

「え!?L買ったよね?L寸ブカブカ?そんなはずはない!あなたと私はL寸!」

そんな言葉が脳内をこだまする。


「このズボンLから、LLサイズに変えていただける?」

カクヨムにて掲載しております。

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