8-8 情報戦
ご愛読、ありがとうございます。
今回は戦後の両陣営の情報収集の様子です。
バルドゥール王国に侵攻したオリンポスを退けたレオン達は、元の平和な暮らしに戻っていた。
しかし、それは表向きの事で裏では壮絶な情報戦が始まっていた。
帝城の近くのレストラン <マイア>
私の名はマイア。ヘルメスの後釜で帝国の情報をゼウス様に流している、オリンポスのエージェントだ。
来た来た。きょろきょろと周りを確認しながら個室部屋に入って来た。
「おい、あまり呼び出すな」
帝国の第一皇子フランツだ。
「こないだの情報が遅れたおかげで、うちは大損となりましたよ」
「三男坊の情報か?しかしあれは知って直ぐ知らせたのだぞ」
声を潜めて話すこいつは臆病者だ。
「で、戦争はどうなったのですか?」
もう、ハーヴェル諸国連合のヘルメスの所には情報が入っているはずだが、こいつの情報の方が近い分だけ早い。
「帝国軍が勝った。諸国連合の国境線まで追撃戦をやったみたいだ」
驚きました。帝国は勝てるはずはないのですが、三男坊たちも戦争には間に合わなかったはず。はっきりしませんね。
「具体的にはどう勝ったのですか?」
「わからん、詳しい事は教えてくれんのだ」
役に立ちませんね。これについてはヘルメスからの情報を待った方が良いようです。
「それで国軍は止められましたか?」
「それが、陛下がどうしても必要だと言い切って、援軍を送ることになった」
「理由は解りますか」
「それが訳の分からんことを言うのだ。聖金字教国の正規軍が攻めてくるとか」
何ですって!聖金字教国正規軍がエドゥアルト王国を侵略したことはまだ帝国に知れてないはず。ましてや諸国連合軍を率いてるのが教国とは知らないはずです。エドゥアルト王国や諸国連合は情報封鎖をしているし、ヴァイヤール王国回りだと一月半は掛かるはず。
本当はこの皇子、レオンが聖金字教国の事を皇帝に話していたのを聞いていたはずなのだが、海賊に加担していたのを知られたくないと言う思いが強すぎて忘れているのである。
「誰がそんなことを言っているのですか?」
おかしい、情報の速度がとんでもない。この速度はエドゥアルト王国からバルドゥール王国を通ったとしても速過ぎる。
「陛下と宰相、元帥も言っていた」
「どこからの情報かは解らないのですね」
帝国には連絡の魔道具があるが、他の国には無いはずだ。その魔道具で千km以上離れた場所と連絡できるとは思われない。ヘルメスとは引き継ぎ期間を取れなかったので知らないことがあるのかもしれない。
「連絡の魔道具はどれくらいの距離で使えますか?」
「良くは知らんが百km離れるときついと聞いたし、どこにでも設置できる物じゃないって聞いた」
千kmを超えると言うと伝書鳩ぐらいしか思い浮かばない。でも鳩を使うにしてもエドゥアルト王国に居たと言うのは不自然過ぎる。ええい、ハデス様は何をしているのだ。
「どうした、帝国がバルドゥール王国に援軍を送るのがまずいのか」
「いえいえ、食料とかを買い集めるから、うまく行けば儲かりますよ」
危ない、危ない、情報の経路に固執しちゃ駄目だ。私の仕事は商人と言う事になっている。
第一皇子が手を出してくる。
金貨の袋を出すがふと手を止めて言った。
「陛下の所に誰か来ていませんでしたか?」
皇子は手を伸ばして金貨を掴んだ。
「帝妃とフェリシダスぐらいだ」
皇子が金貨を金貨を懐に入れるとちょうど頼んでいた料理が来た。
皇子が食べ始めたので、私も食べながら考えた。
帝妃はおいそれと外部の人間と会うことは出来ないだろう。
やはり、皇女が学園で何かしているのではないか。もしかして三男坊か、奴は指南役だから皇女と長い時間居ても怪しまれない。となると三男坊が週末に行くアキラの店が怪しいな。
本格的にあの店を探ってみるか・・・。確か、ヘルメスが人員を送り込もうとして失敗してるんだったな。
「なあ、マイア」
「は、はい、何でしょうか?」
皇子にいきなり呼び掛けられて、ちょっと驚いた。
「そのステーキ、食わないのなら俺にくれ」
ああ、もう、この図々しい男は本当に皇子なのだろうか。
「はい、どうぞ。殿方が食べる姿も絵になりますね」
「そうか、俺のような男と会食できるのは女冥利に尽きるだろう」
ああ、嫁も貰えないくせにイケメンぶりやがって、ああ最悪。
とにかく、アキラの店・学園に探りを入れられるようにしなければ、それから、この皇子はどうも信用できない。朝議に出られる奴を一人篭絡するか。
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オリンポス 本部
「ハデス、御前に」
謁見室でゼウスの前で片膝をつくハデス。
「ヘルメスより鳩が着いた。それによるとポセイドンは破れたそうだ」
「帝国はよくて四千ぐらいしか兵を出せないはずです」
ハデスは負ける理由が解らなかった。諸国連合軍は帝国を迎え撃つ形を取れたはず。ポセイドンなら負けるはずがなかった。
「兵の話では決戦前の夜、ポセイドンは何かを迎え撃つ布陣を整えていたようだ。夜中にポセイドン達がいる天幕で何かあったらしい。
詳しい事は解らんがポセイドンが自爆して天幕の中のものは全員死んだらしい。その時に大きな鳥が目撃されている。
ヘルメスの話では第二皇女襲撃の際にも大きな鳥が敵に居たようだ。それに繋がるのがレオンハルト=イエーガーだと言う」
「レオンハルト=イエーガー・・。アーレスもヘスティアも煮え湯を飲まされた男でしたね」
なぜ、ヴァイヤール王国に関係のない戦いに出て来たのか?全く想定していなかった。
「それでだ。現在、帝都にはマイアを置いている。お前は腹心を送ってレオンハルト=イエーガーを探れ。奴の動きが解るまでは侵攻を停止する」
大変だ。レオンハルト=イエーガーの動向を調べられる奴を送らねば。ハデスは自分の部下の顔を思い出していた。
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ハデスの部屋 <ハデス>
執務机に座る俺。
「ペルセポネ!居るか?」
その前にスーッと黒い猫獣人の少女が現れる。
少女は黒い髪、黒いミニのワンピース、黒いタイツを纏っていた。
こいつは何処にいたんだ?気味の悪い奴だ。
「ペルセポネ、お前はリヒトガルド帝国に行って、マイアの元でレオンハルト=イエーガーを徹底的に調べろ。獣人のお前を育ててやったのはこんな時のためだ。解ってるな」
「はい」
ペルセポネは礼をする拍子にスカートの中から短剣を取出し、通気口に投げた。
短剣は通気口の鎧戸をすり抜けて中に吸い込まれた。
「どうした!」
俺は通気口の中を覗き込む。大きめの魔力を感じる。
「精霊か妖精が覗いていたようです。霊力を感じましたが、もう居ません」
精霊だか妖精を殺したらしい。もしかしてそいつが俺達の事を監視していたのか?
「よくやった。今後はペルセポネを名乗るな。もう、お前のことを知られているかもしれん」
奴らはテレパシーを使うと言うからな。
顔を戻すともう彼女はいなかった。
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アキラの店 <ヤヌウニ>
私は錬金工房のドアを慌ただしく開ける。
「アキラ!ポルトスがやられた!」
「ポルトスと言うと、オリンポスの本部に潜り込ませていたブラウニーか?」
アキラは今やっている仕事をシャラに任せて私の方に来た。
「突然、回路が閉じたのだ。こちらから呼び掛けても気配がないのだ!」
「落ち着いて。ビスマルクさん!ちょっとこちらに来てください」
この店のブラウニーを統括するビスマルクさんもやって来た。
「申し訳ない。私が危ない仕事を頼んだばかりに」
私は後悔の想いが一杯になって来た。
私は彼らの命を軽く考えすぎていた。どう謝罪しても許しては貰えないだろう。
「ポルトスは死にましたか。次を人選しときますね。明日には決まると思いますので、ノルンさんに送って貰えるように言っておいて下さい」
はあ?ビスマルクさん何を言ってるんだ。
「ポルトスさんは殺されたんだぞ。それを次を送るって・・・」
「はい、我々はレオンさんを中心に理想的な国家を作ろうとしています。それには犠牲はつきものだと思っています」
ビスマルクさんは私を責めることもせず、前向きに進もうとしている。
私がビスマルクさんの言い様に驚いていると彼は説明してくれた。
「ああ、ポルトスは完全に死んだわけではありません。私達は個にして全、全にして個なのです。私達は女王の分体なのです。女王の魂を分けて、身体を与えられたのが私達です。だから体を失っても、魂が女王の元に辿り着けば復活出来ます。キラさんの様に」
「本当か?ポルトスは復活できるのか?」
言われた内容は完全には理解できなかったが、キラは魂が女王の元に辿り着いたので、精霊として復活出来たと言っていた。同じことをブラウニーは出来るのか。
「はい、今は女王はこちらの世界に居ます。ポルトスも探しやすいでしょう」
ビスマルクさんは悲しむことなく私に言ってくれる。
「ヤヌウニさん、歩みを止めないでください。女王もあなた方には期待しているのです。その為なら私達は何でもします」
「ありがとう。君達の協力で新しい国家を作ってみせるよ」
「そうだね。俺もより一層頑張るよ。
アキラも誓ってくれた。私達が大手を振って外を歩けるような国を造ろう。
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ハイデルブルグ学園 <レオン>
マリーの試合の日となった。
俺は二週間、マリーの特訓をしたので、試合を見るように強制された。
一応、足さばきと防衛用の剣技を教えた。まあ、二週間じゃそんなもんだ。
相手はレベル5の剣士だ。身長は百八十cmくらいか、ごつい男だ。マリーは今まで勝った事が無いと言っていた。
今日は準々決勝の四試合が行われる。マリーの試合は一試合目だ。早く終わるのでアキラさんの所に行けそうだ。
試合会場は一回戦に比べると見物客も多く賑わっていた。
マリーは選手控室に行くのに俺に挨拶に来た。
「では行ってきます」
「相手をよく見て下さい」
マリーは無言で頷くとくるりと回って控室に向かった。
第一試合の選手両名が呼び出される。
マリーは試合用の鎧を着けている。試合用の鎧は、革に薄い鉄を貼ったものを体の前面に着ける。後ろから襲われることは無いからだ。鎧を着けないと、いかに試合用の剣とは言え、レベル5とかが叩くのでケガをする。
「始め!」の掛け声で試合が始まる。
レベル5が上背を利用して、連続で上段からの攻撃を掛けてくる。
マリーは正面から受けずに、相手の力を逃がすように左右に逸らす。
練習通り出来てる。
しかし、男女の筋力差でマリーは攻撃に移れない。
頭に乗ったレベル5がついつい大降りになっていく。チャンスだ。
相手の攻撃を剣の腹で大きく逸らし、少しつんのめった形になったレベル5の頭をマリーが叩く。
「勝者!マルガリーテ=ヴァルムヘルム!」
マリーは両手を上げて見物客からの声援に応えている。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はコトネに懐かしい客が来ます。




