8-1 その日の為に
ご愛読、ありがとうございます。
今回は大災厄に向け準備を始める人々。
侵攻を開始するオリンポスです。
夏休みを利用したレオン達の戦闘訓練は終わった。そして学園生活に戻って行った。
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アキラの店 工場地下
四人の男が人一人が入れるような四角い箱のような物を囲んでいた。
「なるほど、そうやって魔導エンジンの出力を安定させるのか」
「六連キャブレターにして個々の魔力の流量を調律するとは恐れ入った」
「さすがですね。それは昔取った杵柄と言う奴ですか?」
「今の日本じゃこんな仕事はないから面白いよ。なんでもコンピュータ頼りになっちまってるからな」
キラとコニンとアキラがマサユキの仕事を感心して見ている。
実はアキラ達は前から大災厄用の兵器の開発に取り組んでいた。
エンジンをコンパクト高回転にするためV型6魔筒にしたのだが魔筒ごとの出力が安定せずに悩んでいた。そこに現れたのがマサユキで、あっという間に解決したのだ。
「ですがまだまだ課題はたくさんあります。シールドバリア・DB砲・空力装置・アビオニクスなどですね」
アキラは指折り数えた。
「設計はしたぞ」
キラが胸を張る。
「そうですね。必要な材料も錬成しました」
アキラが言う。
「図面通り試作したぞ」
コニンも言う。
「まともに動かねえじゃねえか!」
マサユキが怒る。
「まあ、一つずつ詰めて行きましょう。エンジンは安定したんだから、少しは楽になるでしょう」
アキラがそう言うと三人が大きなため息を吐いた。
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ハイデルブルグ学園 レオン達の教室 <レオン>
久々に集まった生徒たちは始業式が終わった後、教室に戻ってきた。
「レオン、貴様どこに行っておったのじゃ。何回か寮に使いをやったがいつも留守じゃ」
フェリ様は席に着くや否や俺にそう言った。朝は他の生徒の挨拶を受けていたから話せなかったのだろう。
「訓練に行くと申し上げていましたよね」
「ルシーダも帰省するし、暇だったのじゃ」
「私も言ってた」
ルシーダも席に着くと返した。
「今度から長期の休みはワシに付き合うのじゃ」
長い休みでわがままになったのかな。
「フェリ様、私はあれに備えて準備をしなければなりません。帝国はどう対応されてますか?こないだの近衛の体たらくだと心配なんですが」
「私も思う」
フェリ様は俺とルシーダに責められると顔を伏せた。
「ワシも父上に苦言を呈したのだがもう一つ反応が良くない」
「陛下は軍事が苦手と伺いました。誰か頼れる方はいないのですか」
いくら俺達が準備しても帝国があの調子では困るのだ。
遺跡の帰りにオリンポスに襲撃された時、近衛は軍としてバラバラだった。士官が未熟すぎる。
「ワシが初代様に指揮を任されたと言っても誰も信じないのじゃ」
ああ、まだキラの事を初代様だと思ってるんだ。
「元帥いる」
ルシーダが口をはさむ。
その時先生が入室したため話は中断された。
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エドゥアルト王国 王城
王の執務室で男が男の頭を掴んで持ち上げている。
そこに少女がきらびやかなドレスを着た女性を引っ張ってきた。
「アポロン兄上、お姫様捕まえたよぉ。」
「フ、フローラ!」
持ち上げられた男が女性を見る。もちろん頭を掴まれているので目だけで見た。
「陛下!」
女性も応える。まだ十代であろう女性は涙に濡れていた。
「アテナ、まだ来なくていいと言っただろ。仕方ない、他の王族はどうした?」
「ヘスティアに任せたから、もう生きてないと思うけど」
「確認して置け」
「了解!、で、この女はどうするの?」
女性はビクッと体を固くする。
「フローラはまだこの国に来たばかりだ。許してやってくれ」
持ち上げられた男は女性の助命嘆願をする。
「心配するな。この女は殺さんよ。妊娠していないことが解ったら、ヴァイヤール王国に帰してやる」
この女性はエリーゼが話題にしていた第六王女だ。彼女を殺すとヴァイヤール王国に開戦の大義を与えることになる。まだヴァイヤール王国に、いや、イエーガー家を敵に回すことは許されていない。
「じゃあ、月のものが来るまで監禁して置くね」
アテナは女性を連れて行った。
「なぜだ。なぜ金字教を国教とした我が国に侵攻したのだ」
「期日までに教皇猊下に返答しなかったからに決まっているだろ」
部屋の窓からあちこちに煙が上がっているのが見える。
「我が国は猊下に逆らったことはないのにあんまりではないか!」
エドゥアルト王の言葉は無視された。
「しかし、この国の軍隊は脆弱過ぎるな。ここまで来るのに半日しか掛からなかったぞ。アテナも苦労するだろうな」
この日、アポロンは聖金字教国との国境を朝一番に越境、迎え撃つエドゥアルト王国軍を蹴散らして昼前に王城を下したのである。
そしてアテナはここ国の軍隊を使って侵攻を手伝うことになっている。
「頼む、これ以上国民を殺さないでくれ」
「ふん、これからお前の国は俺達の侵攻にかかる費用を負担することになる。死なぬ程度にはしてやるから安心しろ」
アポロンがビュッと元国王ごと腕を振ると、彼の体は窓を破って外に飛んで行った。
「おっと、あまり詰まらんことを言うから捨ててしまったではないか。おい、お前止めを刺してこい」
入り口に居た兵士に指示をした。振り回した時に首の骨が折れる感触が有ったので、生きてはいまいとは思っていた。
半月後、フローラ姫はヴァイヤール王国に送り返された。
ハーヴェル諸国連合 連合事務所
アーレスと壮年の男が話している。
「面白くもねえ。ここの連中、国を奪われた実感がねえのかな」
「仕方あるまい。諸王達はアフロディーテに骨抜きにされてるからな」
そこへヘルメスがやってくる。
「ポセイドン、これが今の諸国連合軍の内容だ」
「うむ、ご苦労」
紙の束を受け取る。
紙を見ながらポセイドンはヘルメスに聞く。
「それで練度はどうだ?」
「まあ、バルドゥオール王国位ならあんた達が居れば、何とでもなるんじゃないか」
「でもバルドゥオール王国って帝国の属国じゃなかったっけ」
アーレスは少し心配そうに言う。
「お前達も見ただろう。花形と言われる近衛でさえ、あの体たらくだ。お前もイエーガーの三男坊が、出て来なければ怖くないだろう」
「ば、馬鹿野郎!誰が怖がったんだよ!」
「分かった、分かった。とにかくヘルメスよ、兵は俺が何とかする。お前は出来るだけ兵站を途切れないようにしてくれ」
煽ったアーレスを宥め、ヘルメスに指示するポセイドン。
「任せろ。兵器はヘパイストスが来てくれるからアポロンの分も大丈夫だろう」
「アーレス、お前もそろそろ人を使うことを覚えた方が良い。千人位受け持つか?」
「無理無理、俺達は遊軍として使ってくれよ」
アーレスの向上心の無さに呆れるポセイドン。
「仕方の無い奴だな。男なら将軍くらいにはなって見ろ」
「ダメダメ、ヘスティアと俺は強いだけだからさ」
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ハイデルブルグ学園 学生寮 談話室 <レオン>
俺達は久しぶりの訓練を終えて、フェリ様の要望で談話室を借りた。
「フェリ様、さぼってましたね。上達が見られませんでした」
フェリ様は気功も剣術も上達が見られなかったので苦言を呈して置く。
「そ、それは仕方が無いのじゃ。襲撃事件の影響で行動は制限されるし、ルシーダもいないから・・・」
俺はため息を吐いた。
「ジーク様は上達されてましたよ」
フフンと姉を見下すジーク様。
「ウウ」
フェリ様は悔し気に顔を伏せた。
「コトネはどう思う」
一緒に居る時間の長い同級生のコトネにジークの事を聞いてみる。
「そうですね。一年生の成績では負けましたが二年生では負けません」
コトネは一年生の試験でジーク様に僅差で負けたらしい。負けず嫌いなのか、リベンジに闘志を燃やしてるらしい。
ジーク様は意識して貰うのが嬉しいのかニコニコしてるな。
「ところで襲撃事件は何か分かりましたか」
夏休み中は連絡を取っていなかったので俺は進展を知らない。
「それなんじゃが、こちらが追い掛けた時には、奴らはハーヴェル諸国連合の国境を脱して居った。アイスレーベンに拠点があったことは解っておるのじゃが、調べた時にはもぬけの殻じゃ」
「それでハーヴェル諸国連合には調べて貰っているのですか?」
「諸国連合は政治的に我が国とは、国交はあるものの仲はあまり良くないのじゃ。本気では調べて居らぬじゃろう」
じゃあ、何にも分らなかったのか。帝国の平和ボケ極まれりだな。サラリーマン化している軍隊にシュバルツバッハ辺境伯のようなことは期待できんな。
「とにかく軍を強化しないと我々が大災厄に備えても無益になります。この間の事もありますし」
俺はフェリ様に苦情をぶつける。
「何の話じゃ?」
フェリ様には分からないらしい。
「姉上、レオン殿が言いたいのは軍隊が弱体化していると言うことです。襲撃の件も現場の者が素早く動いておれば犯人を逃がすことも無く、軍が強ければ諸国連合に舐められることもない」
ジーク様が正鵠を射る。なかなか前途有望だな。
「学園でルシーダが言った元帥とはどういう方ですか?」
「名前はマキシミリアン=オステンドルフ、今は六十歳位じゃ、三十年前の災厄の際に活躍して元帥の位についてるのじゃ」
ルシーダに代わりフェリ様が答えてくれた。
「戦後も戦時体制を解かなかったので、各所から突き上げを食らって、今や元帥も名誉職に過ぎん」
「でも父上が頼めば、動いて頂けると思うのですが」
「どうかな?もう枯れておるのではないか?」
元帥についてジーク様は期待しているが、フェリ様は諦めているみたいだ。
「私はその元帥が有用なのか、今から軍の刷新が図れるのかは判りません。しかし、このままでは帝国は滅びる可能性もあります。とにかく早急に軍の立て直しを上申してください」
大災厄は多方面での作戦を考えなければならず、俺達だけではとてもじゃないが手が足りない。
「解りました。元帥はとにかく、陛下にその件は必ず上申して、早急に軍の刷新を図ります。姉上も協力してください」
「うむ、国を失っては本末転倒、必ずや軍の目を覚ませて見せよう」
この姉弟に任せれば良いか。俺達を使えるような将軍であれば良いがな。まあ、出来なければ勝手に戦うだけだ。
「しかし、ジークよ。お前、コトネの前だと出来る男アピールがすごいのう」
「当然です。俺はコトネに尊敬される男になるんですから」
「ふん、負けるもんか」
まあ、その調子で皇帝を動かしておくれよ。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。




