7-8 夏休みの終わりに
ご愛読、ありがとうございます。
今回は夏休みの仕上げです。
夏休みを利用してコトネの魔法ビーストグローを他の獣人で利用することを考えたレオン達、ジェリルに続いて神狼族の少女四人も訓練に参加していた。レオンは彼女らの急激な戦闘力の向上にこのまま大災厄の戦力にしてしまおうと考えていた。
アキラの店 <アンナ>
私は神狼族の新人四人を集めて聞いた。
「あんた達、レオン様にラッキースケベを仕掛けてるわね」
「え、何のこと?」
「そんなあー」
「ないない」
「してないよ」
言葉とは裏腹に顔を赤くして冷汗をかく四人。
この間の風呂からパンツ一丁でレオン様の目の前に出た事や胸を腕に押し付けたり、不自然にスカートが捲れたり、躓いて抱き付いたり、あざとい逆セクハラを仕掛けているみたい。
天が許してもこのアンナさんは許さないんだから。
「あんた達、レオン様のお妾さんでも目指してるのかな?」
「だってねえ。レオン様ってヴァイヤール王国に帰ったら伯爵様になるんでしょう」
「アタイら獣人だから夫人は無理でしょう」
「神狼族は強い男の嫁になるのが女の幸せなんだ」
「貴族様なら妾の五人や十人居ても不思議じゃないし」
こいつら、自分達の野望を隠そうともしてないな。
「はあ」
私は頭を抱えた。
「レオン様はね、その伯爵様にならないために帝国に来てるの」
「そんな馬鹿な!」
「皆、貴族になりたいんじゃないの?」
「別に貴族様でなくてもいい!」
「そうだよ。レオン様ならみんな幸せにしてくれるよ」
ぐぐぐっ、おのれー、諦めないか?お姉ちゃんが悪いんだ。早くレオン様を捕まえないから。
「あんたら、神狼族にも良い男は居るでしょ。同族の方が良いんじゃない?」
「神狼族の男なんて弱いし」
「子供だよねー」
「乱暴だし」
「不細工だよねー」
あ、お姉ちゃんが部屋に入って来た。
「お姉ちゃん!こいつらがレオン様の妾を狙って逆セクハラしてるんだよ。怒ってやってよ」
「うん、あまりレオン様を困らせないでね」
お姉ちゃんが振り返ってニコッと笑う。いや、口角は上がってるけど目が笑ってない。
素直に怖い。部屋の温度が十度くらい下がった気がする。
四人共震えてるみたいだ。まだ実力に随分差があるからなあ。
「「「「はい、もう、しません!!」」」」
直立不動の姿勢で返事をした。
私は・・・・少しちびったみたいだ。
始業式の二日前の夕方、街の居酒屋 <レオン>
長かった夏休みももう終わりだ。ここでコトネの進級祝いと訓練の打ち上げをすることにした。
コトネは飛び級の試験に合格して、初等部二年生に進級した。
帝国に飲酒の年齢制限はないが、俺自身と従者には俺が学生の間飲酒を禁止している。だから俺達の前にはジュースが置かれている。
禁酒の理由は俺は起きている間は意識をはっきりさせておきたいと思っている。従者もまだ体も出来ていないので飲まない方が良いかなという漠然とした理由だ。
個室に長い机を二つ合わせた席に俺・コトネ・アンナ・アキラさん・シャラ・コニンさん・カリシュさん・ツーレク・レイニャ・サクラ・マサユキさん・ジェリル・ノア・ナル・ハビ・ロッケ・それにゾフィーさん計十七人が集まってくれた。机の上には大皿に盛ったごちそうといろいろな酒が用意された。
ブラウニー達、精霊達は飲み食いが出来ないので、正体がバレる危険があるので申し訳ないが遠慮して貰った。
飲み物が行き渡ったようなので俺は立ち上がった。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今日はコトネの進級祝いと訓練の打ち上げの席を設けさせていただきました。お手元に飲み物は在りますか?」
皆から大丈夫な旨の返事を貰い、ジュースのコップを持ち上げた。
「それではコトネの進級と訓練の打ち上げにカンパーイっ!!」
俺の掛け声で皆が杯を掲げる。
「カンパーイ!!」×17
隣同士での乾杯が一段落したので、次に移ろう。
「では無事飛び級に成功したコトネに感想や抱負を語って貰いましょう」
俺は座り、コトネが立ち上がった。少し緊張しているようだ。
皆が静かになりコトネの言葉に集中した。
「私はこんな多くの人に私のしたことを祝ってもらうと言う経験は生まれて初めてです。皆さんありがとうございます。
私は物心ついた時にはすでに孤児でした。それから村の魔獣退治の依頼金と相殺する形で売られました。
でも私を貰ってくれた人は私を厳しく育ててくれました。
お陰でレオン様の従者として生きていくことが、出来るようになりました。帝国に来て学校で学ぶ機会も与えて頂いた以上、レオン様に恥ずかしい思いをさせる訳には参りません。この後本年度で初等部を卒業したいと思います。
私がここまで来れたのはこれまでに会った人達の好意や励ましのお陰だと思います。本当にありがとうございます。これからも・・よろしく・・お願い・・します」
皆が拍手で祝福してくれる。コトネは口を押えて嗚咽をこらえるが、涙はとうとうと流れている。
最後は感極まって泣いちゃった。俺も父兼兄として目頭が熱くなったよ。
ふと横に居るアンナを見るとこの子も貰い泣きしてるよ。感受性が強いんだな。
俺も大きくなってから大勢の親しい人達と過ごしたことが無かったので、この一か月は良い経験だった。
さて今度はジェリルのスピーチだ。あれ、ジェリルさん・・・。机に突っ伏して寝てる?
「ジェリルはどうしたの?」
ジェリルの隣に座る新加入の四人組のリーダー格のノアに聞いてみる。
「済みません、ワインを一杯飲んだら寝ちゃって」
「起きないの?」
「さっきから揺すってはいるんですけど、起きないんです」
「お酒弱いの?」
「私達の村ではあまりお酒自体が無くって、飲んだところを見たことがありません」
仕方ないか・・・・。
「じゃあノアが代わりにスピーチしてよ」
「ええ?」
ノアの顔つきが変わる。先ほどまで優しくジェリルを起こしていたのが、バシッと大きな音を立ててたたき出した。
「起きろお!!、痛い!」
「どうした」
「ジェリルさん、硬気功を使ってるみたいです」
叩いた手を痛そうに振った。寝ながら硬気功を使うだと・・そういうことか。
「ノア、諦めてスピーチしよう。なに、十二歳のコトネが出来たんだ、十四歳の君が出来ない訳が無い」
「わ、分かりました」
俺は立ち上がってノアを紹介する。
「それではノアさんに訓練の感想と抱負を語って頂きましょう」
ノアが俯きながら立ち上がる。
「えーと、神狼族のノアです。私達はジェリルさんに誘われてここに来ました。始めは実験だと言われてたんですけど、どんどん自分が強くなっていくのを実感できました。
神狼族の誰かの嫁か妾としてしか生きる価値の無かった私達には、自分達が選べる生きる道が出来たことが嬉しかったです。
訓練はこれから週に一回になるのですが、空いた日は店員として働き、御給金を貰えるようになるし、ここの生活は里では考えられないような快適なものです。
それに強くなって私達獣人が皆さんの役に立つのだと言うことを皆に見て貰いたいです。
済みません。急に振られたのでうまくまとめられませんでした」
「そんなことはない。見事だったぞ!」
皆が拍手する中でジェリルが褒める。お前、最後まで寝たふりしてろよ。
「ジェリルさん起きてたんですね!?」
「あ、」
今頃、気付くなよ。ノアに叩かれまくってる。
「硬気功って便利だな。全然痛くないぞ」
言わなきゃいいのに。ノアが涙目になってるぞ。
俺は再度立ち上がり、皆に言った。
「さあ、皆さん、飲んで、食べてください」
宴会のスタートだ。
さっきまでジェリルに突っかかっていたノアが、一心不乱に肉の皿に向かっている。
彼女たちは里ではまず肉が食べられなかった。たまに近くの山で獲れる猪や鹿、飼っていて年老いた牛やヤギや羊を肉として食べることはあっても、順位の低い彼女たちの口に入ることはなかったそうだ。
一方ジェリルの肉体は族長の家に育ったのと兄達を負かして順位を上げたのとで、肉を食う機会に恵まれたことで形成できた。しかしそれによって兄達からは僻まれていたので早々に里を追い出された。
それでも傭兵になったジェリルは族長家が稼ぐ金額以上の現金を仕送りしてるので、里での発言権は高い。ノア達を連れてくるのに抵抗が少なかったのはこの件もある。
「ジェリルさん、里から連れ出してくれて、本当にありがとうございます」
両手に骨付き肉を持ったロッケが感極まって礼を言う。
「おお、食え食え!食ってアタイみたいにムキムキに成れ!」
「そ、それは嫌かな」
ナルがボソッと言ったのを俺は聞き逃さなかった。
宴は進み、コニンさん達が居酒屋の在庫を飲み干すとか、アンナが内緒でワインを飲んで酔っ払うとか、マサユキさんが酔いつぶれるとか、シャラが泣き上戸だったとか楽しいこと?がたくさんあったが、楽しい時間は永遠に続く訳ではない。
「はい、皆さーん、宴会は終わりです。準備してください」
残り物を袋に詰めているゾフィーさんが俺に言う。
「子供と旦那にちょっと貰ってくよ」
「これも持って行って下さい」
ワインとお菓子を入れた袋を渡す。
「良いの?ありがとうね」
喜んで家族の待つ家に帰って行った。
足元が危ない人が居るので、ノルンに幌馬車を用意して貰った。
驚いたのは今日の酒の半分以上を飲んだコニンさん一家が、しっかりした足取りで歩いて帰ったことだ。ドワーフってすごいのかコニンさん達がすごいのか?
俺は会計をしないといけないので残ったのだが、コトネと背負われたアンナが残っていた。
店員さんが現れ、申し訳なさそうにヘコヘコしながら紙を差し出した。
それには今日の代金と内訳が書いてあるのだが・・・。
「金貨六枚と大銀貨三枚・・・・・・・」
俺の思いとしては一人大銀貨一枚くらいで、金貨二枚で収まると思ってたんだが。
内訳におかしなところはない。というかなにこの酒の量、しかも高級酒が・・・・。
ふと見るとコニンさんが座っていた所を中心に高級酒の空きビンが大量に並べられている。
こんな大衆酒場でこんな金額が、信じられない思いで払いました。店員もいつもの金額ではないので、恐縮したのだろう。
今度からは酒抜きでやらないとなと思いましたよ。
「コトネ、替わるよ」
酔っ払って寝てしまったアンナを俺が背負い、アキラの店に歩いて帰る。
「後で叱っておきます。アンナったらもう」
「いいよ。アンナも嬉しかったんだろ。明日は学校の寮に帰らなきゃいけないから忙しいぞ」
「はい」
コトネは俺の腕を掴んだ状態で歩き出した。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
7章はこれで終わります
次章は新学期とオリンポスの侵攻に巻き込まれるレオン達の予定です。




