7-6 オリンポスの野望
ご愛読、ありがとうございます。
今回はオリンポスのお話しです。
レオン達は夏休みを利用して自分達の力の増強を図っていた。そのころオリンポスは西大陸制覇の野望を掲げていた。
聖金字教国 聖都ヤヌウニ オリンポス本部 ヘパイストスの仕事部屋
その建物は聖金字教本部の裏手にあって、教会の最深部を通り抜けないと入れないので、一般人は入れないようになっていた。
そこへフェリ達への襲撃に失敗したアーレス達が帰ってきた。襲撃から三週間後の事である。
アーレスは他の者と別れてヘパイストスの部屋を目指した。
ヘパイストスは十二神の一人で鍛冶屋をやってる変わり者のおっさんだ。
アーレスが部屋に入るとヘパイストスは珍しく一人で机に座ってボーっとしていた。
「おっさん、俺の話を聞いてくれ」
アーレスはヘパイストスの向かいに座った。
「おまえ、また失敗したんだってな」
ヘパイストスは抑揚も無くそう言った。アーレスは思わずグッと息がつまる。
「そうなんだ。またレベル1に勝てなかったんだ」
「ふーん、それで俺に何の用だ?」
「いや、ちょっと話を聞いて欲しいんだ」
ヘパイストスは煙草を取出し、銜えるとファイアの魔法で火をつけた。
「ちょうど俺は休憩中だ。小一時間ぐらいなら構わねえぞ」
フーッと煙を吐き出す。
「すまねえ。恩に着るよ。
実は前回引き分けた時は奴の攻撃が、たまたま当たっただけだと思ったんだ。けど今回はあいつは俺に手加減してたんだ」
ヘパイストスはその細い目を開いた。
「レベル6のお前にレベル1が手加減だと。気のせいじゃないのか」
「俺はどうしたら良いか分からなくなった。新しい技も開発して自信があったんだ。でも勝てなかった」
「アルテミスに頼んでみるか?」
「いや、俺は前にレベルを上げて貰ってるから、もう上がらないんだ。それに勝てないのはレベルのせいじゃない」
アーレスは頭を抱える。
ヘパイストスはまた煙を吐き出した。
「それでどうしたいんだ?」
「俺は強くなりたいんだ。でもその方法が解らないんだ」
「そのレベル1は何で強いのか分かってるのか?」
「ヘルメスの集めた話じゃ特に師匠がいる風じゃない。仲間内で練習してるぐらいらしい」
「自分達だけで・・前からだと4カ月か・・お前を追い越して行ったのか・・」
ヘパイストスは遠い目をする。何か思い出しているようだ。
「アーレスよ。おまえとそいつでは生まれ持った才能が違い過ぎる。そいつを避けて戦うしかあるまい。
俺は昔、ドワーフの伝説の鍛冶師ラドム師に弟子入りしたことがある。
俺は何年か修行して師に一人前だと認めて貰った。人族では初めてだった。
俺は有頂天だった。俺は人の世界で唯一のラドム師の認めた鍛冶師として華々しく凱旋できると。
あいつの製品を見るまではな。あいつの打った剣を見た時に腕の差が歴然としていた。
しかも師はそいつを一人前とは認めていなかったんだ。
師に聞いたよ。なぜだと。師は言った。お前は限界だが、あいつはまだまだ伸びると。
それから俺はあいつコニンとの勝負を避けてこんなところに居る」
「戦う才能ってレベルじゃないのかよぉ」
アーレスは悔しいのか涙を溜めていた。
「俺には戦いの事は解らん。しかしその男の尋常じゃない才能は解る。もし、強くなりたかったらそいつかそいつの師匠に頼むんじゃな」
その時人が部屋に入って来た。
「師匠、そろそろ続きをやりましょう」
ヘパイストスの弟子が休憩の終わりを告げた。
「ゼウス様も人使いが荒い。一体どれだけ武器を作ればいいのか」
そう言えば鍛冶場にとんでもない量の剣や槍の穂先などが置いてある。
「外に頼めばいいじゃないか」
アーレスは不思議に思った。
「戦の用意を外に知られないようにじゃよ」
「では、やるのか」
「ああ、最初はハーヴェル諸国連合らしい」
「それでヘルメスまで呼ばれたのか」
アーレスは変な汗が流れた。俺達が西大陸を戦乱の渦に巻き込むのか。
教皇謁見室
今日は飾りのない半球形の白い帽子を被った教皇の前にアルテミスが跪いた。
「猊下、聖騎士及び金字軍の強化が完了いたしました」
「うむ、アルテミス、よくやってくれた。続いてアフロディーテ」
老人とは言えないがしわの多い教皇は大きく首肯して褒めた。そして顔を上げるとその名の幹部を呼んだ。
この場に似合わない露出の多い赤いドレスを着た金髪の美しい女性が跪いた。
「はい猊下、ハーヴェル諸国連合の王たちはすべて私の操り人形となりました。諸国連合軍と物資は使い放題で御座います」
「流石だ。アフロディーテご苦労であった。続いてポセイドン、諸国連合軍を整備し、それを率いてバルドゥール王国を攻め取れ。ヘルメス、諸国連合の麦一粒も残さず徴収してポセイドンを支えよ。尚、ポセイドンには副官としてアーレスを付ける」
金色のフルプレートメイルを着た身長二mの大男とヘルメスとアーレスが進み出て、跪く。
「「勅命、わが命に代えても実現いたします」」
次はアポロンが呼ばれる。
アポロンが前に出て跪く。二十台前半の金髪チョイマッチョのイケメンだ。
「今、エドゥアルト王国には無理難題を突き付けてある。明日が期限だが返答はあるまい。聖騎士・金字軍を率いて滅ぼせ」
「お言葉ですが、エドゥアルト王国は金字教を国教としております。よろしいのですか?」
アポロンは呆れたように問い返す。
「構わん。無理難題が聞けぬようなら邪魔にしかならぬ」
「私はヴァイヤール王国に攻め入りたいと思います」
「ヴァイヤールは最後だ。西大陸で集めた全兵力で攻め入る。イエーガーを侮ってはならぬ」
「はい」
アポロンは教皇の身内らしい、逆らった発言をしても許される立場ということだ。
「アテナ、前へ」
「はい」
教皇の前に若い、まだ十代であろう女性が跪く。黒い髪、凛とした顔、アルテミスと同じローブ姿だ。彼女もまた教皇の身内だと言う噂だ。
「お前にはエドゥアルト王国軍を再編して訓練後、戦いに出て貰う。よってデメテルとヘスティアを副官として付ける。進軍先は追って指示する」
デメテルとヘスティアが出て来てアテナの後ろに並ぶ。
「はい」
「ヘパイストス、前へ」
ヘパイストスは跪く。
「ヘパイストス、お前はハーヴェル侵略後、そこに一大生産拠点を築き、ヘルメスと共に兵站を確立せよ」
「ははっ」
首肯した。
「次、ハデス、前へ」
部屋の中がざわめいた。誰一人としてハデスの名を知らなかったのだ。
いつの間にか現れた長身なのだが足元まで届くような黒いコートを着た男が進み出る。
男は真ん中で分けた長い黒髪を左右に振分け、青白い中年顔を曝し、跪いた。
「お前は各々の部隊間、本部の情報を司り、わしに伝えよ。」
また部屋の中がざわめく。
この戦争ではあらゆる情報がこの男を通さないと教皇に届かないことにならないか。その疑惑である。
「はい、あらゆる情報を管理し、正確かつ迅速に猊下にお届けすると誓います」
黒ずくめの男は頭を下げた。
アポロンの執務室
机の対面にアポロンとアテナが座っていた。
「お兄様、この戦争に正義はあるのでしょうか?」
アテナは紅潮させた頬を震わせアポロンに縋る。
「ここではお前の兄ではない。間違うな。この戦争は大災厄を前に共闘しようともしない国々をまとめて反抗することにあるのだ」
「しかし、金字教を国教とする国々まで、巻き込むなどひどくはありませんか」
「よく考えろ!奴らに悪魔に備えることが出来るか?いや出来ん!父上はこれまで努力なさってきたのだ」
アポロンは教皇の考えを認めているようだ。
「ヘラの失踪で計画は大幅に遅れている。もう一年半しか我々には時間が無いのだ。
西大陸を平定して、平和に慣れ切った愚者共を戦場に送り込まねばならぬのだ。非情と言われようがだ」
「分かりました我々が行動するしかないのですね」
アテナは決意を新たにして自己の任務に思いを馳せるのだった。
ヘパイストスの仕事部屋
「おっさん、ハデスって野郎知ってたか?」
また、休憩中のヘパイストスの所にアーレスが来ていた。
「初めて見た。噂は聞いてたけどな」
煙草をふかしながら顎髭をしごく。
「ヘラが行方不明になってただろ。その後釜を探してるとか噂はあった。お前は本部に殆どいなかったから知らなくても無理はない」
「ヘラはどうなったんだ」
アーレスは机の上に両手を置き、その上に顎を乗せている。
「詳しくは知らんが単独でヴァイヤール王国に攻め入る計画を立ててて、あと少しまで行ったらしいがその後は知らん」
「あの女、教皇と噂があったが本当か?」
「知らん、興味もない」
「あーあ、いよいよ戦争か」
「お前さんも失敗続きだ。ここらで頑張らんと見捨てられるぞ」
つまら無さそうにぼやくアーレスにヘパイストスはからかうように言う。
「やめてくれよ。ここを追い出されたら、元の何にもないレベル3に戻っちまう」
「はははは、それもいいかもな」
「まあ、アポロンやアテナの所じゃないから頑張れるよ」
「あいつらはきらいか?」
アーレスはがバット起き上がって力説した。
「嫌いとかじゃねえんだよ。あいつらは、あいつらの強さは人間じゃねえんだ」
「そんなに強いのか?」
「ああ、西大陸征服じゃなくて虐殺なら二人で足りるくらいだ」
またアーレスは机に突っ伏した。
教皇執務室
教皇とアルテミスが机に向かい合って座っていた。
「ジュリアは惜しい事をしたな」
「他の聖女も揃いましたから聖騎士と金字軍なら、ジュリアがいなくてもどうということはありません」
アルテミスの強化は聖女の力が関わっているらしい。
「あのキャミールとか言う奴が、馬鹿なことをしたことで、本来なら一万人は強化できたはずが・・・」
ジュリアの力の大きさを教皇は強調するが、アルテミスは教皇の言葉を遮り自信をもって話した。
「ゼウス様、ようやく最低限の準備が整いました。我々にお任せください」
「そうだな。西大陸を平定し、大災厄に備えるのだ。頼むぞ」
金字教の教皇はオリンポスのゼウスだった。彼らは彼らの正義を標榜し、戦いを開始するのだった。
レオン達はどのように巻き込まれていくのであろうか。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はレオン達の訓練の仕上げの予定です。




