6-9 帝都帰着(2)
ご愛読、ありがとうございます。
今回は前回の続きで帝都へ帰った人たちの様子です。
アイスレーベン某所 <ヘルメス>
襲撃軍をまとめた俺は、このままアイスレーベンに戻るのは危険と判断して、進路を途中で曲げ人目の付かない場所に避難させた。
生き残った人間に大けがを負った者が居なかっただけでもましか。
しかしあのアーレスが負けて、あんなにも落ち込むとは思っても見なかったな。
戦った七人とデメテルは敵に顔を見られてるので、本部に返した。まだ国境封鎖はされてないらしい。近衛の平和ボケのお陰で、騒ぎにならずに脱出できるだろう。
その日の夕方、俺達はアイスレーベンに帰ってきた。
「ヘルメス様」
遺跡を見張らせていた部下が戻ってきていた。
俺は執務用の机に戻る。
「何かあったか?」
「はい、一人残ったギュンター博士を見張っていたのですが、どうも皇女は手ぶらで戻ったらしいです」
それが本当ならなんてこったである。宝珠も無いのに襲撃させたことになる。
ゼウス様からは宝珠は何としても手に入れるように指示されているが・・・。
「それは確実なのか?」
「はい、皇女は遺跡で危ない目に会ったらしく、それが撤退の原因らしいです」
くそ、ゼウス様に報告できんぞ。
「で、何も出なかったことの裏付けは」
「はい、ギュンター博士の話を聞く限り手ぶらで帰って来たと言ってます。あの博士なら発掘品があったなら、自身も付いて行くと思われます」
なるほど考古学者が発掘品を放って置く訳はないか。
あーもう、ゼウス様にどう報告すれば良いんだよぉ。
ああ、もうここは危険だな。雇った傭兵たちはここを知っているからな。さっさと撤収しよう。
アキラの店食堂兼会議室 <レオン>
その日の夜、ようやく帝城から解放された俺は、アキラさんの所に来ていた。
ジェリルとコトネの要望で夏休み中に二人と訓練をする約束をしたからだ。それには寮よりこちらの方が都合が良い。
「アキラさん、サクラ、ノルン、ありがとうございました」
「いやいや、そんな畏まらなくても仲間だろ」
「何でも言って下さいね。私に出来ることならお手伝いさせてください」
「ご主人、私は従者だ。礼は不要にして欲しい」
俺が三人に礼を言うと気持ち良く返してくれた。
「これから一か月ここでお世話になります。なんか、ジェリルも住み着いたみたいで済みません」
「彼女は用心棒をしてくれて助かってるよ」
「そうだぞ。アタイは宿泊費を払うと言ってるのに、受け取って貰えないのだ」
仕方ないのだと自分勝手に納得するジェリル。
「商売は順調だし、気にしなくて良いよ」
相変わらずアキラさんは太っ腹だ。
そう言えば最近サクラと話してないな。
金字教の聖女候補生だった彼女が教義に疑問を持ってしまったので破門され、金持ちの妾として売られそうになっていたのを逃がしてここへ連れて来た。もうここの暮らしに慣れただろうか。
「サクラは最近どうだ。慣れたか?」
サクラは魅力的な笑顔になった
「はい、先生に霊力による治療を習っています。本当にここに連れてきて貰って感謝してます」
「それなら良いけど。でも友達とかはできたか?」
「まだ外は怖くて・・でもジェリルさんとお友達になりました」
そういやジェリルも同い年だった。あいつは態度がでかくて年上にしか思えないのだが。
談笑しているとコニンさんがやってきた。
「あの鎧だが、材料は普通の鋼だが魔法が付与してあるみたいだ」
俺の顔を見るなりそう話し始めた。やはり普通の鎧ではなかったか。
「対応策はあるのでしょうか?」
「さあな、すまんがそっち方面は疎いんだ」
コニンさんは頭を掻きながら謝る。
「それだな。俺も大災厄に備えて武器を作ろうと思ってるけど、そこらが弱い訳よ」
アキラさんも頭を抱える。
それは課題としてドラゴンの魔石も渡したし、何とか専門家を探さないといけない。でも今までにない事だから専門家がいるのかも解らないんだ。
大災厄までの残り時間は一年半しかないんだ。
アキラの家客間 <レオン>
その日の夜はアンナの要望で久しぶりにコトネと三人で同じ部屋で寝ることになった。
いつの間にか増やされた客間は家族用なので三から六人ぐらいまで宿泊できるようになっている。
二十畳ぐらいの広さにベッドが四つ、六人掛けの応接セットが一つ置かれていた
「昨日と今日は大変だったな。ありがとう」
「ノルンさんじゃないけど、従者に礼は不要にして下さい」
コトネがそう言うとアンナが勢いよく手を上げる。
「はい!!」
「何だい、アンナ」
「私は一所懸命にやったから褒めて欲しいです」
ぴょこんと立って言う。
「よくやってくれた。ありがとう」
俺は狐の大きな耳の有る頭を優しく撫でる。
「あ、」
コトネがやられたっという顔をして悔しがっている。
「コトネ、お前も来るか?」
俺はコトネの頭を撫でてやろうとした。
「お姉ちゃんは駄目です!」
「なんで私は駄目なの?!!」
アンナはふんぞり返った。
「お姉ちゃんは一所懸命にはやってません」
「私も一所懸命にやったわよ!」
「いいえ、お姉ちゃんは神獣人の力を使いませんでした!」
「そ、それは」
コトネは青ざめる。まさかアンナに言われるとは思ってなかったようだ。
「アンナ、これは俺が認めているから言わないでやってくれ」
俺の言葉にアンナは真剣な顔で言った。
「お姉ちゃんはレオン様に甘えています。従者だったら、いいえ、私達はレオン様に生かされているのだから、せめて、お役に立てる時には、自分の力をすべて出せるようにすべきです」
コトネは俯いたまま顔を上げられない。
「コトネ、お前はお前の思う通りやればいい。アンナもあまり責めてやるな」
「いいえ、私達はレオン様が居なければ、のたれ死んで居ても不思議じゃないのです。ドワーフ国に入る前の山賊に殺された女性の死体、あれはレオン様に捨てられたときの私達です」
いつの間にかアンナの顔は涙でぐしょぐしょだ。近頃明るくなったと思ってたけど、無理をしてたんだ。
まあ、鍛えているから山賊には負けないと思うが、彼女たちはまだまだ保護者が必要だ。
俺が彼女たちの保護者として適任かどうかは解らないが、彼女たちが独り立ちできるまでは責任を持つつもりだ。
「アンナ、大丈夫だ。俺はお前達が独り立ちできるまでは、面倒を見る。安心しろ」
「違うのよ、レオン様が面倒を見てくれるのと、私達がレオン様のために働くのは違うの」
アンナの言いたいことが解るようで分からない。
「アンナ、私が悪かった。私はレオン様に甘えて増長していたんだね。醜く成りたくないから神獣人の力を使わないなんて、レオン様に失礼だよね」
コトネがアンナを抱きしめる。
「お姉ちゃーん!」
アンナもコトネに抱き着く。
二人は熱く感動しているようだが、俺はどういうことなのか実は良く解っていない。
しかし、俺は二人の主人だ。解ったような顔をしておこう。
その時ドアが開いてジェリルが顔を出した。
「おい、コトネ、アンナ、風呂へ行こうぜ」
アキラさんは日本の風習である風呂と言う水浴び施設を作った。ただ浴びるのが湯で、肩まで湯に入るのが慣習らしい。
コトネとアンナが涙ぐんでるのを見たジェリル。
「レオンに何かされたのか!?」
俺は両手を体の前で振った。
「違う、違う」
人を変態扱いしないで欲しい。
風呂へ行く用意をした二人は、ジェリルと一緒にワイワイ言いながら部屋から出て行く。
「知ってるかぁ。体を洗ってから湯に入るんだぞ」
「それくらい知ってるよ」
あいつらも仲良くなったもんだ。さあ、俺も風呂に行くか。
言っておくが風呂は男女別々だからな。
帝城、皇帝の執務室 <フェリ>
皇帝と二人きりで向かい合って座る私。
「何の御用でしょうか?」
皇帝は仕事上の顔を捨てて父親の顔で聞く。
「ふむ、はなはだ遺憾ではあるが、お前はレオンハルトに惹かれて居るな」
少し顔を赤らめるが冷静な感情で答える私。
「はい、仰る通り私はレオンを好ましく思っております」
「お前は本当に母さんに似て恋愛感情を表に出さないな。まあいい、お前はあ奴を繋ぎとめておけるか?」
恋愛感情を表に出さない、そうだろうか?、のじゃ言葉で話している時は結構感情を表に出せるのに。
「恋人としてと仰るなら、今の私では難しいかと思います」
「自信がないか?レオンハルトと言う男はお前が皇帝を望むなら、有望な男だと思うぞ」
なるほどそう来ましたか。
普通に考えるならこの国の有望な男を捕まえた方が良いと思うが、この国の皇帝を選ぶのは帝笏だ。父はレオンが伴侶なら皇帝に選ばれると思っているらしい。
「具体的ではありませんが、私は彼が皇帝の伴侶に納まるような器では無いように感じます」
レオンが今回見せた力は兵数などには換算できないが、将軍くらいは簡単に出来そうな力だ。
しかもまだまだ隠している力は在りそうだ。
「そこまで評価しているのか。確かに今回の襲撃事件で見せた能力は凄まじく高いが・・」
父上にはまだレオンの恐ろしさは見えていない。まあ、まだこの国に居るのだからよく見ればいい。
「父上もレオンを観察していけば良いのです。まだ数年はこの国を拠点にするでしょうから」
「それはその通りなんだが・・お前性格変わってないか?」
うん、どういう意味なのか。
「どう変わったのでしょう?」
父上は額に手をやり、困ったような顔をした。
「一気に大人びたと言うか、そう冷静にされると母さんを見てるみたいでな」
そう言うことか。父の最大の強みで弱点の母上に似て来たから警戒してるのか。
「今回の事はわたしに良い経験を齎した様です」
母上を思い出したのであろう父上の顔には汗が浮き出て来た。
大体、何人もの夫人を侍らして、十何人も子供がいるくせに母上一人に右往左往しているなんて、父上も情けない。
******
某国某所 ゼウスの館
ゼウスは鋭い感じの初老の男である。
ゼウスの執務室に秘書の男が入って来た。
「ヘルメスより連絡です」
魔道具通信の紙がゼウスに手渡される。
魔道具通信とは離れた場所で作った書類をその魔道具に通すと龍脈を通じて、別の場所の相対する魔道具に送る通信装置だ。作れる技術者が少ないので値段がバカ高いし、読み書きできる者が少ないので民間にはほとんど広がっていない。
ゼウスは目を通すとそれを秘書に渡す。
「失敗したようだな。しかし、アーレスやヘスティアを使っても始末できんとは、あの男も大きくなって来たものだ」
「ゼウス様が危惧した通りになってきました」
「宝珠が現れたと思ったのだがそれもまだとはな」
ゼウスは表情を変えない。冷たい表情を貼り付けたままだ。
「いかがなされますか?」
「ヘルメスも呼び戻せ。もう待っては居れん。計画を開始する」
「それでは?」
「うむ、九月に入ったら侵攻を開始する。準備せよ」
ゆったりとしたローブを纏った女性が入って来た。
「アルテミスか」
「はい、時間です。御出座願います。教皇様」
ゼウスは金色に輝く背の高い帽子を被ると、アルテミスと呼ばれた女性の後を追った。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は5,6章の登場人物の紹介になります。




