0-7 三男坊 受験する
中等部の受験です。
9/15 誤字修正しました。
王都で一日を過ごした三人、受験まであと一日となった。
「今日はどうなさるのですか?」
朝食が済んだタイミングでコトネが声を掛けてくる。
「今日は姉さんに貰った初等部の教科書で復習をする」
「レオン様、昨日の夜もやってたじゃないですか。まだやるんですか?」
アンナは構って欲しいのか、朝から俺の周りをうろうろしている。
「5教科三年分だからな。読むだけでも一日がかりだ」
国語・算数・理科・社会・兵科の5教科だ。試験は、それに剣の実技がある。
「アンナ、貴方は読み書きと算数の勉強です」
コトネに言われ、アンナはゲエとか言ってる。
アンナは俺に引き取られてから読み書き、算数、家事をコトネに教わっている。最近は旅をしていたので中断していたようだ。
三人はその日、静かに勉強をした。
次の日、いよいよ試験当日だ。
「忘れ物はありませんか?」
「コトネはお母さんみたいだな。まあ、うちの母は思っていても絶対に言わないけどな」
コトネとアンナに見送られて、ホテルを出ると騎馬の人物が現れる。
「ニコラ兄さん!」
「おう、元気そうだな。今日はお前を学園まで連れて行く」
ニコッと笑う顔がまぶしい。イエーガー家一のイケメンだからな。
「そうなんですか?」
「兄貴たちに”俺もレオンになんかさせろ”って言ったら”送ってやれ”ってさ」
「そうですか。ありがとうございます」
久しぶりに会ったニコラウス兄は逞しく成長していた。
ニコラウス兄は俺を自分の後ろに乗せると馬を歩かせ始めた。
兄の近況はルーカス兄やレナ姉に聞いていたがそれよりも何か大きくなった気がした。
結局、兄は送るだけではなく受験の手続きが終わるまで付き合ってくれた。
「じゃあな、頑張れよ」
兄は強者の雰囲気を背中に漂わせて帰って行った。
俺は試験の行われる初等部の教室に入った。俺は3日前に滑り込んだので最後の受験番号だった。
試験を受ける人数が800人位いるので、中等部の教室では間に合わないのだろう。
ちなみに中等部の募集人数は200人だ。25%しか合格しないことになる。
大体、読み書き計算を教える初等部は国の主な都市にもあり、総数は一学年で約5000人以上。このアリストス学園だけでも1200人居る。主な生徒は士族、騎士族、商家などの裕福な平民、貴族。貴族は学園に入学するのが基本みたいになってる。
中等部はアリストス学園初等部の卒業者か、各都市の初等部を優秀な成績で卒業した者に受験資格を与える。
まあ、俺の場合は王太子の推薦で、特別に受験資格を得た。
「君、イエーガー家の人なの?」
隣に座った男の子がにこやかに話し掛けて来た。
「そうだけど、君は?」
俺は少し警戒しつつ答えた。
「僕は、シュバルツバッハ辺境伯様の従士の子供だ。マティアス兄さんが護衛して来たんだよね」
「俺も護衛だけどな。マティアス殿にはお世話になった。俺の名前はレオンハルト、レオンと呼んでくれ」
そう言えばマティアスさんと少し似ている気がする。
「僕の名前はエイトリッヒ=シュナイダー、エイトと呼んでくれ」
「なんで俺がイエーガーだと分かった?」
「ニコラウスさんと一緒に来ただろう。あの人僕たちの憧れなんだ」
ニコラ兄は身体強化レベルが7でこの国の最高レベル保持者だ。王都では顔も知られているらしい。
「そうなのか。何か恥ずかしいな」
その時試験官が入室してきた。
「じゃ、試験頑張ろうぜ」
「ああ、お互いにな」
一限目は国語
読解、穴埋め、スペルなどの問題があった。難しくはない。
二限目は算数
6桁の足し算引き算、2桁の掛け算割り算。
三限目は理科
錬金術や魔法の簡単な問題。
四限目は社会
この国の歴史や立法や司法などの問題
ここで昼休み。
「昼飯食うだろ。案内するよ」
そうか、エイトは少し前までここで勉強していたのだったな。
俺とエイトは食堂で並んで腰かけた。今日はランチはやっておらず、パンの出店だけだった。
彼はパンに肉と野菜を挟んだサンドイッチを買って来た。
俺もコトネが早起きして作ってくれた弁当を出す。
「何だいそれ?」
「これはおにぎりと言う携行食だ。イエーガー領では普通に食っているぞ」
「へえー、珍しいね」
食後答え合わせをしていたが、俺は間違った所は無いように思った。彼は数カ所の間違いがあったようだ。
午後は兵科の試験からだ。
兵器の名前や長所、短所、下士官レベルの戦術問題が出た。
次は校庭に出て、剣術の模擬戦だ。
まあ、普通に動ければ合格らしい。
中等部の卒業生がすべて軍に所属する訳じゃないからな。
何カ所かで試験をするようだが、受験番号の順だったので俺は最後となった。
「まずいな。レオンの前ってグリューズバルト侯爵の次男坊だぜ」
エイトが小声で要らない情報を入れてくる。
「なんでそんな奴が俺の前に居るんだ。強いのか?」
学園卒業者ならもっと前の方の受験番号になるはずだ。
「いや、強くは無いよ。卒業に単位が足らずにごり押ししたらしい」
「いやな奴なのか?」
「実力はないくせにプライドだけは天より高い」
「俺が勝つとまずそうだな。でも俺って王太子様の推薦貰ってるから、無様は見せられないんだよな」
何でこんな奴と模擬戦をしないといけないんだ。
最後に俺の番が回ってきた。
木剣を持って、胴とヘルメットを着けて、試合の開始位置に着くとやや小太りの相手が木剣で俺を指して言った。
「お前、知っているぞ。イエーガー家のミソッカスと呼ばれた三男坊だろう。お前のような奴が試験を受ける資格があると思っているのか!俺に手をついて謝れ!」
無視、無視。
「フン、怖くて喋れないのか。降参するなら許してやってもいいぞ」
「試験官、早くしてくれませんか?」
「私語はしないで!構えて・・・・はじめ!」
グリューズバルトは大きく振りかぶって、ドタドタと走って来た。
俺は振り下ろされた木剣を右に避けると上段から振り下ろして、脳天の直前で止めた。
「イエーガー」
試験官が俺の側の手を上げ、勝利を告げた。
グリューズバルトは俺の木剣を弾き、構えなおした。
「まだまだ、当たっておらんぞ」
当てなかったんだけど。まあいい、勝利は宣告されている。
俺は一礼をして立ち去ろうとした。
「降参か。やっぱりミソッカスだな」
はあー、お前何言ってんの。
「あのー、俺の勝利は宣告されているんですが?」
「馬鹿な、剣は当たっておらん、まだ勝負はついていない。そうだろう試験官。このグリューズバルト家の次男が言っておるのだ」
試験官はグリューズバルトの身分に恐れをなしているのか返事をしない。
試験放棄になるとまずいし、どうするかな。
他の試験が終わったのか他の試験官がやって来た。
「どうしたのか?」
「この試験官が剣が当たってもおらぬのに相手に勝ちを宣告したのだ。誤審だ」
「寸止めですよ」
俺は言ったが元の試験官が返事をしない。
面倒臭くなったのか新しく来た試験官は言った。
「分かった、再試合だ!」
グリューズバルトは鼻高々だが俺は気に入らない。こんなことがまかり通って良いのかと腹が立ってきた。
開始の合図とともにまたドタドタ走って来たので、すれ違いざまに俺は胴を抜いた。
「イエーガー」
又、俺の勝利が宣告された。
「胴への斬撃は鎧を着ていれば、ダメージにならん。無効だ。このグリューズバルト侯爵家の次男の言うことが間違って言うのか?ああ?」
またまたグリューズバルトがごねて来た。いい加減にしろ、今度再試合とかになったら脳天ぶち割るぞ。
「いえ、この模擬戦は運動が出来るかどうかの試験なので、勝敗は二の次ですのです。承諾してください」
今度の試験官はまともそうだ。
「では引き分けだな。試合が中断されたのだからな」
どういう理屈だ。中断なんかしてないだろうが。
「イエーガーそれで良いか」
「私は王太子様の推薦を受けてここにおります。王太子様にこの試験の内容をご報告せねばなりません。それでも宜しければそうしてください」
王太子様の権威を使うのは嫌だが仕方あるまい。このままでは奴が勝つまで終わらない。
「グリューズバルト殿、貴方の負けです。これ以上のクレームは王太子様にお願いします」
「ぐぐぐ、おのれ、覚えておれ」
真っ赤な顔を震わせながら小太りの体をゆすり、去って行った。
はあ、ようやく終わったよ。
「ひどい目に会ったな」
「あんな奴と同級生か?いやだなあ」
「心配するな、あいつは落ちるよ」
エイトはそう言うと大声で笑った。
奴の成績では中等部では全くついて行けないので、侯爵家でも無理は通せないだろうと言うことだ。
それならなぜ受験したんだ?
「合格発表は一週間後か。また会おう」
エイトはまだ学園の初等部の寮に住んでいるので校門で分かれた。
俺がホテルに着くとコトネとアンナが出迎えてくれた。
「ご苦労様でした」
「レオン様、どうだった?」
「隣の席の奴と仲良くなったんだが、そいつが言うには余裕で合格じゃないかって事だ」
俺自身出来ない問題は無かったし、引っ掛かるのはあの侯爵家の次男とのことだが、そこまで悪影響はないだろう。
発表までの一週間は非番の兄姉がかわるがわる王都見物に連れ出してくれたりしてあっという間に過ぎた。
発表の日、俺はまた学園に来た。
案内に従って、合格者の番号が張り出してある場所に来た。
俺の受験番号は最後だから・・・・ない!俺の二つ前の番号はあるのだが、俺の番号は見当たらない。
落ちたのか?俺の目の前は真っ暗になった。
もう一度試験を受けるなど両親が許すはずがない。
王太子様の顔にも泥を塗ったのではないか?
どうしたら良いのだ。
俺は14歳で終わってしまうのか。
次回受験結果とウエルフェルト村の結果です