5-4 進みゆく世界
ご愛読ありがとうございます。
今回はミラが久しぶりに登場します。
ミラを忘れたという方に概略を説明します。
ミラはダンジョンに繋がる世界、魔人国から来た魔王の娘です。ミラはすでに直接地上に出る術を持っています。
最初は旧イエーガー領のダンジョンで魔獣に襲われていたアンナを助け、レオンに預けました。次に会った時は王都侵略を目指す姉を止めるため、レオンに協力を求めました。その時にレオンの子供産むことを契約しています。今の所、空間操作、ブーストの魔法が使えます。
休日をアキラの店で過ごすレオン達、迫るヴァルハラを切り抜けるため対策を考えていた。一方暇を持て余していたジェリルはコトネと素手での訓練を始めるのであった。
アキラの店の裏庭にはすでに草花が芽吹き始めていた。風はまだ肌に厳しいが、あたたかな日差しが春を感じさせる。
「私を馬鹿にし過ぎましたね」
コトネが片膝を着いたジェリルに声をかける。
「まいったな。アタイが片膝をつくなんて、ガキの頃に親父にやられて以来だぜ」
ジェリルは上下の服を脱いでマイクロビキニのスキンアーマーを起動する。
「もう、アタイに触らせもしない。行くぞ!!」
今度はジェリルが、大ぶりの拳をコトネの顔面目掛けて振り下ろす。
コトネはジェリルの拳を内側にくるりと回って避け、腕を取りながら伸びきったジェリルの体を腰に乗せると、一本背負いの要領で投げた。
ジェリルの巨体はコマのように回って地面に叩き付けられる。
「グハッ!!」
「力と速さだけでは私には勝てません」
ジェリルは声のした方に手を伸ばすが、すでにそこにコトネは居ない。
「クソーッ!捕まえたら潰してやるのに」
去年のコトネはレベル5の力にも速さにも勝てなかった。ジェリルはあの時のレベル5より確実に強い。なんならレベル6のアーレスに近い。
間合いの近い素手の戦いとは言え、コトネの成長には目を見張るものがある。
「お姉ちゃん!、すごい!、強い!」
アンナは自分の所に戻ったコトネの周りを犬のように回る。
「素手の戦いだから勝ててるだけ、ジェリルさんが剣を持ったら近付けもしないよ」
あっさりと言ってアンナから服を返して貰う。
「そんなあ」
アンナはシュンとして項垂れる。
「私はまだジェリルさんのスキンアーマーを抜く破壊力が無いし、ジェリルさんの剣は私のスキンアーマーを破れる。練習なら勝てるけど実戦では勝てないよ」
服を着て、アンナの頭を撫でている。
「お前、冷静なんだな。おかげでアタイの弱点が分かったよ。技が無い事だな」
ジェリルがコトネに話しかける。
「あれだけで良く分かりましたね」
「アタイも馬鹿じゃない。あれだけこっぴどくやられれば分るさ。昼からも相手をして貰うぞ」
「仕方ないですね」
ジェリルはニコッと笑った。
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昼食が終わってレオンは、コニンさんの所に来ていた。
「ふーん、これが師匠の言ってた刀って奴か」
レオンは海賊退治をしてから刀を研いでもらおうと思って、忘れていたのをコニンさんに見て貰った。
「どうですか?」
「そうだな、少し傷があるから、軽く研いでおくよ」
「よろしくお願いします」
コニンさんは刀身を眺めている。
「なあ、これに魔力を通したことがあるか?」
レオンは驚いた。
「刀に魔力をですか?」
コニンさんは頭を上げた。その顔は興奮していた。
「この棟の部分だが魔銀で出来てる。恐らく心金には魔金を通してる。この刀は魔法が付与されていると思う」
「魔法ですか?」
レオンは信じられないと言う顔をする。
「魔銀や魔金は魔力を通しやすい。昔の武器には魔法を付与した物があったと聞く。これだけの魔銀を使ってるんだ、ただの刀とは思えん」
「でもラドム師はそんなことは・・」
「お前が魔力を持ってなかったから、言わなかったんだと思う」
幾ら魔法が付与されていても、それを発動する魔力が無ければ絵に描いた餅だ。ラドム師はレオンが失望すると思って黙っていたのだろう。
「俺はお前が魔力を使えるのを知っているからなあ。まあ、何が出るか解らんから、後で広い所で試してみろ」
コニンさんはニヤッと笑った。この家の住人はレオンの秘密を大体は知っている。
「では夕方に受け取りに来ます」
「おう、それ位にはやって置く」
レオンは今刀を試すことはやめておいた。コトネはジェリルと訓練しているから、レオン一人で帝都の外へ行って刀を試せば恨まれよう、そう考えたのだ。
最近、従者の機嫌を考えなくてはいけないレオンであった。
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ここは帝城にほど近いレストランの個室、少し遅い昼食をとる男二人が居た。
「それでは奴隷狩りが失敗したということか?」
二十台と思われる豪勢で瀟洒ななりの男が、対面に座る貧相な壮年の男に言った。
「はい、申し訳ありません」
「だが、俺への献金は遅らせてはならんぞ。あ、俺が襲撃場所を教えていることはバレてないだろうな」
「大丈夫です。ですが隷属魔法の魔法使いがブロイセンで捕まっています。人数が居ませんので助けたいのですが」
壮年の男は揉み手をしながら若い男に言う。
「俺に助けろと、そんなことが出来るか!」
若い男は叫んでテーブルを叩く。
「いえ、帝都に運ぶように手配して頂ければ、私どもが何とか致します」
「ふむ、それぐらいなら何とかなるか」
そう言って若い男は手を出す。壮年の男は金の入った袋をその手に乗せる。
若い男はすぐに中身を確認して、下卑た笑みをこぼすのだった。
「そう言えば、フェリシダスが剣術指南役を雇った。知っているか?」
「はい、レオンハルト=イエーガーと言って、かの首狩りの三男です」
若い男が驚く。壮年の男が若い男に見えないように歪な笑みを浮かべた。
「首狩りの子がなぜ帝国に・・・?」
「フェリシダス様が招聘されたようです」
焦った様子だった若い男は何か思い出したようにニヤリと笑った。
「ふん、思い出したぞ。首狩りの三男はミソッカスと呼ばれた男だ。そんな男が剣術指南とはな。ハハハハ」
「フランツ殿下、その男が奴隷狩りを邪魔したのです。陛下も興味を持たれたみたいです」
フランツは帝国の第一皇子。皇帝が成人前にメイドに手を出して産ませた男、文武が平凡で品行も良好とは言い難く、皇帝の目はないと言われている。ちなみに第二皇子は夭折、第三皇子は病弱、第一皇女も平凡ですでに臣下に嫁いでいる。従って今の所、フェリとジークが後嗣を期待されている。
「なぜミソッカスがそんなことが出来るのだ」
忙しい男だ。顔に喜怒哀楽が現れる。こいつ、自分が皇帝になれると思っているのか。壮年の男は心中でそう思っていた。
「詳しい事は判りません。腕の立つ傭兵も一緒だったと言います」
「そうだろうな。大方その傭兵が活躍したのだろう。しかし、もう海岸近くに獣人の村はないぞ。献金は大丈夫か?」
獣人の村などお前に聞かずとも情報源はいくらでもある。だが皇子の一人も抱えておいた方が将来的に役に立つかな。壮年の男は頭の中で計算していた。
「そうですね。献金も奴隷狩りが無くなるとこれまで通りと言う訳には参りません。殿下は私に何を渡すおつもりですか」
「ヘルメス!そんなことを言うな。献金が無くては俺が皇帝になることが出来んぞ。皇帝になればお前の店を御用達にしてやるからな。もちろん魔法使いも何とかしてやる」
「なんとか私の裁量で考えてみましょう。その代わり私どもも情報の提供をお願いすると思いますが」
「おおそうかすまんな。俺の知りうる情報はお前に渡すぞ」
呆れるほど馬鹿だな。こんな奴が帝笏に選ばれるはずが無かろう。ヘルメスは表面上はにこやかにしながら、腹ではそう考えていた。
「それでは魔法使いの件よろしくお願いします」
「おお、任せておけ」
フランツは意気揚々と去って行った。
「アーレスと言いヘスティアと言い、あの三男坊は何処までも祟りますねえ」
ヘルメスは大きくため息を吐いた。
「さて、ゼウス様に金と一緒に報告を用意しましょうか」
ヘルメスは席を立った。
ゼウスとヘルメスとはアキラが言っていたオリンポスの神だ。彼らも組織の一員なのだろうか?
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アキラの店 <アンナ>
お昼からお姉ちゃんとジェリルさんの訓練を見ていたんだけど、飽きて来たよおお。
「レオン様のとこに行って来るね」
一段落したお姉ちゃんに声をかけて錬金工房に行く。さてと、レオン様に何をして遊んでもらおうかなあ。
『ロキさん、これは?!!』
私は渡り廊下で立ち止まる。大きな魔力を感じたのだ。
『ウーン、魔人の姉ちゃんじゃないのか?』
そう言えば王都の寮に出入口を作った時のミラ様の魔力に似てるわ。と言うか、そうとしか思えない。
そのうちに壁にまあるい模様が出来て、その模様がぐるぐるッとして、ぽっかり穴が空いた。
「アンナちゃん、こんにちわあ」
ミラ様がよっこいしょっと言いながら穴から出て来た。
「こんにちわ」
「もう、アンナちゃん、探したよ。いつの間にか寮にいないしさ」
それから私達を探すためにどれだけ苦労したか教えてくれた。別に聞きたくはなかったけど。
「だって、ミラ様、随分来なかったから」
私達は魔人の国には行けないから、ミラ様に来てもらうしかないじゃない。
「それはそうなんだけど。パパがなかなか許可してくれなかったのよ」
「そうですか」
ちょっと会話が飽きて来たから投げやりな答えになっちゃった。
それに気付いたのか、ミラ様はゴホンと咳をした。
「ここは何処?レオンは何処にいるの?」
「ここはアキラさんって知ってるでしょ。帝国のその人のお店。レオン様はこの先に居ると思うんだけど、今探してるとこなの」
「帝国、ここ帝国なの?ずいぶん遠くに来たのね。ふーん、まあ良いわ。行きましょ」
軽いなあ、ま、いっか。
錬金工房に入るとやっぱり、レオン様とアキラさん、シャラさんが居た。
朝渡した薬草の加工をしているみたい。
「こんにちわあ!」
元気よくミラ様が挨拶した。
「やあ、ミラじゃないか。久しぶり。こいつはミラって言って魔人国の王女様だよ」
「ああ、君がミラさんか。話はよく聞いたよ。アキラだよろしくね」
「シャラっす。アキラの嫁っす。よろしくお願いしますっす」
なぜこの人たちは王女様と聞いても驚かないのだろうか?
レオン様達は話を始めたし、退屈だからお姉ちゃんの所に戻ろうかな。
え、どうもこの家に魔人国からの出入口を作るみたい。レオン様とシャラさんがミラ様を皆に紹介するみたい。連れて行っちゃった。
やっぱり、お姉ちゃんの所に行くか。そろそろ寮に帰らないとだし。
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帝城 <フェリ>
あ、いやな奴に会っちゃった。母上に呼び出されて廊下を歩いていたら、向こうから兄上がやってくる。
こいつ嫌いなんだよね。何の努力もしないくせに次期皇帝は俺だみたいなこと言ってるし、噂では商人から賄賂を貰ってるらしい。
「フェリか。近頃、調子に乗って剣術指南役を雇ったそうではないか?」
「ワシは皇帝になるために努力をしておるだけじゃ。努力をしないおまえとは違う」
真実を言われて腹を立てたようじゃ。
「ぶ、無礼な、皇太子に向かって何を言うか!」
「誰が皇太子じゃ。お前のような男を帝笏が選ぶと思っておるのか」
「な、な、なにおう!!ミソッカスを剣術指南にして誰が認めると言うのだ!」
「まあ、見ておれ。今にあ奴がどれだけすごいか。世界中の人間が注目することになろう」
ちょっとオーバーかな。まあ、売り言葉に買い言葉だ。
「ふん、帝国中に笑われぬよう、心配するのだな」
捨て台詞を吐いて去って行った。十も年下の妹に言われたぐらいで、激高するような小さな男が、何を言っても響かない。
次回はレオンの周りに悪意が近付きます。レオンはどう対処するのでしょうか?




