0-6 三男坊 王都で一日
王都に着いたレオンの一日です。
王都に着いたレオン達、無事受験することになった。
王都に着いた次の日、俺は王城に呼ばれていた。
エリーゼを助けた礼をしたいと言う事だった。
コトネとアンナに少し小遣いを渡して、王都見物をして来いと言ったらすごく喜ばれた。
王都は治安が良いと聞いているので二人でも大丈夫だろう。コトネは強いしな。
俺は迎えの馬車に乗り王城に向かった。
昨日は門しか見なかったので、初めて入った王城の大きさに圧倒された。
完全にお上りさんになった俺は、馬車から身を乗り出して王城を見学した。
迎えに来た使者のおっさんは苦笑いをしていた。
謁見の間に案内された俺は緊張で身が縮こまる思いがした。
謁見の間の上段中央には豪華な椅子が二つ、しかしそれには誰も座っていなかった。王様と王妃様の椅子だろう。
その横にある少しグレードの落ちた椅子には壮年の男が座っており、横にエリーゼが立っていた。
その前にルーカス兄が居た。
「王太子様の御前である」
兄がそう言ったので俺は跪いてお辞儀をした。
「おまえがレオンハルトか、ルーカスよ、イエーガーの三男坊はミソッカスという噂は事実でなかったようだな」
王太子は俺では無く、兄に話したみたいだ。
「いつの間にか人並みには戦えるようになったようです」
兄とはずいぶん会ってないから俺の変化も解らないだろうな。
「妹の命をよく救ってくれた。礼を言う。褒美はアリストス学園中等部の受験資格と王都での滞在費と聞いた。ルーカス!」
兄が俺に金を入れた袋と書類を数枚渡してくれた。
「あ、あ、ありがとうございましゅ」
緊張でかんじゃったよ。変に思われてないと良いけど。ああ、エリーゼが笑ってる。くっそー。
王太子は立ち上がった。
「久しぶりの話もあるだろう。俺は行くがルーカスは残って良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
王太子が去って行き、俺が立つと兄とエリーゼが寄って来た。
「レオン、見違えたぞ」
緊張が解けてフウーと息を吐き出した。王太子は俺の生殺与奪の権を持っている人だから緊張もする。
「それは兄上と別れてから四年ですから、大きくもなりますよ」
「レオン、約束は守ったわ」
エリーゼは王女なのに緊張しなかったな。きっと最初に見たほとんど裸が原因だろう。
「ああ、ありがとうございます」
「しかし、お前受験するつもりじゃなかったんだろう。大丈夫か?一夜漬けでも手伝ってやろうか?」
兄は事情を知っていそうだ。エリーゼが話したのだろう。
「心配しないで下さい。ヨシムネ先生に二年間教わってきましたから」
「ヨシムネ先生か。なつかしいな。お元気でいらっしゃるか?」
「先生は故郷に急な御用で、御帰りになりました」
「そうか、高等部のとき相談に乗って貰ったのだが、その時の礼をまだしてないのに」
兄はいかにも残念そうに言った。兄は四年前、高等部の内容で先生に相談したと聞いている。
俺と兄は場所を職員の食堂に変えて話を続けた。時間が時間なので俺たち以外誰もいない。エリーゼもその話を横で聞いていた。
暫くすると兄は仕事があると言って戻って行った。するとエリーゼがそばに寄って来た。
「私はね、学校を卒業すれば、どこかの貴族に降嫁させられる。それが嫌なの。どうしたら良いと思う?」
その問いは俺には重すぎるよ。
「俺達はまだ子供です。学校にいる間に考えればいいんじゃないですか。最大3年間居られますから」
俺は逃げた。最適解なんか思いつくはずも無いからな。
初等部や中等部は学ぶ内容も難しくないので、家で学んできた人の為に飛び級の制度がある。最速で一年で卒業することもできる。ウチの兄姉は初等、中等とすべて一年で卒業している。
高等部はレベルがぐんと上がるので飛び級の制度は無い。
「でも、レオンは一年でいなくなっちゃうんでしょう」
エリーゼは寂しそうに言う。そんな顔すんなよ。
「じゃあさ、エリーゼ様も高等部に進学すれば良いですよ。王族だって進学しちゃいけないって決まりはないんでしょう」
王族は原則として中等部だけ学校に通う。警備の問題や王族の学力が外部に知れるのも問題なのだろう。
しかし、側室の娘で七女のエリーゼならうるさく言われないだろうし、過去に男の王族で高等部に進学して役人になった人が居たらしい。
王族だってすんなり特権階級に残れるわけじゃない。現王の様に二十人近い子供が居て、王妃の子供でなければ、貴族で居れれば良しとしなければならない。
「でも私の頭でできるかしら?」
「まあ、受かれば俺も手伝いますよ」
「王族は無試験で合格なのよ」
「そうなのですか・・・」
その時、食堂に人が何人か入って来た。
「もう昼ですか、コトネ達が待ってるから帰ります」
「馬車の所まで案内するわ」
その頃、コトネ達はホテルに向け、ちょっと急いで歩いてた。
「もう、レオン様帰ってるかな?ちょっと遊び過ぎましたね」
「うん、楽しかった」
その時、すれ違おうとした若い男がコトネにわざとぶつかって来た。
コトネはアンナを庇いながら横に飛ぶ。
男は躱されたその勢いで派手に転ぶ。
コトネは知らん顔してアンナの背を押し、その場を離れようとした。
「ちょっと待て!!こんなことしてどこに行くつもりだ!」
男は激昂してたちあがり、コトネを捕まえようと手を突き出した。
コトネはアンナを抱いて、とんと跳ぶ。
又も空振りしたが、今度はコケなかった。
「待てって言ってるだろうが!俺が倒れたのにそのままにしておくつもりか?!」
「私は貴方に触れても居ませんが、足腰が弱いのですね」
コトネはそう言うとまた歩き出した。
「もう怒ったぞ!獣人如きが!!」
男は殴りかかって来た。
コトネは振り返ると素早く突き出た男の手首を極めて、そのまま男の後ろに回って捻り上げる。
「いててて!何をしやがる放しやがれ!」
「何をしたいか知りませんが、これ以上無礼を働くなら腕の一本でも折っておきますか」
いつの間にか周りには人垣ができていた。
まずいわ。私はともかくアンナが狙われるとまずい。多数の相手の準備をしていなかったコトネは焦った。
アンナから目を離さないようにして、男の手をさらに捻り上げる。
「も、もう何もしないから放せえ・・ア、イ、いった、痛い・・放してくださーい」
「もう、しませんね」
コトネは男を放して、アンナに寄る。他に敵は居なかったので安心した。
男は転ぶように逃げ出した。
「獣人の癖しやがって、覚えてろ!!」
アンナが居なければ追って行って、骨の一本でも折ってやりたい。
人垣から拍手をされる。
下向いて赤い顔をして、アンナの手を引きながら帰路を急ぐコトネであった。
あの男は私とアンナを虐めることで憂さ晴らしでもしようとしたのか?
やはり私は差別される側の人間だった。
イエーガー領では一度も言われたことのない言葉「獣人の癖に」、好きで獣人に生まれた訳じゃない。
ヨシムネ様が言った。「私の故郷では獣人と言うだけでひどい目に会う。だからここに居なさい」と。
でもこんなの大したことじゃない。私は大丈夫だ。だってレオン様について行くって決めたじゃないの。
「アンナ、大丈夫。このことはレオン様に内緒ね。だってレオン様が心配して、お前達だけで外出しちゃいけないとか言いそうだからね」
「うん、レオン様に心配かけないように内緒にする」
コトネはヨシムネの従者アヤメから忍術の手ほどきを受けていた。身体強化と会わせて、そこいらの男では相手にならないくらい強いのだ。
余談ではあるがヨシムネは高貴な人間である。そのため護衛としてアヤメが付いていた。もちろんご落胤など作らぬように夜の相手もしたのだ。
昼からは道中集めて来た薬草を売るために錬金術の交換所に三人で行く。
もちろん収納庫から出すわけにはいかないので、大きめのカバンに詰め替えて持って行く。
交換所は王都の門の近くにあるので、歩いて行くと結構遠い。
そこで辻馬車を利用する。俺達が利用するのは王城の辺りから門までを往復している馬車だ。
一人小銀貨一枚なので三枚払って乗る。
交換所は道に面して屋根の突き出た屋台を並べてような形をしていて、同時に三カ所で交換できるみたいだ。俺達の言った時間は暇なのか真ん中のカウンターしか人が居なかった。
おばさんが愛想よく挨拶をする。
「いらっしゃい。何を持ってきてくれたんだい」
俺はカバンから薬草とオークの魔石を出した。
「これは買い取って貰えるかい」
魔石は主に灯と火の魔道具に使われる。もともと数が少ないので値が良い。
おばさんは魔石を見てから、薬草を一本ずつ手に取って見る。
「これはまた新鮮だね。ちっともしおれてないよ。これなら十分買い取れるよ」
「これらは傷薬、これは解熱用で、こちらは喉、これは食あたりだ」
「ちゃんと分けてくれたんだね。ありがとうね」
おばさんは薬草を数えて、お金の用意をする。
「魔石が六個で金貨三枚」
「薬草が大銀貨が3枚と小銀貨が5枚、大銅貨が6枚と小銅貨が5枚と、これでいい」
「良いです。薬草はどれくらいの量なら引き取ってもらえるのかな?」
実は収納庫にまだ山とあるのだ。怪しまれないようにカバン一杯に制限をしたのだ。
「薬草ばかりたくさんあっても引き取れないこともあるよ。錬金術師が加工できないと使えなくなっちゃうからねえ。でもこれくらいなら一日置きくらいなら大丈夫だよ」
小分けしといてよかったよ。全部持ってきたら引き取ってもらえなかったって事か。
「しかし、こんなに新鮮って、近くで群生地でも見つけたのかい。魔素が抜けてないから上級ポーションでも作れるよ」
まだ収納庫から出して一時間ぐらいだから摘み取ってからは二時間以内だろう。喜ばれるのは良い事だ。
何にせよ。入試に受かれば、報奨金に手を付けなくても一年は暮らせそうだ。
次回、レオンが受験に挑みます。