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0-5 三男坊 王都に行く

王都に行くだけの内容ですが出会いがあります。

 魔獣オークに襲撃されていた王女エリーゼを助けたレオンは、王女を護衛して王都に行くことになった。


「その、レオンの剣が気になるの、見せてくれない?」

 目が横に置いた剣に向いてたので、いつ言って来るかなって思ってました。

「良いですよ。東洋の剣で刀と言います」

 俺は刀を横にしてエリーゼに渡した。


「サーベルのようだが刃が厚い。よく斬れそう」

 鞘から刀を抜いて眺めるエリーゼ。

「斬ることに特化した剣です。こちらの両手剣ではオーク二体を一度に斬れないでしょう」

「見ていると吸い込まれそう」

「これを使うには、そこそこ訓練が必要です」

「これをどうやって手に入れたのですか?」

 俺はヨシムネ先生の事を話し始めた。


 俺の師であるヨシムネ先生は5年ほど前にイエーガー領に現れた。

 堆肥の効率的な作り方を指導して、収穫を数倍の量にした。

 それで父の信頼を得た先生は、兄たちの家庭教師や湿地帯を田んぼにして米を生産するなど、イエーガー領に多大な貢献をした。


 2年半前、上流部で起こった土砂崩れが、領内の耕地をほぼ全滅させた時も適切な指導で、耕地の早期の復活を成し遂げた。

 一方、災害で金の無くなったイエーガー家は俺の入学を諦め、先生に俺の指導をお願いする。

 俺は2年間指導を受け、学問も兵術も中等部卒並みの力を得た。


 もう一年教えて貰って中等部を受験するつもりだったが、先生は家の不幸で帰郷せざるを得なくなった。

 その時、コトネを連れ帰ることが出来なくなった先生は、コトネを俺に預けた。

 刀はそのお礼として受け取ったものだ。


「そう、すごい人だったのね。あなたの先生」

「そうなんですよ。東洋の武術も詳しくって、いろいろ教えて貰いました」


 コトネが御者席の窓を開けて言った。

「もうすぐ宿泊地です」

 俺達みたいにどこでも野宿できるわけじゃないから不便だ。まだ日没までには時間があるが仕方が無い。


 そこそこ立派な宿場町の貴族用の宿に到着した。

「私は辺境伯の家の者に残して来た者の扱いをお願いしなければなりません」

 エリーゼが言うので俺は行ってらっしゃいと言うと・・。

「何を言っているのです。あなたも一緒に来るのです」

 ああ護衛の仕事か。コトネとアンナに馬車の整備を指示して出かける。


 父の屋敷より立派な館が宿のすぐ近くにあった。

 俺が先触れをするのか・・・。

 門番に王家の七女が来たと伝えた。

 門はすぐに開き、門番の一人が屋敷に掛けて行く。


 もう一人の門番に案内されて玄関に着くと両開きの扉がサッと開き、ホールには使用人が両サイドに並んでエリーゼを歓迎する。

 すげえなうちの使用人より宿場町の管理者の方がはるかに多いし、教育も行き届いている感じだ。

 エリーゼは俺みたいにキョロキョロせず、伏し目がちに真ん中を堂々と歩く。

「いらっしゃいませ」

 使用人が一斉にお辞儀をする。誰が音頭を取ったんだ。恐ろしくなって来たぞ。


「あまりキョドらないで!私が軽くみられるから」

 エリーゼが小声で注意する。田舎の貧乏貴族のコンプレックス丸出しだったな。

 反省して堂々としよう。


 ホールの横の部屋が応接室になっているらしく、執事らしい人に案内される。

「エリーゼ様が御着きで御座います」

「入って頂きなさい」

 応接室の椅子に座りながら太った中年男がそう言った。

「あなた!無礼ですね。こちらで立って出迎えなさい」

 エリーゼが怒る。そうだなこの出迎えは同等の扱いだな。辺境伯ならともかく宿場長の対応じゃない。


「これは失礼いたしました。獣人の少女が御者をしておったと聞いたので、まさか王女様とは思えず」

 太った男が全然悪びれずに言う。これは辺境伯の差し金とも思えんが?。

「私はこの近くでオークの群れに襲われました。あなたの管理地ですよね」

 宿場長の顔が一気に青ざめる。


「レオン、見せてあげなさい」

 俺は懐からオークの魔石六個を机の上に置く。

「護衛と御者は全員怪我で着いて来れず。居合わせたこの者達を雇いました。御不満でも?」

「い、いえ、そうとは知らず無礼の段、平にお許しを・・お願いいたします」


 コトネを見て獣人を雇うほど困窮しているのかと見下したら、自分の管理地で魔獣に襲われたという不手際を指摘されてしまった。

 街道を安全に通行させるのも宿場長の仕事だ。

 これが辺境伯にばれたら確実に罷免されるだろうな。


「あなた如き小物を罷免したとて、仕方ありません。それより近くの村に行ったと思われる護衛と御者の手当てと送還をお願いします」

「分かりました。こちらから御者と護衛を用意しますので、どうかお使いください」

 いつの間にか宿場長は土下座している。

 馬鹿だなあ、小さな自尊心を満足させるためにこんなことをするなんて。



 その日の夜、俺達は食事後、エリーゼの部屋に居た。

 部屋の扉をノックする者が居た。

「エリーゼ様、お客様がお見えになっております」

 宿屋の使用人が客を連れてきたようだ。


 エリーゼの許可を得てコトネが扉を開けると、使用人と若い背の高い軍人が立っていた。

「明日からエリーゼ様の護衛の任に就くマティアス=シュナイダー中尉です。よろしくお願いいたします」

 入ってすぐに直立不動で敬礼をする。こりゃ固そうな人だな。


「エリーゼです。こちらは雇った護衛のレオンハルトと小間使いのコトネとアンナです。明日からよろしくお願いします」

「はい。身命を尽くします。ところで我々が護衛に付くので、レオンハルト殿はよろしいのではないでしょうか?」

「レオンハルトは私達を救ってくれたので王都で礼をしたいのです」

「さようでしたか。要らぬことを申しました。お許しください」

「解って頂ければよろしいです」


 マティアスは明日の行程を確認して戻って行った。

「素直そうな良い若者ですね。中尉といえば二十歳を超えてます」

 俺が言うとエリーゼが少し笑って言った。

「きっと宿場長が出せる人員で、きっと一番有能な人よ」

「そう言うことですか」

 宿場長は上にチクられないように文句の出ない人選をしたのだろう


 宿の使用人が湯を運んできたので、俺は部屋を出ることにした。

 コトネとアンナは使用人部屋があるので、エリーゼの部屋で寝ることになった。



 次の朝からマティアス中尉率いる護衛と王都までの旅に出る。

 御者も付いたのでコトネとアンナも馬車の中に入った。

 道中何事も無く王都ケルンベルグに到着した。


 昨日のうちにマティアスが先触れしているので、迎えが城門で待っているはずだ。

 何せ中等部の入試は三日後、俺を受けられるようにして貰わねばならない。

 エリーゼは先に王宮に入って行ったので後で連絡が来るそうだ。

 門で俺を待っていたのは姉のレナだった。


 レナは十七歳、初等部・中等部を飛び級で卒業し、俺と同じく災害で高等部へは行けずに魔法省の役人をしていた。

「私も今年高等部の入学試験を受けるのよ。王の許可は出たみたいだから同じ受験生ね」

 受験資格は貰えたみたいだ。


「てっきりルーカス兄上がくると思ってました」

 姉さんは俺の顔が見れて嬉しいらしくニコニコ顔で話し出した。

「ルーカス兄は忙しいし、結婚したばっかりだからちょっと相手が出来ないのよね。ニコラウス兄は知っての通り近衛兵だから殆ど自由が無いのよ。それで一緒に受験する私が世話をすることになったの。あんたが急に来るから仕方ないでしょ」

 まあ、連絡したのは昨日だから対応して貰っただけありがたい。


「コトネちゃんは私を覚えてるかなあ」

 姉がイエーガー領を出たのは五年前、会ったのは数回だと言う。

「はい、かすかにですが」

「そうよねえ。コトネちゃんこんなに小さかったもん」

 右手の人差し指と親指でコの字を作る。

「それは無いです」

「アハハハ」

「この子がアンナちゃんね。まだ詳しいことは解ってないの。もうちょっと待ってね」

 コトネの後ろに隠れるアンナの頭を撫でる姉さんの顔に、恐れがかすかに浮かんだのを見逃さなかった。


 辺境伯領に帰るマティアス達に別れを告げ、俺達は姉に案内されて合格発表までの時間を過ごすホテルに案内される。


 姉も自分の宿舎に帰ったので、久しぶりにイエーガー領を出た時の三人に戻った。

「アンナ、大丈夫か?疲れているなら寝ても良いぞ。夕食の時に起こしてやる」

 俺達の部屋は家族部屋でベッドが四つある。

「コトネは疲れてないか?荷物整理は後でも良いぞ」

「大丈夫です。夜はゆっくりしたいのでやることやっちゃいます」

「私も手伝う」

 結局コトネとアンナはこの部屋を拠点とするべく、荷物の整理をはじめた。

次回は王都で過ごす三人です。

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