3-4 三男坊 聖女を助ける
ジュリアを助ける算段を付けます。帝国に旅立つ用意を始めます。
急遽、帝国に留学することになった俺、そこに金字教の聖女候補生のジュリアが助けを求めてきた。
扉を叩く音を聞いた俺は、慌てて外に向いた窓を開けて、ジュリアを窓の外に押し出した。
窓を閉めた俺はアンナを後に置いて、コトネに扉を開けるように指示を出す。
扉を開けると二人の男がコトネを押しのけて入って来た。
「ここにジュリアがいるだろう!!出せ!!」
ニルドとキャミールだったか。確かジュリアの護衛をしていた奴らだ。
「何のことだ!私はこれでも伯爵家に連なるものだ。無礼であろう」
俺は貴族であることを前面に出して無礼を咎める。
二人は少しではあるが怯んだようだ。
「申し訳ない。我教会の戒律に背いた聖女候補生を探しているのです。協力願えませんか?」
ニルドだったか。大人しそうな方がおれに要請してくる。
「お前達は確か金字教教会のものだな。ここにはそんな奴は居らんぞ」
「嘘を吐くな!!あいつが行く所なんてここしかねえんだよ!」
もう一人のキャミールは貴族に対しての態度を知らない様だ。俺に掴み掛ろうとしたのでコトネが素早く間に入って、腕を後ろに極めてうつぶせに倒す。
「なにすんだよぉ!」
「ここまでやられるとこいつを殺しても俺が罪に問われることはあるまい」
俺はそう言って、コトネに押さえつけられているキャミールを冷たく見る。
「お待ちください。重ね重ねの御無礼お許しください。
ただ我々も以前ジュリアがここに立ち寄ったことを知っていますので、どうか捜索にご協力ください」
冷静な方のニルドが俺に深々とお辞儀をしてくる。
「分かった。良かったな。俺は非常に忙しい。お前達の相手をしている暇が無いのだ。こんな小さな部屋だ探すが良い」
ニルドはもう一度礼をして探し始めた。
「おい、俺を放せ!」
コトネに押さえつけられたままのキャミールが喚く。こいつはへりくだると言うことを知らないみたいだ。
「謝れば放してやろう」
こんな奴がいままで良く生きて来れたなあと感心してしまう。俺じゃなければ殺されてるぞ。
「キャミール!謝れ!どう見てもお前が悪い」
ニルドも彼に謝罪を要求する。
「す、すまなかった。許してくれ」
ニルドに言われたのが答えたのかすぐに謝って来た。
「コトネ、放してあげなさい」
コトネが手を放してサッと飛び退く。
「チクショウ、なんてガキだ」
極められていた手を振りながらコトネを睨む。コトネは澄まして俺の横に侍る。
「キャミール、従者部屋を頼む」
「分かったよ」
ニルドが俺のベッドを捲りながら、キャミールに指示を出す。
ニルドはジュリアを出した窓を開け外を眺める。ここは三階だ、飛び降りられるはずもない。
キャミールが従者部屋から出て来た。
「ここにはいないぜ」
「こちらにも居なかった。一体どこに行ったのか」
「街中をうろついてるんじゃないのか」
「もう俺達だけじゃ無理だ。応援を頼もう」
二人は捜索を諦めたみたいだ。
「協力ありがとうございました。お邪魔いたしました」
二人は部屋を出て行った。
暫く経つとアンナが言った。
「あいつら学園から出て行ったよ」
アンナは身体強化レベルが1以上であれば探索できるようになった。
「よし、ノルンご苦労さん」
窓を開けてノルンを呼ぶとオラウータンのような姿になったノルンが屋根から降りてきた。
その背中にはジュリアが必死にしがみ付いている。
「ご主人と居ると本当に面白い」
部屋に入ったノルンは、いつものおじさんの姿になり、ジュリアを床に降ろした。
「びっくりしました。外に放り出されるのかと思ってしまいました」
ジュリアはあまりに力を入れて、ノルンの背中にしがみ付いていたのか、力が抜けて立てもしない様だ。
俺はテーブルの席に座らせてやった。
「どこか行く当てはあるのか?」
ジュリアは俯いてしまった。
「・・ここ以外に行く当てはありません」
うーんと考え込むとコトネとアンナが祈るような顔で見つめてくる。
感情移入しちゃったか、仕方ないな。
「ここには置いとく訳にはいかないし、またあいつらがやってくるかもしれない。暗くなったらアキラさんの所に移そう」
コトネとアンナの顔がパアっと輝いた。二人は獣人差別を嫌うジュリアに同情を寄せている。
「俺は一週間の後に帝国に行く。身を寄せる所が無ければ、着いてくるか?」
「良いのですか?私は無一文で、何も出来ないのですよ」
「それでも俺に助けて欲しかったんだろ。うまく行くかは解らんが、帝国には金字教の教会はないみたいだからな」
その日の夜、夕食を取ってからノルンに大型のフクロウに変身して貰って、ジュリアを背中に乗せる。
「ノルン、アキラさんにジュリアの事を頼んでくれ。俺は明日伺うと言っておいてくれ」
「分かりました」
「ありがとうございます」
明かりを消した部屋の窓からノルンは飛び立った。フクロウは夜目が利くし、何より飛ぶ音がしない。灯の届かない上空を飛べばまず人に見つかることはないだろう。
次の日の朝俺達は、戻ってきたノルンが馬に変身、馬車を曳いて貰ってアキラさんの家に行った。
「帝国に行くんだって」
「最終的な返事は明日するんですが、この国を出る絶好のチャンスなので」
ジュリアから帝国行きを聞いたんだろうアキラさんは、何か深く考えている。
「俺達もついて行くと言ったら許してくれるかい?」
「それは有り難いのですが、どうしてですか?」
「俺達はねえ、君に未来を見たんだ。君が作る世界に行きたいのさ」
「俺がですか?俺なんてまだ何もしていませんよ」
「君に賭けるのは俺達の勝手だろ。ヤヌウニさんやノルン、ゴロ、ロキなんかと同じと思って貰えばいい」
「でも俺があなた達が期待するような人物になるか、全く分からないですよ」
「君と居ると面白い。それで良いんだよ。お金ならかなり持っているから応援も出来るよ」
俺なんて本当に何も成してない、何も出来ないのにどうしてみんな集まってくるんだ。
解らない、でも俺の中の誰かが「断るな」と言う。お前は大きくならなきゃいけない。彼らはそれを手伝ってくれる。
結局、俺はアキラさんの申し出を受け入れた。
アキラさんと帝都までの旅の打ち合わせをしてからジュリアに会いに行くことにした。
二階の俺達の部屋で泊ったはずなので部屋をノックするが返事がない。部屋を覗くが誰もいない。
あの子はヤヌウニさんに深く帰依してるから彼女の部屋に居るかもしれないな。
三階のヤヌウニさんの部屋の前に来ると中から大声が聞えて来た。
「ですから教祖様は千年前に亡くなっています。昔とは言え教皇様がそんなことをする訳がありません」
「そんなことを言ってもだな。私は本人なのだから・・・」
ああ、ややこしいことになってるみたいだな。仕方ない、助けてやるか。
俺は扉をノックする。
「レオンです。入っても良いですか?」
バタバタと走る音がして扉が乱暴に開けられる。
「レオン殿!助けてくれぬか?この娘が私の言うことを全く信じてくれぬし、嘘を吐いてると虐めるのだ」
ヤヌウニさんが半泣きで俺に縋る。
「あ、レオンハルト様、お騒がせして申し訳ありません。ただこの方が教祖様を名乗るのでたしなめていたんです」
ジュリアはなぜか頬を赤く染めて俺に言った。
「ジュリアさん、この人は本物のヤヌウニ・クラウスさんだよ。ヤヌウニさん、若返って見せてあげて」
「うむ」
ヤヌウニさんは中年のおばさんから二十歳前位の女性に変化する。
「ええ!この姿は本山に飾られてる教祖様と似ています」
ジュリアはヤヌウニさんの変化に驚いてペタンと床に座ってしまった。
「ヤヌウニさんは肉体を失ってしまって、今は霊力と魔力で作った体で暮らしているんだ」
「では本当に?」
ジュリアは座ったまま平伏したので、ちょうど土下座をしたように見える。
「申し訳ありませんでした。本当のヤヌウニ様とは考えられず、失礼なことをしてしまいました」
「もういいか?実は俺は帝国の学校に留学することになった。急ぎの話なので皆聞いて欲しい」
「レオン、引っ越すのか?」
俺の話にゴロが返す。
「そうだ、アキラさん達も一緒に行くことになった。ヤヌウニさんとゴロも行ってくれるかな?」
「もちろんだ」
「オイラも当然行くよ」
「それでだ。ジュリアが金字教に狙われている可能性があるので、大回りで金字教の進出していない国を通って行こうと思う。そうなると来週には旅立たなければならない」
「そうなるとドワーフとエルフの国を通るのか?」
流石ヤヌウニさんだ。街道や国の特長を調べてくれたんだろう。
旅のスケジュールなどを大体伝えて、用意をして貰う。
俺はコトネとアンナをここに置いて、近衛と実家に行くことにする。
ノルンにお願いして、まずは近衛に向かう。
近衛のいつも事務所に行くといつものお姉さんが居た。
「あら、久しぶりね。どうしたのかしら」
最近ノルンを使ってるから近衛には来ていない。
「実は帝国に留学することになりまして、つきましては馬車を引き取らせてもらいたいのですが?」
「そうかあ、残念ね。それでいついるの?」
「来週には旅立つ予定です」
「大丈夫、来週なら空いてるわ。でもこれじゃあ預かった日数が少ないからあなたが損をするわ」
俺は馬車と馬を預かってもらう代わりに馬車を3台用意した。
「構いませんよ。こちらの都合ですから」
「何とかならないか聞いてみとくわ」
「ありがとうございます」
契約では譲渡したことになっているから無理だろう。
でも幌馬車一台に俺、コトネ、アンナ、アキラさん、シャラ、ヤヌウニさん、ジュリアで7人、ゴロとノルンは数えなくていいか。ちょっと狭いな。
俺は近衛を後にして実家に向かう。ちょっと構えてしまうのは仕方ないか。
レオン達は帝国に旅立つ予定です。




