0-4 三男坊 姫を助ける
辺境伯の領都に向かうレオン達、魔獣に襲われる馬車を発見する。
テレジアスに向かう途中、アンナが戦いの気配を感じとる。
七、八十m先に馬車が居り、周辺でなにやら戦闘をしているようだ。
「コトネ!何が起こっているか判るか?」
コトネは目が良い、猫獣人の特長だ。アンナもコトネには劣るが普通の人間よりも目が良い。
「人型の魔獣と兵士が戦ってます。数で押されて兵士が不利なようです」
「コトネはここでアンナを守れ!俺は兵士に加勢する!」
「分かりました。でも危ないときは呼んで下さい」
俺は走る。兵士は一人で5体のオークと呼ばれる人間より少し大きい魔獣と戦っている。
「加勢するぞ!!」
敵と間違われないように俺が叫んだ時だった。
ワゴン型の馬車の扉が開いて裸の女性?いや、胸と腰には申し訳程度の鎧?を付けていた。
「タアアーッ!!」
その女性は持っていた剣で近くに居たオークを斬り下げた。
『おお!やるな』
しかし、胸とお尻に目が行ってしまう。コトネと違って随分成長しているな・・・。思春期だから仕方ないよな。
俺は女性の横に居た二体のオークの間に入り、両方の胴を斬り裂いた。
さらに後ろに居たオークをこん棒ごと斬り下げた。
女性の方を見るとオークのこん棒を剣で受けているが、今にも押しつぶされそうだ。
オークの後ろから突きを放ち、最後のオークは魔石を残して消えた。
周囲を警戒して敵が残っていないのを確認した。もちろん魔石は回収させてもらった。
兵士が4人と御者が倒れており、生死を確認していると後ろから声が聞えた。
「おい、お前は誰だ」
さっきの半裸の少女だ。歳は俺と同じぐらいかな?
「私は隣のイエーガー男爵家の三男、レオンハルトです」
馬車がそこそこ立派なので直立してちゃんと挨拶した。
「首狩りの息子か。こいつらを治せるか」
俺の父親の二つ名を言った。
「ポーションは無いのですが、今日取った薬草はありますので試してみます」
「エリーゼ=ヴァイヤールだ。頼む。それから加勢感謝する」
そう言うと馬車の中に入って行った。もう少し見ていたかったが・・。
ちょうどコトネが来たので、馬車の荷台からいかにも降ろすふりをして、収納から薬草を出した。
「手分けして治療するぞ。アンナ、お前も出来るか?」
「はい、やったことがあります」
コトネとアンナが倒れた人に駆け寄って行く。
まあ、オークは武器と言ってもこん棒ぐらいだ、死んではいないだろう。
・・・さっきの女の子ヴァイヤールって名乗らなかったか?王国と同じ苗字、もしかして王族?
「レオン様も手伝ってください」
「解ってるよ」
呆けているように見えたのか、コトネに怒られる。
<馬車の中のエリーゼ>
いつの間にか雇っていたメイドは逃げてしまったので、エリーゼはさっき脱ぎ捨てたドレスを自分で着直しているだが、自分の気持ちに驚いている。
レオンハルトと名乗った少年を思うと鼓動が速くなる。
まるで物語に出てくる英雄のような少年。
凛々しく、逞しく、それでいて優しそうだ。
それが初恋とは知らないエリーゼは少年の扱いをどうするか悩むのだった
馬車の外に戻って・・全員、命に別状は無かったが、動けそうなのは最後まで戦っていた兵士ぐらいだ。
流石に薬草で骨折や深い傷は治せないので、きちんとした治療を受けさせる必要がある。
馬車の扉を開けて、ドレスに着替えた私が降りた。少年がすこしがっかりした顔をしている。
<レオン視点に戻る>
「ご苦労様。様子はどう?私は急いで王都に行かねばならないのよ」
言葉遣いが変わったな。これが地かな。
「馬は大丈夫なので馬車は動きますが、動かせる人と護衛が居ませんね」
「それとエリーゼ様は王族でいらしゃるのですか?」
「ええ、第七王女です」
やっぱり王族かよ。大変なことに巻き込まれたな。
「私は何とか動けます」
最後の兵士だ。しかし足を引き摺っている。
「駄目です。お前は怪我をしていますね・・」
エリーゼは暫く考えていたが、良い手を思い付いたらしく、左手の手のひらを右の拳で叩いた。
「レオンハルトと言いましたね。お前を雇います。王都まで護衛しなさい。それとメイドが逃げちゃったからあなたの小間使いも貸してほしい。ちゃんとした礼もしないといけないし、王都まで来てくれるとうれしい」
ええー、流石に王都は勘弁してよ。学校に行けなくなる。
「はい?・・私はテレジアスで学校に行こうと思っています」
俺は経緯を説明して王都に行けないと言った。
「構いません。私もアリストス学園の中等部を受けることにしています。あなたもそうしなさい」
「でも私は受験資格がありませんし、王都に滞在できるだけのお金がありません」
受験資格を取るためにテレジアスに行こうとしていたんだ。
「私が何とかします。私もあまり時間の余裕が無いのです」
ここから辺境伯に護衛の都合を着けて貰うのに、テレジアスに向かうと往復で二日余分にかかる。余分は三日ほどしか見ていないので、何かあれば遅れてしまうとのことだった。
何でこんな時期に辺境まで来たのかと聞いたら、祖母(王の母親)がここの出身で体調が悪くなって、この先の湖にある別荘で静養しているらしい。その祖母が王に誰も見舞いに来ないと怒ったので、末の娘のエリーゼが見舞いに行くことになり、その帰りに魔獣に襲われたそうだ。
「七女で側室の腹だとこんな扱いよ」
エリーゼはふくっれ面で言う。
「しかもおばあ様は父上と御后様の愚痴しか言わないし、丸二日愚痴を聞かされた身になって見なさい」
俺に怒ってもと思ったが、護衛の兵隊もお世辞でも精鋭とは言えない人達だったしな。あまり大切にされてないのは解る。
仕方なく、中等部の入試を受けさせると証書を書いて貰い、護衛を引き受ける。
まあ、本当に中等部の試験を受けさせてもらえるなら万々歳だけどな。
なんかエリーゼが顔を赤くして高揚しているようだが、戦いの余韻だろうか。
俺の馬車は新品の値で買い取ってもらい、それでけが人を近くの村に運んでもらうことになった。
「レオン様良かったのですか」
馬車にけが人を乗せていると、コトネが寄って来て耳打ちする。
「本当なら良い話だし、断ると王族だけに後が怖い」
俺は小声で答える。
御者席にコトネとアンナ、馬車の中に俺とエリーゼが乗って出発した。
俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「なぜ、あんな格好で戦ったのですか?」
「あれはスキンアーマーと言う魔法で、肌の表面に障壁を作る物で、肌に直接張らないと効果が半減する。だから出来るだけ肌を出す方が良いのです」
「では、なにも着ない方が強いのですか?」
「それはそうだけど・・・」
顔を赤らめて俯いてしまった。ちょっとまずかったかな。貴族の女性は羞恥心が強いのだろうか。
「エリーゼさまのような美しい方の肌を見れたのはついてました」
更に赤くなって顔を手で覆ってしまった。さらにやばい事を言ってしまったようだ。
どうしたら良いか全然わからない。農夫の娘と話すみたいにはいかない様だ。
「申し訳ありません。同世代の貴族の女性と話すことが無いので、どう言ったら良いか判りません」
正直に謝るしかないなと思った。
「忘れて!馬車の中で兵が倒れて行くのを見て、必死になって着替えたのに」
ようやく復活したエリーゼがそう言った。
「ごめんなさい」
俺は小さくなる。
「ところでイエーガー家の三男はミソッカスだと聞いてたけど、強いのね」
「うちは兄二人と姉がとんでもないので、比較されればミソッカスと言われても仕方ないですね」
「そうだね。噂でよく聞くよ。あんたのお兄様方の話」
「まあそう言うことです」
俺の噂を王都の王女様まで知っているとは思わなかった。ほとんどは兄達のすごさのせいだ。
行商人が持ってくる話は、下の兄が近衛兵の中で片手で数えられる強さだとか、姉が訓練場の壁を壊したとか聞こえてくる。流石に文官の上の兄の話はあまり聞こえてこないが、それでも王太子に気に入られているらしい。
「でもレオンは強かったよ。私はあなたに勝てる気が少しもしなかった」
「そうですか?あなたも強かったと思いますが」
「それは一体目はほとんど奇襲のような物で、次はどうしたら良いのか分からなかった」
「それは場数を踏んでないだけで、慣れれば相当に強いと思います」
「そうかなあ、レオンの方が相当強いと思うけど??」
エリーゼは俺の事を気に入ってくれたようだ。まあ護衛に選んでくれるくらいだからな。
あっ、あのこと聞いておかないと。折角王都に行くんだからな。
「あの、声を落としてほしいんですけど。ウエルフェルトって村を知ってますか?」
アンナは耳が良いから気を付けないと。
「ああ、知ってる。最近魔獣に襲われた村よね」
やっぱり本当の話なんだ。
「もう少し小さい声でお願いします。それで被害はどうなんでしょう?」
「全滅したって聞いてる」
「生き残りとかはいませんか?」
生き残った人はどうしているのか?
「さあ、聞いたことはないけど。それがどうかしたの?」
「あの狐人の子供が生き残りらしいんです」
「うん?どうしてウエルフェルトの生き残りがイエーガー領に居るんだ?」
俺は次元収納の事を隠してアンナとの出会いを話した。
「ダンジョンか。やはり魔人がいるか?」
「ミラが魔人なのかは分かりませんが、魔界との通路と言う話は、信じられるようになりました」
ミラの話は親父には信じて貰えなかったようだが、エリーゼは信じてくれたようだ。
俺はアンナが魔界を通ってイエーガー領に来たと思っている。
「ウエルフェルトの話は、アンナには内緒にお願いします」
「解ってる。言えないよ。王都に着いたら調べて貰いましょう」
「ありがとうございます」
アンナの親が生きていてくれるとありがたいんだが。
王女様を王都に送る。学校はどうなるの。