2-11 三男坊 教祖に会う
グリフィンに教えて貰った場所に行くと女性がいた。
俺が王都の南の山脈で、錬金術師アキラに頼まれた雪代松の花を採取していると、ぬえと呼ばれる幻獣が現れた。
ぬえを従者にして採取が終わった時、幻獣グリフィンが現れた。
精霊、幻獣、獣人を集めた俺が何者だというグリフィンの問いに戸惑いながら答えた。
「彼らは行き当たりばったりで集まったので、俺の意志は働いてない。俺自身そんなことを聞かれても解らないんだ」
「無自覚に集まったというのか?!」
グリフィンは驚いたようだ。鷲の顔では表情の変化は解らないが・・。
「しかし、集めたと言うことは将来何かをするつもりなのだろう」
そう言われてもなあ・・。
「今は俺を縛る枠を壊すために力を付けようとしているだけだ」
「お前はいずれ大きなことに向き合い、それを乗り越える運命を持っているように思う」
どういうことだ?もっとはっきり言って欲しい。
「そんな抽象的に言われても解らない。なにか具体的なことはないのか?」
「私にはお前に満足できる答えを紡ぎだせそうもない。だが一人答えが出せそうな人間を知っている。そいつの所に行って見ろ」
グリフィンはそう言うとゴロの額に指を伸ばした。
「行くか、行かないかはお前が決めろ。場所はゴロに教えた」
そう言うと北に向いて飛んで行った。
俺はどうすれば良いか悩んだ。運命と言われても何も響かない。この上あれをやれとか言われてもなあ。
「レオン様、騙されたと思って行ってみましょう」
コトネが進めてくる。
『御主人が自由になって何をするのか決まってないなら、選択肢として聞いても良いのではないか』
「私は主が決めれば良いと思う」
ロキはコトネと同じ、ノルンは俺に任せたという事らしい。
「アンナはどう思う」
アンナも仲間だ。彼女も経験を積んできた。そろそろ意見を聞いても良いだろう。
不安そうな顔をして彼女は言う。
「アンナは一緒に行きたい。留守番は嫌」
ウーン、白百合荘の事件の時、置いてきぼりにしたからかなあ。
「大丈夫、一緒に連れて行くよ」
「じゃあ行く」
論点がずれちゃったなあ。仕方ない。
「じゃあ行くか。今日は遅いから明日の朝な」
ノルンに場所を探して貰って、俺が整地して小屋を出した。
「主殿、そのだな。私も小屋に入れてくれんか?」
ノルンが恐る恐る聞いてくる。
「ああ、いいぞ」
ノルンも大勢で暮らし始めて、なるべく皆と同じ場所に居たいのだろう。
魔力を抜いてゴロと同じくらいの大きさにする。
ちょっと待てよ。帰ったらゴロをどうする。まさか寮に置いておくことも出来んぞ。
ゴロは小屋の中でアンナと仲良く遊んでる。今更置いて行くとも言えないし・・・。
いきなり手を引っ張られた。
「レオン様どうされたのですか?!」
小屋の扉の前で、呆然と立つ俺を心配して、コトネが声を掛けたのだった。
「いや、ゴロを連れて帰っても寮で生活させられないだろ。どうすれば良いか考えていた」
「そうですね。ゴロが見つかれば、幻獣は珍しいですから大騒ぎになるでしょうね」
コトネはこんな時も冷静だ。
「大騒ぎになれば、俺の秘密も危ない」
「そうですね。・・・では明日伺う方に相談すればどうでしょう」
「そうだな」
幻獣も精霊と同じで食事は要らなかった。魔力と霊力、そして僅かに精神エネルギーを摂取すれば良いそうだ。
ノルンとゴロの寝床は、藁で作ってやった。ゴロは娘達とはしゃぎ過ぎたのか、すぐに眠った。
俺達もいつものルーティンをやって眠りについた。
次の日、俺達はゆっくりと準備をして、あまり早く相手方に着かないように調整して出発した。
その場所は山脈の東の麓にあった。ここからだと辺境伯領の宿場町が近いが、それでも数十kmは離れた人外境である。
目標の小さな庵を見つけたので、ノルンに近くに降ろして貰う。
多くの人数で押し掛けると失礼に当たると思って、俺一人で尋ねることにした。
庵の扉の前に立ったが不思議と生活臭と言うものがしない。人間と言っていたし、アンナも魔力の大きめの人が居ると言っていた。
考えていても仕方が無いので、扉をノックして自己紹介をした。
「私はレオンハルト=イエーガーと言います。グリフィンの紹介で、相談に乗って頂きたく参上いたしました」
庵の中から声が帰ってきた。
「人間かい、豪く久しぶりだ。まあ入んな」
俺が扉を開けて中に入ると女性が座っていた。女の顔は暗くてよく見えないが、体には薄い布切れを纏っただけで、胸の半分と太ももが丸見えなのが解った。
「何だい子供じゃないか。私はヤヌウニと言う。何の用だい」
ヤヌウニってどこかで聞いたような・・・?
「ヤヌウニさん、俺は将来に向かってどう行動すれば良いのかが解らない。教えて欲しい」
俺は獣人の少女二人に幸せな人生を送らせたいこと、獣人差別の事、両親との確執などこれまでの事を話した。
「ふーん、・・・今のあんたの力じゃ何にもできないよ。周辺国の実情を調べて、父親に勝ったらまたお出で」
やはり今の段階では何も出来ないか。ならもう一つ。
「もう一つ、この山で幻獣を従属させたのですが、連れて帰ると大騒ぎになって、自分が身動きできなくなると思うのですが、どうしたら良いでしょう」
「あんた、秘密が多そうだからね。そうさな、あんたの秘密を知っている、外部の人間がいるだろう?そいつに頼りな」
アキラさんの事か。頼んだら場所を貸して貰えるかな?
「ありがとうございました」
「ああ、外で待ってる獣人や精霊をここに呼んでおくれ。ここにはグリフィン以外来ないから、たまには他の者と触れ合いたい」
「はい」
顔を上げると目が慣れたようで女の顔がはっきり見える。歳は二十歳前に見える美しい少女だ。
コトネ達を呼ぶと嬉しそうに近くに呼ぶ。ノルンも黒鷲のまま小さくした。
コトネとアンナの話を熱心に聞いているヤヌウニさんは、善良に見えるがどういう人なのだろうか?
『御主人!』
突然、ロキが話し掛けてくる。
『この話はご主人にしか聞こえていない。あの女は人間じゃない。精霊だと思う』
ロキは俺とロキだけの念話と断って来た。声を出して他の者に気付かれるなと言うことだ。
ゴロの時は油断して漏れてしまったからな。
『なぜ、そう思う』
俺もロキに集中して念話をする。
『まず、あれは肉体ではなく、魔力で作られたものに過ぎない。そしてその魂はかなりの歳を過ごしている』
まあ、グリフィンに紹介されたことで、見た目道理ではないと思っていたが、精霊とはな。
『しかし、彼女は本質は善良だと思う』
『うむ、それはわしもそう思うが、油断はせぬ方が良い』
『分かった』
コトネ達に何かあったらすぐに間に入る。と念じていると一式が使えることに気が付く。
外気功の戦闘術である一式”隼”は慣性を取り去って、いきなり最高速で移動できる瞬歩とか縮地と言われる術である。
魔人のミラの”ブースト”でようやく使えるようになった術なのだが、今の俺はブースト無しで使えるようになったようだ。
そう言えばゴロを従属させた時に、何か感じたがあれがそうだったのか?。
二式も使えるのだろうか。念じてみるが使えるような感覚はない。そんなに都合よく成長はしないか。
「・・・ン様!レオン様!聞こえないのですか」
気が付くとコトネが目の前で心配そうに立っていた。
「悪い、ちょっと考え事をしていた。どうした?」
「ヤヌウニさんが呼んでます」
「レオン殿は油断しすぎだ。私がこの子に悪さでもしたらどうする」
にこやかにしているアンナの頭を撫でながらヤヌウニさんが言う。
ロキに油断するなと言われたばかりなのにな。
「なんでしたか?」
「この子の中に居る精霊が、私を探ってくるのをいい加減に辞めさせてくれないか」
アンナの頭を撫でながら言う。
「ロキ!やめろ!」
ロキは静かになった。
「それで私が何者か分かったのかな?」
「ロキ、その子の中に居る精霊は、精霊だと言っていましたが」
「君は違うと思ってると?」
「そうですね。グリフィンは人間と言ってましたし、アンナの様に精霊を取り込んだ人間が、肉体を失ったのかなって思ったんですけど」
「おお、ほぼ当たってるぞ。今まで私の話をまともに聞いてくれる人間は居なかったが、君なら聞いてくれそうだ。聞いてくれるか?」
そう言ってヤヌウニさんは俺の方に寄って来た。そう言えばヤヌウニって名前は・・。
「ヤ、ヤヌウニさん、見えてます。隠して」
勢い良く立ち上がったので纏っていた布がパラっと落ちた。俺は目を右手で覆って、左手でヤヌウニさんを制した。
コトネが慌ててヤヌウニさんの前に立って恥ずかしい部分を隠す。アンナが落ちた布を拾ってコトネと二人で何とか隠せた。
「レオン様、もう大丈夫です」
コトネの言葉に従って目を向けると、布を治して貰ったヤヌウニさんが居る。
「私の半生を聞いてくれるか。誰も私を知らん、そんな孤独を本当に長い間味わってきた。君に話すことで随分孤独が薄まると思うのだ」
そう言うとこちらに何も言わせずに語りだした。
要約すると
今からはるか昔に精霊に憑依された少女は、秀でた治癒魔法を使えるようになった。
少女の周りには少女を神とあがめる人たちの集団が出来始めた。
そこで少女は人々に争わぬことや平等を説き、やがて集団をまとめる者が現れ、更に大きな集団となった。
集団が出来て100年が経った頃、すでに集団は施政者と結びつき、少女の理想と違う方向に向かい始めた。
少女が集団を離れる決断をすると集団の代表に暗殺された。
少女は暗殺された肉体を捨てこの庵に隠れ住むことにした。
「やっぱりヤヌウニさんはヤヌウニ=クラウスだったのか」
「私を知ってるの」
「今から千年前に金字教を作ったのはあなたですよね」
「ええ、千年も経ってるのぉ」
次回、錬金術師と食事します。




