0-3 三男坊 のんびり旅をする。
テレジアスに向け薬草を採ったり、夜営をしたり、のんびりと旅をする3人。
自分の将来を守る為、家を出たレオン。子供二人とのんびり旅をします。
馬車で領主館を出てから約三時間、ごつごつした岩が地表に出ている場所に来た。
「ここらなら人もいないだろう。アンナ、馬に水と餌をやってくれ」
「どうするんですか?」
「ああ、馬車の荷物を軽くするのさ。お年寄りの馬だから労わらないとな」
俺は馬車の上の荷物を収納に入れて行く。収納に入れた物の重さは無くなる。
馬車の上には水の樽だけになった。
アンナは水をバケツに移し替えて、馬の前に置いた水桶に入れている。
コトネは馬車の具合や馬の蹄を確認している。
コトネはアヤメさんに家事全般、その他雑事を徹底的に指導されている大人顔負けの小間使いだ。
俺は適当に空の木箱や空の樽を馬車の上に並べる。欺瞞工作だ。
「俺達も腹ごしらえするか」
「手を洗ってください」
「アンナ、一人で洗えるか?」
「うん、大丈夫」
アンナは狐の獣人だ。鼻、目、耳の感度が良く探索に向いた種族と言われる。
獣人は軍事目的でこのヴァイヤール王国に多数入植している。
従順で戦闘力の高い犬獣人や目が良く夜戦能力が高い猫獣人が多いので、狐獣人は少数派と言えるだろう。
30年前に起きた王都付近での魔獣の大量発生や20年前の王位簒奪の内戦の活躍を経ているので、一般市民は獣人に対して強い差別はしていないが差別意識があるのは間違いない。
昼飯はご飯を三角に整えたおにぎりと言う食品だ。
これはヨシムネ先生が持ってきた米と言う小麦に似た作物を加工したものだ。
小麦に比べて調理の手間が少なく、炊くだけで食べられる。
作るには田と言う浅い池を作る必要があるので、作物としての手間は小麦より多い。
イエーガー領には湿地帯も多いので米の生産を推奨している。
「アンナ、おいしいか?」
「うん、おいしいよ」
アンナのほっぺに着いたご飯粒を取ってやる。
「レオンハルト様」
「レオンで良いよ」
「レオン様、男爵様はよくテレジアスに行くことを許してくれましたね」
コトネが不思議そうに聞いてくる。
「父上はね、本当は俺を外に出したくないんだ。でも男とか冒険とか胸熱なことを言ってやると大概の事は許してくれるんだよ」
おやじ・・父上は情に脆く、強度の脳筋だ。俺が討伐や採取をして、金を稼ぎながら学校に通うと言ったら感動して涙を流しながら、馬車まで用意してくれた。まあ、金は出してくれなかったけどな。
馬車はアンナが居るから有難かった。
「よく分かりません」
「そうだろうな。母上にはこの手は全然効かないからな」
「男だけに効くのですか」
「男って言っても効かない男もいるぞ。上の兄上は沈着冷静だから絶対に効かない。男のロマンって奴が解らないとな」
「レオン様はコトネをからかっているのですか?」
「違う違う、大真面目さ。コトネもそのうち解るよ」
「レオン様、あちらに魔力を感じます」
アンナが奥の林を指差している。
俺はアンナに魔力の溜まっている所を見つけたら、教えてくれるように頼んでいた。
「よし、コトネは馬車を見ていてくれ。俺とアンナで行ってみる」
地面から魔素が発生して魔力が生じる場所を魔力溜まりと言う。
魔力溜まりにはいろいろな植物が、魔素を取り入れ薬草となる。
薬草を錬金術師が薬効成分を抽出して、傷薬や解熱剤などのポーションを作る。
つまり薬草を交換所に持って行けば金になる。金を持っていない俺達はそうやって稼がなければならない。
魔力溜りからはまれに魔獣が発生することがあるので、一応周囲は警戒して置く。
あるある、大量の薬草が直径十m位の場所に密生している。こんな辺鄙なところに薬草を探しに来るもの好きは居ないから取り放題だ。
薬草は摘んでから時間が経つと魔素が抜けて、薬効成分が消えていくのだ。こんな辺鄙なところでは、交換所まで持って行くまでに薬効が無くなってしまうと言う訳だ。
その点俺は次元収納庫を持っているから、時間経過が無いので、いくらでも貯めて置ける。
ふとアンナを見てみる。一心不乱に薬草を摘み取っている。
この子は俺とコトネ以外とは話さない。故郷が魔獣に襲われたショックなのか精神が不安定だ。
ダンジョンに居た女ミラの事も聞いてみたが何も知らなかった。気が付いたらダンジョンに居たみたいだ。
今みたいに仕事を与えてやると元気になる。
「アンナ、いっぱい取れたな」
「うん」
ニパッと笑う。やはりアンナは笑顔が可愛い。
取れた薬草を確認して収納庫に入れる。
俺達はまた馬車に乗った。
夕方まで移動して日没前に夜営地を決める。
ここまで一切人と会ってない。イエーガー領に向かっている人は、一人もいないのである。
イエーガー領の見通しは暗いと言わざるを得ない。
俺達は夜営の準備を始める。
と言っても動くのは俺だけだ。
まず地盤の良さそうな場所を探す、要らない土や石などを収納に入れて平らにする。
土台になる石を置く、トイレの穴を掘る、収納から家を出して置く。これで終わりだ。
材料は村の要らない小屋を貰って家を作った。
間取りは入ってすぐの部屋の中央に小さなかまどがあり、煮炊きや暖房に使える。
奥に寝室があり、その隣がトイレだ。
トイレの外には馬小屋があり、オオカミなどの害獣から馬を守れる。
馬車は収納に入れた。
コトネは早速、ご飯を炊き始める。
マキは休憩中に集めた。マキは一応収納にも入っているが、街に着いてからでは購入しないと手に入らないだろうから節約が必要だ。なにせ金が無いのだ。
ご飯が炊き終わったら残り火で湯を沸かしながら食事をする。
残ったご飯は収納に入れ、明日の朝昼食に使用する。
桶に水を入れて、湯で温度を調節する。
各人素っ裸になって湯で体をぬぐう。
コトネもアンナもまだ子供なのでドギマギはしないが、学校にいる間は一緒に暮らす予定だ。
イエーガー領の農婦は羞恥心があまりない、そこらの川で水浴びしている姿をよく見た。
大人の女性に比べればコトネの胸や尻はまだ薄く、これからだななどと思っていた。
「あまり女の裸を見るのははしたないですよ」
「レオン様のエッチィ」
「ああ、ごめんね」
俺はあわてて後ろを向いた。笑い声が聞こえる。からかったのか?
みんな寝巻に着替える。
コトネが俺達の肌着を洗濯する。アンナは残った湯を瓶に入れ、湯冷ましを作り、明日の飲料水にする。
大きなベッドが一台しかないので三人が川の字になって寝る。
次の日の朝、またテレジアスに向けて出発だ。
「レオン様、レオン様は勉強をして、やりたい職業とかあるのですか?」
「まだ決めてない。と言うか、将来何かをするための器づくりとして学歴が居る」
御者をしながらコトネが質問したので、俺も真面目に答えた。
やりたいことが見つかっても学歴が必要なこともあるだろう。
それに学歴があればそれなりの評価は貰える。
俺はコトネの過去を知らない事に気が付いた。この際聞いておくか。
「コトネ、話したくなければ答えなくて良いけど、お前はなぜヨシムネ先生と居たんだ?」
「売られたんですよ。もちろんヨシムネ様が買ったわけじゃないですよ」
この国では人の売買は一応禁止されている。
「私の村がはぐれ魔獣の群れに襲われて、居合わせたヨシムネ様に討伐を依頼したのです。
ヨシムネ様は魔獣を討伐したのですが、依頼金が不足して、村長が孤児の私を差し出したのです。
ヨシムネ様はこのまま村に置いておいても私の為にならないと判断して、引き取って下さったのです」
コトネにも悲しい過去があったのだな。
難しい顔をしている俺を見てコトネが言った。
「私はヨシムネ様に引き取って頂いて幸運だったと思っています」
「そうか」
少し安心した。
「ヨシムネ様とアヤメ様はいろいろなことを教えてくださいました。家事、読み書き、計算、剣術、格闘術、閨房術などです」*(閨房術=夜の寝台上の技術)
ケイボウジュツ、警棒術かな?
「へえー、剣術や格闘術も習ったのか。強いの」
「さあ、アヤメさんには一回も勝てませんでしたし、でも身体強化レベルは5です」
「俺より全然強いじゃん」
「いえ、レオン様には勝てないと思いますよ」
「そんな事無いだろ。俺はレベル1だぜ」
「あまり、レベルは関係ないかと思います」
そういや俺ってヨシムネ先生とアヤメさん以外とは稽古したことないんだよな。家の人達はレベル1って馬鹿にして相手してくれないから。
俺達は辺境伯領に入ったところで昼食にした。
昼食後、俺とアンナは近くを見て回ったが魔力溜りは無かった。
またテレジアスに向かい進み始めた。
一時間ほど進んだであろうか。
「レオン様!!血の匂いがします」
荷台に居るアンナが前を指差した。周りを警戒しながら進んだ。
「音がします!誰か戦っています」
アンナが叫んだ。
次回、進行方向で戦闘が!?レオンが走る。