2-3 三男坊 新たな魔法と魔人の来訪
教会で聖女候補ジュリアと会った後、寮に居たアンナは懐かしい魔力を感知した。
俺は教会の少女に会い、興味本位で教会に行くことにした。エイトとエリーゼを連れて教会に着いた。
俺達は門でジュリアを呼んでもらうように交渉した。門番の一人が神殿に走る。
本来、礼拝堂までは一般人も入れるらしい。
庭を見ると神々の彫刻で囲まれた池があり、多くの人が小銭を放り込んでお祈りをしている。
「あれは何ですか?」
残っている門番に聞くと小銭を池に放り込んで願い事を言うと叶うらしい。あくまでもらしいだ。
暫くするとジュリアが走って来た。学校の制服ではなくゆったりとしたローブ姿だ。
「お待たせしました」
思い切りの笑顔だ。いつもの二人は居ない。
「楽しそうだね」
礼拝堂に向け歩き始めたので聞いてみた。
「私達って友達を作る機会って少なくって、今日はお友達が出来たみたいで嬉しいです」
「君達って同年代の修行する人っていないの?」
「居るんですけど。厳しい競争になるので、気を許せないんですよね」
「大変だね」
「はい」
彼女の眼には涙が見えた。
「済みません。優しい言葉をかけて貰う事って無くって」
相当修業がつらいらしい。
俺には無理だな。早々に聖職者の道を諦めた。興味のない事でつらい思いはしたくないのだ。
礼拝堂では神様の由来やらお祈りの仕方などを教えて貰った。
一応、聖職者のなり方を聞いたが元々の聖職者の家に生まれないと無理みたいだ。
例外は治療魔法が使えること。まあ、ほぼ強制的らしい。
「レオンハルトさん、少しお話を聞かせてください」
「申し訳ないですけど、あなた達はここで待っていてください」
俺だけを礼拝堂の隅っこに引っ張って行った。無論、エリーゼは大いに不機嫌になる。
「あなたの周りに精霊様が居ますね?」
いきなり言われた。ロキの事かな?
「居たらどうするんだ」
「精霊様は神に通じるので、もし話が出来るのなら嬉しいのですが」
アンナとは離れているがロキと話が出来るのか試してみた。
『ロキ、聞えるか?』
『御主人か、アンナと離れてるからしんどいのじゃが』
『後で貯めてある魔力を好きなだけやるから』
『分かった、何をすればいいのじゃ?』
『ちょっと待ってくれ』
ジュリアは首をかしげて不思議そうにする。
「今、精霊の気配がしました。呼んでくれたのですか」
「話をさせたら、何をしてくれる?」
俺は報酬を要求した。
「私に出来ることなら」
「じゃあ、治療魔法を見せてくれ。魔法陣だけで良いから」
ジュリアは少し考えて言った。
「分かりました」
『ロキ、俺の目の前の少女と話せるか?』
『うーん、感度は良さそうじゃから何とかなるかな。両手を繋いでくれ。抱き合っても良いぞ』
『エリーゼに殺されるよ』
「両手を繋いでくれ」
俺はジュリアに両手を出す。
俺達は向きあって両手を繋いだ。
『娘よ、わしに何が聞きたい?』
ロキが話し掛ける。
「精霊様ですか?」
『多分そうじゃと思う。良く分からんのじゃ』
「精霊様は何処でどうやって生まれたのですか?」
『わしは狐獣人の信仰する山に生まれた。多分狐獣人の祈りが具現化したのではないかと思う』
「獣人が精霊様を産んだのですか?」
『まあ、そうなるな』
「精霊様とレオンハルトさんの関係は?」
『秘密じゃ。レオン殿に迷惑が掛かる故な』
「精霊様は何が出来るのですか?」
『何も出来ん。ただ長くこの世に居るから、レオン殿に色々教えることは出来る』
「精霊様は神と触れ合ったことはありますか?」
『さあな、神という存在は感じたことが無い』
「ありがとう‥御座いました」
ジュリアは額に汗をかきかなり消耗したように見える。
「このことは人に言わないようにして。まあ、誰も信じてくれないと思うけど」
俺はジュリアの手を離し、そう言った。
「分かりました。良い体験をさせていただきました」
「あ、治療魔法でしたね。ちょっと待ってください」
「疲れてるなら後でもいいぞ」
「大丈夫です魔法陣だけなら魔力はほとんど使いませんから」
ジュリアは両手を前に出し何やら唱え始めた。
両手の先に魔法陣が描かれていく。
「これが治療魔法の魔法陣です」
「消すぞ!」
魔法陣を収納庫に入れると魔法陣はスッと消える。
「あ、」
「俺は魔法をキャンセルできる。まあ、近くに居ればだが」
治療魔法ゲットだぜ!
俺達はエリーゼ達の所に戻った。
「何をしてたのよ」
早速エリーゼが絡んで来る。
「ウエルフェルト村の話です。ちょっと外に出せない内容ですので」
「そうなの」
まあ、嘘ではないよな。
「でも魔法陣が見えたわ」
「話のお礼に治療魔法の魔法陣を見せて貰いました」
「あんた、魔法式や魔法陣の研究してたもんね。そんなもの見て何が嬉しいんだか」
横でエイトが暇そうに欠伸をしている。こいつは興味のない事がはっきりわかる奴だな。
「あの、済みません。あなた達とお友達になりたいのですけど、いけませんか?」
「いけなくはないけど。あなたの御付きがかなり嫌がるんじゃなあい」
「そうですね。私は聖女候補生なので自由には出来ませんでした。変なことを言ってごめんなさい」
へえー、聖女って役職があるのかあ。
「ねえ、聖女ってどんなことするの?」
ジュリアは下を向いて言った。
「済みません。詳しい事は言えないんです」
「お前達!、何をしている!!」
いきなり叫ばれた。キャミールとか言う奴だ。
「ジュリア様、もうお祈りの時間のはずでは?」
俺達とジュリアの間に割り込んだキャミールは、有無をも言わせずその手を掴んだ。
「君達どいて下さい」
キャミールは手で俺達を退けるとジュリアを引っ張って行く。
「済みません。折角来ていただいたのに・・・」
俺達は暫く呆然としていた。
「あの娘、謝り通しだったわね」
「聖女と言えど楽しい職場ではなさそうだね」
「帰りますか」
「そうね」
その頃、学生寮ではコトネとアンナが自炊用のかまどで昼食の用意をしていた。
屋外の寮から少し離れた場所に寮生の自炊用のかまどがある。使用料はマキを買うことによって支払われる。基本、苦学生用なので使用料は安い。昼、長期の休みなど寮の食堂が使えない時に使用を許可される。
朝早くからエリーゼ様が来たのでレオンは朝食を食べていない。美味しい昼食を食べて貰おうと二人は頑張っている。
「ねえアンナ、今度のお休みはレオン様に市場に買い物に連れて行って貰おうか?」
そろそろ買い置きの食料が切れて来た。私達だけで行けると良いのですが、子供二人では危ないと言われているので行けない。かまどの火を見ながらそんなことを考えていた。
うん、アンナの返事がない。
顔を上げアンナの様子を見るとあらぬ方向を向いて集中しているようだ。
先ほどより少し大きい声で呼びかけてみる。
「アンナ!どうしたの!」
アンナは呼びかけられたことに気付いたようでコトネを見た。
「前に感じた魔力が近付いて来てるの」
コトネはアンナが何を言っているのか良く分からない。アンナは魔力の探索能力が秀でているが、魔力が近付いてくるとは、どういうことなのか?レナさんか、レオン様のお母さんが来るのか?
「イエーガー家の人が来るの?」
「ううん、違う。多分、私を助けてくれた人」
そんなのレオン様以外知らない。あ。
「もしかしてダンジョンに居た人?」
「うん、そうみたい」
普段の警戒していないアンナに感知できるなんて、並外れた魔力量なのだろう。
「どれくらい離れているの」
「5,600m位、多分歩いてる」
恐らくアンナを目指して近付いてる。そんな魔力量なら戦いになればコトネでは歯が立たないだろう。
コトネは諦めた。こんなに離れてるのに、アンナを感知してるだろうから隠れても無駄だ。
「出来ればレオン様が居る時にして欲しかったわ」
昼食の準備を続けながらコトネはぼやく。
「大丈夫だよ。私達を傷つけたりしないよ」
「だと良いけど」
それから数分。ロキが急に話し出した。
『来たな。わしでもわかるぞ。これは魔人じゃな』
「魔人って、どういう人」
『ダンジョンの向こう側に住むと言う、魔法に秀でた人類と言われて居る』
「まあ、アンナの恩人なら歓待しないとね」
コトネはロキに自分の行動を確認するように話した。
やがて近付いてくる少女が見えた。顔の下半分をマフラーのような物で覆っている。
まだ残暑が残る時期だと言うのに・・・コトネは思った。
「アンナちゃん、元気してたあー」
その少女はいきなり軽い挨拶をした。
「うん、元気だったよ。この人はコトネさん。私のお姉ちゃんだよ」
「アンナを助けて頂き、ありがとうございました」
コトネは丁寧に頭を下げた。
「コトネちゃんね。私ミラって言うの。あなた達のご主人様に会いに来たのよ」
「申し訳ありません。ただいま主人は外出しており、昼食の時間には帰ると思います」
「あなた、受け答え完璧!まだ小さいのにどーして!!」
コトネの丁寧な受け答えにミラは感動したようだ。
コトネは油断しそうになる自分を引き締めながら言った。
「私はまだ昼食の準備に時間が掛かります。宜しければアンナに主人の部屋に案内させます」
「うーん、可愛い。連れて帰りたいわ!!」
コトネは抱き着かれた。
もう、人の言う事なんか聞いちゃいない。湯を入れたポットをアンナに渡し、部屋でお茶を出すように指示する。
「ミラ様、着いて来てください。部屋まで案内します」
「えー、アンナちゃんお茶なんか用意できるの。凄ーい!」
ミラはアンナに着いて階段を登って行った。
「ロキさん、レオン様の状態解る?」
『今、帰りの馬車の中じゃ。まだ十分くらいかかるぞ。連絡するか?』
「お願いします」
ロキは慌てて帰宅中のレオンに連絡を取った。
寮を訪れた魔人ミラはとんでもないことをレオンに要請する。




