1-12 三男坊 魔法を使う
アンナの騒動で魔法を使えるきっかけをつかんだ俺にアニーが牙をむく。
魔獣退治に来た俺達、先に来ていたパーティと合流して目的の村に着いたが、魔法使いのアニーがアンナを叩いて大騒動になった。
俺とルジータ、ウェインが対峙している。
「とにかく、あんた達のやったことは、この国では立派な犯罪だ。解るな」
「解るが、何とか許して貰えないか。慰謝料と賠償金は払う」
ウェインは何とか大事にしたくない様だ。
「分かった。もう俺達に近付くな」
俺は納得できる金を貰った後、コトネ達がいる方に向かった。
ルジータが俺に何か言いたそうだったが、聞いてやる義理はない。
俺が倒した3人を村人を使って介抱している横を通ったが、すぐに回復しそうな様子だ。
俺は馬の世話をする二人を見て少し安心した。
「アンナ、大丈夫か?痛かったら休んでていいぞ」
「レオン様、大丈夫。もう、痛くないよ」
怖かっただろうに・・。アニーは二人に魔法を撃とうとした。あの時点で二人を殺すつもりだったのだ。
俺は獣人差別の問題を甘く見ていた。まさか好意に殺意で報いるなんて思ってもみなかった。
俺はこの娘達に街で自由に買い物や食事が出来るような社会を夢見ていた。やはり、この国では無理そうだ。
貴族になって深窓で可愛がってやることは出来るだろうが、それが彼女たちの幸せとは思いたくない。
俺達はこの村を早く離れることにして、情報を仕入れる。
魔獣被害はさらに北の方向で起きているようだ。
「まいったな二頭立ての馬車は通れる道が無いそうだ」
ここで馬車を大きくした弊害が出た。
「馬車は収納に入れて、馬で行きましょう」
「それしかないか。尻が痛そうだな」
村を出て人が居ないことを確認して、馬車を収納して、馬に鞍を置いた。
俺は一人、コトネとアンナが二人で馬に乗り、北に向かった。
深く茂った森を北に向かうが魔獣の反応はない。
魔力溜りは時々あるが薬草は摘まれている。
あの村にポーションを作れる錬金術師が居るのも知れない。
「魔法式が解れば魔力を溜めるんだがなあ」
『ご主人、何を言ってる。手に入れただろう』
「ロキか、そんなもんいつどこで手に入れたと言うのだ」
ロキが驚くことを言う。
『これは驚いたぞ。解っててやったんじゃないのか』
「もしかして、アニーが魔法を使おうとした時か」
俺は慌てて収納を覗く。あった。火炎放射の魔法式が。
アニーがコトネとアンナに向かって魔法を使おうとした時、俺は魔法陣を取ろうとした。
消えたように見えたのは俺が収納庫に入れたからか。
「これで俺も魔法が使えるのかあ。」
『これでは一回使ったら終わりだから、これを元に魔法式を書けるようにしないと駄目だ』
成程な。この魔法式を手本に魔法式を書いてストックして置けばいつでも使える訳か。
この時俺は勘違いをしていた。後でとんでもないことになるのだが、今は解っていない。
今日も道から見えない場所に小屋を建てる。収納庫のお陰で地面を平らにするのも一瞬なので、場所を選ばずに建てられる。
一応、奴らが逆切れして襲って来ることも考えて、探索は念入りに行った。
暗くなるまで剣の練習をした後、いつものように夕食、体を拭き、明日の用意をして少女たちは眠る。
俺は、魔法式の複製を始める。始めは手古摺ったが、感覚が解ると三十秒ほどで書けるようになった。
俺は十ほどの魔法式を書いて収納庫に入れる。
空中に魔法式を書いた魔法陣は、そのままでは数分で消えるらしいが、収納庫に入れて置けば永遠に保存できる。
次の日の朝、小屋を収納し、夜営地を元に戻す前に魔法の試射をした。
魔法式を出し、魔法陣にする。そこに魔力を注入するとその結果、つまり火が噴射される。
燃える液体が発射されるようで、地面に落ちてもまだ燃えてる。射程距離は約20m。
破壊力は無いし、延焼に注意しないと。結構使いにくい魔法だ。
また、北に向かっているとアンナがダンジョンを発見した。規模は然程大きくない。前にイエーガー領に出来た奴位だ。
今の俺達なら難しくないだろう。
コトネがメイド服を脱ぐ。
三人で入ってみる。アンナの探索で一階層に居たのはゴブリンが12匹、俺とコトネで一瞬だ。
前衛二人だけなので刀でも邪魔にならない。
二階層にはコボルトと呼ばれる人間と同じくらいの人型魔獣が10匹だ。
主な攻撃方法が爪と牙、間合いを取れば相手の攻撃は届かない。
三階層に降りるとオーク6匹とオーガと呼ばれる身長3mの人型魔獣が1匹。
間合いが遠いので得物を槍に替えるか?コトネは嫌だと言うので、俺だけ槍にすることにする。
入ってすぐに俺がオークを2匹殺す。コトネに後を任せてオーガと対峙する。
オーガもオークも攻撃方法はこん棒だ。まあそうそう当たることはないが、捕まえられると致命的だ。
オーガのこん棒を避けて胸に槍を突き入れる。左手で俺を捕まえに来たので一旦引く。
なかなか深い攻撃が入れられない。
コトネも近付いて攻撃する、相手が捕まえに来る、距離を取るを繰り返しており、致命傷が入れられない。相手が一匹なら捕まえに来た時に逆に回って攻撃できるのだが4匹もいると難しい。
俺は捕まる前に致命傷を入れようと首を狙って槍で斬る。左手が俺を捕まえようと近付いてくる。
首にあたったが硬い、半分くらいしか入らない。俺は捕まえに来た手を蹴って転がりながら距離を取る。
あいつらは致命傷にならない傷は、瞬時に回復するから腹が立つ。
首を落とすか、胸にある動力機関を壊すか、胴体を半分以上斬るかしかない。
オーガと距離を取った俺は、コトネにまとわりつくオークの首を後ろから落とす。
そしてまたこちらに向かってくるオーガに対峙する。
コトネは一匹減ったことで対処に余裕が出来、次々とオークをやっつける。
よし、俺も!内気功のレベルを上げるか。いやそれでは面白くない。
ダッシュでオーガに接近して、振り下ろしてくるこん棒を避けてジャンプ!
奴の左手が届かない場所から、大きく開いた奴の口の中、目掛け・・
「火炎放射!!」
瞬間的に魔法陣が描かれ、口の中に炎が走る。
口から炎を吹き出して苦しむオーガ。胸の急所、目掛けて槍を繰り出す。
声にならない咆哮を上げ、倒れる。
やった!!
ボスを倒したことによりダンジョンが消える。今回はミラは居なかったな。
落ちている魔石を拾い上げる。オーガの魔石は結構でかい。
俺達はその後も魔獣を倒し続けた。
そろそろ始業式も近付いて来たので、帰路に就く。
南下を続けると最初にルジータ達に会った街道に出る。
人が居ないのを確認して、馬車を収納から出して馬に繋いだ。
暫く街道を進むとアンナの耳がピンと立つ。
「前から人が来ます。5人」
「ルジータ達か?」
「この魔力は、多分そうです」
コトネが御者席で振り向いて言った。
「どうしますか?」
まいったな。でも俺達が悪い事なんてこれっぽっちも無い。
「良し、堂々と行こう。俺達が逃げる意味なんかない」
暫く行くと姿が見えてきた。森が切れた場所だ。俺は刀を出してコトネの横に座った。
俺は馬車を降りて警戒する。
「止まらずにすれ違ってくれ」
顔が解るくらい近付いた時に俺は言った。ルジータが何か言いたそうだが無視した。
「分かった」
ウェインさんが返事をした。
俺は彼らの後ろを歩きながら馬車とすれ違うのを確認した。
馬車とすれ違い、十m位離れた時だった。
アニーが立ち止まり振り返って、ニヤッと笑い魔法陣を書き始めた。
「アニー!、やめて!!」
ルジータが止めようとするが間に合いそうもない。
俺は完全な魔法陣を出した。
「え、そ、そんな」
まだアニーの魔法陣は半分も出来ていない。
アニーは尻餅をついてしまった。そして書きかけた魔法陣は消えてしまう。
「魔力を込めようとしたら発射する。行け」
それを見た他の青い衝撃のメンバーが目を見張った。
「あいつ、男の癖に魔法を・・・」
青ざめたアニーが立ち上がり、尻の埃を払い、とぼとぼと歩き出す。
ルジータがこちらに来ようとするがウェインが追いつき、止める。
俺は馬車の後ろで警戒しながら歩く。彼らが見えなくなったころ、馬車に飛び乗った。
アンナが抱き着いて来た。
「怖かったのか?」
「少し・・・」
このアニーと言い、母と言い獣人差別は俺が思っていたよりはるかに深刻だ。
コトネが振り返る。
「アンナ、最近甘えすぎだよ。レオン様、何かあったんですか?」
コトネは御者席に居たから見えなかったんだな。
「アニーが魔法を撃とうとした」
「それでどうしたんですか?」
「俺も魔法を用意したんだ」
「魔法を撃ちあったんですか?」
「いや、俺の魔法はあらかじめ魔法陣が描いてあるだろ。だからアニーが書く前に出来てたから、結構驚いて中断したんだ」
「レオン様は魔法陣を収納庫に溜めてたんですよね?」
「そうだよ。一回描くのに30秒位かかっちゃうからさ」
「それってすごいんじゃないですか?」
「そうだよね。あ、そうだ俺が魔法を使ったことは内緒ね。アンナもだよ」
俺はコトネとアンナに緘口令を引いた
魔法って基本的に魔法陣を描くのに時間が掛かるから、その時間は前衛に守って貰わないといけない。でも俺は事前に書いてあるから時間が掛からない。接近戦で魔法が使えると言うことだ。
父との対決の武器になるかも知れん。
いずれにせよ、この夏休みは獣人差別の現実を知った事と魔法が使えるようになったことが有意義だった。
次回より二年生になったレオンの活躍を描く第二章が始まります。




