16-4 バルドゥオール戦線
ご愛読、ありがとうございます。
今回はバルドゥオール王国の戦いです。
レオン達と悪魔の戦いが始まった。ヤヌウニ達の神聖魔法ホーリーベルと収束ファイアーブレス砲の活躍で、半数以上の悪魔を倒したレオン達は肉弾戦に移行する。
〇カールサイス公国 公都 <ウラノス>
従軍しているヴァンパイア族からひっきりなしに通信が来る。
「獣王国国境での戦闘で敵戦闘機械より魔法光線が発射され、我軍の三分の二が消滅しました!」
「バルドゥオール国境での戦闘で魔法光線により我軍の半分以上が撃滅しました!」
「エドゥアルト国境での戦闘で魔法と思われる攻撃で我軍の半分がやられました!」
魔法光線だとそのような攻撃があるとは、すでに半分以上の味方を失って数的優位もなくなってしまった。
「どうした。不景気な報告ばかりじゃないか」
クロノス様はどういう訳か嬉しそうに言う。
「まだ、こちらの方が有利です。個々の実力は悪魔の方が圧倒的です」
魔法光線を連続して撃ってこないと言うことは、もう打てないのだろう。
悪魔の実力は接近戦なら、下級でもレベル換算で4から5、普通の兵なら1体で10人ぐらいの相手ができる。
できれば増援を出したいが、公都に魔獣が押し寄せている状況ではそれもできない。
「このまま接近戦に持ち込めと連絡しろ!」
ヴァンパイア族に前線への連絡をさせる。
本来なら北のブライセン帝国から同規模以上の悪魔が来るはずなのに・・・。
このまま接近戦なら味方を巻き込むから、もう魔法光線は発射できない。
最悪、上級悪魔も残っている。俺の勝ちだ。
そうなると勝った後の仕置きを考えておかなければ。悪魔共もあとひと月は使えるだろうからカールサイス公国、カールスーリエ王国、ヴァイヤール王国、アルカディア王国、リヒトガルド帝国は行けるだろう。うまくいけばエルフやドワーフの国も手に入れられるか。俺は史上最大の国の皇帝になるのだ。
フフフ、これは笑いが止まらんぞ。
クロノスは一人ほくそ笑むウラノスを冷めた目で見ていた。
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〇バルドゥオール王国 北部国境 <ノア>
私達神狼族の獣化兵部隊は帝国のルードヴィヒ指揮官の要望で、獣王国の戦場からこちらに移された。
私としてはジェリルさんと戦いたかったが仕方ない。こちらにはイエーガー将軍一家やコトネさん達みたいな強い人がいないみたいですから。
私達親衛隊の四人は戦闘経験が豊富ということで、それぞれ50人の獣化兵を率いている。これは神狼族の獣化兵と帝国出身の獣人の獣化兵の混成チームでほぼ戦闘経験がないのだ。それは帝国兵も同じで、せいぜい盗賊との経験ぐらいだ。
空中戦艦ナガトの攻撃で半数以下になった悪魔だが、臆することなく突撃してきた。
時を同じくしてルードヴィヒ指揮官も突撃を命令した。飛び道具が弓ぐらいしかない状況では仕方あるまい。悪魔の皮膚は固い、矢は通るかどうかも分からないし、再生能力もずば抜けているから射る意味がない。
「ウォオオオーン!!」
自然と咆哮が出て、体が熱くなる。私はまごうことなき戦闘民族神狼族の娘なのだ。
すでに変身した200名の獣化兵の先頭を駆ける。すぐさま悪魔の軍団と接触する。
私の双剣が襲ってくる悪魔を次々斬捨てる。ホーリーベルで弱体化している下級悪魔など敵じゃない。
私の眼は周囲の中級悪魔を探す。
仲間達も問題なく下級悪魔を下している。これなら弓矢でも効果があったんじゃないかと思うほどだ。
一般兵も二人ないし三人で一体を相手しており、問題なく相手を下している。
だいたい下級悪魔は武器も持ってない。多分下級悪魔は馬鹿なので、武器が使えないのだろう。
いきなり味方の兵が飛んできた。出たな中級悪魔、あいつらは下級より一回り大きく、打撃系の武器を持っている。この戦場には十体の中級悪魔が居るはずだ。そしてそいつはナガトの攻撃も凌ぐだろうと教えてもらった。そんな奴を相手できるのは私達親衛隊しかいない。
私は近くに居た中級悪魔に対峙した。
いきなり横振りされたいぼいぼの付いた金棒を双剣二本を使って跳ね上げ躱した。
しかし、すぐに戻って来たのには驚いた。なんて膂力だ。
私は一歩下がって避けるしかなかった。向こうのリーチが長いから懐に入らないと攻撃ができない。
その時、相手の後ろから獣化兵が斬りつけた。だが斬れない、固い皮膚に跳ね返される。
そして、悪魔は何も持っていない左手を振り返りもせずに振る。その拳は獣化兵の胸のあたりに当たる。獣化兵は吹き飛んでいく。スキンアーマーのおかげで何とか生きているみたいだ。
私はその隙を逃さず「一式戦隼」で突っ込んだ。悪魔は慌てて右手一本で金棒を振るったが、高い、その下を潜り、二本の剣に思いっきり霊力を込めて、相手の腹に突き通す。悪魔は左手を戻して金棒を振り上げた。
私は剣を持った手に力を入れ、心臓めがけてそのまま斬り上げた。
霊力は分子一個分もない鋭さの刃と化し、あらゆる物を抵抗の無い状態で斬る。
三枚に下ろされた悪魔は再生も出来ずに絶命する。
悪魔の再生を防ぐには首を刈るか、心臓を潰すしかない。
吹き飛ばされた獣化兵の方を確認すると、治癒魔法の魔方陣が見えたので、おそらく味方が治したのだろう。
一般の獣化兵には中級悪魔に触るなと言っておいたのだが、戦場ではなかなか難しいらしい。
流石に中級は強い。しかし私達親衛隊は一人当たり二体半、それがノルマだ。奴らはホーリーベルの影響をほとんど受けてないようだ。
部隊と離れないように中級を探すのが面倒臭い。
「あんた達!私から見えないところに行かないでよぉ!助けられないからねぇ!」
かなりの乱戦になってきた。敵と味方が入り混じってる。私達の後ろに居るはずの一般兵がこんなところに居る。私達は深く敵の中に入って敵陣をかき回すのが役目だ。
もう、一般兵まで面倒は見れない。しかし、こんなところに一般兵が来たってことはホーリーベルの効果でこちらが押してると言うことだ。
敵が少なくなってきた。
「ノア隊!もう一押し行くよぉ!私に付いてきてぇ!」
叫びながらさらに奥に行く。目の前に現れる下級悪魔を二体、三体と斬り落とす。
振り返ると部隊員がけなげに付いてくる。
ここの戦いを見る限り、私達は圧倒的に勝ってるはずだ。
私の狙いは敵陣を突き抜け敵を挟み撃ちにすること。ナガトの攻撃で敵陣が薄くなってるはずだから。
不意に目の前の下級悪魔が道を開ける。いきなり中級悪魔が現れて金棒を横に振る。
私は地面にひれ伏し、腹ばいになって金棒を避ける。
「何よ!いきなり!女に嫌われるよ!」
両手両足を使ってジャンプ、悪魔の首を狙って双剣を振る。
え、金棒が戻ってきた。信じられない膂力で振り回した金棒を返してきたのだ。
空中に居る私は避けられない。「二式単戦鐘馗」両手は攻撃に使ってるので。膝を上げて気功の盾を張る。
金棒は盾で滑って、私の腋のあたりに命中。吹っ飛ばされる私。でも相手の首は刈った。
地面を何回転も転がる。すぐさま神狼族の獣化兵が私の周りに集まる。
「大丈夫か!」
私は自分の体を確認する。金棒の当たったところは痛いが骨は折れてない。私のスキンアーマーを通してここまでダメージを与えるとは、これが頭だったら死んでたな。
「おい、大丈夫なのか」
うん、男の声?
「あんた男か?」
普通の皮鎧を付けた男の神狼族だ。なんで男がこんな危ないことしてんだ?。
「メノウ家のダンという」
自己紹介してきたよこいつ。まあ、長々喋ってる暇はない。
「話をしている暇はない。早く治癒魔法を使え」
「ああ」
ポシェットから治癒魔法の魔方陣を出し、発現する。
「ノアさーん!!、こっちへお願いします!!」
神狼族の獣化兵が私を呼ぶ、中級が出たようだ。部隊は少なくなった敵を追って、かなりバラけて来た。
名残惜しそうにするダンを残してそちらに走る。
ナルがいた。私はナルに小さく頭を下げて合図を送る。ナルも同じようにした。共闘開始だ。
私達は多くの時間を共有して訓練してきた。小さな仕草や視線の誘導などで戦闘中でも意思の疎通が図れる。
私は中級の正面で対峙する。
すぐさま中級は金棒を上段から振り下ろしてくる。
この速さの重い金棒はジェリルさんの打ち込みに匹敵する。だから止めずに避ける。
「オノレ!!ヨケルナ!!」
あれ、こいつら喋れるんだ。ナルに視線で攻撃の合図をする。
金棒が地面に激突してクレーターを作る。
ナルが後ろから中級の脇腹を斬る。
グオオオオオーッ!!
すぐさま振り向いてナルを襲おうとする。
すごい、深く傷ついたはずなのにもう再生が始まっている。
私は中級の右手を斬り落とす、金棒を握った腕が落ちる
「ナル!!首だ!!」
左手一本でナルを狙った金棒を跳んで回避、そのまま双剣をはさみのように中級の首に当て刈り取った。
やった!。
「ノア!!後ろ!!」
振り向くと別の中級が私に向かって金棒を振り上げていた。
ダメだ避けられない!。双剣を二本で止めに行くがおそらく無理だろう。頭だけは避ける!。
金棒は私をわずかにかすって地面に激突した。
中級は私の前に倒れた。
踏み込み足が斬られている。
「油断はいけねえな」
中級の横に帝国の兜を目深にかぶった男の一般兵が立っていた。
一般兵は中級の首を落とした。
「ノア、ケガは?大丈夫」
「ああ、この人に助けてもらった。ありがとうございます」
一般兵に頭を下げる。顔をは下半分しか見えない。
「いいさ。お前さん達には借りがあるからな」
何のことか解らない。
「すみません。お名前を教えていただけませんか?」
私はこの一般兵の格好をしている男が気になった。だいたいこの戦場に男はほとんどいない。
「まあ、気にするな。そろそろ戦争も終わりそうだ。俺は行くよ」
男は背を向けて去って行った。周りを見ると立っている悪魔は数えるほどだ。それも下級悪魔ばかりだ。
「ナル、あんた中級を何体倒した?」
「これで二体目だけど」
ということは私と合わせると四体か。
ハビとロッケが私達以上に倒しているとは考えにくい。
あの人以外にも私達並みかそれ以上の人が居たってことよね。
「あの人、一体誰なのかしら」
「そうね、獣化兵では中級の皮膚も斬れないものね。帝国兵にはレベル6か7の人がいるのかしら?」
「そんなわけないよ」
「でもあの人が何も言わなかったから、そう思うしかないじゃん」
悪魔は逃走するものもいなかったので文字通り全滅した。
疑問は残ったけど戦争は勝った。
私達は部隊を集めて点呼を取っているとハビやロッケの部隊も集まってきた。
「あなた達も無事だったのね」
「うん、少し犠牲も出たけど何とかね」
「今回の敵は強かったけど、謎の帝国兵が助けてくれてよかったよ」
「あんた達も会ったの?」
ハビたちがあったのは女性らしい。やっぱり複数いたのね。
犠牲はあったけど勝利を収めることができた。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はエドゥアルトの戦いになります。イエーガー家の実力はいかに?って感じです。