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16-2 難民

ご愛読、ありがとうございます。

今回は悪魔の出現によってカールサイス公国、カールスーリエ王国は大混乱。難民が発生してコトネはその世話をします。

 いよいよ始まった大災厄、アルカディアや同盟国は対策が効いてほとんど混乱は起きなかったが、カールスーリエやカールサイスは大混乱に陥っていた。そんな中、状況を監視するため空中戦艦ナガトを発進させるのだった。


 〇アルカディア城 レオンの執務室 <レオン>

 執務机に座ったレオンはマジホを持って通話をしていた。

「はい、悪魔側に情報が漏れるのを防止するため秘匿しておりました。・・・いえ、そのような意図はありません。・・・はい大丈夫です。・・・はい、失礼します」

 ヴァイヤールの王太子に続いて、リヒドガルド皇帝からもナガトの確認連絡だ。


「はあー。そんなに怒らなくても良いと思うんだけど」

 俺はマジホを置いて愚痴をこぼす。

「陛下、我々にも内緒というのは酷いですぞ」

「そうよ。少なくとも私達には教えておくべきじゃない」

 宰相、相談役、フェリ、エリーも俺を責めてくる。


「だって、オリンポスの残党にばれたら、絶対に攻めてくるじゃないか」

 ハーヴェルは広いし大きい。とてもじゃないが守れるもんじゃない。

 その時、マジホが鳴った。表示した番号はナガトだ。

「まだ二日目の探索を開始したぐらいだろう。何だってんだ?」

 俺はマジホを通話状態にした。


「なに!・・・ああ、解った。引き続き探索をしてくれ。もし、ナガトに向かってきたら逃げてくれ」

 俺はマジホを机に置いた。この部屋の者は緊張した面持ちで俺の言葉を待った。

「四体の上級悪魔が現れたそうだ」

 皆の顔に緊張が走った。神獣人の力を手に入れる前とは言え、コトネとジェリルを簡単に倒した奴らだ。

「どこに居るんだ?!」

 俺の席の後ろから怒りの声が聞こえてきた


 振り向くとジェリルが真っ赤な顔で俺を睨んでいる。

「カールサイスの公都だ。獣王国の国境から200kmの街だ」

「よし行くぞ!」

「待て、周りには数万体の下級悪魔、数十体の中級悪魔が居るそうだ」

「それがどうした。今までも敵の中枢に乗り込んでいったじゃねえか」

 ジェリルはどうしても名誉挽回を図りたいようだ。


「今回は敵の兵卒までが強力だ。俺達だけ勝てばいいと言うものじゃない」

「どうしてだ!!」

 ジェリルは駄々っ子のように吠える。

「下級悪魔がレベル4から5、中級悪魔もレベル6から7の実力を持つのだ。そんな奴らが俺達がいない間に攻めてきたらどうする」

「ウッ」

 流石のジェリルも想像できたらしい。


「俺達は勝つために準備してきた。俺を信じてくれジェリル」

「すまねえ、ちょっと頭に血が上った。もちろんお前を信じるぜ」

 もう平然とした顔をしてる。ほんとにこいつは迷惑って訳じゃないが、熱しやすく冷めやすいんだよな。


「陛下はどうなさるおつもりか」

 元元帥の相談役が俺を試すように聞いてきた。

 俺は答えようとした、その時扉の外で声がした。

「立ち止まるな!」

 親衛隊の一人が廊下を通った者に注意したようだ。その者は何か言い訳していたようだが、追い払われたようだ。


「すみません。この城にも間諜がいるようで、警戒しています」

 俺が声を落として言うとフェリが反応した。

「ならば捕まえないと・・・」

「ダメだ!そんなことはするな。先ほどの者もこの中の誰かに用事があったのだろう。いちいち咎めていては仕事が立ちいかなくなる」

 俺はフェリの言葉を遮って言った。何事も細かくやりすぎては効率が落ちてしまうのだ。


 強く言いすぎたかな。フェリがシュンとしてしまった。後でフォローしておこう。

「悪魔はこの後、中級悪魔に下級悪魔をまとめさせて攻めてくるでしょう。現在バルドゥオール王国、獣王国、エドゥアルト州の国境には軍を結集させています。敵の動きに対応します」

「こちらから攻めると言うのは考えてないのか」

「はい、迎え撃つつもりです」

 宰相がした質問に素直に答える。これ以上は話せない。特に悪魔対策については。


 ******


 〇獣王国 北部国境 <コトネ>

「お姉ちゃん、また来たよ」

「わかった」

 悪魔発生から三日目ともなると難民が国境に来始める。

「難民キャンプに案内してね」

 いまも六人の避難民が来たので、誘導して警備兵に指示する。


「獣クセー!近寄るな!!」

 あーまただ。カールサイスやカールスーリエは獣人差別がひどいんだよね。それにしても獣人国に逃げて来て獣人に近寄るなって、何考えてんだろうね。

「あー、そこの青年。ここは獣人国だよ。これからあんたはその獣人にお世話になるの。解ってる?」

 私はその二十歳前だろう、青年に近寄る。青年と一緒に居るのは祖父母と母と姉妹だろうか。


「姫様、危のうございます」

 スッと青年との間に入った警備兵に言われた。くすぐったいのもあるが恥ずかしい。

「近づくなって言ってるだろうが」

 姫様が効いたんだろうか、少しトーンが低くなる。人間、権力には弱いもんだ。


「青年、不満は分るが怒るな。悪魔に変ずるぞ」

「悪魔ってあの真っ黒い奴か?俺達はそいつに街を追い出されたんだ。親父も殺された・・・」

 青年は両手で顔を覆った。

「そうか頑張ったな。キャンプに行けば温かい食事も寝るところもある。なあに少し我慢してれば。悪魔は我々が滅ぼしてやるよ」

 青年はとぼとぼと警備兵の後を付いていった。


「魔獣だ!魔獣が出たぞ!!」

 魔素だまりを放置しているから魔獣が出る。瘴気は魔獣の出現確立を増やすらしい。

 民間の細々とした交流の証である細い道を、小型の魔獣の群れが押し寄せる。

 高台で見張ってる少女から光が発せられる。

 魔獣はゴブリンだったが、その光線に焼き切られてゴブリンの首が飛び、消滅する。アンナだ。


「お姉ちゃん、やっつけたよ」

「私はキャンプの様子を見てくるからこちらはお願い」

「うん、ラジャーだよ」

 私は青年たちの後を追うようにキャンプに向かって歩き始めた。


 歩きながら今の状況を整理してみる。

 今国境の向こうは悪魔と魔獣に支配されている。私達にできるのは国境まで来れた人を助けるだけだ。

 バルドゥオール王国やエドゥアルト州でも同じように国境沿いに難民キャンプを作っているが、カールサイスの公都に悪魔が集中し始めている関係で難民はあまり多くない。

 どうも悪魔は獣王国へ攻め込むのではないかとレオン様は考え始めたようだ。


 全部の悪魔が一斉に攻めてくる訳ではない。おそらく集まった順に第一波第二波という形をとるだろう。なにせ悪魔を集合させようとすれば一か月以上かかるからだ。

 もちろん、バルドゥオール王国やエドゥアルト州に悪魔が攻め込むというシナリオを捨てた訳じゃない。

 私は守勢に回ると言う初めての体験に不安で仕方なかった。

 空中戦艦ナガトの偵察データがなければ、ここまで来れなかっただろう。


 キャンプには国境警備の場所から30分くらいで着く。

 最大で一万人くらいは暮らせるように掘っ立て小屋が建てられている。

 もともとこの戦争は三か月も続かない予定で小屋を建てた。悪魔のエネルギー源である瘴気がそれくらいしか留めれないからだ。


 うん、あそこに人だかりができてるし、乱暴な声も聞こえる。

「どうしました?」

 なにやら中年のおそらく貴族の男が兵士に食って掛かっている。

「あ、姫様。見っとも無いところを。この男が待遇の改善を要求いたしまして」

「お前がここの責任者の一族か!わしはカールサイス公国伯爵のパウルだ。このわしを平民と同じ扱いをするとはどういうことだ」


 こいつは私の嫌いな貴族のようだ。

「パウル殿、ここはもともと平民のために作った物です」

「では、貴族用の避難所があるのだな」

 中年貴族は鬼の首を取ったように兵士を侮蔑の目で見る。


「パウル殿はノブレス・オブリージュという言葉を知っておられるか?」

「うむ、高い地位にあるものには義務があると言う言葉だな」

「貴族には平民を守ると言う義務があります。このタイミングでここにおられると言うことは、領地を見捨てて逃げましたね」

 中年貴族はまずいと顔に出る。まったくせめてポーカーフェイスぐらいは使ってほしいもんだ。


「いや、わしが生き残ることで、また領地は再生できるのだ」

 良い言い訳を思いついたとニヤけた顔をする。

 私は大きくため息を吐く。

「あなたが最低でもやらねばならないことは、領軍を率いて平民を守りながら逃げることです。その最低のことをできないあなたを貴族として遇することはできません。今の待遇が不満ならキャンプを出て行ってください」


「覚えておれ!わしはレッドベア将軍と親交がある。お前が何者でも叩き潰してやる」

「レッドベア将軍はその一族とともに滅びております。ついでにカールサイス公国の公都はすでに悪魔の占領下ですね。公王様が生きてらっしゃるとよろしいですね」

 中年貴族の怒った赤い顔は今は青い顔に変わってしまった。

「そんな、わしはこれからどうすれば良いのだ」

「自分の運命を他人に預ける人に運命を切り開けるわけがありません」


 彼は膝から崩れ落ちた。彼にはカールサイス公国もレッドベア将軍もなくなったのだ。もう彼を貴族だと思ってくれる人はいない。

「姫様、ありがとうございます。胸がスッとしました」

「そうですね、あのように虎の威を借る奴らは嫌いです」

 私は王女でアルカディア王国の第三夫人だ。それなりの威厳と寛容を持たなければ。


 私はまだ100人ほどしかいないキャンプを回る。

 五歳くらいの女の子が二人こちらに駆けてきた。そのうちの一人が何かに躓いて倒れそうになる。私は”隼”を使って女の子を支えてやる。女の子は私を見て泣き出してしまった。

「どうした?痛くなかったろ?」

「こらー!!」

 振り向くと怒りの形相で、この子の母親らしいのが走ってくる。


「この獣が!汚い手を離せ!!」

 母親は私から子供を奪った。ああ、そう言うことか。

「私は倒れそうだったこの子を助けただけです」

「嘘を吐け!、この子を食べるつもりだろう!」

 へ、食人の習慣はありませんが。著しくやる気を削ぎますね。


「女!、姫様に無礼は許さんぞ!」

 騒ぎに駆け付けた兵士が槍を母親の方に向ける。

 母親は子供を抱きかかえた。

 これで子供には獣人が怖い存在だと刷り込まれたわけか。

 酷い国だな、カールサイス公国は。


「良いのです、槍を降ろしなさい」

「はい」

 兵士は素直に槍を降ろした。さてなんて言えばいいのかな・・・。

 私は母親に向き直った。


「この施設は獣人国の物で、獣人の税金で運営されてます。それは分りますね」

 母親は警戒した顔で頷いた。

「あなた達はまだ数か月は、この施設でお世話にならないといけません。そのような敵意に満ちた行動をしていて疲れませんか?。それにあまり不満をため込むと悪魔に変じます。注意してください」

 解って貰えただろうか。すぐにどうこうできなくても、繰り返せば何とかなるかもしれません。


 私は国境に戻りました。あまりキャンプに滞在するのは精神衛生上良くありません。魔獣と戦っている方が何倍もマシです。

「お姉ちゃん眉根にしわが寄ってるよ。レオン様に幻滅されるかも」

「な、なんですってえ!!」

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は悪魔との戦闘が始まります。

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