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15-14 嵐の前

ご愛読、ありがとうございます。

ソーンに会いに行きます。

 コトネの結婚式も済み、正月を迎えたレオンファミリー。レオンは17歳、コトネが14歳、アンナは12歳となる。


 今年の正月も父上のところに顔出ししようとしたら、怒られた。

「馬鹿者!お前は王としての自覚がないのか!!お前は部下や周辺諸国の挨拶を受ける側であろうが!!」

 父上にはマジホを一台貸し出しているのだが、怒鳴られるために渡したわけではない。やはり試合を断ったのがいけなかったのだろうか。だって俺が負けるのはともかく、あんたが負けたらヴァイヤールの大損失だよ。四式で何十年も足踏みしている人と、五式の手前で止めてる俺では俺の方が有利だよね。


 まあ、父上の言った通り正月は部下と同盟国の来客が引きも切らずほとんど三日間はあいさつで終わってしまった。さらにはどこからかフェリとエリーの懐妊がバレたらしくて、側室の斡旋がすごかった。大災厄が終わってからにしてくれとお願いした。どこも女の子は余っているらしいよ。


 そういや、そろそろミラの子供が生まれるころだけど。生まれたかなあ、健康な子供ならいいが。男の子だと良いなあ。国単位で待ち望まれてるから、ミラのためにも男の子が・・・って男の子なら魔王になるのかそれはそれで複雑な思いがあるなあ。いずれにせよ連絡の手段がないからミラが現れるまで待つしかないか。


 ******


 〇アルカディア城 レオンの執務室 <レオン>

 朝議の終わった俺を執務室で通商部のサスケが待っていた。

 後を付いてきたコトネとアンナを連れて彼らの座るソファーに座った。


 サスケが紙の束を俺の前に置いた。

「これが周辺国家における商人ギルドの実情です」

 彼は周辺諸国にアルカディアの製品を売る店を出店させている。それに商人ギルドが妨害工作を仕掛けて来ているのだ。

「分かった読んでおく。それで対策は?」


「はい、帝都でジェリル殿が行った暴力組織の撲滅が有効と判断しまして、各国にその許可を求めているところです」

 ジェリルの方法というのは、構えた店にちょっかいを掛けてくる相手を暴力で黙らせることだ。しかし、この方法は圧倒的な強者が居て初めて可能となる。


「それで、許可が出た場合の戦力は?」

「はい、でも軍が余剰戦力はないと言ってきてまして・・・」

「まあ、そうだろうな。大災厄が終われば、各国とも戦力が余ってくるからそれまで待てば」

「でも、それって順調に行った場合ですよね」


 まあ、戦争も勝負事、勝つこともあれば負けることはある。

「まあ、大災厄後にもう一度言ってきてくれ」

 サスケは納得できない顔で部屋を出て行った。



 はああああ、俺は大きくため息を吐いた。

「ため息を吐くと幸せが逃げちゃいますよ」

「なんかさあ、思ってたのと違うんだよなあ」

 コトネの言葉に愚痴が出てくる。


「何が違うんですか?」

「俺って本当は帝国でそれなりの地位に就こうとしてたんだよ。王様になってこんなに苦労するとは思ってなかった」


 レオンは故郷を出て1年目はヴァイヤールの王都で中等部に通っていた。その後、フェリの紹介で帝国に留学してオリンポスとの戦いに巻き込まれていく。その中で手柄を立て帝国でそれなりの地位が貰えそうな感じになるが、オリンポスの瓦解によって餓死の危険のあった人々を救うため、ハーヴェル諸国連合とエドゥアルト王国を統一統治したら聖金字教国まで付いてきてしまった。

 俺としては王様になる気はなかったんだけど、コトネ達の人権を考えるとなるしかなかったんだよね。


「そんなことも言われてましたね」

 そのことをコトネに恩着せがましく言う訳にもいかないんだな、これが。

「俺としては兄や姉、父の従士達にどうだミソッカスでも偉くなれたぞって、見返したかったんだよ」

「あ、それも言ってました」

「言ってた。言ってた」

 アンナまで参加してきた。


「ふうん、レオンも結構幼いのだな」

 ポツリと護衛で俺の後ろにいたジェリルが言った。

「まだ17歳になったばっかだってえの。それなのにわざわざ帝国で俺が楽するためにスカウトしてきた爺さん二人、あの人たち俺を一人前にそだてるつもりで、俺のフォローしかしてくれないんだぞ」

 帝国で政争に敗れた元元帥と軍事費削減で帝国を危うくして責任を取った元宰相を連れてきたのだ。


「そんなこと言わずに頑張りましょう」

「そうだよ。私も勉強してレオン様のお手伝いするから」

 コトネならわかるがアンナが自分から勉強するだと?

「アンナ、学校行くの嫌がってなかったか?」

「うん、案外学校って面白かったよ」

「そうか、なら学校へ行かなくちゃな」


「失礼します。天文部の者です」

 侍従が男は連れてくる。天文部の部長だな。

「入ってくれ。何か解ったかな」

 俺は向かいの椅子を勧める。

 部長は腰かけると同時に話し始める。


「はい、彗星の状況ですが、この星アースが尾に入る時期が二月七日となりそうです」

「では悪魔が出現するのはその日からとなるわけだな」

「はい、古今東西の記録を調べましたが、尾に入るか、その軌跡を通るかした時に発生するようです」

「30年前の悪魔発生はどうなのだ」

「それが32年前の記録では彗星の軌跡を運悪くアースが通ったのですが、魔獣の発生だけで悪魔は発生してないようです」


 ※注:この世界では彗星の軌跡は移動するので、毎年は遭遇しません。


 そう言えば親父も魔獣と戦ったことしか言ってなかったな。

「どういうことか解るか?」

「それが、帝国の人達にも確認したのですが気付いていませんでした」

「他の国はどうか?」

「はい、東大陸ではこちらよりも影響が少ないようで、千年前も四人の神獣人だけでほぼ悪魔を鎮圧したようです」


 そう言えばノクト連邦が造ったはずの神獣人がなぜ東大陸で戦っているのだ?。

「ジェリル、お前の先祖の神獣人はどんな様子だったか解るか?」

「アタイも悪魔と戦うのに長老に聞いてみたんだけど、どうも里に来た時はかなり弱っていたようで、子孫を残すとすぐにおっ死んだようだ」

 ジェリルが腕組みをしながら答えた。


 どうも解らないことだらけだ。こちらの神獣人は三人中生き残ったのは一人だけ。東大陸は四人中四人生き残ってる。そもそも徹底的にやられてるのに、東大陸に神獣人を応援に出す余裕があったのか?。

 神獣人は十二人造られたはずなのに残りの五人も死んだのか?。

 どうして西大陸に集中して悪魔が現れるのだ。

 アルカディアが建国出来て、悪魔の研究を始めたが分かったことは悪魔の研究がほとんど進んでいないことだけ。


 悪魔の出現は自然なのになぜこうも作為的なのか?。

 天文部の部長は疑問を晴らすことなく去って行った。


 アリスやヤヌウニさんは生まれていたけどその場に居なかった。

 ロキやノルンは生まれていなかった。

 コトネに憑いていた神獣人の魂は消滅した。

 ジェリルを神獣人並みに引き上げてくれた神獣人の魂は、自由に話せない。

 後はソーンか東大陸の神獣人だな。


 少し考えて俺は決断する。

「よし、コトネ!ソーンに会いに行くぞ!!」

「はい?」

「今の疑問に答えられる奴はソーンしかいない。

 すぐにノルンを調整した。今の俺達ならソーンに遜色ないくらいにはなっているはずだ。


 ******


 〇エルハイホー 竜神池 <レオン>

 二年ぶりの竜神池に降り立った俺達。俺、コトネ、アンナ、ジェリルだ。

「二年前は死にかけたけど、今なら私の方が強い」

 そう言うのはアンナだ。

 俺達が祈祷台の近くに降り立つとすぐに池の中央当たりが泡立つ。

 やがて角が現れ、徐々にせり上がり全身を現した。


「なんだ。お前達は?」

 コトネのことも分からないらしい。

「俺はレオンハルト=アルカディアという。お前に聞きたいことがある、こちらに来てくれ」

「人間と知らない神獣人か。神獣人を造ったと言うのか、馬鹿な奴らだ」

 ソーンは威圧を強めてきたが、今の俺達にはそよ風のようなものだ。


「あなたは私を嫁にすると言ったのを忘れたのですか」

「猫の神獣人など見たこともないわ」

 やはり、二年前はコトネの中の虎の神獣人を見ていたのだな。

「千年経って、また彗星が来ている。お前に大災厄のことが聞きたい。こっちに来てくれ」

 池の中に逃げられると厄介なので、こっちに呼ぶ。


「お前達は悪魔と戦えと叫んでいた娘の仲間か?」

「まあ、そうなのだが、お前に戦ってもらおうとは思っていない」

「なぜだ?」

「お前を見て上級悪魔に勝てそうもないと思ったからだ」

 俺は彼に力はあるのだろうが、技術が洗練されていないのを感じた。


「なんだと!生意気なやつめ!」

 彼は怒って近寄ってきた。

 カッと口を開けた。ブレスだ!。

 俺の前にアンナが滑り出て、霊力のバリアを張る。

 ソーンのブレスが俺達を包むが届かない。

 流石にノルンのブレスより強い。


「お前は相手の強さを測れないのか?!」

 俺はソーンに向けて叫んだ。無意味な戦いはしたくないのだ。

「うるさいハエは叩き潰す!!」

「アタイが行く!!」

 飛び掛かるソーンにジェリルが迎え撃つ。


 突き出されるソーンの拳に合わせて、打ち出されるジェリルの拳。

 ソーンの拳はジェリルの顔面を捉える。ジェリルの拳もソーンの顔面を捉えた。

 クロスカウンターってやつか。

 

 吹っ飛んだのはソーンの方だ。ソーンはジェリルのスキンアーマーを抜けなかった。

「顔面を狙わずに被覆部分を狙うんだったな」

 ジェリルは吹っ飛んだソーンを空中で捕まえて、そう言い放った。

 スキンアーマーは被覆部分の防御力は格段に落ちるのだ。


 俺の前に連れてこられたソーンに治癒魔法を施した。

「こいつは何者だ。狼の神獣人ではないのか!」

「アタイは狼の神獣人の子孫さ」

「ということはみんな死んじまったのか」

 ソーンは顔を両手で覆った。


「話を聞かせてくれないか。俺達はこれから悪魔と戦うつもりだ」

 俺は彼の方に手を置いた。

「わかった」

「まず、神獣人の戦いについて教えてくれるか」

 長くなりそうだったので収納庫から全員分の椅子を出して並べた。


「わし達十二人は三人の上級悪魔と戦った。対峙して、最初の一撃で五人の神獣人がやられた。次の瞬間、狼と虎がやられたのが見えた。後の奴らも見えなくなっていた。俺は逃げた。残念だが神獣人でも奴らには全然手が出なかったのだ」

 長い話だったが要約するとこういうことだった。


 俺は東大陸に四人の神獣人が生きていることを話した。

「そうか奴らも逃げていたんだな。わしも逃げたから何も言えん。狼も虎も千年後の戦いに後継者を残したのだな」

 ソーンは遠い目をしてそう言った。


「すまんが悪魔の発生偏りとかは分らんよ。そうか東大陸には上級悪魔はいないのか。猿達はそれを知っていたのかも知れんな」

 俺の疑問をぶつけたが、神獣人のこと以外はほとんどわからなかった。

「わしは長生きしすぎて龍脈を離れると肉体が崩壊してしまう。戦いが始まったら呼んでくれれば手伝いに行こう。中級悪魔ぐらいなら何とかなろう」


「妖精女王に頼めば、受肉精霊になれるかもしれないが、聞いてみようか」

「なんと!妖精女王とも知り合いなのか!・・・いや長生きしすぎたようだ。お前達のような神獣人を超えるものに出会えたのだ。もう目を閉じてもいいだろう」

 こいつは引きこもりすぎて、厭世になってる。戦いに引っ張り出して生きがいを見つけてもらおう。


 アルカディア城に戻った時にはもう夜になっていた。

 夜空を引き裂くような彗星が輝いていた。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

十五章はこれで終わりです。次章は悪魔とレオンファミリーの戦いになります。

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