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15-11 クロノスの野望とアンナの日常

ご愛読、ありがとうございます。


 アンナの学園のシュミレーションも終わって、コトネとの結婚式が迫るレオンファミリーだった。しかし夜空にはおぞましい彗星が姿を現すのだった。


 〇グリューズバルト侯爵邸 <クロノス>

 執務室にウラノスと俺が居た。

「見ろ、ウラノス。俺の星が尾を引き始めたぞ」

 彗星は太陽に近付くと表面が熔けて太陽風に吹かれ、その成分をまき散らす。それが尾となるのだ。

 ウラノスはこの時代の人間だ。彗星の原理なんか知らない。

「あの尾が大きくなるのですか?」


「そうだ、あの尾の中に大量の瘴気が存在する。瘴気は人間の中の魔素と反応し、人間を悪魔に変える」

 おれは火照った顔で彗星を凝視する。千年ぶりの再会だ。

「クロノス様、瘴気はこの星全体を覆うのですよね。なぜ西大陸だけを敵視するのですか?」

 彼もこの星が球形であること、太陽の周りを公転していることぐらい常識として知っている。


「俺は科学が嫌いだ。だからノクト連邦を滅ぼした。だが中央大陸は野蛮人、東大陸は進歩を嫌う政権が続いている。ほかの大陸はいまだに石器時代の原始人だ。発生する悪魔を放っておいても大打撃を与えられる。つまり西大陸だけを俺が統率して戦えばいい。その後はお前が大帝国を築くなり、好きにすればいい」

 彼は俺をじっと見る。


「災厄後は私を手伝っていただけるのでしょうね」

 やはりそれを言うか。最近生き延びることに興味をなくしつつある俺が心配なのだろう。あくまで西大陸征服のためにだろうけどな。

「心配するな。この肉体の年齢から行けばあと50年ぐらいは生きてるだろうさ」

 俺の肉体の年齢は十九歳、何度転生したのかも忘れたが。こんなに若い肉体で大災厄を迎えるのは初めてだ。ちなみに今アリストス学園に通ってるのは、俺そっくりのホムンクルスだ。


「では30年前の災厄の折は違う肉体でおられたのですか」

 俺の転生に興味を持ったのか彼が質問する。

「ああ、その時は日本にいた」

「ニホンとは場所の名前ですか?」

 彼は思ったより知識欲があるようだ。暇つぶしに語ってやるか。


「ああ、日本にいた。日本というのは、この世界の一つ上にある世界だ。お前も落ちてきた人間の話を聞いたことがあるだろう」

 彼は首肯する。

「はい、数十年に一度落ちてくるのだとか」

「そうだ、その落ちる前の世界だ。日本には魔素も魔力もない。精霊も悪魔もいない」

「まさか!!」

 流石に驚いたみたいだ。


「その代わりに科学というものがある。機械の鳥が数百人を乗せて大陸間を飛び、機械の船は何十万トンの荷物を運ぶ。都市には高さ百m以上の建物が所狭しと立ち並ぶのだ」

 彼は呆けている。彼の常識では想像もできまい。

「そのような世界で人間はどのように暮らしているのですか」


「まあ、それは便利な道具を持ってはいるが、こちらとあまり変わらん。ただ大きく違うのは、日本人はあらゆる情報を手のひらサイズの端末で知ることができるし、自分の情報を世界に発信することができる」

「あらゆる情報を個人がですか?信じられません」

「まあ、情報と言っても嘘や誇張なんかが混じってるがな」

 彼は情報の重要さをオリンポスの戦いで痛感したようだ。


「例えばどこそこの国家元首が無くなったとかは一日ぐらいで分かるのですか?」

「いや、そんな大きなことなら1時間もあれば発信され、パン屋の店員でも知っているだろうな」

「私はそんな情報を整理できる自信がありません」

「そんなことは誰にもできんよ。必要な情報を取捨選択するのよ」

 彼はホッとしたような表情を見せる。


「で、では兵器はどうなのです。魔法より強力な兵器はあるのですか?」

「いくらでもある。まあ、知っても詮無きことだ。少し語りすぎたようだ」

 俺がこういえば彼は諦める。これ以上は語らないことは知っているからだ。


 俺はこの世界でこの男の息子に生まれた。俺のように魂に力を持つ者は、違う世界や未来に転生できるらしい。俺はその力を使って少なくとも三千年を生きてきた。

 だが、今回は俺の魂の消滅を予感する。おそらくレオンハルトは俺と同等の力を有しているはずだ。

 俺はそれでもいいと思っている。ウラノスが聞けばとんでもないと言うだろうがな。

 俺は俺と正面から戦える奴を求めていたのかもしれん。

 俺は奴が俺の生徒会への勧誘を断った時からそれを感じていたのだ。


 ******


 〇アルカディア城 コトネの寝室 <アンナ>

 私は久しぶりにお姉ちゃんと二人でベッドに入っていた。

「お姉ちゃんさ、三番目でいいの?」

 私は藪から棒に質問する。

「何?お嫁さんの順番?」

「うん。私、レオン様のお嫁さんになるなら一番が良いなって思っちゃって」


「うーん。そうねえ」

 お姉ちゃんの姿は見えないけどちょっと考えてるみたい。

「アキラさんやマサユキさんの世界ではお嫁さんは一人だけなんだって」

 少し間をおいてお姉ちゃんは答えた。

「でもそれじゃ、女の子がいっぱい余るよ」

 それはだめじゃんとおもったよ。


「あっちの世界では男と女が半々で生まれるんだって言ってたよ」

「へええ、いいなあ。それなら女が下に見られることはないんだね」

「でも、女の方が強くなってきて、結婚できない男が増えて来たんだって」

「お嫁さん一人で結婚しない人が増えると、人口が減っちゃうね」

「そうねえ、少子化って言って生まれる子供が、どんどん減ってるんだって」

 ニホンって言ったっけ、将来は人が居なくなって消えちゃうのかな。


 あれ、話が違う方に行ってる。

「私は三番目でいいのか?って言ってるの!」

「ああ、そうだったね。私が言いたかったことは、この世界は男はたくさんのお嫁さんを貰って、たくさんの子供を作らなきゃいけないってこと。特にレオン様は王様だからもっといっぱいでも良いでしょ。その中で三番目でお役目も貰ってるし、優遇されてる方じゃない。私はそうじゃなくても一緒に居れたら良いの」

 お姉ちゃんはそう言うけど私はオルトに絡まれて、側室とか愛人っていやだなって思っちゃった。


 レオン様とはずっと一緒に居たいけど・・・結婚ねえ・・・大人になったら解決するのかなあ。

「お姉ちゃんが納得してるならいいよ。私はレオン様と一緒に居るのは、私とお姉ちゃんだけでいいと思っちゃっただけ」

「それは難しいね。誰だって独り占めしたいと思う心はあるけど、レオン様に思う存分活躍してほしいとも思ってる。それにはフェリ様やエリーゼ様の協力も必要でしょ」


 お姉ちゃんの言うことも分かる。内助の功ってやつね。

「あ、そうだ。レオン様は今日は一人で寝てるんだよね。久しぶりに添い寝させてもらおう」

「え、あれをやる気なの?」

 何を言うんだ。そんな恥ずかしいこと出来る訳ないじゃん。

 起き掛けた私は止まってしまった。


「そ、そんなことするわけないじゃん!」

「レオン様は私達のご主人様なんだから、ご奉仕することも考えておいてね」

 あー、この人の頭の中にはレオン様以外はないのか?知ってたけど恐怖だわ。

「あれ、行かないの。私は添い寝禁止されてるから行けないよ」

「あんなこと言われて、恥ずかしくて一緒に寝れるわけないじゃん」


 お姉ちゃんのことだからキョトンとしてるんだろうな。

 私は毛布に潜り込んだ。


 ******


 〇数日後のアルカディア城 レオンの執務室

 執務机で書類を見ながら仕事をするレオンとそれを覗き込むアンナ。

「レオン様、忙しいの」

 相手をしてほしいのかレオンの顔を覗き込む。

「そんなには忙しくはないよ。もうすぐコトネとの結婚式だから。処理できるものは早めにやってるんだよ」

「フーン」

 気のない返事をするアンナ。


 彼女は何とかかまってもらおうと話しかける。

「クロエお姉ちゃん、最近姿を見せないよねえ。何か任務をやらせてるの?」

 そうだなと納得してアンナの顔を見るレオン。

「いや今は任務は与えてない。本人の好きにしてるはずだ」

「でもさ、ずっとハーヴェルに居るのっておかしくない?」

 レオンが振り向いたので話を膨らませる。


「カールスーリエやカールサイスを見張らなくていいのかしら?」

 この二国は元はカール帝国だった流れでアルカディアに敵対する国だ。

「外国はサスケの担当になったから、あまり気にしなくていいと言ってあるよ。でも聖女の件でも一回ずつハーヴェルに戻っていたな。もしかしたら彼女も年頃だからな、何かあるのかもしれん」

「えー、そうなの??私達に内緒でぇ」


 アンナは飛び上がりソファーの上に立つ。

「おいおい、クロエも年頃の女の子だぞ。もしそうでも静かに見守ってやれよ」

「つまんない」

 その時執務室の予備らをノックする音が聞こえた。

 瞬時にソファーに姿勢よく座るアンナ。上品な少女に早変わりだ、抜け目がない。


 入って来たのはサスケだった。

「今よろしいでしょうか?」

 サスケは通商部の部長でレオンがクロエの紹介でスカウトした商才溢れる男だ。各国にアルカディアの製品を売る店を経営して、各国の情報も集めている。

「良いよ、なんだ?」


 サスケは執務机の正面のソファーに座ると話し始めた。

「実は金貨が足りなくなりそうです」

 それに反応したのはアンナだった。

「えー、お金ないの?」

 びっくりしてサスケを眺める。

「いや、お金がないんじゃなくて金貨がないんです」


 首をひねるアンナ。それを見てほほ笑むレオン。

「物を売って、その対価として貰う金貨が不足していると言うのです」

「つまり金貨の流通量が足りなくなってきたと言う訳か?」

「はい、特にハーヴェルの製品を買う商人が困っています」

「それほどか?」

 一時的に獣王国の貴族達のため込んだ金貨で、余裕があったんだがな。

「手形での売買も視野に入れないと」


 西大陸の貨幣は帝国が鋳造している。原則として金貨そのものが金の値段となる。銀貨や銅貨は補助貨幣として金属の値段とは連動しない。大銀貨十枚が小金貨一枚になるのに、銀の価格としては不足が生じるのだ。そこは帝国の信用で等価値になっている。

 今回はアルカディアが西大陸の経済を大きくしたので、流通する金貨の使用量が増え、不足気味になってきたと言うことである。


「分かった帝国に至急申し入れる」

 と言うことでマジホで帝国に聞くと

「原料の金が不足してます。このままでは金が高騰して、貨幣経済が成り立たなくなりそうだ」

 言うことだった。

 困ったなあ錬金術でパッパッと錬成できないもんかなあ。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回いよいよコトネの結婚式です。

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