15-7 シャーリーとジュリア
ご愛読、ありがとうございます。
今回はシャーリーの件が解決します。ジュリアは襲われます。
シャーリーがヴァイヤールの教会に聖女候補生としてスカウトされた。シャーリーが嫌がるので何とかしようとするアンナと親馬鹿で付き合うコトネとレオン。しかし、手立てのないまま当日を迎えてしまった。
〇アルカディア学園 <エイミー>
私はエイミー、初等部を担任する教師です。
今学園長室にいるのですが。アルカディア学園は大変なことになってます。
と言うか私が大変なことになっています。
私の目の前に座られている方は聖金字教会教皇アルテミス猊下その人です。
「ですから、私どもの許可なくヴァイヤールの教会に所属する神父に、聖女候補生のスカウトをさせたのはなぜなのですかと問うてます」
猊下はとても不機嫌そうに私をにらみます。もう私の心臓は口から飛び出そうです。
「はい!、あ、あの教会の神父様なら授業の見学をしてもいいかなと思いまして・・・」
「軽率です」
二十代前半の美しい顔は少しも歪むことはなく、私を責めるのです。
「も、申し訳ありません」
「しかも、魔法の実習はその神父が要求したらしいではありませんか」
「は、はい、シュミレーションもちょうど折り返しだから良いかなっと思いまして」
「同盟国とはいえ、他国に見せるものではありますまい」
「お、おっしゃる通りでございますうう」
「しかも生徒の住所を教えたと言うことですが、どのようなおつもりで」
「あ、あの生徒の就職の助けになればなあ、なんて思いまして」
「わが国の才能を他国に渡そうとしたのですね」
「そこまで考えておりませんでした。申し訳ございません」
私の横には学園長も座っておられるのですが、まったく助けてくれません。
「そう言えばこの学園のシュミレーションは第二夫人のエリーゼ様の肝いりで始まったのでしたね。エリーゼ様はヴァイヤールのご出身、もしかして・・・」
「め、滅相もございません。私の独断でした」
そんなことがエリーゼ様に知られては・・・滝のような冷や汗が流れています。
「さようですか。ならその生徒をどのようになさるのですか?」
「は、はあ!?」
私はもう無理!!、だって生徒の母親は朝から退園手続きに来るし、昼前には神父が迎えに来るし、・・・。学園長ぉ~。
私は横の学園長を見る。
「今の学園はシュミレーション期間です。そう言った問題も解決していかねばなりません。どうか温かい目で見守っていただけるとありがたいのですが」
流石学園長良いこと言うよ。これで助かったのかな。
その時ドアがバーンと開いて、おばさんが目じりを釣り上げて現れた。
「学園長!!退園手続きができないなんて、どういうことですかあ!!」
シャリオットさんのお母さんだあ。
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〇教室 <アンナ>
「三限目も自習だって」
マリーが私達に教えてくれる。
「エイミー先生どうしたんだろうね」
キスカも首をかしげる。
私は知っている。昨日レオン様から聞いたんだ。教皇様に文句を付けに行かせるって。
朝一にザルツブルクの本部からノルンさんに乗って来たらしい。
今頃、教員室は大騒ぎだろう。
「なんか、教会の偉いさんが来てるらしいぜ」
後ろの席の犬獣人の男の子オルトが私達に教えてくれる。
その時教室の扉が開いてシャーリーが顔を出した。
私達のところに走ってきたシャーリーは嬉しそうに言った。
「私やめなくて良くなったよ」
「どうなったの?」
「アルカディア大教会でも来季から聖女候補生を集めるんだって。私はそれに行けばいいんだって」
「聖女候補生にはなるんだ」
「でもでも私、この学園に通えるんだよ」
「じゃあ、来年は同級生だね」
三人ははしゃいでるが私は来年は多分通えない。大災厄を戦わないといけないから。
「アンナ、どうしたの」
私が寂しそうな顔をしていたのを見つけたキスカが声を掛けてくれる。
「ごめんね。来年、私は無理そうだよ」
「どうしてだよ」
友人達を差し置いてオルトが聞いてきた。
私はもちろん無視をした。
「シャーリーは聖女候補生でいいの?」
「うん、あれからいろいろ考えたんだけど、このまま家でパパにいらない子扱いされるよりましかなって」
お父さんひどいね。お母さんへの依存は抜け出したんだね。偉い。
「今日は購買でお菓子買ってパーティーだね」
って言ったらマリーに睨まれて
「一袋だけだよ」
って言われた。シュン・・・。
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〇アルカディア大教会 <クロエ>
身長3mほどの大理石の立像で、女神ヴァルキュリアが金字塔持って正面の壁面に飾られている。聖女ジュリアは像の前に両膝を付き、両手を組んで祈る。
「クロエさん、そこに居るんでしょう」
ジュリアが私が隠れていることを見越して呼ぶ。
「ああ、いるよ」
私は本来ならここに入ることはできないのだが、女兵士の護衛は部屋の出口で待機するので、この礼拝室の中ではジュリアは一人になってしまう。そこで私は隠形で姿を隠してジュリアを護衛している。
「ごめんなさい。あなたまで巻き込んで」
「気にするな。私の仕事だ」
もう2週間ほど護衛を続けているが何も起こっていない。それで申し訳なく思っているのだろう。
私は忍者だ。2週間何もないぐらいでは油断もしない。それぐらいはわきまえている。
それにこれから一番神経を使う一般礼拝がある。大きな礼拝堂で一般信者の前で聖女が祈りを女神に捧げるのだ。不特定多数の一般信者の前に姿を見せねばならないし、信者との距離も近いし、出口も近い。誘拐には一番危ない場所だろう。
聖女はこの教会で一番大きな女神像の下で、お祈りのポーズを始める。私は聖女の近くに位置取りする
うん?あの鎧姿の男達は聖騎士か。普通聖騎士は本部に居て、こちらに来るのは珍しい。しかも十人ぐらいいる。聖騎士は教皇が魔法でレベル上げをしているから強い、何もないと良いが。
嫌な予感がする。教会に聖騎士が居るのは当たり前と言えばそうなのだが・・・。
祈り始めて数分、いきなり聖騎士が躍り出た。
「ジュリア!!逃げろ!!」
聖騎士たちは聖女を包囲しようとしている。間に兵士はいるが勝てるのか?
兵士たちはポンチョを脱ぎ捨てスキンアーマーを起動する。
私は従者通信を全員通知で通信する。
『聖女が聖騎士に襲われている!!近くに居る者は駆けつけろ!!』
かろうじて聖女の前に来た私は背中に仕込んだ忍者刀を抜く。
目の前の兵士が斬り殺される。一般信者の悲鳴が飛び交う。
兵士は次々と斬られ人数を減らしていく。スキンアーマーを物ともしない攻撃力、こちらの攻撃は鎧に阻まれる。圧倒的不利だ。
私は聖女の手を引いて奥に入ろうとしたが回り込まれた。
聖騎士の一人が私に襲い掛かる。何とか剣は止めるが壁まで押し込まれ、身動きが取れなくなる。
その隙に聖女は担ぎ上げられ攫われる。
「キャーッ!!」
聖女の悲鳴が空しく響く。
やられた!聖騎士に気付いた時点で応援を呼ぶべきだった。
聖女が礼拝堂を出ると私を壁に押し付けていた奴も逃げようとした。さすがに背中の装甲は薄いのか私の剣が鎧を切り裂いた。
私は傷ついた聖騎士を押しのけ聖女を追う。
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〇ハーヴェル <レオン>
俺はハーヴェルにコトネの結婚式の着付けと化粧をカリシュに頼みに来ていた。今はついでに来年のハーヴェル工場群の生産品目の打ち合わせをマサユキさんとキラを呼んで話し合っていた。
「え!?」
クロエの通信に俺は驚いて声を上げる。呼びかけるも返答はない。
「陛下、どうしたんだ?」
「クロエから通信で聖騎士が聖女を攫ったらしい。悪いが俺は行かなきゃならない」
マサユキさんの呼び掛けに答えて、俺は窓を開けて外に飛び出した。
何やってんだよ!アルテミス!お前がちゃんとまとめるって言うから国家宗教にしたし、教育機関と結び付けた。それがヴァイヤールの教会は独立するし、今度は自分のところの聖騎士が聖女を誘拐って何やってんだよ。ヤヌウニさんを取り上げるぞ。
最近飛べるようになった護衛のジェリルをはるかに引き離して俺は急ぐ。
〇獣王国 <コトネ>
朝からレオン様がハーヴェルに出かけたので、私はかねて獣王様に頼まれていた農業指導の段取りを伝えに獣王城を訪問していた。最近は結婚式で配った魔導通信機があるのでアポはすぐに取れる。
そこにクロエ姉ちゃんの通信が入った。
「ど、!?」
「コトネ殿!どうなされた!」
慌てて、立ち上がった私を獣王様と王太子様が不安そうに見上げる。
「緊急事態です!!アルカディアに戻ります」
私は窓を開け飛び出した。
聖騎士が聖女を誘拐するって・・・私の結婚式はどうなるのようー!!。
あ、涙が出てきた。
グス・・・。
〇アルカディア学園 教室 <アンナ>
エイミー先生なかなか帰ってこないなあ。自習たって習ったことが少ないから勉強するネタがあまりない。駄弁ってるのは仕方ないよね。うるさくしても人のいる教室はここだけだし、中等部は校舎が違うから問題ないよね。
そこにクロエ姉ちゃんの通信が入った。
「・・・」
急に黙った私を心配して三人の友人が顔を覗き込む。
「どうしたの?お腹でも痛いの?」
「ちょっと緊急事態!先生が帰ってくるまでに戻れなかったら、うまく言っておいて」
流石に教室の窓からは出られないから廊下に出て、教室から見えないところまで走って窓を開けた。
『急げ!アンナ!レオン殿はハーヴェルだし、コトネ殿は獣王国だ。コトネ殿でも30分は掛かるぞ』
ロキが私が一番近いことを知らせてくれる。もう、皆がいないときにこんなことが起きるかなあ。
「来いシルフ!行くよ。最大速度で教会へ!」
風の精霊を呼び出すと風が私の体を大砲の玉のように加速する。
〇アルカディア大教会 <ジュリア>
どういうこと?なぜ聖騎士が私を攫うの?味方じゃないの?
痛い、鎧の男に抱えられてるせいで脇腹が鎧に押し付けられている。
教会の外に出ると四頭立ての貴族が乗るような馬車が見える。
あれに乗せられるの?どこに連れて行く気?
振り返るとクロエさんが聖騎士たちに囲まれて戦っている。
「だれかあー!!たすけてえー!!」
誰も助けに来てくれない。ふいにヤヌウニ様の顔が浮かぶ。
孤児の私には母親にも見えた。
「ヤヌウニ様あー!!」
私の声は誰にも届くことなく消えてしまう。
馬車の扉が開けられ、私は乱暴に放り込まれる。
馬車は走り始めた。
手足を縛られ目隠し、猿轡をされる。
私はどうなってしまうの?!。
〇<アンナ>
学園を出て数分後、ザルツブルグに向かう街道を全力疾走するクロエ姉ちゃんに追い付いた。
クロエ姉ちゃんを風のフィールドで包み私の横に持ち上げる。
「クロエ姉ちゃん、このまま前を行く集団を追えばいいの?」
速度を落とすことなく、ずっと前を走る馬車と騎馬の集団を空を飛んで追いかけている。
「ごめん、前の集団を追って。聖女を拉致られた」
息を何とか整えながら彼女は話した。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はアルテミスを聖騎士が裏切ったのか、ヴァイヤールの教会はこの件に関与しているのか?です。