表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/222

15-6 頑張れシャーリー

ご愛読、ありがとうございます。

いよいよ混迷を深めてきたアンナの学園生活。そんなところに現れた、昔ジュリアを追いかけまわした修行僧ニルドが現れた。

 教会の問題は手が出しにくい様相を呈してきた。アンナもシャーリーが退園するのを止められないと悩んでいた。


 アルカディア城 レオンの私室 <コトネ>

 いつものようにパジャマパーティーをしていたら、アンナから従者通信が届いた。

『お姉ちゃん、どうしよう友達がシュミレーションを切り上げられるの!』

「アンナ、良く解らないわ。ゆっくり状況を説明して」

 周りの人にアンナからの従者通信と判る様に声を出す。


「今日急に保護者が退園を申請してきたのね・・・」

 同室の友達の退園を止めたいみたいだ。でも止める力がないと言うことらしい。

「コトネちゃん、最近その子に何かなかったか聞いて」

 フェリ様がそう言うとエリーゼ様も頷いた。

「魔法の発表会があったのね。・・・その子は治癒魔法を使ったのね」


「治癒魔法だと、誰かそれを見ていなかったのか」

 急にレオン様が割り込んできた。

「そうか神父が拍手をしたのか、え、知ってるやつなのか・・イメージを送ってくれ。・・・これは」

 アンナがシャーリーの治癒魔法に神父が拍手をしていたところを見たと言ってきた。その神父の顔は私も知っていた。ジュリアさんを追いかけていた修道僧の一人、ニルドだ。


「レオン様、これはヴァイヤールの教会の指金ではないですか」

「多分そうだろう。あそこは以前も治癒魔法の使える聖女候補生を集めていた」

「ではそれをやめさせるのですね」

 私はアンナの願いが叶うと思って、レオン様に言ってみた。


「それは止められないわねえ」

 フェリ様が難しい顔をする。エリーゼ様も首を振った。

「コトネ、聞け、この話は別に奴隷契約ではない。小さい子が働くのは違法でも何でもない。ましてや宗教的修行を行うにおいては保護者的には榮譽だろう。それにだ、ヴァイヤールの教会が明らかに我が国に背信行為を行っているならともかく、今の段階では妨害のしようがない」


「つまり、教会から要請を受けて保護者が聖女候補生として、子供を教会に預けると言うことになんら違法性がないと言うことよ」

「その子が嫌がっていてもですか?」

 私はフェリ様に突っかかった。

「そうね。成人未満の子供の権利は保護者の権限が強いわ。子供の意見はほぼ無視される」

 これをアンナに言うの?私、言えないよ。せっかくできた同年代の友人が居なくなるのに何もできないなんて。


 そこでエリーゼ様が大きなため息を吐く。

「あんた達さあ、人様の家の事情に首突っ込んで、やあやあ言ってるけど、それって大きなお世話ってやつだよ。特にアンナちゃんが絡むとなんで親馬鹿みたいになっちゃうのいい加減にしな」

「でも・・」

 私は何か言おうとしたが言葉が出てこなかった。


「なに、今からその子のママのところへ行って、ヴァイヤールの教会はアルカディアに逆らってるから聖女候補生にしないでくださいって、お願いするの?!」

 エリーゼ様は私に厳しく言ってくる。レオン様の方を見たら目を逸らされた。これは反論できないと言うことだ。

「いえ、私が無理を言いました。ごめんなさい」


「世の中には理不尽と思える現実も多くあるわ。そのことをアンナちゃんにも教えないといけない。判ったのレオン!」

 エリーゼ様はレオン様を指さす。レオン様は素直に頭を下げた。

「はい、ごめんなさい」

「フェリも巻き込まれないようにしなさい」

「はーい」


 ******


<レオン>

 パジャマパーティーも終わり、皆部屋に戻った。

 俺は一人、私室に残った。この時間が俺が一人で過ごせる唯一の時間だ。

 さあ、今日はエリーだったか。もうちょっと一人の時間を楽しんでから行こう。

 二人の嫁に対して、交互に彼女らの部屋に通うのが、今の俺の日常だ。


 彼女たちが妊娠すればこの日常も終わるのだが、周辺国はこれ幸いと側室をねじ込んでくるだろうな。

 今のところ、帝国・ヴァイヤール・エルハイホー・ユグドラシルから打診されているが。大災厄が終わってからにしてくれと言ってある。獣王国はアンナを側室にすると思っているのか打診もない。


 フェリとエリーを愛しているのかと言えば自信がない。彼女達とはいわゆる政略結婚だ。大災厄を乗り切るためと俺の国が認められるために同盟が必要で、彼女達が俺を好ましく思っていてくれたのでちょうどよかった。でも彼女たちは俺をかいがいしく支えてくれる。それに対し俺も愛情を返さねばなるまい。


 コトネに対しては複雑で、好きなのは間違いないが、それが保護欲から来てるのか、愛情から来ているのか良く解らない。俺の手元で幸せにしてやりたいと思っているのでそれが愛情かもしれない。

 アンナに関してはもうこれは保護欲であり父性だと思っている。もう少し成長すれば愛情も芽生えるかなとも思っている。


 政権に関して俺は国民の意志を尊重したい。今は中央集権制だが、国民の意識が高まった時点で議会制政治に切り替えるつもりだ。王は君臨するのではなく、象徴として国民に見てもらいたい。俺の子孫がとんでもないことをして国を失うのは嫌だからな。王をなくすと俺に従ってくれた嫁達や臣達を裏切ることになるので王制だけは残したい。


 などと考えていると従者通信が入った。

『レオン殿、今一人か』

 ヤヌウニさんだ。どうしたんだろ。

「一人だけど、どうしました?」

『聖女について話がある』


「こんな時間にどうしたんですか?」

『アルテミスが四六時中私についているので、込み入った話ができないのだ』

「込み入った話ですか?」

『そうだ。アルテミスが離れたすきに連絡しているのだ。時間がないから一方的に話す。良いな』

「はい」


『まず聖女は放すな。ジュリアは凄まじい力を秘めている。上級悪魔にも匹敵する力だ。

 それから君は嫉妬というものの怖さを知るべきだ。私の肉体が害されたのも嫉妬に起因する。アルテミスは聖女に嫉妬している。だから本部に置かない。聖女の無事を願うなら君は彼女を娶らねばならない。第四夫人でも側室でもいい。アルテミスから離してやらないと教会自体が分裂するかもしれない。

 戻ってきたようだ。頼むぞ』


 通信は切れた。俺は教会は一枚岩で自浄能力もあると思って放っておいたが。ヴァイヤールの教会に続き、聖女の問題も俺に振るのかよ。

 仕方がない。エリーも教育問題で教会と接点があることだし、彼女のふくよかな胸に顔をうずめて考えるか。

 俺はいそいそとエリーの部屋に歩いた。


 ******


 アルカディア学園 女子寮 <アンナ>

 消灯時間になってようやく落ち着いてきたシャーリーは私達に自分の家庭のことを話し始めた。

 暗闇の中で私達は毛布を体に巻き付けながらシャーリーの話を聞いた。


「パパには四人のお嫁さんが居て、私のママは二人目なんだけど女の私しか産めなかったから、パパはあまり相手にしないみたい。それでママは私が一番になったら、パパが振り向いてくれると考えたみたい。だから人を貶めたり、罵って自分達の方が上だと思わせたかったの。

 学園でいい成績を取ればきっとパパも褒めてくれるって言ってたの。パパの関心は新しいお嫁さんにしかないのにね。

 今回聖女候補生の話が来て大喜びしたみたいよ。私が特別に優秀なんだとパパに力説してるわ。きっと。でも私は行きたくない。神様に仕えるなんてできるわけない。私はママといたい」


「私達にはあなたを自由にできる力はないわ。あるのはあなたのパパとママだけよ」

 私はお姉ちゃんに保護者の正当な願いを邪魔することはできないと知った。レオン様の目指す世界では強権で国民の願いが踏みにじられることはないんだ。

「ねえ、聖女候補生って何をするのか知ってる?」

 シャーリーは私達に聞いた。


 私はジュリアさんに聞いたこともあるし、オリンポスとの戦争の中でその悲劇を聞いた。

 マリーもキスカも何も言わないので私は話すことにした。

「私は他人に聞いただけだけど、ヴァイヤールの学園に通いながら教会の仕事やお祈り、治癒魔法で信者の治療を行うみたい」


 戦争でみんな死んじゃったことや、何十人もいて聖女には一人しかなれないことは言わない方が良いよね。ジュリアさんみたいに護衛を付けられた人は珍しいらしいから、かなり自由はあるのかもしれない。

「アンナ、良く知ってるね」

「ヴァイヤールにいた時、陛下のお世話をしてて、その時に陛下の同級生に聖女候補生をやってる人がいたのよ」


「陛下のお世話してたの。すごい。あなた良いとこのお嬢さんなの」

 マリーの話が脱線を始めた。この子はこんな話が好きなのよね。

「そのころの陛下は貧乏貴族の三男坊で学費も自分で稼いでたの。それよりシャーリーの話よ」

「そうなのね。陛下もそんなに苦労されてたのね。私だけ不幸だと思っちゃダメなのね」

 シャーリーは陛下の話に少し希望を持ったみたい。


「そうね。まだまだ道は開けると思うよ。私なんか両親が魔獣に殺されて、陛下に拾ってもらわなきゃ野垂れ死んでたね」

「アンナはすごいね。私陛下の話を聞いてみたい」

 シャーリーに少しでも前途に希望が見えるようにレオン様の立身伝を語ってみるか。この話は長いぞ。


 夜が更けて眠りに着くときレオン様から連絡があった。


 ******


<シャーリーのママ視点>

 次の日の朝、私は退園の手続きに学園を訪れた。

 私は学園に入って驚いた。数十人の司祭や神父が教員室の前に並んでいる。

「もしかして、これ皆シャーリーを迎えに来た人なの?」

 私の自尊心は爆発寸前である。


 昨晩、私の夫にシャーリーが聖女候補生に選ばれたことを報告したとき、彼は苦い顔をして言った。

「ヴァイヤールの教会に選ばれたって仕方ないだろう。ヴァイヤールで聖女になったって俺には何の関係もないじゃないか。それに本当に聖女になれるかもわからないだろ。まあ、シャーリーの養育費が浮くからいいか」

 そんな反応だったのだ。


 見なさい。シャーリーの迎えにこんなにたくさんの人が来ているのよ。あの子はすごい才能を持っているのよ。私はシャーリーを産んだ母として、もしかして聖母認定されたりして。もうパパはいらないわ。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はシャーリーとジュリアの運命が交差する・・・かもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ