15-5 迷走
ご愛読、ありがとうございます。
今度はシャーリーが?
新しい学園での誘拐事件騒ぎに続いて、聖女の誘拐未遂があったと言う。レオンはヴァイヤールの教会を調べることにする。
〇アルカディア城 <レオン>
俺はヴァイヤールの教会にブラウニーを潜入させることにする。聖女ジュリアの警護にはクロエを呼んだ。
クロエは最近ハーヴェルを拠点にしており、何をしているのかは知らないが、彼女のことだから俺たちのために動いてくれているんだろう。彼女も俺の進化に引っ張られてレベル6には勝てるぐらいにはなっている。
コトネは獣王国の仕事が一段落したのか、最近は俺の執務室にいることが多い。
「レオン様、聖女様の事ですけど、本来教会の業務ではないのですか。我々が手を出すのはどうでしょうか?」
コトネは痛いところを突いてくる。
「そうだな。それは俺も考えた。でもジュリアは俺たちの仲間だ。教会が苦心してるなら手伝っても良いんじゃないか」
「レオン様が納得されているなら問題ありません」
コトネは素直に疑問に納得してくれたようだ
彼女の疑問ももっともなんだが、俺は聖女が攫われることになった時の影響を考えると教会だけに任せておくことはできない。特に教育では田舎の初等教育を教会にまかせている関係で金字教の信徒は多い。信徒が崇拝しているのが聖女だ。失った時の影響は大きいと思う。ジュリアが聖女を嫌がるならほかの聖女を探さないといけない。そうそう替えの効くものでもないしな。アルテミスに相談してみるか。
俺が思いに耽ってるとコトネが寄ってきた。
「レオン様、教会の事ならヤヌウニ様に相談なさってはどうですか」
そうだよ最近姿を見ないので忘れてた。
「コトネ、ありがとう。忘れてたよ」
教会本部にいるヤヌウニさんに従者通信を入れたけど、立て込んでいるらしいのでまたということにした。俺も結構忙しいので昼休憩に連絡をお願いした。
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〇アルカディア学園教室 <アンナ>
「このシュミレーションも半分を過ぎました。皆さんにはここまででこの学園の良いところ悪いところなど気付いたことをこの紙に書いてください」
担任のエイミー先生は紙を配った。
「それと午後からは魔法の実演と剣技をやって貰います。昼休みが終わったらグラウンドに集合してください」
30分ほど経過した時点で先生は紙を集めた。
「残りの時間は自習にします。騒がないようにね」
集めた紙を持って先生は教室を出て行った。
先生が居なくなったとたん、私の背中をつつくやつがいる。
「何もう!セクハラで訴えるわよ」
振り向くとやはりオルトだった。
「お前、魔法を使えるのか。なあ」
このシュミレーションにはなぜかそれなりの児童が集められている。そう女子全員が魔法を使えるらしいのだ。
私はまだ魔法を使えることは明かしてない。シャーリーの前では派手にやったけどね。
「私はまだ11歳だよ」
普通、魔法に覚醒するのは12歳から13歳と言われている。だから私はまだ覚醒していないと言うことにしておこうと思っている。
「ちぇ、使えないのか。役に立つようなら妾ぐらいにはしてやったのに」
ちょっとビンタの2,3発をくらわしてやろうと思ったけど目立つのは嫌だからやめておいた。
「誰があんたの所になんかに行くもんか」
「無理すんなって、俺に惚れてるのは解ってるからな」
自信にあふれた顔でそうほざく奴に一発かましたい。うう・・・。
レオン様に貰ってもらおうと強く決心した。お前なんかレオン様に比べたら月とミジンコだ。
このオルトという犬獣人の男児はシュミレーションが始まって以来、アンナに絡んでくる粘着質の奴である。マリーに言わせるとアンナにぞっこんであるらしいが、大人であることを強いられる環境で育ったアンナにとってただのガキであった。
「あれ、アンナって魔法を使えたよねえ。だって私をおんぶ・・・」
「気のせいだよね!ね!」
シャーリーの言葉にかぶせて黙らせる。あんたもバレるとヤバいでしょうが。
「そ、そうね気のせいだったわ」
マリーはうすうす気付いているようだがシャーリーの脱走がバレるとまずいので黙って居てくれる。
魔法はやらずに剣技の方をやるか。こいつらが相手なら負けないだろうな。私は周りを見渡した。
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〇アルカディア城 レオンの執務室 <フェリ>
お昼を誘いに陛下の部屋に来た。あれは通商部の人だよね。
陛下と宰相と相談役が報告を聞いているようだ。コトネちゃんもいるけど参加はしてないみたい。
報告の内容はカールスーリエ王国とカールサイス公国の連合軍が、獣人国への侵略を中止して解散したと言う内容だ。
「なんで今頃?」
私は思わず聞き返してしまった。
だって獣人国がアルカディアに攻め入って、撃退されて、ヴァンパイアも参加して四貴族がガタガタになったのは二か月以上前の話だし、それからすぐに同盟結んで援軍出してるから、もう国も復興してるし、なんで今頃諦める話になるんだろう。
「わっははは。奥方様は陛下に毒されておられるようだ」
マキシミリアン相談役は私を小さい頃から知っているので遠慮がないようだ。
「どういうことか説明してください!」
私は馬鹿にされたように感じ、大きな声を出した。
「奥方様、獣人国の情報がカールサイス、またはカールスーリエに届くのにどれほどかかるか解りますか?」
「えーと、獣人国と二国は付き合いがないから、噂を聞くのにも3週間ぐらいかしら」
「そこから密偵を放って情報を収集するには?」
「2週間ぐらいよね」
「思ったより防備が堅そうだ。隣国に応援を頼んで一緒に攻めよう。これにはどれくらいかかりますか?」
「準備はいるし、1か月はいるわね。合わせると二か月超ってことね」
相談役は良く解りましたと言う顔をする。
「それらを1日でやってしまう陛下と一緒に考えてはいけません」
まあ、実際やったのはコトネちゃん達だけど従者通信や精霊通信、空を飛ぶ移動、少数での中央への襲撃、全部陛下のやり方だった。なるほどよその国はできないわけね。
初め援軍を1万と聞いた時驚いたけど、他国の侵略を防ぐ意味もあったのね。
「わかったわ。旦那様の異常性を再認識したわ」
「それは良かったです」
相談役はほほ笑んでくれた。宰相も微笑を浮かべている。この人たちって私をいつまでも子ども扱いするのよね。
「レオン様、そろそろヤヌウニさんに連絡してみてはどうですか?」
コトネちゃんは陛下呼びしてたんだけど、いつの間にかレオン様に戻ちゃってる。
陛下はヤヌウニさんと従者通信を始めたようだ。
「コトネちゃん、陛下は何を相談してるの」
陛下の邪魔をしないように声を落として聞いてみる。
「ヴァイヤールの教会が反旗を翻したのと聖女様が暴漢に襲われた件です」
「それって教会がどう動くかってこと?」
「いえ、レオン様は介入するつもりです。クロエ姉ちゃんを聖女様の護衛に付けました」
どういうこと?陛下は政教分離を掲げてるはず。教会の内情に深くかかわることは危険だ。
5分ほどで従者通信が終わったようだ。
「いかがでしたか?」
私は陛下にヤヌウニさんとの通信内容を聞いた。
「まずヴァイヤールの教会についてだが、新しい教義に反発して旧来の獣人差別・貴族金持ち偏重に戻ろうとしているらしい」
「さようですか。ヴァイヤールにはまだ貴族がおりますから、その方が支持を得やすいのでしょう」
ヴォルガンフ宰相が感想を述べる。陛下は続ける。
「教義については国も違うため、アルカディアの教義を強制するのは難しいそうだ。ただジュリアを狙うのなら全面対決も辞さないそうだ。その場合は応援すると伝えた」
「うーん、これは陛下の兄上に一言断っておいた方がよろしいかと。ヴァイヤール国内での騒動に成りかねませんので」
宰相の言葉に陛下は深く頷いた。
「分かった。ルーカス兄上には通信を入れておこう」
ヴァイヤールの教会が諦めてくれ願うばかりだ。変にヴァイヤール王国との関係に悪影響が出ないことを祈るしかない。
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アルカディア学園 グラウンド <アンナ>
お昼休憩の終わりを知らせる鐘の音がする頃、すでに初等部の生徒は全員グラウンドに集合していた。
「男子生徒はこちらに、女子生徒はエイミー先生の方に整列してください」
副担任の先生が男女で分けた。まずいわね。これは女子は魔法になりそうだ。
噂では女子は魔法の使えるものを呼んだらしいので、逃げられないかな。
私、魔方陣を使った魔法は覚醒してないから使えないのよね。どうしよう。
次々と魔法を披露する生徒、私の順番が近付いてくる。
何人か観客がいるよ。まずいなあ。
魔法を使わないと紹介してくれたエリーゼ様の顔を潰しちゃうのかな。
マリーが魔方陣を描いて風魔法を起動する。
「ブリーゼ!」
1分ぐらいそよ風が吹く。しょぼい、あ、私もこれで行こう。
次はキスカが魔方陣を描く。
「トランスレーション!」
土魔法だ。目の前の土がぼこぼこと盛り上がる。これも捨てがたいな。
次はシャーリーだ。魔方陣を描く。あれ、見たことがあるような。
「トリートメント!」
あれは治癒魔法、相手がいないから空振りなんだけど。
観客の一人が拍手をする。若い神父だ。なんか見たことがあるような・・・。
私、人の顔と名前を覚えるのが苦手なんだよね。
さあ、私の番だ。適当な魔方陣を描いてっと。
「エアブロー!」
魔方陣を消してそよそよと風を吹かす。
うまくできたんじゃね。私って天才かも。
ほら、誰も注目してないし、大成功じゃね。
これで最後まで学園に居られる。精霊魔法なんか使っちゃったら、注目されすぎちゃうもんね。
その日の夜、私達は寮の部屋でだべっていたのだが、またシャーリーの様子がおかしい。
「どうしたのシャーリー、またお母さんが恋しくなった?」
「ううん、違うの。私今日でシュミレーションが終わるの」
「え、どうして?」
私はシャーリーの言葉に驚いた。わがままは治っていないもののずいぶん人当たりが良くなって仲良くなってきたのに。
「ママの使いが夕方、退園手続きをしに来たんだけど、時間外になって手続きができなかったの。だから明日朝から手続きして、お昼前には帰らなくちゃいけない」
私が聞いてるのは手続きの話じゃない。
「シャーリーはなぜ退園しなきゃいけないの」
今ここにきている子たちは、来年この学園に入る予定の子達だ。成績次第では入試を受けなくていい特典もある。それなのに特典をフイにしてまでなぜ?。
「解らない。何も教えてくれなかった」
シャーリーは泣き出してしまった。
子供ってなんて非力なんだろう。シャーリーに残ってほしいけど。保護者がやめると言えば、止める手立てが無い。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次はシャーリーの運命やいかにと言ったところですか。