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15-4 聖女様の悩み事

ご愛読、ありがとうございます。

今回は久しぶりのジュリアの話です。

 誘拐事件の真相が未解決のまま2週間の時間が過ぎた。


 〇アルカディア城

 コトネはレオンに呼ばれ、執務室に入った。

「レオン様、なんでしょうか?」

「ああ、お前の結婚式だが、そろそろどうだ?」

「はい!?」

 コトネはいきなりの提案に驚いた。コトネは結婚式に出られなかったのは。自身のふがいなさが原因と思っていて諦めていた。


「私は皆さんに迷惑をかけてしまったのに、今更式を上げていただくわけにはいきません」

 レオンはコトネがそう言うだろうことは解っていた。

「しかしお前は成長期だ。あまり間を開けるとウエディングドレスを着れなくなるぞ。まあ、前みたいな式は無理だけどな。今度は身近な人を呼ぼう」

 実はコトネはアンナが居なくなって夜一人になってから、ドレスを眺めてため息を吐いているのである。


「アンナが戻るまで2週間はあるし、他に出席してくれそうな人に連絡しなくちゃいけない。年末くらいになるな」

 コトネが俯いてしまったので、レオンは独り言のように話掛けている。

「あ、・・・」

 コトネは片手を伸ばしてレオンを止めようとするが、言葉が出てこない。

 心の中では反対の気持ちが湧き上がるから。


「沈黙は承諾と見なす。良いな」

「・・・」

 コトネは涙が溢れた。


 ******


 その日の夕方、食事までの時間にフェリの私室にエリーゼが来ていた。

「年末にコトネちゃんの結婚式をやるらしいの」

「そんな話あったの?」

「今日の朝、陛下とコトネちゃんが決めたらしいわよ。エリーにも伝えといてって」

 フェリは同い年のエリーゼをこの私的スペースではエリーと呼ぶようになっていた。エリーゼもフェリシダスをフェリと呼んでいる。


 二人とも公務を持っており、ここ以外では護衛も付くので、私室でのプライベートな時間が大切なものとなっている。

「じゃあ、お祝いした方が良いかな?」

「うーん、あの子は生真面目だから物を送ると気にしすぎちゃいそうね」

「そうだねえ。私達が貰ってないから余計にねえ」

 二人は苦笑いしている。


「そういえば護衛の二人が帝国に帰るって聞いたけど。そうなの」

「うん、ウェルバルとアデライーデも帝国に帰ることに決めたみたい。今、親衛隊のナルとロッケに引き継いでる」

「そっかー、もう結婚して1か月だもんね。私達もアルカディアの人間になって行くんだね」

「これで子供が出来たら根が生えちゃうね」

「やることやってんだから、そのうち出来るでしょ」


「キャハハハハハ、いやだー恥ずかしいよ」

 二人で大笑いする。普段は大人びて見える二人だが、まだ幼さが垣間見える。


 ******


 その夜のパジャマパーティーは当然コトネの結婚式の話だ。

「でも派手に式を挙げちゃって大丈夫なの?」

「ああ、今回は他国から呼ぶのは獣王様だけだし、戴冠式もないから、そんなに費用は掛からないし、秋の収穫の売り上げもあるからな」

 エリーの疑問にレオンが答える。みんなの顔が綻んでる。


「すみません私なんかのために」

「ちがうって、タイミングよ。国民に対しての」

 エリーはコトネに謝られて慌てて否定する。

「それも大丈夫だ。コトネは式当日体調不良ということになってる。コトネの結婚式をやることに国民の反対は少ない」


「コトネちゃんは国民に人気あるもんね」

 コトネは建国前後にスキンアーマー姿で戦う様子が何回か目撃されており、嫁の中では一番人気である。

 帝国にいたエリーはその辺の事情を知らないでいた。

「いずれにせよ、結婚式の出席者と教会の手配をしないとね」

「あの、私は何をすればいいのでしょうか?」

「コトネちゃんは何もしなくていいよ私達でやるからさ」

 フェリがそう言うとエリーもニコッと笑った。


 ******


 〇アルカディア学園 女子寮 <アンナ>

 アンナは学園生活も後二週間かと珍しく流れゆく時を惜しんでいた。

「アンナ!早く髪の毛を梳かしてよ、」

 シャーリーの声が私の想いを破った。

「そんなこと自分でやりなさいよ!」

 私はぶしつけなシャーリーに言い返す。


 そういや、いつもはマリーにやらせてたな。アリスは思った。マリーは所用で寮監に呼ばれていた。

「あんた!メイドだったんでしょ。それぐらいやりなさいよ」

 シャーリーは完全に元に戻っていた。マウントを取りたがるし、わがままを通そうとする。

「ふうん、私のお給金は高いよ。なにせコトネ様付きだったからね」

「ウッ・・・」

 そういわれるとお金をほとんど持っていないシャーリーは言い返すことができない。


「うう、・・・」

 シャーリーは嗚咽を洩らし始めた。

 彼女の髪は腰まである金髪の少しウェーブのかかった毛だ。手入れを怠れば明日の朝はとんでもないことになる。

 アンナは内緒でリンスを使っている。髪も肩までだし、そんなに手入れに気を付けなくてもよかった。

「アンナはきれいな髪をしてるね。私なんか癖っ毛だから放っておくと爆発するんだよ」

 キスカは自分の赤毛を引っ張ってアンナに抗議した。


 だいたい自分でできないなら毎日洗うなよと言いたい。今の季節なら三日か四日に一回で十分だと思う。

「あんたねえ、いい加減、人の迷惑を考えなさいよ」

 シャーリーの乾きかけた髪に櫛を通す。私は結局冷淡には徹しきれないのだ。

 私もこんな髪があればお姉ちゃんに威張れるのになあ。

 そこにレオン様から従者通信が入った。


『コトネの結婚式を年末ぐらいにやりたい。お前も出るだろう?』

「もちろんよ!!あ・・・」

 声に出ちゃった。シャーリーとキスカが睨んできた。どうやってごまかそう。


 ******


 聖金字教アルカディア教会 <レオン>

 次の日の朝、聖女兼司祭のジュリアにコトネの結婚式を頼むために来たと言うことになっている。

 すでに昨日のうちに今日の訪問は教会に伝えてある。実は昨日、ジュリアからの手紙で会いに来てほしいと要望されていた。

 ジュリアと話をするのはいつ以来だろう。まともに話したのは帝都にいるときサクラとしてだったか。


 ジュリアの部屋に入ると護衛を二人後ろに置いたジュリアが、ソファーから立ち上がって礼をした。

 久しぶりにまともに見るジュリアは美しくなった。帝都にいた時はサクラに変装していたため今見ると別人である。

「陛下、わざわざのお越し、ありがとうございます」

「今日は友人枠だからな。そう肩肘を張ってくれるな。まあ、座ってくれ」

 俺は着席を求めた。


「おい、ジェリル、昔の秘密の話がしたい。外してくれるか」

 護衛についてきた親衛隊長のジェリルに部屋の外に出るように言った。

 ジェリルは俺にお辞儀をして歩いたが、扉のところで立ち止まった。

「あなた達も出てください」

 ジュリアも自分の護衛に言ってくれた。護衛は反論しようとしたがジェリルの威圧で黙るしかなかった。


 ジェリルは教会の護衛が扉から出たのを確認して外に出て扉を閉めた。ジェリルも腹芸ができるようになったか。

 ジュリアは護衛が居なくなるとホッとしたように胸を押さえる。


 俺はジュリアの手紙の行間に異常を感じたのでこうして護衛を外して二人きりになったのである。

「で、君を悩ますことがあるんだろ」

 ジュリアの顔が輝いた。

「はい、ヴァイヤール王都の聖金字教会なんですけど、反旗を翻しました。まあ、これは教会の問題なのでレオンさんには関係ないのですが、最近、私の周りで不可解なことがありまして」

 ジュリアは手を顔に当て小さな声で一気に言った。教会のことを外の者に相談していることを隠したいのだろう。


「ジュリアはヴァイヤールの教会と君の周りで起きることが、関連していると考えているんだね」

「はい、どうも私をさらおうとしているようなのです」

 俺はさらうと聞いてアンナの事件を思い出した。まさかな。

「こないだも黒ずくめの男が外に出た私に襲い掛かってきて、私もヤヌウニ様に気功を鍛えられておりますので難なく撃退したのですが・・・」

 教会の事件を俺に話すのにまだ抵抗があるようだ。


「俺は今日は王でなく君の友人として来ている。遠慮はいらない。その賊がヴァイヤールからの手の者だと思うんだね」

「はい、私の存在価値は教会の神輿でしかありませんから」

 ヴァイヤール協会は反旗を翻したものの、その宗教的中心を欲しっていると言うことか。

 しかし、ジュリアが聖女を嫌がっている様子を見るのは初めてだな。


「私はもう聖女なんかやりたくない。サクラのままで居ればよかった」

 そうかジュリアはヤヌウニさんについてきたら、聖女に祭り上げられてしまったということか。俺も教会の安定のために、聖女が必要だと思っていたから申し訳ないことだ。

 この話も教会には相手にされていないと言うことか。

 俺はアリストス学園に通っていた時に聖女候補生だった彼女と会った。彼女は獣人を差別する教会に疑念を感じていたので、獣人の従者を大事にしている俺に接触してきたのだ。


 その後若い修行僧が横恋慕をして、老いた貴族に嫁がされると騙して、彼女と駆け落ちをするつもりだったらしいが彼女は俺のところに逃げてきた。ちょうど帝都の学園に行くところだったのでアキラさんの家にかくまった。そこでヤヌウニさんに会って弟子入りみたいになってたな。

 教会の追跡を躱して帝都に行き、アキラの店を始めた時に、サクラに変装してヤヌウニさんと治療院を始めたんだった。


 まずはジュリアをヴァイヤールの教会から守らないといけない。

 そうするとヴァイヤールの事だけに追求するのに確実な証拠がいるな。やっつければよかったオリンポスより難しいことだ。

 ジュリアの方はアルテミスがヤヌウニさんを離さないから教会にいるのはストレスでしかないだろう。

 まずは証拠集めか。俺は従者通信で段取りを整える。


「明日、俺の手の者をジュリアに付ける。しばらくは普段のまま過ごしてほしい」

「ありがとうございます」

 ジュリアの顔が上気しているな。余程嬉しいのか。

「それでは戻る」

 俺が腰を上げるとジュリアが引き留めた。


「あの、コトネさんの予定を」

 やべぇ、このまま戻ったら嫁さんズにつるし上げられるとこだったぜ。


 ******


<ジュリア>

 帝都にいるときはあの人に軽口も冗談も言えたのに、今は堅っ苦しい話しかできない。

 前は憧れていたんだと思う。キャミールの罠から救ってくれた時にぶつかってみれば良かった。

 でもあの時は外のことを何も知らないヒヨコだったもん。仕方ないよね。

 でも今は邪魔な肩書と責任があるんだよね。

 今度も救ってくれるっていうし、なんもかんも放り出してアタックするか。

 ああ、側室でもいいから貰ってくれないかなあ。


「聖女様、お祈りのお時間です。禊を始めてください」

 私は毎日お祈りをしなければいけない。女神ヴァルキュリアに平和とかを祈るのだが、私が祈ったところで悪魔が来ないかというとそんなわけはない。ただの慣例化した儀式だ。

 禊用の部屋に入り服を脱ぐ、尼僧が裸になった私の体を拭く。

 この頃、大きくなってきた胸のふくらみ、あの人に見せることもなく、萎んでいくのだろうか。


 女なら好きな男の子を成して、この胸に抱くのが本望ではないのか。そう祈ってみようか。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

この章では話の場所と登場人物が時系列で飛びまくります。何とか付いてきてください。

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