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15-3 誘拐事件

ご愛読、ありがとうございます。

事件が起きました。

 深夜、寮を抜け出したシャーリーに迫る悪意、アンナは彼女を救うために飛び出した。

 月明かりの中急ぐアンナだが、すでに悪意の集団とシャーリーは出会っていた。


 学園の近くの道路 <アンナ>

 シャーリーは出会うと同時に口を塞がれ、体を拘束された。

「学園が試験営業をしてるって言うから覗きに来たら、向こうから来てくれたよ」

「姉御どうしますか?」

「そうだね。縛り上げてどこかに隠しておくか。アタイ達も偵察をしないとボスに絞められるからな」

「男ならよかったんだけど、女では買い叩かれますからね」

 口を塞がれ、藻掻くシャーリーは素早くロープで縛り上げられ、近くの生け垣の下に放り込まれた。


 三人組の明らかにアウトローな格好をする女達は、学園に向かって歩き始めた。

 この世界では生まれる性別の割合は3対1で女が多い。なので女の子の売値は安い、だからシャーリーは邪険に扱われる。


「お待ち!!」

 シャーリーと女達の間に入る様に私はすっくと立った。いや、少し浮いている。室内履きのスリッパを履いてきたので汚すのは嫌なのだ。


「姉御、出てきたのは良いけど、また女ですぜ」

「まあ、北まで運べば結構な値で売れる。捕まえときな」

 姉御と呼ばれた女は振り返ることもせずに指示を出した。クックック、私を侮ったな。

「反省するようなら少しは温情を掛けてやったのに」

 私は両手をばっと前に伸ばした。開いた掌から紫の光と電撃が走る。

紫電雷光ライトニングボルト!!」


 背中からの紫電の光に姉御が振り返ると手下が二人とも倒れている。

「お前がやったのか」

「あなたのボスって誰?教えてくれたら痛くないように倒してあ・げ・る」

 アンナが手招きしながら姉御をからかう。

 姉御はナイフを抜いて襲い掛かってくる。


「魔法は打つまでに時間がかかるんだよ!」

 ナイフが迫る。私は両手を前に叫ぶ。

「紫電雷光!!」


「私は魔方陣を使わなくても簡単な魔法は撃てるんだよ」

 姉御は「そんな」といったようだが、そのまま倒れ伏した。

「さて、どうしよっか?早く帰らないとマリーが心配してるだろうし・・・」

 シャーリーの戒めを解いて考えるか。


 とりあえずお姉ちゃんだけには連絡を入れておく。

「シャーリー!シャーリー!」

 恐怖で気を失っていたシャーリーを起こす。

「ううん・・」

 起きたみたいだ。とりあえず寮に戻るしかないか。

「ほら起きて!寮に帰るよ」


「嫌!、家に帰るの」

 やっぱり家に帰るつもりだったみたいだ。

「家に帰るのなら、明日、学園に言って帰ってね。迷惑だから」

 シャーリーはハッとする。自分のやったことが分かったらしい。

「分かった」


「じゃあ、私におぶさって」

「え、?」

「さあ、早く」

「・・はい」

 アンナが何を言ってるのか分からなかったのか、なかなかおぶさろうとはしなかった。

 それでも仕方なくおぶさるとアンナは寮まで飛んだ。もちろんシャーリーの悲鳴は無視をする。


 開け放してあった窓から廊下に出ると、アンナはシャーリーの手を引いて自分達の部屋に入った。

「無事だったのね。寮監に連絡しようか迷ってたの」

「よかったケガはないね」

 マリーとキスカは寝ずに待っていてくれた。


「今日はもう遅いから寝ましょ」

「そうね。シャーリー今日は静かに寝ていてね」

「うん」

 シャーリーは素直にベッドに入ってくれた。

『あ、姉御たちを忘れてきた』アンナは思い出していた。

 まあ、お姉ちゃんが何とかしておいてくれるだろう。


 ******


 朝、シャーリーは事件のことが恐ろしかったのか、マリーと抱き合って眠っていた。

 私達はシャーリーがどうしたいのかを聞いてみることにした。

「私、ママが居なくなったときにものすごく不安になったの。それで我慢できなくって・・・ごめんなさい」

「それでシャーリーはどうしたいの。ママのところに帰りたいの。学園に残りたいの」

 マリーが優しく聞く。この子は母性本能が強いのかな。


「ママのところには帰らない。私は強くならなきゃいけないのよ」

「じゃあ、このまま学園に残るのね」

 マリーは喜んでいるが、私は良く解らない。だって学園にいるくらいじゃ強くなれないから。

「強くなるって言うのは精神的にだからね」

 私が首をかしげているとマリーが説明してくれた。


「早く学園に行く用意して、ご飯も食べなきゃ遅刻しちゃうよ」

 キスカが私達を急がせる。まあ、遅刻はしないと思うが。


 ******


 アルカディア城 <コトネ>

 もうアンナが夜中に騒いだおかげであまり眠れなかったよ。

 レオン様も起きたろうから連絡に行かなきゃ。

「レオン様、アンナの友達が人さらいの組織に狙われたそうです」

 執務室の扉を開けて、いきなりそう言うとレオン様がびっくりした顔を上げた。

「詳しく説明してくれ」


「昨日夜2時頃、アンナから従者通信がありまして、アンナと同室の女の子が寮を脱走して逃げている途中、誘拐犯に遭遇して拉致されました。女の子を探して追いかけていたアンナが、誘拐犯を撃退しましたが女の子を寮に返すため戻りました。アンナはその後を私に託しましたので、気絶していた犯人を連れて来て、アルカディア城の地下牢に押し込めました。アンナが犯人に背景があるような会話をしており、学園のためにも組織の撲滅をお願いしたいと言うことでした」


「誘拐組織がなぜ学園を狙う?厳重な警備をしている学園より民間の方が攫いやすいだろう」

 レオン様がすぐに疑問を抱いたみたい。

「そうですね。犯人たちを責めてみましょうか?」

「久しぶりにティムを使ってみるか」

 ティムは術者に被術者が従属する魔法だ。レオン様は隷属魔法の魔方陣も持っているが使いたがらない。


 地下牢に降りて、三人にナイフを握りつぶすところを見せたら、心折れてすぐにティムできた。

 彼女たちは傭兵崩れで仕事を探していて、近くの酒場で依頼者と会ったということだ。

 三人に依頼された内容は夜の学園の警備状況を調べることだった。三人はそれを誘拐と思い込み、偶然出くわしたシャーリーを行きがけの駄賃とばかりに誘拐しようとしたらしい。

 

 今日の夜、依頼を受けた酒場で調査の結果を報告することになっているらしい、

 レオン様はクロエ姉ちゃんをハーヴェルから呼び戻し、依頼者の追跡をさせると言っている。


 ******


 アルカディア学園 学生食堂 <アンナ>

 同室の子たちは昨日の活躍で、私がただのメイドだったとは信じていないだろう。でも変わらずに接してくれる。今日登校前に礼を言った。

「私のこと黙っていてくれてありがとう」

「言えばシャーリーもただでは済まないでしょう」

「あなたがシャーリーのために行動したことは解ってるから」

「私のこと助けてくれてありがとう。あなたは命の恩人だわ。何でも言って」

 私は昨日のことを気にせずに学園生活を楽しむことにした。


 今日は初めて学園の食堂にやってきた。

 食堂は寮とは違ってトレーの上にあらかじめ給食が置かれたものがワゴンに並べてある。

 私達はトレーを取って空いた机に座った。シュミレーションでは初等部1クラス、中等部一クラスしかないから食堂はガラガラだ。


 私達が昼までの授業についてだべってた時に、私は不意に名前を呼ばれた。

「アンナちゃんじゃない!あなたもここにきてたの?」

 顔を上げると聖女様がいた。

 私は驚いて声をあげそうになった。ジュリアさんが唇に人差し指を当てたので叫びを飲み込んだ。

 帝都にいた時はほとんどタメで話してたけど、ここではそう言う訳にはいかない。


 ジュリアさんはもともとヴァイヤールの金字教会にいて、レオン様と同じアリストス学園中等部に通っていた。

 ジュリアさんの略歴は

 聖女候補生をしていたが修道僧に横恋慕されてピンチになり、レオン様が帝都に逃がした。

 帝都ではヤヌウニさんに弟子入りして、サクラと名前を変え、治療院をやっていた。

 レオン様がアルカディアを建国して聖金字教会を改革したので聖女として教会に戻った。


 ジュリアさんは私達の向かいに座った。両脇には女性の護衛が付いていた。

「私はね、ヴァイヤールで中断した学業をもう一度受けてみたいと思ったのよ。それでシュミレーションを見学させてもらおうと思って来たのよ」

「私は人数合わせに呼ばれたんです」

 私は正体がバレないように当たり障りのないことを言う。


 キスカがジュリアさんに分からないように肘で突いてくる。紹介しろと言ってるのだろうけどいいのかな。

「ごめんなさい!お友達に悪かったわね。私、聖金字教会のジュリアと言います。もしよかったら仲良くしてね」

 先にジュリアさんが察して自己紹介してくれた。

 私は同室の三人を紹介した。


 食事はジュリアさんの乱入で盛り上がらずに終わった。

「じゃあ、私は帰らなければいけないのでごめんなさい。またこちらに来れたらよろしくね」

 ジュリアさんは護衛に守られながら去って行った。

「ちょっとアンナ!、あの人教会の偉い人なの?」

「あの人は聖女様だよ。聖女見習の時に会ったことがあるんだよ」

 三人が興味津々なので話したが、時々人前に出る人なので、正体をばらしても問題ないだろう。


「そっかあ、アンナは城にいたから偉い人とも会ってるんだね」

 一緒にヴァイヤール王都から帝都まで旅したとは言えないよね。あれは教会の黒歴史だから。

「ねえ、聖女様なら私をちゃんと紹介してくれてもよかったんじゃない」

 あれ、シャーリーったら復活しちゃったのかしら。むすーとした顔してる。


「あなたを紹介してどうするの?」

 とりあえず聞いてみよう。

「私は文部部の課長の娘なのよ。聖女様も私の事、知りたかったんじゃなかったのかしら」

 だから何だって言うのよ。

「ほら聖女様って世俗のことに疎いから、あなたのお父さんのことは分からないと思うよ」


「そうなのかしらね。まあ、あなたの友人と紹介されるのもちょっとあれね」

 無理やり納得したようね。ホッとした。いや、私達三人がね。


 ******


 アルカディア城 <コトネ>

 一応文部部のえらいさんとエリーゼ様に昨日の出来事をシャーリーを伏せて報告した。

「学園寮を狙ったってことね。でも狙われそうな人ってアンナちゃんぐらいじゃないかしら」

「狙われそうな人間はいないのだな。奴隷目的の誘拐なら市井で犯行に及んだ方が効率がいいから寮の人間が目的と思われるんだが」

 エリーゼ様の言葉にレオン様が推測を言った。


「犯人にクロエ姉ちゃんを付けて、依頼主に合わせることにしました」

「犯人に!!クロエさんってあまり知らないんだけど、大丈夫?!」

 やば、クロエ姉ちゃんのことはエリーゼ様もあったことはあると思うけど、言わない方がよかったかも。

「まあ、大丈夫だろうさ」

 レオン様がフォローしたけど、ティムやクロエのことは秘密だから話すなって怒られた。


 その夜、犯人の前に依頼主が現れることはなかった。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

事件は起きましたが黒幕も目的も分かりません。次回は別の話になりそうです。

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