15-1 アンナ学校へ行く
ご愛読、ありがとうございます。
十五章は大災厄の前、主にアンナの活躍の予定です。
コトネが戻ってから数週間が経ち、アルカディアにも平穏な時間が戻って来た。
〇アルカディア城 <アンナ>
私がコトネの私室でベッドに寝っ転がっていると、メイドのケイティさんが邪魔者を見る目で言った。
「アンナさん、行儀が悪いですよ。掃除をしたいので部屋を出ててくれませんか」
ケイティさんは獣王国から来たお姉ちゃん専属のメイドさんだ。赤毛の犬獣人で背が高く。そこそこ整った顔をしている。年齢は確か19歳だったと思う。
「はーい」
私の部屋でもないので素直に従っておく。
お姉ちゃんは自分の執務室をもらって、獣王国のデータを精査している。クロエお姉ちゃんはコトネお姉ちゃんが落ちついてから、サスケさんの手伝いでハーヴェル工場群へ行っている。要するに私の相手をしてくれる人がいないのだ。
「仕方ない。お姉ちゃんの執務室でおとなしくしてるか」
二階の執務室が並んだ廊下をお姉ちゃんの執務室に向かって歩いていく。
同じような部屋が続いている。ややこしいな。一応名前が書いてあるから間違えないけどね。
お姉ちゃんの特訓でちゃんと字も読めるようになったからね。
お姉ちゃんの部屋の一つ向こうのドアが開いた。
エリーゼ様だ。彼女も執務室を持ってる。教会と学校や孤児院のことをやってるって聞いた。
「あら、アンナちゃん。コトネちゃんに御用?」
ここで私は一世一代の失敗をしてしまう。
「はい、掃除で部屋を追い出されちゃって、お姉ちゃんのところで時間を潰そうかと思いまして」
「あら、そうなの。・・・あなた、暇なのね」
なにか嫌な感じがする。
「はあ、」
エリーゼ様がニヤッて笑った。しまった。これは何か厄介ごとを押し付ける気だ。
「ちょうどいいわ、今学校を作ってるんだけど、来年の開校に向けてシュミレーションをやっていて、生徒役を探してるのよね」
そら来た。やっぱり厄介ごとだ。
「私は11歳だから、まだ学校は入れなくて・・」
私の言い訳なんか聞いちゃいない。
お姉ちゃんの部屋のドアを開けるといきなり交渉を始めた。
「ねえねえ、コトネちゃん、ちょっとアンナちゃんを借りたいんだけど」
・・・・。
「いいですね。一応初等部の学科は教えたんですけど。やっぱり団体生活は体験させておかないとと思ってたんです」
お姉ちゃん・・・そこはまだ無理とか言ってよね。
私抜きで話がどんどん進んでいく。さすがにエリーゼ様には逆らえないし、どうしたらいいの。
「じゃあ、連絡入れとくから明日からお願いね」
押し切られてしまった。まあ、一ヶ月間だけらしいし、付き合ってやるか。
「アンナ、学校の予行演習ができるわ。よかったね」
暇つぶしになれば良いけど。とか考えてる頭の中ではワクワクドキドキしている自分がいる。
お姉ちゃんの言ってる様によく似た歳の友達ができるのだろうか。
ここではしゃぐと子供って思われるから、ちょっと面倒臭そうにして居ましょ。
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〇レオンの私室 <アンナ>
その日の夜、恒例のパジャマ会議が開かれていた。
参加者はフェリ様、エリーゼ様、お姉ちゃん、そして私、レオン様はいつものように少し離れて聞いてる。
まずフェリ様が今日の仕事の話を面白可笑しくして、次はエリーゼ様の話になった。
「来年から初等部、中等部をアルカディアで始めるのだけど、それのシュミレーションを明日から始めることになったの。いやあ、生徒数を揃えるのに苦労したわ。アンナちゃんが参加してくれることになってよかったよ」
エリーゼ様もアルカディアの政府の仕事を始めて、最初は難しい顔をしていたが最近は明るくなってやりがいを感じてるようだ。
「どの程度のシュミレーションをするつもりなんですか」
お姉ちゃんが質問する。レオン様やフェリ様は予算なんかで、内容が上がってるから知ってるんだろうな。
「全部よ、全部。スタッフも初めての人が多いから、実際練習できるのはありがたいわ。・・内容ね。授業、給食、寮生活なんかね」
エリーゼ様はお姉ちゃんと私の具体的な内容は、という目を見て慌てて内容を追加した。
え、寮生活って聞いてないよ。
「寮って全員ですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないです」
「ごめん、ごめん、そういうことだから」
その後、ほんのり和やかな雰囲気になったので、私は言い返せなくなった。
皆が解散して部屋に戻った。お姉ちゃんが戻ってから、レオン様が奥さん方の部屋に通うスタイルに変更したらしい。私としては生々しいのは勘弁だからその方が良い。
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次の日は朝からバタバタしていた。
「アンナ着替えはちゃんと入れたの?洗面用具は?ハンカチはポケットに入れておくのよ」
お姉ちゃんが過保護ママになっちゃった。
昨日せっかく用意したトランクをひっくり返す勢いでチェックが始まった。
「お姉ちゃん大丈夫だから。何かあったら連絡するから安心して」
あんたまだ13歳だろ、何をお節介なお母さんをやってんだよ。
「もっときれいな服無かったの。今から買ってこようか?」
縋りつくお姉ちゃんを振り切って、ドアを開けるとレオン様がいた。
「アンナ重いだろう。持ってやるぞ」
あんたもか!!
数百m離れている学園まで行くだけだぞ。いい加減にしてくれ。
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何とか付いてこようとする二人を置き去りにして、用意してもらった馬車はアルカディア学園に到着した。
トランクを持ちながら初等部の受付に行く。なにこれ、生徒とそれに倍する父兄がいる。私はこの年になって父兄が付いてくるのは恥ずかしいと思っていたが、世間ではそうではないらしい。
私は列に並び順番を待つ。
「あなたお母様は一緒じゃないの?」
いきなり前に並んでいる女の子に話しかけられた。
「母は亡くなりました」
「あなた獣人の上、母親もいないの?」
あちゃあ、まずいのに捕まったかな。
「どうしてこの学園・・・」
「手続きは終わったよ。寮に行きましょ」
母親がなにか言いかけた女の子を引っ張って、奥の方に行ってしまった。
「あなたおひとり?」
受付のお姉さんに私は「はい」と返事をした。
「お名前は?」
「アンナです」
レオパルドの姓は名乗らないように言われてる。そりゃ義理とは言え、王女とは言えないよね。
「文部部の紹介の人ね」
「ここにお名前と年齢住所、保護者名を書いてください」
「えーと、アンナ11歳、住所はアルカディア城で良いのかな」
「きれいな字ね。お城に住んでるのね。保護者のお名前は」
え、どうしよう。
『お姉ちゃん、保護者名を書けって言われてるんだけど。どうしよう』
従者通信でお姉ちゃんにSOSだ
『私の名前を書いときなさい』
『いいの?』
『だって、他の誰に連絡するっていうのよ』
そっかあ、なんかあった時の連絡先かあ。じゃあ仕方ないよね。
「どうしたの?大丈夫?」
「あ、大丈夫です。コトネ=レオポルドっと」
「え、これって陛下の第三夫人じゃないの?!どういう関係なの」
「はい、この間までお世話させていただいてたんですけど。獣王国から専属のメイドさんが来られて・・」
「ごめんなさい。そうだったのね」
多分、首になった下女だと思われてそう。
「あなたは女子寮202号室よ。四人部屋だから同室の人と場所決めしてね。ケンカしないでね」
私は渡された簡易的な地図を頼りに寮へ行く。
部屋は二階にあった。トランクが階段に擦るのでひょいと肩に担ぐ。
「あなた力持ちなのねえ」
しまったあ。見られた。なるべく普通に暮らしたいのに。
後ろを振り向くとお父さんに荷物を持ってもらっている女の子がいた。
「中にあまり入っていないので」
何とかごまかしつつ、二階の部屋に向かう。
「ここね、あら、あなたも一緒のお部屋?」
ドアを開けようとしていた別の女の子とその両親が振り向いた。
「202号室ですね。ならそうです」
「私もここよ。よろしくね」
さっきの女の子も同室みたいだ。
ドアを潜るともう一人いた。受付にいたまずい奴だ。
「四人そろったわね。場所を決めましょ」
「その前に自己紹介しませんか?」
私を力持ちと言った子だ。
「そんなこと解ってるわよ。私はシャリオット、シャーリーと呼んでちょうだい」
シャーリーはマウント取りたがりの金髪、背は普通ぐらい。
「私はマリー、よろしくね」
マリーはふくよかで髪はブラウン。
「私はキスカ、よろしくお願いします」
髪は赤毛、背が高くて痩せてる。気が弱そう。
「私はアンナよ。よろしくね」
自己紹介が終わった後
「シャーリー、早くベッドと机を選びなさい。後の子が決まらないわ」
シャーリーのママさん、聞き違いかな。彼女が好きなところを選んで、残りはお前らが決めろみたいなこと言いました???。
「あのお母さん、場所は四人の合意で決めるように言われましたが?」
「あら、シャーリーが先に選ぶのに反対するのね」
「あなた、アンナって言ったかしら。ママに逆らうの?」
どういうやつらだ、まったく。
「いえ、私は生徒の自主性を養う意味でも、私達四人で決めた方が良いと思います」
他の両親もうんうんと頷いてる。
シャーリーのママはハアーと大きなため息を吐いた。
「あのね、この子の父親は文部部の課長をしているのよ。あなた達とは違うの。判る?!」
「でも・・・」
「じゃあ、あなたの父親が何をしているのか言ってみなさい」
そんなの獣王様って言えるわけないじゃん。
「父は母と魔獣に襲われて亡くなりました」
シャーリーのママはいやーな笑い方をした。
「なあに孤児なの。なぜ孤児の獣人がシュミレーションに選ばれたのかしら、パパに聞いてみなきゃね」
久しぶりの差別発言に沸々と怒りが込み上げるんですけど。
「この子は私の前で受付したんだけど、保護者は陛下の第三夫人だったよ」
キスカが私を救うためだろう。受付で聞いたことを話した。
シャーリーのママの顔色が真っ白になった。
「へ、陛下の第三夫人、本当なの?」
「はい、その通りです」
「シャーリー、私は帰るからみんなで仲良く決めるのよ」
「ママ!」
シャーリーのママはそそくさと帰って行った。
ざまあみろと言いたいが、お姉ちゃんに悪感情を持たれなかったかしら。
「アンナちゃん。場所を決めましょ」
寮の部屋は、南側の窓際に四つ机が並び、東西の壁に付けて二段ベッドが置いてある。
バストイレ別の簡素なものだ。
「じゃあ、ベッドから決めよう。ここが良いっていう人は?あ、机は逆になるからね」
「私はここがいい」
やっぱりシャーリーが東の上のベッドを選んだ。反対意見もなかったので決まり。
次はキスカが西の上、マリーが東の下で、私が西の下に決まった。
机は東の端からシャーリー、マリー、私、キスカとなった。
収納はベッドに取り付けてある棚と足元の引き出しが使える。
荷物を解いたら、もうお昼に近かったので食堂へ行く。
食堂で昼食を取ったら各教室に行ってオリエンテーリングだ。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はアンナの友達に犯罪組織の魔の手が?の予定です。