14-15 レオンVSコトネ
ご愛読、ありがとうございます。
ようやく十四章が終わりました。
悪魔王クロノスに誘拐されたコトネ、洗脳の仮面をつけられアルカディア城に送られる。
〇アルカディア城
コトネが消息を絶って数週間、さすがにアンナも状況に慣れてきていた。
「暇だなあ。昼間はレオン様も相手をしてくれないし」
クロエと一緒にベッドに腰掛けながら話をする。
「獣王国のビーストグロー部隊の訓練を手伝ってきたらどう」
クロエはアンナが心配で離れずにいる。
「クロエ姉ちゃんはお仕事ないの?」
そうね。今はサスケさんのところが各国を調べてるから、私が出張るのは何かあった時だけ」
「そうなんだ。ウラノスがどこにいるかとか分かんないの?」
「私はずっとハデスの下にいたから、名前も知らなかったよ」
暇なので毎日同じような話をしている。
「じゃあさあ、アテナさんに聞けないの?お姉ちゃんもそちらにいるかもしんないよ」
「アテナさんは話せない呪いをかけられてるらしいよ」
これも何回話しただろう。
「フーン、そ・・・おねえちゃん!?」
いきなり、アンナは飛び出すと窓に駆け寄る。
空を見渡すと窓を開け、外に飛び出す。
「おねえちゃーん!!」
「アンナ!!」
クロエが開け放たれた窓から空を見ると小さく人影が見える。
空に人がいる、あれがコトネだと言うの。クロエは小さく呟いた。
『レオンハルト=アルカディア!!悪魔王に逆らう愚か者よ!!出てきて私と勝負しなさい!!』
「なに!」
執務机で仕事をしていたレオンは従者通信で伝えられた口上に驚いた。
コトネの声だ。近い!。通信で方向と距離を掴んだレオンは執務室を飛び出し、北側の通路の窓を開け放つ。そのままそれへ飛び立つ。
飛び出してすぐに黒いものが真っ直ぐレオンに飛んで近付いてくる。手足がある。メイド服を着たアンナだ。
レオンはアンナをお姫様抱っこで受け止める。
「どうした?」
「イテテ、お姉ちゃんに抱き着こうとしたら、思いっきり蹴っ飛ばされた」
お腹を押さえるアンナ。
「お姉ちゃんたらお面を着けて、私が判らないと思ってるのかしら。後で仕返ししてやるんだから」
「仮面か・・・そういうことか」
何かを感じたレオンがコトネを見上げる。
まだ100m以上離れているからはっきりとは判らないが、赤い衣装を着けて浮かんでいるのはコトネに間違いないとレオンは感じている。
「アンナは離れて見てて。俺はコトネのところに行ってくる。多分戦うことになりそうだ」
レオンの言葉を聞いて青ざめるアンナ。コトネの口上はレオンにだけだったらしい。
「どうして?」
「あいつは悪魔王に操られているようだ。ここで待っていてくれ」
「お姉ちゃんは神獣人なんだよ。レオン様でも・・・」
レオンはその場にアンナを置くとコトネに向かって飛んだ。
あの勢いで飛ばされたということは。普通の人間ならバラバラになってる。アンナだから生きてるだけだ。レオンはコトネの攻撃が容赦ないものだと覚悟した。
レオン自身、ガララト山での修業が、どういう結果をもたらしているかが解らない。全力でコトネに向かって良いものか。コトネの神獣人の力の方が強いかもしれない。そんな思いがよぎるが全力で振り払う。
レオンはコトネと対峙した。コトネはハイレグの真紅のボディスーツと白いピンヒールを纏っていた。マサユキが見ればレースクイーンを思い出すだろう。
「レオンハルト=アルカディア、待っていたぞ」
仮面で表情は判らないが、若干声の調子が上がっている。
「なぜ俺を狙う」
「お前が悪魔王様の邪魔をするからだ」
言葉で目を覚ましてくれれば、レオンは女神ヴァルキュリアに祈った。
「コトネ!、その仮面を外せ!お前の顔を見せてくれ」
「ウグ、お、おのれ、なんだ、コトネってなんだ」
苦しそうにするコトネ、深くまで洗脳されてるわけではなさそうだ。
コトネはいきなり横に右腕を振る。それには当然のように不可視の刃が放たれる。
レオンは左腕に気を纏わせ、刃を防ぐ。
「おのれ、私を惑わせるな!」
コトネは突進し、回し蹴りを放つ
レオンは下がって避ける。やはり仮面に邪悪なものを感じる。
「コトネ仮面を外すんだ。お前は俺と結婚するんだろ」
「うるさい!、うるさい!、お前の言うことなんか聞くもんか!!」
コトネは手足を使った連続攻撃を仕掛けてくる。
レオンは何とか隙を見て、仮面に攻撃を入れられないか模索する。
コトネの右ストレートを左に避けながら左のジャブを仮面の額に合わせる。
パァァン!!
コトネの頭がのけぞる。しまった!強すぎたか。レオンの顔が曇る。
「おのれええ!!」
振り返り、吠えたコトネの仮面にはヒビの一つもなかった。
コトネの体の体毛が伸び始めた
ウォォォォォォーーーーー!!!
体毛は体形が解らないほど伸び、大きくなった体はボデイスーツやピンヒールの靴をはじけ飛ばす。
手足の爪は長く、太く、鋭く尖ったものに変化した。仮面も大きくなった顔の大きさに合わせている。
これはビーストグローじゃない。神獣人本来の姿か?!。
コトネが動く、早い!!。
右手の爪が迫る、レオンは二式の盾を展開してカウンターを打ち込む準備をする。
飛び散る鮮血!。二式の盾が切り裂かれて左腕に爪が食い込む。
右でカウンターのストレートを放つ。
そこにコトネはいない、すでに距離を取っている。
右手で左手に治癒魔法を施す。けがは治ったがこれは考えを改める必要があるのか。
レオンの顔に苦悩が走る。
そこにビームが走る。これはアンナの精霊魔法。
「お姉ちゃんやりすぎ!。レオン様に血を流させるなんて!!」
九本の尻尾をなびかせて、アンナがコトネに迫る。
アンナのビームはコトネのスキンアーマーにすべて跳ね返される。
コトネはアンナに左手の一撃を見舞う。
アンナの土魔法で出した鉄の装甲板を打ち抜き、弾き飛ばす。
「やっぱり手加減した精霊魔法じゃ通用しないか」
「アンナやめろ!!、お前が傷つくことはないんだ」
レオンの言葉にアンナはきっぱりと言い返す。
「お姉ちゃんの失敗は妹がフォローしないとね」
「うおおお!!獣変化」
アンナは接近戦をするために妖魔の形態を借りた。
アンナの体に体毛が伸び始め、顔が尖って狐の顔になっていく。
大きくなり始めた体はメイド服や下着を破っていく。
九尾の狐そのものになったアンナは化け猫のコトネに飛び掛かる。
まるで妖怪大戦争だ。
猫の武器が爪なら狐の武器は牙だ。
くんずほぐれつ戦っているが、接近戦にはコトネに一日の長がある。
徐々に追い詰められていくアンナ。
「アンナ!遠距離攻撃に切り替えろ」
「魔法攻撃はお姉ちゃんがケガするとまずいでしょ!」
レオンの呼び掛けにアンナが返す。
スキンアーマーがある以上、中途半端な攻撃はできないと言うことか。
「馬鹿にするなあ!!」
コトネの右手が貫手になってアンナの脇腹に突き刺さる。
飛び散る鮮血。
グワオオオオオ!!!
アンナが苦し気に悲鳴を上げる。
アンナは脇腹をえぐられたまま、コトネの顔に噛み付く。
バキ、バキ!!
コトネの仮面が音を立てる。
コトネが右手を抜くと気を失ったアンナは力なく落ちていく。
レオンが下に回り、受け止めるとすぐに治癒魔法をかける。
アンナの変身が解けてしまい裸の少女に戻る。
「アンナよくやった。ここで静かに待っていてくれ」
レオンは誰もいないクサハラに収納庫から出したシーツを掛けたアンナを置き、コトネの前に戻った。
「コトネ!もう容赦しない」
アンナが噛んだ仮面は何ヶ所かに穴が空いている。
コトネにケガをさせることを恐れて手加減をしていたレオンであったが、アンナに大ケガを負わせたことに反省して手加減を弱めることにした。
レオンの言葉にコトネは体を大の字に広げて吠えた。
ガゥヲオオオオオオー!!!
コトネの周囲に霊力の柱が立ち上る。すごいエネルギーだ。
レオンは右手に気を集中させている。
コトネがレオンに向かって突進する。
コトネのやや湾曲した爪がレオンの胸に伸びる。
レオンはコトネの爪におのれの腕を交差させ、顔面を捉える。
コトネの爪はレオンの頬をえぐり肩を裂く。
一方、レオンの拳は仮面の中心を捕らえていた。腕に纏った気は渦になって仮面を穿つ。
グワッ
コトネは顔を抑えて一声上げるとそのまま落ちて行った。
戦っていた場所がテーベ川の真上だったので、そのまま川に向かって落ちていく。
レオンはふと猫って水に落ちるのは。めっちゃ嫌がるよなと思い、ケガを治してコトネの後を追うことにした。
コトネが大きなダメージは負っていないと確信しているようだった。しかし今の攻撃は城を吹き飛ばすくらいの破壊力はあったはずだ。
コトネは目覚めて川面から数十cmで俯せの状態で停止する。
コトネは川面に移った自分の顔に恐怖した。仮面の下半分が無くなり顔が露出していた。
そこにあるのはいつものかわいい唇ではなく、長い毛に覆われた親指ほどもある牙が突き出した口であった。
コトネは自分の醜さに思春期の女の本能が恐怖したのだ。
ギャアアアー!!!
のけ反って叫んだ。
本来なら澄んだ声の悲鳴が出るはずなのに、濁った醜い鳴き声になってしまう。
コトネは絶望した。嫌われる・・・。こんな醜い女を誰が愛してくれると言うのか。
その時、コトネの絶望に負けたのか変身が解け、仮面が崩れ始めた。
自分の思考が戻って来たコトネは自分が全裸なことに気付く。
恥ずかしい部分を手で隠し、丸くなるコトネに白いシーツが掛かる。
振り向くとレオンがほほ笑んでいた。
気が付くと周囲には最近貿易で、忙しく往復する魔導ポンプ船が数隻こちらを見ていた。
「さあ。帰ろう」
「はい・・・あのぉ・・・お姫様だっこしてほしいです」
唐突に甘えたくなったコトネはレオンにリクエストした。
「ああ、かまわないよ」
レオンはコトネを抱き上げて、アンナのもとに向かった。
すでに起きていたアンナは言った。
「お姉ちゃんずっこいよ。あんな騒ぎ起こしておいて」
「え、?」
コトネは都合良く、騒ぎのことを忘れていた。
「じゃあ、私はおんぶね」
アンナはレオンの背中に登ってしがみつく。
数週間ぶりの笑顔でコトネの部屋に向かう三人。部屋の窓からクロエが大きく手を振って迎えてくれる。
三人は大きく開いた窓から部屋に飛び込むのだった。
その後すべてを思い出したコトネは恥ずかしくて、悔しくて、申し訳なくて三日間部屋に引きこもった。
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