14ー13 初夜
ご愛読、ありがとうございます。
結婚式後です。
コトネが失踪して半日、アンナ達の懸命の捜索にかかわらずその行方は杳としてつかめなかった。
〇アルカディア城 会議室
結婚式が終わり、各国の首脳達は城に戻り、大災厄についての会議を始めようとしていた。
そこへ衛兵が駈け込んで来た。
「国王陛下宛の封筒が発見されました」
末席にいた相談役のマキシミリアンが衛兵と少し話してから封筒を受け取り、俺に届けてくれた。
奥の方にいた俺は封筒を受け取った。
封筒の宛書は”レオンハルト=アルカディア国王陛下”とある。俺で間違いない。裏には何も書かれていない。俺はコトネの関係だろうなと思って封を切った。中には一枚の手紙が入っていた。
「レオン殿、コトネ殿のことなら読んでくれんか」
俺は獣王の願いを聞いて皆に聞こえるように読んだ。
「猫獣人の娘は我々が預かっている。次の連絡があるまでおとなしくしていろ。我々に手出しをしなければ猫獣人の安全は確保する。 悪魔王」
会議室は一気にどよめいた。大災厄の前に悪魔王が出てきたらそれは驚くだろう。
「それは本当のことなのか?」
皇帝が俺に聞いてきたがそんなこと俺が答えられるわけがない。
「真偽は判りかねます。ただ半年ほど前に上級悪魔が現れたことを考えると無視はできないと思います」
「例の少森寺の時か。あの時は君の戦力は上級悪魔に手が出なかったと聞いたが」
王太子様が思い出したように言う。
「何、千年前は神獣人三人のうち二人が倒され、ノクト連邦も滅んだのだぞ。我々の同盟は大丈夫か?」
ほーら皇帝が食いついた。
「それから半年、我が国では厳しい訓練をして、四人が神獣人並みの力を手に入れました。中級悪魔と戦えるものは六人います。皆さんの国ではどうですか?」
「わが国にはレベル7のニコラウスとそれ以上の首狩りに新旧二人の爆轟の魔女がいる」
王太子は鼻高々だ。イエーガー家ばっかじゃあないか。
「兄上であれば中級悪魔と戦えますね。魔女は下級悪魔と戦ってもらえばいいですね」
「レベル7では上級悪魔に勝てんというのか!」
「はい、上級悪魔に負けた二人はその時レベル7以上の実力でしたから」
うーん、皆さん顔面蒼白なんだが、神獣人でもしんどいのにレベル7で勝てるつもりなんだろうか。
「ではどうすれば良いのだ。どうすれば国を守れる?」
皇帝が焦り始めた。帝国がレベル7を出し惜しみしていることは知っている。しかしレベル7で国が守れないと分かれば次の手を打たなければならない。
「ヴァイヤールは私の父が気功の四式まで使えますから兄上に気功を覚えさせてください。ほかの国は我が国にレベルが6か7の人が居れば送り込んでください。気功を覚えてもらいます。獣王国ではすでに気功とビーストグローの魔法で訓練しています」
コトネのいない今、獣王国の訓練は止まってしまうが、神狼族娘の一人を派遣すればいいか。
「悪魔の出現については皆さまも分かっているとは思いますが、来年春に夜空に現れた彗星が瘴気をばらまき、世を憎んでいる人を悪魔に変えます。そこから考えると奴隷制度を続ける北方の国が、悪魔出現の中心になると思います。もちろん南方や東方もありますが、人口が少ないので大きな危険はないと考えます」
アルカディアが対大災厄の中心になっているので、俺が話を進めていく必要があった。
「ちょっと待ってください。北方ということは我がバルドゥオール王国が危険ということですよね。我が国は知ってのように軍事はほぼ帝国に任せています。アルカディアは我々を守ってくれるのですか?」
危険が差し迫ってきて慌てだしたバルドゥオール王国の外相は俺に守れと言ってくる。
「バルドゥオール王国は同盟に参加していませんから、援助は帝国にお願いしてください」
同盟に参加すると言うことは金と軍隊を出すということだ。上級悪魔に対抗する戦力が、今アルカディアにしかないことを知ったバルドゥオール王国は同盟に参加するのだろうか。
「お知らせがあります。アルカディアは大災厄用に魔道具を開発をしました。魔力通信機です。これを使えば指定した相手と双方向通信ができます。これを配りますので、連携を取ってください」
アリスとキラが開発した携帯型魔力通信機、小型化が出来ずに両手で赤ちゃんみたいに抱える大きさになったけど、通話距離が二百kmで中継基地をあちこちに作ってヴァイヤール=帝国間を通信できるようにした。
これで情報共有はアルカディア並みになるだろう。
各国の意見が出てまとまらなかったけどまあいい話ができた。同盟国以外も話を持って帰って指導者と話し合ってくれるだろう。もうちょっと魔道具類を見せた方がよかったかな。そうしたら同盟に入りやすくなったかもしれない。
そのまま俺主催の晩餐会を開いて夕食を食ってお開きだ。
とりあえず大きな行事が終わってホッとしている。
ゲスト達はこのために作った超豪華な迎賓館に戻った。明日の朝、ノルンが各国に送る予定だ。
俺は悪魔王の手紙でコトネが自分の意志でいなくなったのではないこと、無事らしいことでずいぶん気が楽になっていた。もちろんコトネが心配なのは変わらない。
晩餐会の終わったテーブルで一人ワインを飲みながら考え事をしていたら、皇帝と王太子が戻って来た。
「レオン、明日時間を作れ。もう少し話し合いたい。さすがにこの後というのはフェリに怒られるからな」
「そうですね。初夜を邪魔しちゃあ、恨まれても仕方がない」
やれやれ通信機を渡したのに面談希望かよ。まあ、断れるわけもなし。
「じゃあ、10時ぐらいから城でどうです」
二人が居なくなって、俺は明日の予定の追加を連絡して私室に戻った。
楽になったものだ。ついこの間までは自分で予定の変更をやらないと回らなかった。宰相と相談役にスタッフを鍛えてもらった結果だ。
風呂は女性陣が入っていたので後に回そう。彼女たちも結婚式の後はフォーマルなドレスに着替えて晩餐会に出席していたから疲れたのだろう。
女性陣の後、風呂に入って部屋に戻ると話声がする。いつものパジャマパーティーではなさそうだが。
居たのはフェリ、エリーゼ、アンナ、そしてクロエだ。
「あ、おかえり」
フェリが明るく声を掛けるがいつもの調子ではない。
「ああ、ただいま。クロエは今日はこちらか?」
「はい、コトネが帰るまでアンナと一緒に居ようかと思いまして」
「そうかありがとう」
俺はクロエの配慮に礼を言った。
アンナは顔を伏せて喋らない。コトネが心配なんだろう。
「アンナ、コトネの捜索はもうやめようと思う」
俺はなるべく優しく言ったが。アンナは顔を上げて激しい言葉を俺にぶつけてきた。
「どうして!レオン様はお姉ちゃんが大事じゃないの!」
「従者通信で話した通り、コトネは誘拐されたんだ。それもすごい奴にだ。今日数千人でコトネを探した。アンナも探した。クロエも探した。でも手がかり一つないんだ」
俺は今日集めた兵隊を動員してコトネを探させた。でも何も見つからなかった。
「明日は何か見つかるかもしれないよ」
アンナはそう言うと涙を流し始めた。
「もう、兵隊達もノルンもゴロも自分の仕事に戻らないといけない。当てのないことをやらせておくわけにはいかないんだよ」
「レオン様のバカァ!!私一人でも探すから!!」
ついにアンナは爆発した。俺が引き取ってからこんなことは初めてだ。困ってしまう。
「アンナ!」
クロエが窘めようとするが俺は手でそれを制した。
「お前まで誘拐されたら俺はどうすればいいんだ?コトネは強いんだ。きっと自分で帰ってくるよ」
アンナは黙って泣いている。11歳とは言え賢い子だ。俺の言ってることは理解できるはずだ。
クロエはアンナの肩を抱いた。
「疲れたでしょ。今日は私と寝ましょ」
「分かった。おやすみなさい」
そう言って項垂れて部屋を出て行った。
「あなた、子供の扱いがうまいのね。感心したわ」
今まで黙って聞いていたフェリが少し緊張しながら言った。
「よく似た歳の妹がいたからね」
まあリーナと比べればよほど従順なんだけどね。
「そ、それで今日はどうするの」
「どうするとは?」
あ、ヤバい、ごめん、怒ってる。
「あんたと違って、私達は初めてなんだからリードしなさいよ」
エリーゼも怒ってる。なんか二人とも似てきたというかなんというか。
「ごめん、俺の家は母一人だから一緒に寝てる」
親父はお袋にベタボレで嫁が一人しかいない。だから一夫多妻の常識とか知らない。
「普通は男が女の部屋に行くんじゃないの?」
フェリがエリーゼに聞く。
「私が物心つく頃には父の興味は母になかったから解んない」
一夫多妻の悲しい現実だ。それでエリーゼには兄弟がいないのか。
「とにかくあなたが戦場に行くことは決定してるんだから、私は子供が欲しい。子供が居ればあなたが死んでも王国は続いていくわ」
「そういうことね。できれば男の子が居れば、あんたが死んでも私達は安泰ってことね」
ひどい言われようだ。こりゃ死ねなくなったな。
「フェリもエリーゼも今日が良いのか?」
まずは二人に聞いてみた。
「そうね私は今日が良いかな」
「私も結婚式の日が良い」
「じゃあ、移動するのも面倒だからここでいいか?」
夜中にフェリの部屋からエリーゼの部屋に移動するのも面倒なので提案してみた。
「ここなら三人、川の字に寝ても余裕だね」
「子供ができるまでここで良いんじゃない」
「はいはい。じゃあここで」
一応聞いておこうかな。
「君達さあ、ヤキモチとか焼かないの?」
「正直に言えばあるよ。でも私はあなたが帝国に来た時には、エリーゼと結婚するものと思ってたから諦めていたんだよ。それが王様になって私を選んでくれた時嬉しかった。だからヤキモチは焼かないことにしたんだ」
「私も一度振られたのに声かけてもらって嬉しかったよ。私達の立場では好きな人に嫁ぐってほぼ無理だから、運命共同体みたいな感じで嫉妬はしてないかしら」
なるほどね。俺は国を立ち上げるために声を掛けたんだけど、政略結婚だけではなかったんだな。
「じゃあ、寝ましょうか」
フェリはパジャマを脱ぎ捨て、素っ裸になってベッドに潜り込む。
「あんた!何してんのよ」
エリーゼが叫ぶ。俺は一瞬だったが眼福眼福。
「だって暗い中脱いだら、どこに行くか分かんないでしょう。だったら固めて脱いでおく方が良いでしょう」
「うう、」
エリーゼは何も言えないみたい。
「あなた、レオンに初めて会った時、裸見せたんでしょう」
「あ、あれは違うの。ちゃんと隠すとこは隠してたし」
フェリに抗えなくなり、脱ぎだすエリーゼ。
「レオン、見ないで!」
潜り込むエリーゼ。ちゃんと二年前より成長した姿を目に焼き付けました。
照明を落として二人の間に潜り込む俺。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
コトネを放っておいて初夜に突入するレオン、なかなか鬼畜ですなあ。
すいません十四章終わるって言いましたが中途半端なので続けます。