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14-12 花嫁失踪

ご愛読、ありがとうございます。

今回は結婚式です。

 コトネが失踪し、戴冠式も終わって結婚式が迫っている。


 〇アルカディア大教会 <レオン>

「花嫁が居なくなっただと!!フェリは大丈夫なのか?!」

 皇帝が叫ぶ。王太子と獣王は焦った顔をしている。

「落ち着いてください。フェリとエリーゼは無事でこの教会で準備をしています」

 落ち着いていない俺が言うのだからあまり説得力はないが、騒いでも事態が好転する訳はない。

 何回目かの従者通信を送るが返答はない。拒否されている感じだ。普段なら通信した時点で今いる場所とその時の感情ぐらいは判るのに・・・コトネ、今どうしてる。


「コトネ殿だけが居なくなったということだね」

 養女の心配をしている獣王は顔色が悪くなってきた。

「どういう状況なんだ」

 王太子が説明を求めた。エリーゼの無事を聞いてほっとしたようだが顔には出さない。

「城の私室で数分一人になったのですがその間にいなくなりました。それ以降コトネを見た人間はいません。アンナの探査にも引っ掛かりません」


「コトネ君を何の痕跡も残さずに連れ去れる者はいないだろう。彼女の意志が関わっていると見るべきだろうな」

 皇帝は静かに言った。確かに神獣人になったコトネを無理やり連れて行くというのも考えにくい。

「結婚式は延期できんぞ。病気ということにして進めるしかあるまい」

 王太子の言葉に皇帝も頷く。確かに六か国の重鎮を招き、国中の主だったものを集めている。コトネの都合で取り消せるものではない。しかし楽しみにしていたコトネや世話になった獣王のことを思うと素直に同意できない。


「レオン殿、わしらのことを考えてくれているのなら大丈夫じゃ。もちろんコトネ殿の晴れ姿は見たかったが我々には同盟だけでも十分すぎることなのだから」

 獣王は俺を慰めてくれるがそれで俺の無念が晴れるものではない。確かに獣王国が同盟に参加したことが引き金となってユグドラシルやエルハイホ、バルドゥオールが同盟に前向きになっていると報告が上がってきている。そうなれば西大陸の平和同盟への道筋も見えてくる。


 しかしだ、俺の中にはすべてを放り出してコトネを探しに行きたい。頭の中でその思いがぐるぐる回ってまともに考えられない。

「レオン!!馬鹿なことを考えるな!!お前が今までやってきたことが水泡に帰すぞ!」

 皇帝が俺に活を入れる。

「レオン!!我々はお前に賭けているのだ。この西大陸の平和と発展に!」

 王太子までそんなことを言うのか。俺はもう俺自身の思いで動くことはできないのだな。

 父は何も言わない。俺のことを信用してくれているのか。


 冷静になれば、俺の権威が失墜すれば、アルカディアで反乱を画策するものが出るかもしれない。アルカディアが内乱状態になれば同盟は有名無実化する。結果、西大陸はオリンポスが暴れていた時代に逆戻りだ。せっかく豊かな暮らしを始めた国民も戦火に逃げ惑うことになる。

 すまん、コトネよ。俺はお前を一番に考えることが許されん立場にいるようだ。願わくばお前が自分の考えで逃げ出したのではないことを祈る。そうであれば俺はお前を罰せねばならない。


「分かりました。コトネ抜きで結婚式を行います」

 俺は決断した。国民のためにも同盟国のためにもそれ以外の選択はなかった。

「よく決断してくれた」

「それでこそだ」

「レオン殿・・・」

 もしかしたらお前の精神が不安定だったのは、俺が自由を失っていくのを憂いていたのか。


「レオンよ。お前は大人になったのだな」

 父の言葉にこんな時に言うなよと思う。俺は両親や兄弟達を見返すために頑張ってきたのだが、従者のしつけもできないのかと言われている気がする。従者を諦めて国を思うことが、大人ならなりたくはなかった。


 ******


 礼拝堂にはいくつもの丸テーブルが並べられ、白い布の床まで覆うようなテーブルクロスが敷かれ、その中央には三本のろうそくの灯る銀の燭台が置かれていた。それらのテーブルには着飾った招待客が座っていた。後で昼食のコース料理が順次運ばれることになっている。

 両親のテーブルにはいつの間にかリーナとエイトが座っていた。戴冠式の時はおそらく招待客の後ろにいたのだろう。


 俺は礼拝堂の一番前の一段高い場所でアルテミス教皇と一緒に花嫁を待っている状態だ。

「お待たせしました。第一夫人となられるリヒトガルド帝国皇女フェリシダス様の入場です。エスコートは父親で在られる皇帝陛下です」

 礼拝堂の入り口にある大きな扉が開いて、皇帝陛下に手を引かれたフェリが、ウエディングドレスに身を包んで歩き出した。


 仮縫いの時は見られなかったが、スカートは裾がオレンジ色で上に行くにしたがって白くなる華やかなもので、上半身は全面がレースで覆われ、袖の部分は裏地がなく肌が透けて見えていた。

 髪はまとめて上げられ白いうなじが見えている。銀のティアラは控えめだが知的だった。

 化粧も知的で清楚な感じでまとめられている。

 全体的には清楚で知的な雰囲気を醸し出しており、恐ろしいくらい美しい。


 招待客から惜しみない拍手が送られ、俺の横まで来ると皇帝は自分の席に戻った。

 フェリは俺を見てニコッと笑う。

「きれいだ」

 思わず俺はこぼしてしまった。フェリは恥ずかしそうに下を向く。


「第二夫人となられるヴァイヤール王国王女エリーゼ様の入場です。エスコートは兄上で在られる王太子殿下です」

 入り口の扉が開くと王太子にエスコートされたエリーゼが現れた。


 全体は青が基調になっている。スカートはふんわりとしたシルエットで腰でしっかりと絞られ女性らしさを演出している。上は胸が深くカットされ、二つのふくらみのすそ野が垣間見える。袖は肩だけで腕は白く嫋やかだ。上品に女性らしさを表現している。

 アップにした髪に輝くティアラには青いサファイヤが付いている。そういやフェリはダイヤモンドだったな。三人いるから色で分かる様にしてるんだな。


 そうするとコトネは赤でルビーか。あいつはスキンアーマー用の皮の服を赤で用意してやったらそれからパーソナルカラーを赤にしているからな。・・・あいつは来れないんだな。

 いつも俺のそばにいた。初めてだ、あいつの居場所が分からない。込み上げてくるものがある。

「おい」

「レオン」

 低い声で呼びかけてくる。目を開けると正面にフェリとエリーゼがいる。


 俺はいつの間にか目を閉じていたらしい。美女二人を前にしてほかの女に思いを馳せるとは・・・。

 今はアルテミスが女神像に祝詞を上げている最中だ。

 俺は何をしているのだ。結婚式を挙げると決めたのだから集中しよう。

 俺は二人に大丈夫だと頷いた。


 祝詞が終わってアルテミスがこちらを向いた。

「神にあなた達の思いを届けましょう。祈りなさい」

 俺達は跪いて神に祈った。祝詞は俺たちの思いを聞いてくれるようにするものだったのか。

「立ちなさい」

 アルテミスは俺達を立たせた。


「契約の証として口づけを」

 この世界では契約という魔法がある。契約は人間間の約束を魔法回路が担保するものである。この場合婚姻というと言う契約を相互に承認する場合、魔法回路に婚姻契約の回路ができる。それを神前で行うのは

 単に形式と相互承認の幇助である。なお。俺とコトネ達の従属契約も内容は異なるが同様の手続きである。


 俺はフェリと向き合った。フェリは目を閉じて俺を待っている。

 俺は右手を彼女の腰に回し、左手で肩を抱いて口づけをした。

 体の中で何かが繋がるのを感じる。これが婚姻契約の回路か。

 フェリがより愛おしく感じる。多分フェリも同じなのだろう。


 次はエリーゼだ。同じように口づけをすると、やはり婚姻契約の回路が形成された。

 ミラの時は何の回路も形成されていない。これはともに生きる配偶者との絆なのだろう。


 結婚の儀式は終わったがこれから各テーブルを回って、顔を覚えてもらわなければならない。

 写真や動画がまだない世界なので、直に見て覚えて貰わねばならない。

 身分の高い人は事情を知っているので会釈ぐらいで終わる。身分の低い人達はコトネの事情は知らないが積極的に話してくることもない。


 無難にテーブル廻りが終わると、今度は二階のバルコニーから国民への挨拶だ。

 アキラさんがおれのところへ寄ってきた。

「ノルンさんを捜索に使ってるから、俺たちが戦艦に行けない。どうする?」

「もういいじゃないですか。怖がる人も多いと思いますよ」


 実は昨日の夜のうちに戦艦を近くまで運んで隠してある。俺は反対したのだがハーヴェルの人達はどうしてもお披露目したいと押し切ったのだ。本来なら城に戻りノルンを使って、戦艦に戻ろうと考えていたのだが、そのノルンはコトネの捜索に駆り出されているので使えないと言う訳だ。

 まあ、アンなので驚かすのは趣味が悪いと思っていたので不幸中の幸いだよ。


 結婚式が終わってもコトネの行方は杳として分からなかった。



 〇グリューズバルト侯爵邸 <ウラノス>

 クロノス様が猫獣人の娘を攫って来た。神獣人に進化したと聞いていたからどうするのかと思っていたが、まさか連れてくるとは驚いた。今は地下室に何重もの結界を作って閉じ込めてある。

 クロノス様が猫獣人をどのように利用なさるのか楽しみでもある。


「ウラノス、レオンの様子はどうだ」

 おお、戻られた。娘を誘拐するのに瘴気を多く使ったので、休憩を取っていたのだ。

「はい、かなり憔悴した様子だと連絡が入りました」

 主要な場所にはヴァンパイアを人間に化けさせて潜入させてある。もちろんアルカディア城にもだ。


「それはまずい。あいつとは時が来たら戦わねばならぬ。その時まで調子を落としてもらっては困る」

 クロノス様は数千年の時を生き、退屈でやっと対等な戦いのできそうなレオンの出現を喜んでいる。だからちょっかいは掛けたいが、自分の調子が十全になる来年までレオンの調子を落としたくないのだ。


「ならば、どうされますか?」

「ホムンクルスの娘に化けて誘拐したのだが、あの娘に連絡は取れんのか?」

「はい、連絡は無理ですし、彼女が疑われると使い道が無くなります」

「そうか。では潜入しているヴァンパイアにお前名義で手紙を出させろ。猫獣人は元気にしておるとな」

「分かりました」


 やれやれ、猫獣人の使い道も考えてないのか。あんな化け物のような奴をいつまでここに置いておくつもりなのか。前途多難だな。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次で第十四章は終わる予定です。さてコトネはどうなるのか。

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