14-10 コトネのルーツ
ご愛読、ありがとうございます。
思春期に入ったコトネの行動は周りを驚かせます。
戴冠式と結婚式まで一か月を切り、その準備は着々と進んでいた。サスケは通商部の責任者になり忙しく働き始めた。
アルカディア城 <コトネ>
「クロエ姉ちゃん、私達が生まれた村のこと覚えてる?」
私はおやつタイムを私の部屋に過ごしに来ていたクロエ姉ちゃんに問いかける。
「いきなりねえ。覚えてるけど、どうしたの?」
今日のおやつのパンケーキを皿に戻して疑問を返してきた。
「私、一度生まれた村に行ってみたい」
私は結婚したらその肩書で行くべきではないと思ったら、急に言ってみたくなったのだ。
「私達は理由はあれだけど、売られたんだよ。そんなところに行っても嫌な思いをするだけだよ」
クロエ姉ちゃんは食料を買うために、私はヨシムネ様に魔獣の討伐料の代わりに売られた。
そこには村の切実な事情があったのだろうけど売られた事実は変わらない。
おそらく私達のように売られた女の子は、ほとんど生きていないだろう。
「私ね、うろ覚えだけどあの村のことを思い出すの。離れてから8年も経ってるから少しは変わってると思うけど、生まれ故郷を結婚前に見て、頭の中に残しておきたいのよ」
「まあ、結婚したら単独じゃあ許可は下りないと思うけど。私は嫌だよ。暗い思い出しかないからね」
クロエ姉ちゃんは売られてから、つらい時期を過ごしたから戻りたくないんだよね。
「でもね、私はこれから獣人の幸せのために働かなきゃいけないの。だから知りたいの。なぜ最底辺の暮らしに我慢できるのか、豊かに暮らせる道を示したときどうするのかを」
「あんたさあ、そんなのは獣人国でいくらでも見たんだろう。一緒だよ」
クロエ姉ちゃんは故郷の村が許せないらしい。
「でも助けられるかもしれないよ」
クロエ姉ちゃんはムッとした顔をする。
「あんた、あの村の人をアルカディアに連れてこようと思ってんの?」
私はすぐさま首肯した。
「うん、そうだよ」
「なんであんな奴らに情けを掛けるのさ?」
相変わらずクロエ姉ちゃんは機嫌が悪い。
「だって私達みたいな子が出ない方が良いじゃない」
クロエ姉ちゃんはグッと息を詰まらせると涙が溢れてきた。
「ごめん、コトネ、私そこまで考えられなかった。恨み事ばっかり言って、あんたの方が大人だよ」
私はニコッと笑って話しかける。
「じゃあ、一緒に来てくれる?」
「はい、一緒に行きましょう」
やっぱりお姉ちゃんはこうでなくっちゃ。
レオン様に言ってこなきゃ。最近は同盟国内なら許可はいらないんだけど、一応中央大陸になるのかな。
ヴァイヤールのテレジアスは川の河口に港があって、私達の村はその川の向こう側なんだよね。
ここいらでは東の小国群と呼ばれる国の一つに私達の村はある。でもそれだけどの国のどこに村があるのか分からない。なにせ村を離れた時は幼かったからね。だから村を知ってるクロエ姉ちゃんが必要な訳。
私の習った地理で行くと東の小国群の北には険しい山脈があってそこには人はほとんどいない。東にはモンギットと呼ばれる異民族が居て、シンタン国と国境を接している。そこを中央大陸と言い、短期間で勢力が入れ替わるのでどんな国があるかは知らない。東の小国群はヴァイヤールと直接の国境を持ちたくないので、緩衝地帯として存在させているらしい。テレジアスが過剰と思える軍備をするのはモンギットに備えてだ。
レオン様の執務室に行くと懐かしい顔があった。ミラさんとキラ君だ。
「ミラ様だあ」
命の恩人の出現にアンナが飛びつく。
ミラさんは大きくなり始めたお腹をさすりながらアンナにハグさせた。
「アンナちゃん、久しぶりぃ。コトネちゃんもこんにちわ」
「こんにちは。お加減はもうよろしいのですか?」
「うん、つわりも治まったし、お腹があまり大きくなると来れないから来ちゃった」
ミラさんは春先に妊娠したと報告してから、こちらには顔を出していなかった。
「キラさんもこちらに来るのは珍しいですね」
「ああ、調べることがあるから、ミラに魔人国に連れて行ってもらうんだ」
ミラさんは魔人国の王女でレオン様の愛人です。なぜ愛人かというと子供を魔人国で育てるからです。魔人国は人口減少に悩んでおり、新しい血を入れることを考えました。それで選ばれたのが学生時代のレオン様です。ヴァイヤール王都の危機を救う協力をする代わりに、レオン様の子種をもらう契約です。
魔人国はこの世界の少し下の世界にあり、この世界とは別の世界です。ミラさんはこの世界と魔人国を往復できる魔法を使えるのでよく遊びに来ていました。
「レオンを魔人国に連れて行けると良いんだけど、コトネちゃんに怒られるから無理よね」
少し悲しげに笑います。まあ、本気で言ったらいくらアンナの命の恩人でもタイマン張りますけど。
そんなことも知らずにニコニコしているレオン様にお願いします。
「レオン様、私達故郷の村を見に行こうと思うのですけど、よろしいですか?」
レオン様の顔色が変わりました。
「だ、ダメだ!行っちゃいけない」
まさかダメ出しされるとは思ってなかった私は言葉を失った。
「え」
しばらくそのままでいた私は我に返ってレオン様に聞いた。
「なぜですか?結婚したら気軽に外出できないと思うので、今のうちに行っておきたいのですが」
レオン様はフーとため息を吐くと話し始めた。
「君が行けば必ず傷つく、それが解ってるのに止めないわけにはいかない」
私が傷つく???なんで???。レオン様の言うことが分からなかった。
「クロエ姉ちゃん、どういうこと」
「あんた!、気付いてなかったの」
大げさに驚くクロエ姉ちゃん。どういうことなの???。
「コトネは両親がモンギットに殺されたと思ってる。俺はクロエから聞いておおよそのことが解ってる」
レオン様が何を言いたいのか分からない。私は猫獣人の村で生まれて育ったんじゃないの。
「やっぱり、あんたは行っちゃダメ」
クロエ姉ちゃんが泣いている。どうして?
「悪いがコトネとクロエ以外は部屋を出てくれるかな」
みんなを外に出してどうするつもりなの。私の村っていったい何なの。
「ここまできたら君の村について話しておいた方がいいだろう」
私は唾を飲み込んで、覚悟した。
「君の村は東の小国群がモンギットに対応するために作った奴隷の村に、奴隷を供給するために作られた村だ」
どういうこと???私は奴隷階級だった?。
「どういうことですか?私は何なんですか?」
「要するにモンギットに収奪されるために作った村だ。そこには獣人の女性だけが働いていた。そして子供を作り、育てて奴隷にする村が君達の村」
レオン様が真剣な顔で私を見る。なら私は・・・。
「私は何もなければ・・・奴隷になっていたってことなの」
「そういうことだ。その年、モンギットは今までより深く攻め込んだ。獣人の村をいくつも滅ぼして、君の村やさらに奥の人間の村まで攻め込んだ」
「それで子供が必要なくなったってこと・・」
「それもあるんだろうな。獣人の絶対数が減って村が維持できなかったんだろ。だから子供を売るのに抵抗がなかったとも言える」
「レオン様もうやめてあげてください」
クロエ姉ちゃんがレオン様に泣きつく。
もともと悪魔にならない人類として生み出された獣人、不満を逸らすために差別された獣人、異民族からの侵略の緩衝材として扱われる獣人。
私が故郷の村へ行って改善の方策があるのだろうか。こんな奴隷上りの女に・・・。
「コトネ、顔を上げろ!。獣人の不幸を嘆いていても始まらない。獣人国を生まれ変わらせたように。これからも獣人の幸せを俺とお前で作るんだ。判ったな!」
私はいつの間にか顔を伏せていたようだ。そうだ、獣人国は今は大変だけど、きっと獣人にとっていい国になる。私はこれからも獣人のために戦えばいい。そのために練り上げた武だ。
「分かりました。今は中央大陸のことで動くべきではありませんね。まずは大災厄を乗り切って、獣王国が獣人の理想郷になる様に頑張ります」
「そうだな。カールスーリエ、カールサイスもまだ諦めてはいまい。まずはこの西大陸を平和にしなくては、他を救うことはできない」
レオン様もクロエ姉ちゃんも露骨にホッとした顔をしている。私ってそんなに危なっかしいかしら、失礼しちゃうわ。
〇ハーヴェル工場群
それから数日が経った夜遅く、ハーヴェル工場群の地下にある部屋にアキラ、マサユキ、キラ、コニン、アリスが集まっていた。
「いよいよか、長かった」
「ああ、無理かと思ったがアリスが来てくれたおかげでようやく完成した」
「まだ形ができただけだ。動かしてみて調整をしないとな」
「これがまともに動けば悪魔どもに一泡吹かせられるぜ」
「皆さん搭乗してください。今日は浮上とできれば姿勢制御までやってしまいたいです」
だだっ広い地下室には長い船状の物体が置いてあった。
各々が搭乗するとアリスが叫ぶ。
「格納庫解放!!」
物体の上が左右に開いて夜空が見える。
「ジェネレーター始動!!」
「ジェネレーター、一番から九番まで始動確認」
アキラの指示にマサユキが答える。
「ジェネレーター出力、20%、空力機関始動」
ブーンという音が少しずつ大きくなる。
「出力20%、空力機関始動」
「浮上!高度50m」
夜の闇の中黒い巨大な物体は地上を離れ浮かび始める。
「浮いた!各所異常無いか?」
「自動確認、全部青。問題ありません。高度5m」
アリスが答える。
「高度20m・・・30m・・・40m・・・50m」
「高度維持!各所出力の調整をせよ」
「出力調整終了した」
今度はキラが答える。
「微速前進!」
「微速前進!」
黒い物体は前に進み始める。
「対地速度時速20km到達」
「右旋回90度!」
「右旋回・・・90度」
「七番ジェネレーター出力低下!六番で出力調整します」
コニンが少し焦った声を出す。
「今夜の試験飛行は中止、格納庫に戻るぞ」
格納庫に黒い物体は再び鎮座した。格納庫の扉は閉鎖される。
「上々だな」
「戴冠式でお披露目できそうだな」
「早く大砲が撃ちたいぜ」
「海に出ないと試射できないぜ」
「まあ、数回試験飛行すればできるんじゃないか」
「やっぱり空中戦艦は男の夢だぜ」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はやっと戴冠式になる予定です。