14-9 準備する日常
ご愛読、ありがとうございます。
今回は主に花嫁衣裳です。
コトネがマリッジブルーなのか荒れてアンナが心配する中、サスケに通商部責任者の合否が言い渡される。
〇アルカディア城 <レオン>
サスケを執務室に呼び出した。クロエが行動を共にしていたので従者通信で呼び出せた。
大臣たちが居並ぶ中、俺はサスケを俺の向かいに座らせた。
「どうだ、君の目に映ったアルカディアは?」
サスケは自信に満ちた顔をしていた。
「はい、ほかの国には見られない生産効率の高さが際立ちます」
「そうか、それで君がやっていく自信はあるかな?」
「はい、もちろんです。陛下の前に金貨の山を積み上げて見せます」
「今はハーヴェル工場群は大災厄に備えて軍事に重点を置いている。急務としては農民からこの秋の作物を買い上げ、それを諸国に売らねばならぬ」
「それも調べてきました。以前に比べて三倍の収量になりそうです。農民は陛下に感謝しておりました」
三倍かそれはアキラさんの肥料のおかげだろう。
「分かった。君に通商部を任せよう。城に事務所を作ってあるからそこを使ってくれ。必要な費用は財務大臣のところに請求してほしい。必要な人員はマキシミリアン相談役に言ってくれ」
「お願いがあります。ハーヴェル工場群には余裕がありますのでヴァイヤールの王都に店を出させてください」
ハーヴェル工場群の余裕まで見て来たか。目端が利くことだ。
「帝都のアキラの店のようなものをか?」
「さようです。名前はハーヴェルショップとしとうございます」
「分かった、予算が許せばやってみるがいい」
アキラの店を見る限り失敗はないだろう。
後はスタッフに任せてと。
「クロエ、ウラノスの動きはどうか?」
クロエには獣王国でウラノスの動きがないか、調べてもらっていた。
「はい、ヴァンパイアの件以降は動きは見えませんでした」
これは報告を受けていたが、みんなに知らせるためにクロエに発表させた。
「皆の者、これより二か月後の戴冠式と結婚式に注力していくぞ」
「ははー」
皆が俺に頭を下げた。
ハーヴェル工場群 アキラの執務室 <アキラ>
朝からコニンがアポを取ってきた。
なんだろうと思ったら、大勢でいろいろな大きさの箱を抱えてやってきた。
「おう、アキラさんよ。戴冠式の衣装ができたから一回見てくれるかい」
コニンはまず背の高い箱を開けた。
出てきたのは王冠だ。
頭に嵌める部分が高さ15cmの円筒で、そこから上に8本の3cm幅の板が60cmほど伸び上で一か所に留められている。ここまでは金色で、内部には濃い臙脂色のビロードが張られ、金色が生えるようにしてある。金属部には色とりどりの大きな宝石が付けられている。
「おお、立派だな」
「そうでもない、金属部は銅に金メッキだし、宝石はガラス玉だ。凝った作りでもないし、安もんだ」
「いいのか?」
「陛下のお願いだからな。安上がりにしてくれって」
コニンはつまらなそうに言った。彼としては後世に残るようなものを作りたかったのだろう。
あとは王笏とマントだがちょっと離れてみると立派だが、近くで見ると素材が安い。
「コニン、何が言いたいのだ?」
「あいつはこの国を子孫に守らせる気はないのか!」
そういうことか。コニンはコニンでレオン君のことを心配しているのか。
「陛下は国の統治方法を将来民主主義にして、自分は王から退くつもりだ」
「なぜだ、世間は棚ボタでこの国を手に入れたと思っているが、彼らは命がけで戦ってきた」
「そうだな。彼が居なければヴァイヤールも帝国も今のように居れたかどうかは怪しいな」
「そうだ、このアルカディア王国とバルドゥオール王国は間違いなくオリンポスのものになっていたし、ヴァイヤール王国は貴族派に乗っ取られ、帝国は弱体化していただろう」
「陛下は庶民が塗炭の苦しみに喘いでいるのを放置できなかった。アルカディア王国を作ったのも餓死しようとしていた庶民を守るためだ」
「だからどうだというのだ」
「だ、だから、俺達があいつを何とかしてやらなきゃダメだろう。あいつは俺の息子より若いし、俺の娘と同い年なんだぞ」
まったくコニンの息子のツーレクや娘のレイニャと比べて感情移入してるのかよ。
「それが立派なぜいたくな王冠を作ることか!?」
いい加減腹が立ってきた。変なところで父性を出すんじゃないよ。
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」
コニンもどうしてよいか分からないようだ。ただレオン君の働きにふさわしい何かを探しているだけだ。
多分俺には解ってる。彼は家族の中で居場所がなかった。優秀な兄達に囲まれ、家族に期待されない自分の居場所を確保しようと足掻いていた。彼の欲しいのは新しい居場所だ。そのために人々を救って王様になって、これ以上ないような嫁を迎えても彼の心は晴れない。いまだに彼の心の中では自分で自分を認められないミソッカスで、そのためにみんなから認めてもらおうと無意識で良い人になろうとしている。
戴冠式と結婚式で祝福されて、もうミソッカスじゃないと気付いてくれるといいんだが、こればかりは自分で気付かないと心が晴れることはない。
「すまない。しょうもないことを言っちまった。俺はあいつのおかげで師匠から独立して、大きな仕事をさせてもらってる。その恩を返したいだけなんだ」
「分かってるよ。それは陛下が困ったときに返せばいい。というか奥さん達の衣装はどうなってるんだ」
「ああ、それは嫁のカリシュが担当してる。何人か連れてドレスを実際に着た状態の手直しに行ってる。豪勢に金もかけてるし、良いものができると思うぞ」
そうか花嫁衣装も出来上がるのか。結婚式も楽しみになって来たな。シャラが気に入ったのなら衣装を作ってやって結婚式をやろうかな。
〇アルカディア城 <コトネ>
今日はハーヴェルからカリシュさん達が来て、ウェディングドレスの仮縫いをする日だ。
最初はフェリ様から始める。私とアンナは特別に見学させてもらってる。
場所はフェリ様の私室だ。
今日の仮縫いはドレスの仕上がりを見るもので、本番は結婚式の直前に行われる。
フェリ様の周りをカリシュさんの指示で数人のお針子さん達が、衣装を縫い合わせて仕上げていく。
「フェリ様、素敵です」
ドレスが仕上がってくると思わずアンナが声を出す。
白を基調としたドレスは上半身にレースをふんだんに使いながらも、フェリ様の体形を美しく際立たせる様に肌に密着する。
スカートは裾が淡いオレンジ色でグラデーションを利かせて半ばで白くなる。薄い生地で出来ていて見た目はすごく軽やかだ。
全体的には手足が長く細身の体が、女性的な姿を強調するように見える。
言葉が稚拙で申し訳ないのだが、細身でややもすれば中性的に見えるフェリ様が、女性的な美しさと言えばいいのだろうか、嫋やかで優しくて、涙が出てきた。
姿見の前でくるくると回るフェリ様。
「素敵だわ。私こんなの初めて、レオンも呼べばよかったよ」
「ご不満はございませんか?今なら手直しが効きます」
カリシュさんがフェリ様に聞く。
「このままでいいわ。これで進めて頂戴」
「ではブローチをつけてみましょう」
カリシュさんはエリーゼ様のところに向かったので、助手の女性がブローチを取り出す。
「コトネ様、そろそろ準備を始めます。よろしいですか」
「あ、はい」
後ろから呼びかけられ、振り向くとドワーフの女性が手招きをしていた。
「アンナ、行くわよ」
「私、エリーゼ様を見てくるね」
あ、不安いっぱいのお姉ちゃんを見捨てるとは何て奴。
自分の私室に入るとベッドの上にドレスが用意され、何人かのドワーフの女性にすべて引っぺがされ、全裸で立たされた。結婚式用の下着も用意され、それを身に着ける。
今度は化粧だ。姿見の前に椅子を置き化粧が始まる。
鏡の中の自分が変わっていく、化粧はヴァイヤールの王太母様に会う時にしてもらって以来だ。あの時は鏡がなかったので化粧をした顔は見ていない。
日に焼けた顔が白くなっていく、そばかすも消えていく。自分が自分でなくなるような気がする。
化粧をしてくれた人に言った。
「これは私じゃない」
その人は少し驚いていたが優しく言った。
「これはコトネ様のもう一つの顔です。これから奥方様になって下々の者に会う時の顔です。彼らは自分を導くものはより美しい方が喜びます。彼らが素直に従えるように美しく居てくださいね」
下々という響きに反発はしたが、そうか英雄って男は逞しく精悍で女は優しく美しいものだ。これはそういうことなのか。人々は勝手に美化してしまうのだな。
獣王様にも言われたことがある。これから獣人はあなたを女神のように見るだろう。あなたにもそのように振舞ってほしい。言われたときは何言ってんだと思ってたけどレオン様と結婚するということはそうなのか。どうしようまた不安が込上げてきた。
私が難しい顔をしていたのを見たのか女性が言った。
「立場が人を作ると言います。慌てなくてもコトネ様は立派におできになると思いますよ。こんなにお美しいんですから」
鏡を見ると美しく装った自分が渋面を作っていた。だめだこんな顔は人々を不安にさせる。
無理に笑顔を作った。
鏡の中の自分がほほ笑んだ。
周囲が明るくなったような気がした。
そうか、人と向き合う時はこの顔をしていなければならないのか。
新たに施政者としての責任を感じた。
「お姉ちゃんが化粧してる」
アンナが入ってくるなり私の顔を覗き込む。そうかあの時はアンナは置いてきたんだったな。
「お姉ちゃんキレイだよ。すごっく」
「ありがとう。エリーゼ様どうだった」
「エリーゼ様もフェリ様に負けないくらいキレイだったよ。ドレスは青くって上の方が水色。胸や背中がガバーッて空いてるんだよ」
エリーゼ様のことだセクシーさを前面に出したんだろう。
カリシュさんとお針子さん達もエリーゼ様の仮縫いが終わったのだろう、私のドレスの準備を始めた。
私のドレスは赤が基調だ。私のパーソナルカラーの赤、これは外せない。
ドレス自体はシンプルなつくりだけど胸に一つ、スカートにいくつかの薄い生地で作った赤い花が飾られる。
「すごく素敵、・・。いいなあ」
アンナがうっとりと私を眺める。
私は道具を片付け始めた化粧の女性に言った。
「あの、この子も化粧してくれませんか。お代は払います」
「いいですよ」
簡単に引き受けてもらえた。
「アンナ、服を脱いで化粧してもらいな。それでこれを着るんだ」
私は収納庫から王太母様からいただいたドレスを出す。
「え、私もこんなの着ていいの。嬉しい」
私もこの子と同い年にこのドレスを着た。嬉しかったけど意地を張って二度と着なかった。今の私には小さいし、アンナがこんなに喜んでいるなら残しておいて良かったと思える。
私の仮縫いが進む間にアンナの化粧も終わって、ドレスを着る。
そして私と姿見の間に割り込んでくるくる回っている。
「お姉ちゃん、私もキレイ?」
「うん、キレイだよ。お姉ちゃんよりキレイなんじゃないかな」
実際アンナは化粧するとかなりの美少女だ。うん、ちょっと憎たらしいほどだ。
「レオン様に見せてくる」
「え、レオン様、こっちにいるの?」
「うん、さっきうろうろしてた」
そう言って部屋を出て行った。
レオン様も私達の花嫁姿を見たかったのかなあ。うふ。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。