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14-7 通商部の開設

ご愛読、ありがとうございます。

今回はサスケがアルカディア城でレオンと会います。

 クロエは通商部の責任者に推薦したサスケにレオンとの面会の承諾を得た。


 〇テレジアス郊外 <クロエ>

 昨日はサスケの店を出てから、アンナの露店巡りに付き合わされた後ホテルで一泊した。

 今朝は馬車を雇ってサスケ達と一緒にノルンさんが目立たない郊外に出てきた。


 皆を降ろして馬車を帰らせるとサスケが食って掛かってきた。

「アルカディアまで歩いて行けって言うのかよ!」

「大丈夫、すぐに迎えが来るから」

 すぐにノルンさんが見えてきた。


「なんかでっかい鳥がこっちに来るぞ」

「頭領!隠れましょう」

 サスケとジェリが隠れようとするので言ってやった。

「あれに乗って行くんだよ」


 ノルンさんが乗降姿勢を取ったので、私達は飛び乗るがサスケが上がってこない。

「どうしたの?」

「俺は飛び上がれないぞ。どうすんだよ?」

 下で飛び跳ねて抗議してる。

「尾羽の方はスロープになってるから、そっちから登って」

 尾羽は地面から坂を上る様に乗ることができる。こぶを作ったロープも用意してある。


 客は一人もいない。ヴァイヤールはこの便をほとんど使っていない。各拠点にはブラウニーがおり、彼らにノルンに乗り、どこに行きたいと言うとブラウニーがノルンに伝え、乗る時間を教えてくれるシステムだ。

 今日はザルツブルグからアルカディア、獣王国、ハーヴェルへ行って帝都に行くそうだ。午後からは逆向きに飛ぶ。


「フーンすごいな。一時間ぐらいでアルカディアに着くのかよ」

 最初は怖がっていたが、すぐに空の旅になれたサスケがしきりにジェリに話している。

 三十分ほどでザルツブルグの聖金字教会本部に到着した。そこで神父一人と修道女四人が荷物を抱えて乗り込んできた。

 彼らはアルカディアの聖金字教会で戴冠式と結婚式の準備をせねばならず本部とアルカディアを忙しく往復しているそうだ。


「ご苦労様です。後二か月ですね」

「はい、我々も邪悪な教えを取り除いての初めての式典なので張り切っています」

 聖金字教は歴史の中で権力者に阿った(おもねった)教義を持つようになっていたが、オリンポスの瓦解とともに教祖ヤヌウニが改革、新たな聖金字教として蘇った。


 ノルンがアルカディア城に降り立った。

 隣の教会に行く神父達と別れ、城の待合室にサスケとジェリを案内する。

「護衛のお仕事はこれで終わったね。私はコトネお姉ちゃんのところへ行くよ」

 アンナはそう言って窓から空に飛びだした。


 見る見るうちに小さくなるアンナ。

「すげえ。飛んで行ったよ」

 サスケはジェリとその姿を呆然と見送った。


 サスケはソファに座るが落ち着かない。

 メイドが紅茶を机に置いた。

「あ、あ、りがとうございます」

 背筋がピーンと伸びている。その様子を見てジェリが言う。

「頭領、どうしたのですか?」


「だってよ。お前こんな立派な部屋にこんな格好で来ちまって、処刑だとか言われねえかな」

 サスケは昨日の薄汚れた平民服だ。

「どうしたのです。私の知るサスケは度胸だけは他人に負けないと思っていたのですが」

 私の言葉にサスケは私の顔を覗き込んだ。そして両手で頬をいい音がするくらいに叩いた。


「済まねえ、あまりに驚くことが多くてビビっちまってたみてえだ。もう大丈夫だ」

 ノルンさんにアンナか。初めてなら驚くのも仕方ないか。

 そこにメイドが来た。

「陛下がお会いになるそうです。執務室の方へどうぞ」

「おう」

 そう返事をすると立ち上がった。


 サスケは平常心を取り戻したみたいだ。ハッパを掛けた甲斐があった。

 しかし、謁見室では無く執務室とはどういうことだろうか。

 普通身分の離れたものと会う時は謁見室で壇の上から見下ろして話をする。それを段差のない執務室で会うということはレオン様がそれだけ通商部に期待しているということか。


 私が少し遅れて執務室に入ると机の四方にソファーを置いた場所にすでに陛下もサスケも座っていた。もちろんそれだけではない陛下の隣にフェリ様、横にはヴォルガンフ宰相とマキシミリアン相談役、反対側にはアキラさんとマサユキさんがいた。陛下の後ろには親衛隊長のジェリルさん、フェリさんの後ろにはウェルバルさん、そしてジェリはサスケの後ろに立っていた。私はジェリルさんの横に立った。


「今年は収穫した穀物を農民から現金で買い取るわけですね。しかし、それをすぐに売っちゃだめです」

「どうしてだね?倉庫に積んでおいても仕方あるまい」

「私なら各国の物価を調べて、秋植えの小麦の収穫前に売ります。その時期が一番値上がりします」

「来年は大災厄の年だ。戦費を集めておかなければならない。それに春の収穫品は軍の食料として備蓄するつもりだ。ここいらはどうする」


「お任せください。私の部下が十二名います。彼女らを各国に派遣して高値で売り抜けます。もちろん軍用も確保します」

 サスケはこの国の人の本気を見てすっかり感化されたようだ。先頭を切って施策を出しまくっていた。

 その後細かいシステムの話になったのでよく分からなかった。ジェリルさんも隣であくびをしていた。

 サスケも乗り気だし、レオン様も気に入ってもらったようだ。私も紹介した甲斐があったというものだ。


 二時間ほど話し合ってようやく面会は終わった。

「どうだった?」

 私は話の内容からサスケが乗り気であると思っている。

「本当に俺が仕切っていいのかと思うよ。とりあえず今の店では配下を食わして行けそうもないからこの話は受けたい」


「簡単に考えるなよ。これにはこの辺の周辺国家千万人の命がかかっている」

「分かってるさ。俺がやれば誰がやるより、王様に金貨を積み上げられる。その自信はある」

 大災厄の戦費を稼がねばならんことは彼も分かっているようだ。


「もしここに雇われたらテレジアスの店はどうするつもり?」

「テレジアスにも店を作ってもらうさ。ヴァイヤール第二の都市だからな」

 ちゃっかり今の店を続けていくつもりらしい。

「これからどうするの?」

「合否が分かるまで三日ぐらいかかるそうだからアルカディア国内を回ってみようかな」


 警戒心が無くなったのか、受け答えがずいぶん優しくなった。しかしその体内の火は燃え盛っているようだ。

「クロエ、悪いけど案内頼んでいいかな?」

「別にいいけど・・・」

 ノルンさんで回るしかないか。ゴロは三日もチャーターできないだろうし、二人しか乗れないからね。



 〇獣王国 テーベ川沿いの村 <コトネ>

 テーベ川を使って水運を行うについてアルカディア側の流域はすでに船の航行の許可を取っている。今は獣王国側の村を説得している。

 二百mから三百mの川幅の中央五十mを使って航行するので、川岸近くを漁場とする漁村には迷惑が掛からないはずであった。

 しかし、強硬に反対する村があったので、説得に文官を護衛を付けて行かせたのであるが、どうも捕まって人質にされたらしい。


 そこでコトネとアンナが解決に赴くことになった。

 旧ドーベルマン城から歩いて三日ぐらいの場所にある村に二人は飛んで行った。

「私と一緒の速度で飛べるじゃない」

 アンナは前に飛ぶ速度が遅かったので、レオン様に抱っこして運んでもらっていた、

「そうだね。早く飛べるようになったんだよ」

 アンナはしらばっくれた。


 村はここらの村と同じで森を切り開いて作られており、掘っ立て小屋は木や草で覆われていた。

「ずいぶん貧しい村だね。畑も小さいし、私の村と変わらないよ」

 そういえばアンナの村の近くにも川があったな。テーベ川に比べられないくらい小さな川だが、あの川でもこの村のように魚を取っていたのだろうか。


「とりあえず、様子を探ってくるよ」

「クロエ姉ちゃんなら安心して見てられるんだけどね」

「あー、馬鹿にして、私だって忍者の端くれなんだからね」

 アンナが私をからかってくる。

 クロエ姉ちゃんほどではないが、素人相手なら見つかるようなことはない。


 人家は二十軒くらいか、一軒に男一人に妻が三人、その父一人母三人に子供が六人とすると三百人くらいの規模かな。

 私は隠形の術で気配を断ち、村に潜入する。


 村に緊張感はない。赤ん坊を背負って幼児の手を引く十歳くらいの少女が七人、村の広場にいる。

 数人の若い女がおそらく朝獲った魚をさばいて干物を作っている。あれには大量の塩がいるはずだけど、どうしているのか。前に海賊に襲われてた漁村は海の近くだったからその心配はなかったけど。

 畑には芋の葉に着く、害虫を取るローティーンの少女達、畑を耕し、種を蒔く老女。

 皆犬獣人だ。


 やはり男は外にいない。男が少ないこの世界では、男はほとんど働かない。家の中でゴロゴロしているに決まっている。

 さて、人質はどこにいるのかな。

 今までの経験で行くと集会場か村長の家なんだけど。


『え、なぜって小さな家だと蹴飛ばしただけで壁に穴が空くからだよ。掘っ立て小屋をなめちゃいけない。だから部屋の中央に縛り付けて足が壁に届かないようにしなくちゃいけないんだよ』

 アンナの探索でも特に特徴のない人物の探索は難しいから、あてにはできないと思っていたら・・・。

『広場中央右の家にレベル5がいるよ。左奥の部屋中央に三人が固まってる』

 アンナから通信が来た。


 確かに広場の右に大きな家がある。アンナが先に見つけたのね。私の立場がないじゃない。

 いやいや今は人質の救出を第一に考えなきゃ。

 さっそくその家の左奥に行く、家と家の間を行くから中に影は映らないはずだ。

 だいたい細い木の枝を直径五cmぐらいびっしりと縛り付けてあるだけなので、結構風通しも良いし影も中から見える。


 壁の枝を広げて中を見ると縛られた二人と見張りが一人。

 うーんどうしよう。反対の事情が分からないうちに見張りを殺すわけにもいかないし、人質がケガをすると本末転倒だ。

 私の声にならない声を聴いたアンナが通信を送ってきた。

『とりあえず人質だけ外に避難させましょ』


 そうだな反対の説得と人質を混同してはいけない。私はどうも焦っているようだ。

 とりあえず人質を解放してから航行権を取りに行けばいい。

 私は三式戦”飛燕”で壁に大穴を空け同時に部屋に突入する。


 見張りを死なない程度に蹴っ飛ばす。

 人質の二人を抱えるとそのまま壁の穴を通って外に躍り出る。

 部屋の中が騒然とする。

 私はそのまま空に飛び上がってちょっと離れた広場に人質を運ぶ。

 アンナが私を追いかけて来た。


 人質の戒めを解く。

「あなた達が獣王国からの使者と護衛ね?」

「はい、助けていただいてありがとうございます」

 私はホッとした。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はコトネが活躍します。

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