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1-7 三男坊 辺境伯と話す

辺境伯に自分の思いを伝え、戦争の結果を聞きます。

 王都が貴族派に攻められたが次兄と長女の活躍で王室派は完全勝利。

 俺はようやく辺境伯の館に着いて、辺境伯と面会する。


「何がやりたいかですか?今はそれを探しているんです。

 政治では長兄に勝てないし、兵としては次兄や長女に勝てないでしょう。

 私は何でも良いからこの国で一番と言われたいのですよ」

 辺境伯になりたい職業、やりたいことがあるかと聞かれ、俺はこう答えた。


 辺境伯からは王太后の襲撃の話を聞かれ、分かれ道で怪しい幌馬車の群れに会って、それを追ったことから、コトネがレベル5の止めを刺し、王太后に褒めて貰えたことまでを話した。

「そうか、我兵はレベル5に対応できなかったか。チームで戦えるような訓練を取り入れるべきだな」

 辺境伯は自分の軍の弱点を洗い出し、それに対応しようとしている。良く出来た人だ。


「不思議なのは君はなぜ、王太后陛下が危ないと思ったのだ」

 俺はアンナの頭を撫でながら言った。

「幌馬車の群れから殺気を感じた私は、このアンナに魔力を探らせて、大体の人数を把握しました。

 五十人以上でした、この道を行けばあるのはイエーガー領か白百合荘、では五十人の襲撃者がどちらに行くのか?

 この人数なら白百合荘しかないですよね。貴族派が不穏だとも聞いていたのでそれしかないと思いました」


「なぜ、戦おうと決めたのかね。当然命の危険もあっただろう」

「エリーゼ様に頼まれたと言うのもありますが、子供じみた正義感ですね。恥ずかしいです」

 俺は親父を脳筋と言っているが、自分もそうではないかと思い始めている。

 エリーゼの時も、王太后の時も、無視しても誰も責めなかったはず。でも飛び出してしまう自分が居る。

 自らを省みず国王陛下の危機を救った親父。やっぱり同じ血が流れているのかな。


「ところで君は今日、王都が貴族派に攻められたことは知っているかな?」

「え、そうなのですか?」

「北から二千、西から二千の軍勢だ。迎え撃つは近衛六百、王都軍千、魔法師団五十人だ」

「君ならどうする?」


 俺は少し考えて言った。

「一つの軍は次兄を中心とした身体強化のレベルの高い隊を作り、中央に攻め入って敵を分断、慌てふためいた所へ残った軍を投入ですか。もう一つの軍は、学園から姉を呼んで来て、敵の密集地に爆轟魔法を放ち続けます。残った集団には他の魔法使いが攻撃を加えます。まあ、その頃には逃げ出しているでしょうけど」


 辺境伯は手を叩いた。

「いやあ、報告通りの戦術だ。その通りの戦いで相手は十分も持たなかった」

「しかし、レベル7と爆轟の魔法使いが居ることを知らなかったのかなあ?」

「そこで王太后陛下だ。戦う前に彼女を人質にしたと使者が来た」

「それでは攻撃できないですよね」

「ところがだ。私が伝えた。君が王太后陛下を助けたことを」


「え、助けたのは昨日の夜ですよ。どうやって連絡を」

「白百合荘での戦いが終わった時点で、宿場とテレジアスに使者が送られたことは君も知っているな」

「でもあの時間からではテレジアスに連絡が届くのが朝、それから王都に連絡しても夕方になってしまいます」

「私は二十年前の戦いで、王都の連絡が私に届かなかったことを悔いた。そこで王都テレジアス間を3時間以内で連絡が届く早馬制度を作った。そのおかげで開戦前に前線に王太后陛下の救出の連絡が届いたのだ」

 この人は王室を守る為だったらすべてを投げ出すんだろうな。俺にはまねのできない事だ。


「エイトリッヒ、君はなぜこのレオンハルトと行動を共にしているのか」

「は、はい、ぼ、ぼ、いえ、私は最初はレオンがニコラウス殿の縁者と言うことで近付きました。でもレオンは学費も出して貰えない逆境に居て、自分のやりたいことをするためには、学歴が必要かも知れない、その思いは私にもあって、レオンと居れば自分も今まで見えなかったものが見えるかもしれないと・・済みません。うまくまとめられません」

 エイトは自信が無さげだ。


「つまり、自分の将来の為に付き合ってると言いたいわけか」

「はい、でも彼の様に勇気や、能力があるわけじゃないので、お荷物になっているのではないか・・・」

 エイトは宿場町で白百合荘に行こうとする俺を止めようとしたことをくやんでいるのか?

 それならと俺が口出ししようとするのを抑えて辺境伯は言った。


「お前とレオンハルトの考えが違うのは当たり前だ。勇敢な人間もいれば、そうでない人間もいる。といってどちらかが間違っている訳ではない。お前はお前の道を歩め、お前が許せない事なら怒っても構わない。ただ正々堂々とする事だ」

 そうだ、エイトが俺と同じ道を歩く必要はない。放って置いても着いて来そうなのが二人いるしな。

「はい」

 エイトは少し前を向いたようだ。


「お前がコトネだね。レベル5に止めを刺してくれたのだろう。よくやってくれた」

 急に話を振られたコトネが焦っているかと思ったが落ち着いたものだった。

「レオン様が注意を引いてくれましたので、出来ました」

 ヨシムネ先生も結構威圧の強い人だったから慣れているのかな。


 辺境伯との面会は終わった。

 明日は王都に帰るのだが、俺もエイトも王都での戦いの様子を思うとなかなか寝付けるものではなかった。

「やっぱりレベル7ってすごいよね。こちらには手紙でしか伝わってないけど剣を一振りすると100人ぐらい吹っ飛んだらしいよ」

 エイトが興奮して言うと俺も負けじと返す。

「当然だ!ニコラウス兄が戦場に初めて出たんだ。すごく張り切ったと思うぞ」

 コトネは呆れてアンナを連れて先に眠ってしまった。


 次の日の朝、俺達は眠い目を擦りながら朝食を食べて、そのまま馬車に乗った。

「エリーゼ様は試験休みをギリギリまで白百合荘で過ごすらしいね」

「おかげで帰りも幌馬車だよ。道も良いし、構わないんだけど」

 やっぱりクッションが悪くて眠れないよと言いつつ、二人は昼までぐっすり眠った。

 アンナもコトネの膝に乗って馬車の操作を覚えていたので退屈はしなかったようだ。


 夕方、日が暮れる前に王都に着いた。

「本当にご苦労様だったな。じゃあ、勉強頑張って」

 マティアス中尉は別れの言葉を言うと去ろうとした。

「あ、馬車はどうすれば良いのでしょう」

「それは君が賊から分捕った物だから君の所有になるよ」

 そう言って本当に去って行ってしまった。つまり、売るなり、使うなり好きにしろと言う事らしい。


 俺は寮監にお願いして帰省で空いてる厩舎に馬を入れさせてもらって、コトネ、アンナに世話を頼む。

 さあ、どうしよう?馬車は薬草採取などに使いたいけど維持費が馬鹿にならない、売るしかないか。

 そうだ、馬のたくさんいる所なら預かってくれるかも知れない。


 次の日、俺は馬車で近衛の駐屯地に行く。

 事務所を訪ね、前のお姉さんが居たので相談を持ち掛けた。

「そうか、預かってあなたが使っていないときは、こちらで使って良いのね。

 確かに屋根付きの荷馬車の需要はあるのよね。厩舎の責任者に掛け合って見てくれるかな」

「はい有難う御座います」


 厩舎に行くと責任者を呼んでもらう。

「おう、こないだの坊主か。その馬車はどうしたんだ」

 俺は馬車を手に入れた事情を話した。

「ほう、王太后陛下を助けたのか。それは豪気だな。こっちも大変だったんだぞ」

「それで、この馬車を預かって欲しいんです」


「それは厩舎の空きもあるからそうしてやりたいけど、予算とかあるから俺の判断じゃあな」

 責任者は残念そうに言ってくれる。

「ですから私も学生なので、始終使う訳ではありません。空いている時は、そちらで使って頂いても構いません」

「俺も馬車が古くなってきてるし、結構新しい馬車だから欲しいのは欲しいんだが」

「じゃあ、馬なしのこれと同じ馬車を付けます。同程度のを2台と少し壊れたのを1台」

「良し、ここで待ってろ。すぐに許可を貰ってくる」

 責任者は駐屯地の大きな建物に入っていった。


 俺はその間に、収納庫に入れていた馬車を出し、馬車に乗せてあった荷物を収納庫に入れた。

 責任者の叔父さんが佐官のような中年の士官を連れて来た。

「そんな、うまい話があるもんか」

 士官が文句を言ってる。

「まあ、見てくださいって」


「これか・・・・」

 馬の付いた馬車と馬の無い3台の馬車を見た士官は呆然としている。

「・・・本当に良いのか?売れば結構な値が付くと思うが」

「はい、大丈夫です」

「馬車を替えるのに予算が足りないって言ってたじゃないですか」

「この3台の馬車を貰って、この馬付きの馬車を預かればいいのか」

「はい、私が使わない時には近衛で使って頂いて結構です」

「良し、事務所に行くぞ」


 士官は俺と責任者を連れてお姉さんの所へ来た。

「おい、契約書を作ってくれ」

 お姉さんはやったねとウインクした。


「えっと、3台の馬なし馬車は近衛に譲渡、馬2頭と馬車1台は近衛が預かりと。

 レオン君が馬車が必要な場合、一週間前には連絡を貰う、もちろん空いていれば渡す。

 馬が死んだ場合、馬車が壊れた場合どうしますか?」


 士官が少し考えてから言った。

「馬はこちらで用意する。近衛軍で使って年取った馬が回ってくるので余剰気味だからな。

 壊れた場合、壊したものが修理する。従って君が馬車を修理できないほど壊した場合や盗られた場合は、契約終了で良いか?」

「はい大丈夫です」


「じゃあ、こことここにサインをちょうだい」

 お姉さんは慣れた手つきで契約書を俺と士官に渡す。

「一通は君が持っててね」

「はい」


 俺は事務所を出て帰ろうとすると厩舎のおじさんが声を掛けて来た。

「どうしたんですか?」

「おまえ、あの馬なしの馬車、どこから持ってきたんだ」

「え、あ、あーあれですか?」

 オッとまずい突っ込みをされた。


「あれは、うまく行きそうだったら出そうと引っ張って来てたんですよ」

「ふーん」

 叔父さんは納得していない様だ。

「じゃあ、失礼します」

 俺は慌てて駐屯地から走り出た。

レオンは自分の思いとは違う道を示され、拒否します。

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