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14-4 魔導船

ご愛読、ありがとうございます。

レオンはハーヴェルに行ってお風呂の改装について相談しようとしますが、魔導船の話になってしまいます。

 修行から帰って公務に復帰したレオンだが、直近の問題として生産量の上がったハーヴェル工場群の販売先とコトネの養女問題があった。


 〇ハーヴェル工場群 <レオン>

「おまえなあ、そんなことでいちいち王様が出張ってどうすんだよ」

 マサユキさんは呆れて俺にそう言った。

「だって、やってやらないとアンナがかわいそうでしょ」

「ふー、陛下の周りには仕事を振ってほしくて、うずうずしてるのが一杯いるでしょう。陛下はその人たちに「やっとけ」でいいの」

 俺にため息を吐きながらアキラさんが言う。


 風呂の増築、装飾、ポンプなどの問題を話し合うため、ハーヴェルにやってきた俺に皆して説教大会である。

「まあ、来ちまったものは仕方がねえ。装飾については新しく入った陶器職人がいるからアルカディアに二三日中には送るから相談してくれ。増改築に関しては戴冠式までを目途にやっちまおう。責任者を決めて送るから相談してくれ」

 コニンさんは優しく言ってくれるが自分は各責任者に任せるだけだ。これがリーダーなんだな。


「水撃ポンプですが、これは結構うるさいので魔力ポンプを設計しました。定期的に魔力を補充しなければなりませんが、魔力ジェネレータを据え付けてもらえば問題ありません。もう一つ言えばこの魔力ポンプは船用の推進器として使用できます」

 アリスが無表情で紙を出した。


 ええ、船が魔力で走れるの?この季節は西風があまり吹かないから、水運での欠点だなと思ってたんだよ。

「その魔力ポンプって量産できるのかな?」

「ああ、そういうと思ったから、一ラインを割り当てた。日産五台くらいだけどな」

 マサユキさんが自分の成果のように話す。部品はコニンさんやキラが作ってるのに。


「魔力コンデンサも量産を開始した。ポンプは灌漑用や上水道にも使えるからな」

 キラがにやっと笑う。こいつは相変わらず生意気だ。

「水撃ポンプってやつもいくつか作ったから灌漑用に使えるだろ」

 コニンさんがすでに用意してくれていた。これがあれば水のない場所にも小規模な耕地を作ることが可能だ。


 さっそく試作品の魔導船があるというので、テーベ川につながる運河に行くことになった。

 その前にマサユキさんと二人になることがあったので聞いておく。

「地下のあれのことを相談役のマクシミリアンさんが知っていました。秘密は大丈夫ですか?」

 俺は声を潜めて言った。

「いや、大丈夫だと思うぞ。どこからバレたんだ」


「フェリにマサユキさんのところに使途不明金があると知られたんだ」

 マサユキさんはフーッとため息を吐く。

「あのお姫さん、やるねえ。まあ、今まで仲間内だったから隠してねえからな」


 俺は焦ってマサユキさんの手を取る。

「あれがバレると帝国やヴァイヤールだって、反旗を翻しかねないのでくれぐれもお願いします」

 どうもこの人は国家の秘密の中心にいると言う立場が分かってない。今も俺との会議だというのに汚れた上下の繋がった作業着を着てるし、なんというか身分に対する配慮の無さは、日本という国の習慣なのだろうか。

 これは日本というより頑固職人の性質であるがレオンに分かるわけがない。


 隣の部屋からスッとアリスが現れて、俺は驚く。

「マスターが申し訳ありません。私が監視いたしますので殺さないでください」

 マサユキさんは慌ててアリスに叫ぶ。

「ちょっと待てええ!なんで俺が殺されなきゃいけないんだ!」


「国家の秘密を洩らしたものは死刑です。常識です」

 待っ訳の無表情でアリスが話す。初めて会った頃は喜怒哀楽が激しかったのに最近は感情が表に出ない。

「いや死刑なんてしないから」

 俺は慌ててマサユキさんを落ち着かせる。

「そうだよな。ああ、驚いた」


「そうだ。ちょっとアリスを貸して」

 マサユキさんにそう言うと

「な、なんだ、スケベなことはだめだぞ!」

 いきなり恥ずかしいことを言ってくるマサユキさん。


「そんなことはしませんよ!ちょっとノクト連邦のことで、聞きたいことがあるんです」

 俺がそう言うと声のトーンを落として呟くように言う。

「思春期の男はそんなことしか考えてねえんだ」

 あんたがそうだったからって俺まで一緒にすんなよ。


 俺はアリスと二人になり、魔導船の用意ができるまで時間がないだろうし、いきなり聞いた。

「実はコトネがコトネのまま神獣人になったと言うんだ。そんなことがあるのか?」

 なかなか一人でハーヴェルに来ることは出来ずに、アリスに聞きたかったことを言った。

「それはコトネさんの記憶、性格、肉体的特徴等がそのままということですね。

 本来それはあり得ません。神獣人は遺伝子上で操作され、生体霊力ジェネレーターを埋め込みます。

 従って・・・」


 アリスは言葉を切って黙り込んだ。表情に変化がないので何をしているのかは分からない。と思っていたら話し始めた。

「コトネ様には虎の神獣人の精神と記憶が封じられていたのでしたね。それならばその神獣人が根気良く

 一年ぐらいの時を掛けて、遺伝子と生体ジェネレーターの改造を行なえば可能です。虎の神獣人はなぜそんなことを?彼女の体を乗っ取ればすぐに神獣人に成れたはずなのに・・・」


 その理由はロキしか知らない。彼は話さないだろう。

 虎の神獣人が千年もの間、抱き続けた淡い思い。

 彼女が命を賭してコトネに託した思い。

 コトネが叶えてくれるだろうと信じて。


 魔導船の準備ができたので運河に出る。この運河は水運を貿易の中心に据えるに当たって掘ったものだ。工場群からテーベ川まで約五kmを繋いでいる。

 魔導船は長さ七m幅三mくらい、幅十mの運河で回転できるようになっている。

 船の床には水平にいたが張られており、荷役がやりやすいようになっている。その一番後ろには一辺一mの立方体に収まるような魔導ポンプが据えられている。ポンプからは太いパイプが二本、縁を越えて水の中に入っている。


 思ってたより格好が悪い。運送用だから仕方ないか。

 試走様に荷物が載せてあるので喫水が深そうだ。

「この荷物の重さは?」

「だいたい三tくらいです。五tは軽く積めますよ」

 操舵手かな。中年の女性が答えてくれた。


「これが魔導船ですか。帆がないのですね」

 お、アンとエイトが現れた。そういやこいつらもハーヴェルにいたんだっけ。

 マサユキさんとアリスを案内人に船は走り始めた。

「今は運河内なので、時速十kmくらいで走っています。最大速度は時速三十kmくらいです」


「静かなのですね。もっと機械の音がすると思っていました」

 アンがアリスに語り掛ける。

「ただ魔法で水を吸い上げて吐き出すだけなので、推進に機械は使っていません」

 アリスがにこっと笑う。あ、高機能モードを封印して案内ロボットになってる。そういうこともできるんだ。


 船は滑るように進み、三十分ほどでテーベ川に出る。

「では流れに逆らって上流に進みましょう」

 船は右に直角に曲がると流れに逆に走り始める。ぐんと速度が落ちる。

「ここらの川の流れは時速五kmくらいなので少し速度を上げます」

 また速度は復活した。


「これでアルカディアまでどれくらいかかるのですか」

 一人盛り上がってるアンがアリスに質問している。


 エイトがこちらに近付いてきた。

「今日はコトネちゃん達は一緒じゃないのか」

 二人きりの時はタメ口でいいことになってる

「ああ、あいつらは獣王国で仕事をしてるよ」


 エイトは俺の耳に顔を寄せてきた。

「お前さ、婚約者三人と一緒に住んでるんだろ。ムラムラしてこないのかよ」

 今度は俺がエイトの耳に顔を寄せる。

「俺だって成人君子じゃねえんだ。そりゃ時々するけどな」


「相手も結婚前から一緒にいるってことは、OKなんじゃないの?」

「バカヤロウ、フェリとエリーゼはお姫様なんだぞ。日付の合わない子供が出来たら両国から責められるだろうが」

「じゃあさ、コトネちゃんはどう。あの子なら問題ないでしょ」

「あいつはまだ子供なんだぞ。それに今度獣王の養女になるんだ」

「それって、生殺しってやつじゃないの」


 二人の内緒話は続く。

「エイト、お前はどうなんだよ。もう十六だ。婚約者がいても不思議じゃないぞ」

「俺は高等部を卒業して就職しないといけないだろ」

「だから就職先は俺が用意してやるって言ってるだろう。あ、それと俺とフェリとエリーゼは城で高等部の授業を受けるぞ。その後ハイデルブルク学園の卒業試験を受けるつもりだ」


 エイトは驚いて声を荒げた。

「僕はどうなるのさ!エリーゼ様の護衛費をもらえないと高等部に通えない!」

「分かってるよ。学費・生活費・宿泊費は我が国が今まで通り持ってやるから心配するな」

「いいのか?」

「ああ、その代わりアルカディア王国に就職するんだぞ。しかしお前なあ、エリーゼが結婚したらハイデルブルク学園に通えないことぐらい分かるだろ」


「分かってたけど、考えたくなかった」

「お前はさ、俺の同年代の唯一の友人なんだ。困ったことがあったら何でも相談してくれ」

 あ、ジェリルが居るか。でもあいつは戦友って感じなんだよな。


 船が百八十度回って戻り始めた。

「陛下、いかがでしょうか?」

 マサユキさんが俺のところに来て魔導船の感想を求めた。

「荷物もだけど人も運べるようにしよう。ヴァイヤール王都から帝都まで同盟国になったから河賊も出ないだろうし、馬車より圧倒的に速い」


 現在ヴァイヤール王都から帝都までの道を拡張舗装したから、馬車で四週間かかっていたのが三週間で行けるようになった。川を使えば速度も速いし、夜も要所要所に明かりを灯せば夜も走れるから下りで五日、上りで十日で到着する。倍以上速い。

 荷物も馬車に積めるのは五百kgが限度。船なら三tから五tと六倍から十倍だ。

 これは運送に革命が起きる。帆走ではどうしても天候に左右されるから発達しなかったが、魔導船ならその心配もない。


「アン、お前はどう思う」

 アンの頬が紅潮してすごく興奮しているのが見えた。

「はい、私に魔導船を使わせていただけるなら、テーベ川経済圏を作りたいと思います」

「もちろん魔導船は売るが、まずは帝国・ヴァイヤール・獣王国に売ってからになる。魔導船は兵も運べるからな」


 同盟を組んでいる以上、一国が抜きんでた力を持つわけにはいかない。

 同じようにブロスト商会だけに魔導船を使わせることはしない。あくまでも競争してもらうつもりだ。

 その日はアンの計画を数時間にわたって聞かされることになった。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回、レオンは獣王国へ行きます。

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