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14-3 新米王の復帰

ご愛読、ありがとうございます。

今回は周囲に侮られ、人に任すことが苦手な新米王の話です。

 レオンは修行から戻って、さっそく女性陣の無聊を慰めるために風呂を作らされた。そんな時に聖金字教会の聖騎士団長のエストゥスはアルカディア王国の親衛隊と近衛隊を聖騎士に任せろと言ってきた。


 聖騎士団のことは俺はあまり知らない。以前オリンポスの首領だった前教皇の指示で戦った事実はあるが主導的ではなかったことで罪を問うてない。それがなぜこのような厚かましい提案ができるのか分からない。

「君は何を根拠にそんなことを言っているのか」

「え、エドゥアルト王国を平定してあげたじゃないですか。褒賞は貰ってませんよ」

 白々しくもエストゥスはそう言ってのけた。


「エドゥアルト王国を滅ぼしたのはオリンポスで君達は国境で少し戦っただけだ。それも前教皇の指示で。どうしたら平定したなんて言葉が出るんだ」

 エストゥスは顔を歪めて俯いた。

「親衛隊は神狼族を中心としたもので構成するし、近衛は軍務大臣が王国への忠節を誓う兵を選別中だ。君達にはザルツブルグの防衛に専念してほしい」

 ザルツブルグは旧聖金字教国の地域名だ。


「しかし、国教たる聖金字教の信徒が王城の守りに着くべきではないですか?」

 エストゥスはしつこく絡んでくる。

「アルカディア王国は信仰の自由を保障している。ただ余が聖金字教を信仰しているに過ぎない」

 少し、聖金字教を持ち上げすぎたか。でも戴冠式を行えるような宗教施設を持ってるのは聖金字教くらいなんだよな。


「そうだ、その神狼族とやらに王族を守護する実力はあるのですか?やはり我々のような実力を備えたものを選んだ方がよろしいかと思います」

 まだ言ってくるのか。俺の国は寄せ集めだからあまり厳しいことを言えば反発する。うまくコントロールしないと。

「分かった。親衛隊長との試合を許可しよう、聖騎士団の代表を出したまえ」


 仕方がない、俺達がやっている戦いの片りんを見せてやろう。

「陛下、よろしいのですか。今日護衛に連れている男はレベル6ですぞ」

「ああ、かまわないよ、中庭でいいだろう」

 俺に動揺がないので幾分ムッとしているが俺の知ったこっちゃない。


 中庭にジェリルと聖騎士のオットーが向かい合った。

 ジェリルは親衛隊の軍服、対するオットーは聖騎士用の白銀のフルプレートメイルだ。

「陛下あ、アタイがやらなきゃダメかい。なんか弱そうだから殺してしまいそうで怖いよ」

 ジェリルの着る親衛隊の軍服は夏用なので、薄手の長袖のシャツと細身のズボンの組み合わせだ。細くなったジェリルのスタイルの良さが軍服を着ても溢れている。


 オットーは二mを超える大男でムキムキの筋肉が鎧を着ても分かるマッチョだ。

「グフフフ、そのかわいい顔をグチャグチャにしてやるぜ」

 彼のロングソードは鞘を固定して斬れないように細工してある。

 もちろんジェリルの大剣も同じだが、彼らの力なら当たれば大けがを免れない。


 城の中庭で数十人に囲まれた二人が試合を開始する。

「始め!!」


 俺の掛け声でオットーが大上段に剣を振りかぶり、ジェリルに向かって駆け出した。

 パァーン!!

 ロングソードの切っ先が音速を超え衝撃波を発生する。しかしそこにはジェリルはいない。


 ジェリルはオットーの左側を抜けて、剣の腹でがら空きの胴を抜いていた。

 鎧の胴が大きく変形しているが。

「まだまだあ!!」

 手加減をし過ぎたのか。オットーはまだ元気だ。

 これでは彼らは納得してくれないだろうから試合は続行だ。


 オットーは振り向き様にジェリルの胴を払う。

 ジェリルはバックステップして剣を避けると大きく踏み出して、オットーの兜を野球のバッティングのように打った。

 兜はエストゥスのところに飛んで行きキャッチされた。


 鼻血で真っ赤になったオットーは脳震盪を起こしたのか、フラついて片膝をついた。

「エストゥスよ、もう良いであろう」

 俺は降参を勧めるが、エストゥスは叫び続ける。

「オットォォォー!!早く立てェェェー!お前は私に恥を掻かす気か!!」


 ジェリルは剣を天秤棒のように肩に乗せてあくびを嚙み殺している。

 うーっ、俺の仕事は溜まりまくってんだぞ。いい加減降参しろよ。

 オットーは必死に立とうとするが、ふらついて膝を着くを数度繰り返していた。そしてついにうつ伏せに倒れた。

「オットーが戦闘不能のため試合終了ーっ。よってエストゥスの要望は却下となる」


 俺はジェリルのそばに行った。

「ご苦労さん。助かったよ」

「おう、こんなのは嫌だが、本当の戦いには声を掛けろよ」

 バトルジャンキーの面目躍如なことを言ってくる。


 レベル6と言ってもアーレスやヘスティアに比べるとずいぶんお粗末だ。訓練不足なんだろうな。

「エストゥス、訓練不足のようだ。良ければうちの訓練に参加させてやるぞ」

「いえ、結構です」

 そう言ってすごすごと帰って行った。


 その後、エストゥスらはアルテミスによってザルツブルグへ送還され、尋問調査された。

 結果、ろくに訓練もせずにレベルに胡坐をかいて、経費をちょろまかすことをやっていた。

 今回も組織を大きくして横領する金額を増やそうとしたらしい。

 彼らはレベル強化魔法をはく奪され放逐された。


 アルテミスは若い、まだ二十歳そこそこだ。舐められるところもあるのだろう。それを言えば俺はもっと若いのだから、しっかりしなければなと思いを新たにした事件だった。


 せっかく開けた時間を詰まらん奴に邪魔されてしまった。

 執務室ではヴォルガンフ宰相やマキシミリアン相談役のじいさん達が書類の山を俺の執務机に積んで笑っていやがる。そこへフェリも護衛のウェルバルに書類の束を持たせて執務室に入ってきた。

「陛下、比較的急ぎの書類を持ってきました決済願います」

 うう、サインするだけでも何日かかるんだ?。


「陛下」

 マキシミリアンが声を掛け、自分の前に積んである書類を一枚差し出した。

「どうしました?」

「カールスーリエ王国が傭兵を集めておりますな」

 書類にはカールスーリエ王国が一か月ほど前から傭兵を集めだしたことが書かれていた。


「狙いは何ですか?」

「エドゥアルト地域の領有権を主張したいらしいです」

「何を根拠にですか?」

「六百年ほど前はあそこはカール帝国でした」

「知ってますよ。それが分裂したんでしょ」


「我こそはカール帝国の正当な継承国だと」

「だから返せと?とんでもないですね」

 そんなことを言い始めたらきりがない。千年前の大災厄以来西大陸は戦国時代で取ったり取られたりしていたんだ。そんな主張をどこも認めるはずがない。


「どうも陛下の活躍が秘密結社が相手だったおかげで、あまり世の中に知られておりません。それで完全な棚ボタだと思われておるようで、まあ、有態に言えば軽く見られています」

「それで余にどうしろと?」

「ハーヴェルでマサユキ殿とキラ殿が作っている、あれを公表したらどうでしょう」

「馬鹿な!!」


 俺は執務机を両手で叩いて立ち上がった。

「どこまで知っているのですか?!」

 ドラゴンの魔石を手に入れた時から始まった計画で、アリスが現れてから一挙に進んだ。

「ごめんなさい。私が閣下に相談したの。使途不明のお金が流れてるって」

 確かにあれを公開すれば、アルカディア王国は世界一の軍事大国になるが警戒もされる。


 あれは対悪魔兵器だ。他国に対人間と考えられた場合シャレにならん性能だ。公表すべきではない、受け入れられる訳がない。

「すみませんがあれは大災厄を乗り切るための兵器です。まだ公表の時期ではないと考えます。皆さんも口外しないようにしてください。カールスーリエについてはエドゥアルトで一万人規模の演習でもやれば、おとなしくなると思います」

 カールスーリエの最大動員は七千というところだ。隣の獣王国に一万を派遣し、狙っている地域で一万の演習をすれば恐ろしくて手を出せないだろう。なにせ、うちは大災厄用の兵を用意しているのだから。


 俺はここにいる人たちを見まわしてみる。完全には納得してはいないが従ってくれそうだ。

「分かりましたロンメルに演習の手配をするように言っておきます」

「フェリ、アンは今日どうしてる」

 無理やり話題を変えよう。俺は眼前の書類を一枚ずつ片付けながらフェリに聞いた。


「ハーヴェルで作ってる製品が見たいと言ってエイトとノルンさん便で行ったわよ。二三日かかるんじゃないかしら」

「うちの体制に何か言ってたか?」

「まだ何にも見てないから何も言ってなかったよ。それでブロスト商会に任せるつもり?」

「いいや、彼女も一人で決められる立場にないし、一つに絞るのは危険だからね」


 ふとフェリの顔を見ると満足そうな顔をしている。

「あんな女の色気に中てられたのかと思ったけど違ったみたいね」

「ふふ、奥さんが三人もいるのに浮気はしませんよ」

 俺は怒られないように注意しながら答える。

「よろしい」

 書類を置いて満面の笑みで、執務室を出ていくフェリであった。


 結局、俺は執務室でその日を過ごした。とりあえず喫緊の課題だけは終わらせた。

 夕食時にコトネやエリーゼの報告を聞き、必要な処置は特になさそうだ。

 ただ、コトネの養女の件を詰めに行く必要がある。向こうはアンナも養女にしたらどうかと言ってきている。妙齢の娘のいない獣王にとって、俺の側室用にちょうど良いのだろう。


「アンナは俺の側室になりたいか?」

「うん、今のところそれが良いかなって思ってる。私としてはまだ赤ちゃんとか考えられないけど、レオン様とお姉ちゃんと一緒に居られる方法が他にないからね」

 うーん、こいつ本当に十一歳か、俺がこいつぐらいの時、完全なガキだったぞ。


「あ、お風呂を沸かさなきゃ」

 アンナは思い出したように風呂に走っていく。

 そういや風呂の装飾もしてやんないとな。奥向きのメイド達も風呂に入りたいって言ってたからお湯を温める装置も必要だな。水があったらアンナの魔法がなくてもできるかな。前に動力を必要としないポンプを誰か言ってたよな。確か水撃とかなんとか。一度ハーヴェルに行ってマサユキさんやアリスと相談してこないとな。


「お風呂沸かしたからレオン様、入って。後が(つか)えてるから早くね」

 アンナに背中を押されて脱衣所に入るとメイドのヤンが待ち構えていた。

 そういや復帰したんだったな。私室に行ってないから今日は初めてだ。

「まず体を洗ってください」

 服を脱ぎ、風呂場に入るとヤンが声を掛ける。


 ああ、湯を汚さないようにするエチケットだったな。帝都のアキラさんちでお世話になったから知ってるぞ。そういや、石鹸はあるがシャンプーやリンスがないな。アキラさんに相談だな。

「ヤン、この後誰が風呂に入る?」

 背中を洗って待機してる俺より二つ上のメイドは、考えることもなく話し始めた。

「この後、奥様方が入ります。次が親衛隊の皆さん、そして奥様方の寝る準備を整えたメイド達、私も一緒です」


 数えると十人をはるかに超えている。こりゃ側室が来たり、子供が出来て乳母とか来ると全然足りないな。風呂場を拡張するか、増設するかを考えなくては・・・。


 新米王は人を使うことが下手だった。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はアンの貿易の話、コトネの養女の話になる予定です。


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