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14-1 レオンの帰還

ご愛読、ありがとうございます。

第十四章は戴冠式までのレオンたちの様子を描く予定です。

今回は修行を終えて、ガララト山を下山したレオンがトラブル体質でまたトラブルに巻き込まれる話です。

 〇ガララト山~帝都 <レオン>

 修行を終えて山を下りてくると地上は暑かった。もう八月になろうかというのだから仕方がない。

 役行者えんのぎょうじゃについて外気功の五式戦を習得すべく山で修行していたのだが、諦めざるを得なかった。五式を習得するには人間をやめなければならなかった。仙人と呼ばれる受肉精霊に似た存在になる必要があった。


 俺も俺に期待する人も俺が人間で在ることが必要だ。俺は人間の王だ。俺は人間の王として君臨しなければならない。

 しかし、コトネは人間のまま神獣人になった。彼女の恐れていた自分以外のものにならずに。俺にもそんな道があるのかもしれない。


 いや、ダメだ。不老になったところで、子作りができるかどうかも分からないじゃないか。

 フェリもエリーゼも国を背負って俺の子供を欲している。今更だめだという訳にもいかないだろう。

 五式の習得方法は判ったのだから今年中に妊娠させて、その後習得すれば・・・いやダメだ。今度はコトネに殺される。あいつはまだ成人してないから妊娠させるわけにはいくまい。

 やっぱ、無理だよなあ。


 鬱蒼とした森をゆっくり歩く。少しゆっくり考えたいことがあるので、ノルンも呼ばずに一人で歩いている。

 役行者は夏の間は涼しい山で過ごすそうだ。

 よし、このまま帝都まで歩いていくか。三日ぐらいはかかるだろう。帰ってしまうと日々の仕事に追われてゆっくり考えることもできないからな。

 この決断が良かったのか、悪かったのか。


 次の日の昼頃、俺はようやく森を抜けて街道の近くまで来ていた。この街道は例の遺跡の近くを通って帝都までつながっている。

 その時、街道の方向に悲鳴が聞こえた。

「キャー!!」

 俺は街道に向けて走った。俺はトラブル体質なのか?と思わざるを得ない。


 見ると二体のオーガと四人の傭兵が対峙していた。

 なんだ、傭兵の依頼要件か。人騒がせな。

 帝国の傭兵の仕事は管理ダンジョンでの魔獣狩りだが、この春に閉鎖されたから個々の依頼を受けたのだろう。しかし、こんな街道でオーガが出るのは珍しいな。だいたいオオカミかゴブリンのような小型魔獣がほとんどなのに。


 オーガは二mくらいの丸太を振り回している。対する傭兵は一人は刀を持った東洋人、残り三人はショートソードを持った犬獣人だ。もちろん四人とも女でスキンアーマーを使っていた。

 オーガの丸太が近くを通るたびに犬獣人が悲鳴を上げる。

 どうも戦力は東洋人だけみたいだな。犬獣人は逃げないだけマシという程度だ。

 しかも東洋人も二体のオーガは荷が重いみたいだ。


 仕方ない。

「おーい!助けがいるかあ?!!」

 傭兵である限り、仕事をすれば分け前がいる。だから手を出して良いか確認が必要だ。

 東洋人が俺を見て、がっかりした。そうか俺、今手ぶらだ。

「オーガの気を引いてくれー!!」

 東洋人は俺が出来そうなことを言ってきた。


 俺は三式戦”飛燕”をオーガに放つ。

 二体のオーガの首がポロリと落ちる。

「おぬし、出来るなあ」

 東洋人が俺を見てしきりに感心する。よく見ると若い。四人とも成人していないのではないか。


「拙者、ヤクモ=コノハと申す。おぬしの名を教えてもらえぬか」

 コノハということはシグレの一族かな。なんで西大陸にいるんだ?

「俺はレオンだ。服を着たらどうだ」

 コトネがいたら怒られるからな。

「あ、これは失礼した」

 俺はフルネームは控えた。どこのどんな敵がいるか分からんからな。


 四人は服を着て、俺の前に来た。

「ジルです」

「バリです」

「キャンです」

 犬獣人も名乗り、回収した魔石をヤクモに渡した。


「ヤクモ殿はコノハ一刀流の一族ですか」

「わが流派を知っておられるということは、もしかしてシグレをご存じか?」

 やっぱそうか。

「シグレ殿はもうホウライ国にお帰りになったようだ」

「さようですか」

 やや残念そうだけど落ち込んでいる風ではないな。追いかけて来た訳ではないのか。


「それよりこれをどうぞ」

 魔石を二個とも俺に差し出してきた。犬獣人が物欲しそうな顔をする。

「いや、俺は手伝っただけだ。君達で分けなさい」

 犬獣人の顔がパーっと明るくなる。

 どうも受け取りづらい。


「そう言う訳には・・二体とも倒したのはあなただ」

 犬獣人が悲しそうに顔を伏せる。

「どうでしょう。依頼主のもとに行けば依頼料も入ります。現金化してそれを分ければ」

 ジルと名乗った犬獣人が言った。

「そうだった。依頼料もあるから。この魔石を見せねばならぬ」

 この子は少し抜けているようだ。


「レオン殿、依頼主がこの近くにいるのだが、一緒に来ては貰えぬか?」

「依頼主とはどういった方なのですか?」

 俺はこの街道を通りたいのであろう依頼主に興味があった。

「商人と聞いて居るが、仔細は存ぜぬ」


 商人か、いろいろと聞いてみたいことがある。

「よろしいでしょう。同道しましょう」

 ヤクモは喜んでくれたが犬獣人達はがっかりしていた。

 一時間ほど帝都側に街道を行くとその商人はいた。


 俺はキャラバンを想像していたのだが、箱馬車一台と幌馬車が二台のこじんまりとしたものだった。

 ヤクモが箱馬車をノックすると五十台のスーツを着た男と俺と同じぐらいのの上品な服装の女が出てきた。

「これはオーガ級の魔石ですな。オーガがいたのですか?」

 男が驚いてヤクモに確認した。


「はい、オーガが二体いました」

「ごめんなさい。魔獣の情報だけで種類は確認していなかったわ」

 ヤクモの言葉に女は謝った。そして俺を見た。おそらく彼女たちの実力では討伐は無理と判断したのだろう。

「いえ、この方が倒してくれましたので、問題ありません」

 そこまで正直に言わなくてもいいのに。


 討伐依頼の報酬を女は三倍額で支払った。

「これは多いです」

 またヤクモは正直に言う。

「いいえ、私の確認漏れであなた達は死ぬかもしれませんでした。申し訳ありません」

 そして魔石も買い取ってくれた。


「すまない。レオン殿、この子たちの生活費が必要だと言うので、半分貰っていいだろうか」

 犬獣人達は体を九十度に折って俺に最敬礼をする。まあ、怖い目に遭って逃げなかったんだ、それくらいは良いだろう。

 俺は首を縦に振った。


「君たちはもしかして獣王国から来たのかい」

 犬獣人は少し怯えているようだ。

「俺は追手じゃないから大丈夫だ」

「そうです。口減らしに村から追い出されました」

 ジルは悔しそうに話す。やはり、そうか。なら簡単だな。


「いま、獣王国は四貴族を粛清して、本来の獣王陛下の国として再出発している。帝国に傭兵の仕事は少ないから獣王国に戻って兵隊なり、なんなり仕事はあると思う。」

 俺はコトネから聞いている話を犬獣人達に話す。

「本当ですか?戻っても大丈夫なのですか?」

「ああ、新しい獣王国にするのに人手を集めてるみたいだ」


「もし、それは本当ですか?」

「は、はい、二週間ほど前に政変が起こったらしいですよ」

 いきなりの女商人の突っ込みに慌てて答える。

 女商人はあからさまに喜びを顔に出した。


「あ、申し訳ありません。私、帝国を中心に商売をしております、アンジェラ=ブロストと申します。アンとお呼びください。実はテーベ川を使った水運事業を始めようとしていたのですが、獣王国のドーベルマン辺境伯が河賊をしていて邪魔をしていたのです」

 女商人は俺を商売敵とは思わずまくし立ててくる。そういや河賊を何回か懲らしめたとコトネが言っていたな。もしかしてドーベルマン辺境伯はそれで頭に来て攻めて来たのか?。


「それで新しい獣王国の外交はどのようになっているか分かりますか」

 えらく突っ込んでくるな。うーん、情報を与えて良いものかどうか。

「も、申し訳ありません。私達の夢でしたので、いきなりで礼を失してしまいました」

 言い淀む俺を見て、恥ずかしそうに小さくなるアンさん。

 善良そうだな。善良な商人ならウェルカムだ。


「俺の名はレオンです。アルカディア王国が政変を後押ししていたみたいですよ」

「やはり、アルカディア王国ですか。ああ、確認に行きたい、行きたあーい。セバスチャン、あとはお願いしてもいいかしら」

 アンが振り返るとセバスチャンと呼ばれた男が気を付けの姿勢を取った。


「分かりましたお嬢様。この荷は予定通り処理いたします。パトリシア様、シャルロッテ様への連絡、船の手配、港の近くに土地の確保を行っておきます」

「お願いいたします。あなた達、アルカディアまでの護衛として雇います。よろしいですか?」

 俺とヤクモ達を護衛として雇うということらしい。さすがに馬車でも数週間は付き合っていられない。

 ノルンを呼ぼう。


「アンさん。申し訳ないが、俺には時間がない。もし良ければ今日中に王都アルカディアに連れて行ってやってもいいが?」

 すぐに乗ってきたのは犬獣人の三人だ。

「魔法ですか?行けるのならお願いします」

 まあ、アルカディアから獣王国は川を渡ればすぐだからな。


「レオン殿は不思議な人だ。信じられないこともやってしまいそうだ。私もこちらには仕事がなさそうだから、お頼み申す」

 ヤクモが頭を下げる。

「えー、あなたたち、そのようなことが信用できるのですか。でもあなた達がいないと行けないし・・」

 アンさんは俺を信用できないようだ。どっちかと言えば信用する方がおかしいけどな。


 俺は半信半疑のアンさんと傭兵の四人を連れて、セバスチャン達から見えない広場に場所を移した。

 やがて帝城からやってきたノルンが見えた。

「レオン殿!巨大な鳥がこちらに来る!!」

 ヤクモが見つけて騒ぐ。

「大丈夫、あれに乗って行くんだよ」


 着地したノルンに挨拶をする。

「ノルン、ご苦労さん。アルカディアまで頼むぞ」

「了解した。修行は終わったのか。あまり長いのでコトネ達が寂しそうにしていたよ」

「まあ、こんなに離れたのは、旧イエーガー領を出てから初めてじゃないかな」

 久しぶりのノルンと旧交を温める。


「陛下。修行ご苦労様でした」

「ああ、ありがとう。君はハーヴェルの武官だったね」

 先に乗り込んでいた武官が俺に挨拶する。うっすらだが覚えがあった。

「覚えていただいてて光栄です」


「ちょっと待って、今、陛下って言いましたよね」

「うん、言ったね」

 アンさんが俺に問いただす。俺はしらばっくれる。

「もしかして、レオンハルト=アルカディア陛下ですか?」

「うん、そうだね」


「ええー!」

 ノルンはハーヴェルに向けて飛び立った。



面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は商売の話と教会の話の予定です。

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