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13-13 獣王国のその後とコトネの無駄話

ご愛読、ありがとうございます。

十三章はこれで終わりです。

今回は獣王国の平定と再建、レオンの留守に寂しがるコトネの話です。

 ようやくヴァンパイア族の襲撃を殲滅したコトネ達は獣王国再建の道筋を立てようとしていた。


 〇アルカディア城

 コトネ達はヴァンパイア族を倒した後、クロエが戻って来たので四貴族の動産の引き上げを行い、今は獣王や王太子達がいるアルカディア城に戻ってきていた。

 もちろん戦後処理を話し合うためである。


 獣王には宰相以下文官が数人と国軍数百人と、あとは雑用をする召使が数十人、それだけが全てである。

 四貴族が滅びたとは言え、まだ四貴族の傘下にいた貴族達はそのまま残っている者が多い。

 その貴族たちは状況が見えてくれば四貴族の跡目争いを始めるだろう。そうなると国民に更なる困難が降りかかる、極めて迅速な処置が必要だ。


「まずは、獣王陛下の凱旋帰国、国軍の再編成、貴族の粛清、国民への糧食の配布などを今月中を目途にやる必要がありますな」

 ヴォルガンフ宰相が唸りながら言う。彼は元帝国の宰相である。帝国軍弱体化の責任を取って辞任したのだが、マキシミリアン元元帥がアルカディアで復帰したのを見て着いて来たのである。

 そこをレオンと生産職に戻りたがっていたアキラが拝み倒し、宰相に就任してもらったのである。


「おい、ロンメル、一万人の兵を獣王陛下に貸し出せ、さっき宰相の言われたことを処理してこい」

 マキシミリアン元帥がさも当たり前のように軍務大臣のロンメルに命令する。彼は元帥の元秘書官なのでいまだに顎で使われる。

「いえ、一万も使うと陛下の戴冠式の費用が不足しないでしょうか?」

 流石に自分の王をないがしろにできないとロンメルは反論する。


「そうですよ元帥閣下、アルカディアの財政は逼迫しております」

 宰相についてきたルードヴィッヒ秘書官も反対した。

「なあに、嬢ちゃん達が集めた四貴族の金があるだろうが。ねえ獣王陛下」

 宰相が獣王をにらみながらそう言った。

 同盟を結ぶからと言っておんぶに抱っこはさせないと言っているのだ。


「もちろんじゃ、我々はゼロからの出発ではあるがマイナスではない。収穫期まで持てばあとは何とかなる」

 獣王も覚悟を決めているようだ。

 こうして獣王国の再建への道則は決まった。コトネの養女の件は来月に行うこととなった。


 コトネはレオンに従者通信を送った。

「・・・はい、そのように決まりました。・・・獣王陛下も意欲を示されて・・・いえ、王太子様のお孫様に喜んでおられて・・はい、ご長男が獅子人で在られたので、もう、それは大変でした。私の件も心よく引き受けてくださいました。・・・はい、レオン様がおっしゃってくれたので、思い出して、獣王様にお願いしちゃいました。・・・はい、ありがとうございます。これで憂いなくお嫁さんになれます」

 ちなみに王太子の長女は豹人でした。


 涙をぬぐうコトネにアンナが聞く。

「レオン様、なんて言ったの?」

「あ、ちょっと待ってください。よくやってくれた。ありがとうって」

「神獣人のことも言っとかないと」


「そうね。・・・レオン様、私、神獣人になっちゃいました。・・・いえ、私のまま、猫の神獣人です。・・・でもそうなんです。はい、はい・・・いえ、ありがとうございます。それとジェリルさんが大変なことになってます。・・・え、それは戻られてからのお楽しみです。・・・いつ頃戻られるのですか

 ?・・・はい、・・・いいえ、楽しみに待ってます」

「私も待ってるからねえ」

 途中から割り込んだアンナもレオン様に挨拶する。

 コトネとアンナは顔を見合わせて笑った。


「何を笑ってるの?」

 クロエがやってきた。

「レオン様と話してたんだよ」

「そうなんだ。そうそう、シドのお母さんが見つかったよ」

 クロエは明るい声で報告した。


 シドはレッドベア辺境伯の城の近くの村で、死にかけてたのを助けた娘だ。

 その後ヴァンパイアの人質になったり、不幸で不運な子だ。

「よかった。ここで面倒を見ることになるのかなあとか思ってた」

「うーん、お母さんは国境近くの砦で雑用婦をしていて、割と簡単に見つかったんだけど・・・」

 なぜか歯切れが悪い。


「なに?お母さんが同居拒否してるとか?」

 ちょっと心配になったコトネが聞き返す。

「それがさ、あの子レベル5なんだって」

「ええ、じゃあ、ビーストグロー要員?」

 レベル3以上の獣人女性はビーストグロー要員として集められています。


「ちょっと待って、あの子、私と一緒だから十一歳だよ。兵隊になれるのって、成人からでしょう」

 アンナが思い出したように口をはさむ。

「でもね、獣王国では農村の口減らしの意味もあって、十二歳ぐらいから集めてるんだ」

「あの村長や父親じゃあ、兵隊になれって言いかねないね」

 クロエの報告にアンナが村長や、父親の反応を思い出したようだ。子供を兵士にするって抵抗がある。私達みたいに孤児なら仕方ないけど


「じゃあさ、母子をビーストグローの訓練にアルカディアに呼ぶっていうのはどう」

「え、良いの?」

「ハーヴェルだったらお母さんの働くところもあるだろうし、マサユキさんにお願いしてみようか」

「まあ、行きがかりもあるし。放って置けないよね。後は成人するまでに自分で考えてくれれば」

「私はナルさんに頼んでおくね」

 ハーヴェルにはゴロが戻っているので、彼を通じて話を通せばいい。




 次の日から獣人国の再建が始まった。

 一万の軍勢を従えてアルカディアから王城に凱旋帰国する獣王。

 四貴族は滅んでいたが、彼らの部下の貴族たちは、まだ旧態依然のまま存在していた。

 一旦、王城に集結した軍隊は王軍と旧ドーベルマン辺境伯軍を再編成し、その勢威を増して旧オラン侯爵領、旧レッドベア辺境伯領、旧ジュギア侯爵領を平定に向かった。


 各拠点の城が開いているので、そこを拠点に貴族達の平定に乗り出した。

 貴族達は圧倒的な勢力で攻めてくるアルカディア・獣王連合軍にあらがう術を持たず、次々と降伏した。

 数日で獣王国を平定した獣王は、貴族達が持っていた食料を農民達に配分した。

 貴族達は土地や資産を取り上げられ、能力があり忠誠を誓うものには新たな体制の仕事を与えた。

 全ての貴族が滅ぼされていたアルカディアに比べ、早い段階で中央集権制の礎が構築された。



 〇アルカディア城 コトネの部屋 <コトネ>

 第三夫人に割り当てられた部屋は大きかった。居間と寝室と執務室と給湯室と召使の居室。

 まだ召使の部屋は誰もいない。来月、獣王様の養女になったら、獣王国から二人派遣されることになっている。


 夕食後、私は居間の大きなソファーに座って一人考えている。

 ああ、やだなあ。なんか寒々しい。こんな大きな部屋、いらないのに。なぜか寂しくなるから。

 獣王国の騒動に紛れて忘れていた、レオン様への思慕が湧いてくる。

 こんな日には思い出す。


 レオン様と一緒に旧イエーガー領を出た日、小さな家・・小屋と言った方が良いか。アンナとレオン様と三人で川の字で寝たこと。ベッドはひどかった。藁の上に帆布を引いただけのベッド。帆布も幌馬車に使っていたものを使って、汚れていたから三人で一生懸命洗ったけどゴワゴワ、でも温かかった。

 この人達と一緒に一生を過ごせたらいいなあと初めて思ったんだ。


「お姉ちゃん、お湯湧いたよ。さっさと体を拭いてね」

 アンナが湯桶を抱えてやってきた。

「ありがとう。今日もここで寝ていくでしょう」

「うん、レオン様のところ追い出されたし、しばらくはここにいる」

 服を脱ぎながらアンナが答える。最近はレオン様の専用召使が雇われているので、私達はレオン様の部屋を追い出されたのである。


「明日、エリーゼ様たちが来るらしいよ。レオン様がいないから、がっかりだよね」

「そっかー。もう夏休みなんだ。エリーゼ様も結婚するから休学するんだよね」

 エリーゼ様とエイトさんはレオン様を追いかけて帝都のハイデルブルク学園高等部に通っている。


「エイトさんはどうするんだろうね。お姉ちゃん、背中拭いて」

「はいはい、あの人はアルカディアで就職するつもりだから、高等部は卒業したいでしょ」

 アンナもお尻が少し大きくなって大人になってきたのね。

「エイトさんも次男坊だからヴァイヤールには帰れないかあ。お姉ちゃんあっち向いて、今度はお姉ちゃんの背中拭いてあげる」


「お姉ちゃん、髪がずいぶん伸びたねえ」

 私は髪は肩ぐらいにしていたが今は背中の中ほどぐらいまである。

「結婚式で結わないといけないから、伸ばしてるの。戦いのとき邪魔だった」

「エクステでごまかせばいいのに」

「結婚式ぐらい地毛でやりたいの」


「じゃあ、朝、三つ編みにしてあげる」

「ええ、あんたできるの?」

「お姉ちゃんと違って女子力あげてるからねえ」

「一回やって貰おうかしら」

 アンナもできることが多くなっている大人の階段を上ってるんだねえ。


「女子力あげついでに赤ちゃんできたら面倒見てあげるからね」

「残念、子供を作るのは成人してからになりそうなの」

「なんで、結婚するんでしょ。だったらいいじゃん」

 アンナにも教えておいた方が良いわね。

「子供を産むには、お尻が大きくならないといけないんだって」



「お尻が大きくなるとッてどういうこと」

「女は大人になると腰の骨が開いて、赤ちゃんを保持するのと、出産のときの通り道を広げるのよ」

 体を拭き終わった私はパンツを履き、ノースリーブ、ひざ丈の薄手のネグリジェを着た。

「フーン、お尻が小さいまま、赤ちゃんができるとどうなるの」

「赤ちゃんが安定しないからお腹の中ではみ出たり、出産のときに出られなくなるんだって」


「それってまずいじゃん」

「お母さんと赤ちゃんの命が危なくなるんだよ」

「そっかー、お尻が大きくなるのにはそう言う訳があったの・・ヘックチ!!」

「もう、いくら夏だからって、素っ裸で話をしてるから、風邪ひくよ」

 慌てて、私と揃いのネグリジェを着るアンナ。


 あーあ、早くレオン様、帰ってこないと私は寂しくて死んじゃうぞ。


 思春期真っただ中の姉と思春期取っ掛かりの血のつながらない姉妹は夢の中に落ちていくのであった。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次章十四章は戴冠式と結婚式の準備や関連話、そして実行の予定です。

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