13-12 コトネ覚醒
ご愛読、ありがとうございます。
すみません。エピローグに届きませんでした。
今回もヴァンパイア族のラビと少女達の戦いです。
人質をかばったコトネはラビにやられて重傷を負った。代わりにラビを追って空中に上がったジェリルは、彼の機動力に翻弄されていた。
アンナは気を失ったコトネを城に運んで、自分のポシェットに入っている治癒魔法の魔方陣を出して発現させる。
傷はふさがるが血を流しすぎており、霊力をかなり奪われているので、ビーストグローも解除され意識も回復しない。
かすかに呼吸もしているし、心臓も動いている。
しかし、アンナが声を掛けても揺さぶっても何の反応もない。
このまま目を開けなかったら・・・いやな予感が止まらない。
アンナは自分の霊力をコトネに注ぎ始める。
お姉ちゃん、お願い、戻って来て・・・。
九歳で両親を失ったアンナにとってコトネは、自分の命より大事な存在である。
何としても直して見せる、アンナの決意は固い。
イブキもシドを抱えて城に入る。
シドは魔力を奪われて弱っているだけだ。このままでもいずれ目を覚ますだろう。
イブキはシドを置いてノルンにある相談をした。そしてジェリルの戦いを見守るアテナのもとに戻った。
「畜生!降りてこないとちょっかいも出せないぜ」
アテナもイブキも”鐘馗”を空間に固定できないので空中で戦うことはできない。
地団駄を踏むアテナに戻って来たイブキが耳打ちする。
「そんなことを・・・まあ、何もできないよりは良い。やってみるぜ」
イブキは右手を上げジェリルに合図を送る。
ジェリルがジグザクに飛び跳ねながら高度を落としつつイブキの方へやってくる。
当然のようにラビがそのあとを追ってくる。
「今だ!!」
アテナがイブキの肩の上に飛び乗る。イブキがジャンプする。
イブキのジャンプが最高点に達する前にアテナがイブキの肩からジャンプする。
ちょうどジェリルを追うラビの軌道と交差する。
ロングソードで斬りかかるアテナ、さすがに空中では機敏な動きが取れないラビは避けきれない。
左手と左翼を斬り落とされて落ちるラビ。
ラビは地面に両足で着地した。すでに左手は再生し、翼も半分以上再生していた。
そこへノルンさんがドラゴンブレスを発射。避ける暇もなく、ラビはブレスに包まれた。
「やったぜ!」
「見事です」
落ちてくるアテナを受け止めたイブキが一緒に喜ぶ。
「うまくいったな」
ジェリルも降りて来た。
これらはイブキが計画してやったことだ。空中にいるラビにブレスを当てるのは速度は速いし、上下左右に逃げられるので難しい。そこでジェリルが誘き寄せ、二段ジャンプでラビの目の前に跳ぶ、深手を与えて墜落させてノルンのブレスで止めを刺す。ラビが驚いて停止し、避けようとしたので成功した。
ジェリルがラビの方を見ると、真っ黒に焦げた人型が立ち上がった。
「まだ死んでねえ!。止めを!!」
アテナとイブキが黒焦げラビに襲い掛かる。
「油断したとは言え、こんな雑魚にダメージを負わされるとは!どけえ!!」
二人の武器を掴むとそのまま投げ飛ばす。そしてジェリルの方へ歩き出す。
一歩歩くたびに黒焦げの皮膚が剥がれ落ち、新しい皮膚が現れる。
「アタイは強さが十倍になったんだ。ヴァンパイアなんかに負けるかあ!!」
地上であれば負けるはずがない。そう思っていた。
大剣をラビに叩きつけるが剣を指で摘まんで止めるとそのまま振り回す。
なんとかその速度に耐えたジェリルは体制を立て直す。
「フン、上級悪魔並みの力を持つ俺に勝てるつもりか?」
鼻を鳴らすラビにジェリルは剣を横に振る。飛び上がって剣を避けるラビはすっかり元通りに再生していた。
「ジェリルさん!、ビーストグローを!」
イブキの言葉にレベルアップしてビーストグローを忘れていたことに気付く。
三個持って出たポシェットも最後だ。魔方陣を出し、叫ぶ。
「ビーストグロー!!」
魔力も対になるポシェットから出し変身する。
漆黒の毛に覆われたジェリルがラビを追って跳ぶ。
しかしラビはジェリルを相手にせず、イブキを狙う。
空中からイブキに急降下で攻撃を掛ける。
ラビは武器を使わないのでイブキは槍のリーチで勝利を確信した。
「やあ!!」
甲高い掛け声とともに繰り出される十文字槍。
貫いた!とイブキが思った瞬間ラビは消える。
あまりに急な進路変更にイブキの目が追い付かなかった。
いきなり空中からイブキの眼下に現れたラビは、その腹をスキンアーマーごと抵抗なく貫く。
グフッ 血を吐くイブキ。
魔力霊力を吸収したラビはイブキを蹴飛ばして手を抜き、再び舞い上がった。
ラビは再生に使った力を補充したのだった。
アテナはすぐにイブキのそばに寄り、治癒魔法の魔方陣を取り出し魔力を込める。
イブキの傷は癒えるが命の灯は小さくなっていく。コトネと同じで魔力霊力をほとんど奪われたからだろう。彼女らのように気功を鍛錬したものは、ヴァンパイアに襲われたとしてもすぐに死ぬことはない。
「ジェリル!私はイブキをアンナのところに連れていく。こっちは頼んだぞ!」
アテナはイブキを抱変えて城に走った。
その少し前、アンナはコトネに霊力を送り続けていた。
『ナ!・・めるの・・そうする・・アン・・』
ロキは必死にアンナに訴えかけるがアンナには通じない。
「お姉ちゃん!お願い!目を覚ましてえ!」
ロキは最終手段として、アンナの脳に衝撃を与える。
「いったあい!ロキ!何するのよ!」
頭を強く叩かれたような衝撃を感じたアンナは、供給をやめてロキに文句を言う。
『馬鹿者!コトネを見てみろ!』
アンナがコトネを見ると、余分な霊力が行き場を無くして体の中で暴れている。
「これってもしかして・・・・」
『明らかに過剰供給じゃ』
「ボウソウ?やめてよ!レオン様いないんだよ。私じゃ止められないよお」
コトネは依然魔力の過剰供給を受けた時、神獣人の力が暴走したことがあった。その時はレオンによって暴走は止まったが・・・。
『こ、これは暴れていた霊力が体全体が器となって・・・・』
ロキがコトネの様子を見て絶句する。
「なに、なにが起きてるの?お姉ちゃんの力が急上昇してる。やっぱりこれって・・」
コトネに何が起きているのか分からずに騒ぐアンナ。
『どういうことだ。これは虎の神獣人ではない。しかし神獣人の力が・・』
二人がパニックになっているとき、コトネが精霊通信を送ってきた。
『ごめんねえ。心配かけて。もうこの子目覚めるから』
『おぬし誰じゃ。コトネではないな』
ロキにしか聞こえてないようだ。
『私は虎の神獣人の魂よ』
『神獣人の魂じゃと。コトネを乗っ取ったのか』
『いやねえ。決めつけないでくれる』
『しかし、コトネは神獣人になっておる』
『本当はね。私はコトネちゃんの体を乗っ取るつもりで頑張ってたの。でもね、この子がレオンちゃんと添い遂げたいという気持ちがすごいのよね。それを見てたらいつの間にかこの子を応援しなきゃって思うようになったの。ほら私だって女の子だもん。恋する少女の気持ちって叶えてあげたいじゃない。それでちょうど自力も上がったし、大きな霊力も貰えたから、私の残った力をすべて使ったのよ』
『馬鹿な!神獣人は千年前の科学力で作られた人間兵器。おいそれと届くものではない』
『いいじゃない、愛の力で成し遂げた奇跡よ。・・・もう私も限界だわ。さよなら・・・』
『おい、まだ聞きたいことが・・・逝ってしまったのか』
虎の神獣人は二度と現れることはなかった。妙に軽い奴だった。
「ちょっとお、どうなってるのよ!」
アンナがしばらく返事もしなかったロキに食って掛かる。
『コトネは猫の神獣人に覚醒したそうじゃ』
「ええ、意味が分かんないよ。お姉ちゃんは無事なの」
『もう目が覚めるそうじゃ』
タイミングよくコトネが目を覚ます。
「アンナが治療してくれたのね。ありがとう」
コトネは体を起こすとアンナに礼を言った。
その時アテナがイブキを抱えてアンナのもとに走ってきた。
「アンナ、イブキがやられた、直してやってくれ」
アンナは慌ててイブキを診る。
「まだ間に合うと思う。やってみるね」
「頼む。せっかくできた友達なのだ」
アテナにも友達という概念が出来たようだ。
「ジェリルさんが苦戦しているようね。行ってくる」
コトネはそう言い残すとすごい速度で飛んで行った。
「あ、お姉ちゃん!・・・飛べるようになった・の・ね」
アンナはイブキの治療で身動きできないので独り言になってしまった。
「誰???」
落としていた脇差を拾い上げながら、コトネは首をひねる。
城の外ではラビとマイクロビキニの女が戦っていた。当然ジェリルが戦っていると思ったら、背はジェリルぐらいあるが、筋肉隆々ではなく細マッチョな感じだ。でも漆黒の毛が生えてるからビーストグローで変身している神狼族の人かなあ。
いずれにしても二式単戦”鐘馗”を空間に固定して跳び回っているが、自由に空を飛べるラビ相手では苦戦してる。
「そこのあなた!代わります。引いてください」
「コトネか。回復したんだな!」
振り向いた顔はジェリルそのものだ。
「ええ、ジェリルさん!その恰好どうしたんですかあ?」
コトネは驚くが、今はのんびりしている余裕はない。
「お前はこの姿は見てなかったか。話は後だ。一緒にやる・・あれ、お前、空を飛べるのか?」
ジェリルの変身は他の仲間たちには城のホールで紹介したが、その時外にいたコトネは知らなかったのである。
「私は神獣人になりました。ラビのことは任せてください」
「神獣人だと!?馬鹿な!猫の神獣人など存在しない」
コトネは驚くジェリルを放置して、警戒して距離を取っているラビに向かって飛んでいく。
「生きていたのか?一人で俺と戦うつもりか?」
ジェリルを置いてきたコトネを怪訝そうに見る。
「今の私はあなたなど相手にならないほどの力を手に入れました。命が惜しいなら降伏しなさい。あなたを裏で操る者を教えてくれるなら逃がしてあげます」
湧き上がる力を表に出してコトネは降伏を促す。
「馬鹿な!!ヴァンパイア族の未来のため、お前には死んでもらう」
怒るラビの気に異常を見つけた。
「あなたの命は長くはなさそうね」
「分かるのか」
彼は思わず肯定してしまう。
「二つの魔石で一時的に力は上がっているけど、バランスを崩している。そんなに長くは持たないでしょうね」
「心配するな。お前達を殺す時間はたっぷりあるさ。今度は吸収効率を考えずに心臓を貫いてやる」
なるほどね。イブキさんも私も腹をやられたのはそういうわけだったのね。コトネは呟く。
ラビが突っ込んできた。
ラビの右手はコトネの胸の前で止まった。彼女の左手が彼の手首をつかんで止めたのだ。
そして彼女の右手に握られた脇差は、彼の魔石の一つを貫いていた。
「ぐう、おのれえ!」
流石に魔石は再生できないようだ。
残念ながら空を飛べるコトネにとって、彼は脅威になりえない。
脇差を抜くと残りの魔石ごと彼を二つに切った。
「ああ」
彼は静かに霧散していった。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は13章のエピローグです。